支配権の意味とは?獲得する方法やM&Aにおける支配権プレミアムについて解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、支配権の意味やM&Aにおける支配権プレミアムを解説します。支配権とは、株主が発行会社に対して行使できる権限のことで、内容は持株比率に応じて変わります。M&Aでは、支配権の移転を目的に実施されることが多くあります。M&Aを検討している方は必見です。

目次

  1. 支配権の意味とは
  2. M&Aの際に適した持株比率と支配権
  3. 事業承継の際に支配権を獲得する3つの方法
  4. M&Aにおける支配権プレミアムとは
  5. 支配権の意味のまとめ
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1. 支配権の意味とは

株式は、経営者が100%保有していることもあれば、複数の株主で分散して保有していることもあります。後者は経営者以外にも支配権があることを意味しているので、その範囲を把握しておくことが大切です。

支配権はM&A事業承継の場面でも強く関わります。この章では、支配権の意味や持株比率に応じた権限の内容を解説します。

支配権の意味

支配権とは、会社に対して行使できる権限のことです。発行会社の株式を持つ株主に与えられ、権限の内容は株主総会特別決議の可決権限などがあります。

行使できる権限の内容は、持株比率が大きくなるほど増えていきます。つまり、持株比率が高まるほど、発行会社に対して強い支配力を発揮できるでしょう。

支配株主とは

支配株主とは、ある会社の発行済み株式のうち、議決権のある株式の過半数を保有する株主のことです。他の株主に持株比率を上回れることがないため経営面で支配できます。

中小企業における支配株主は、創業者やその一族であることが多いです。外部から経営に干渉されるケースはほとんどありません。スタートアップのように、M&Aを成長戦略として取り入れている企業の場合は、親会社や投資ファンドなどの法人が支配株主のケースもあるでしょう。

支配株主の他に、議決権のある株式の10%以上保有する主要株主、大株主のなかで最も持株比率が高い筆頭株主などもあります。主要株主の影響力は、広く一般の投資家が関わる上場企業は絶大です。上位株主の持株比率は、証券会社や会社の公式サイトで公開されており、主要株主に変更があった場合は速やかな適時開示が義務付けられています。

経営権と支配権の違いは

経営権は、株主総会の普通決議を可決させられる権限です。普通決議では、「取締役の選任・解任」「取締役・監査役の報酬の決定」「利益処分案の決定」などが決議できます。

なお、法律上は経営権といった言葉は存在しません。一般的に議決権の割合で判断されており、議決権のある株式の過半数を保有する株主(支配株主)が経営権を有するとされています。

支配権は、株主総会の特別決議を可決させられる権限です。特別決議では、「定款の変更」「合併会社分割などのM&A」などを決議できます。事業・経営方針などの決定を迅速に行えるようになるので、中小企業のM&Aでは支配権の水準まで株式を取得するケースが一般的となっています。

支配権と経営権と拒否権の株式割合とは

支配権・経営権・拒否権は必要な株式割合を満たすことで権利を行使できます。ここでは、各権利を行使するために必要な株式割合を確認します。

支配権

支配権の株式割合は2/3以上です。会社で重大な決定を決議する特別決議に必要な議決権数を有していることから、支配権といわれています。

経営権

経営権の株式割合は過半数です。経営上の事柄を決議する普通決議に必要な議決権数を有していることから、経営権といわれています。

拒否権

拒否権は、議決権のある株式の1/3超の保有で行使できます。自身が1/3超えの株式を確保することで、他の株主による単独での特別決議の可決を防ぎます。

その他の株式割合

株式会社の権限は、支配権や経営権以外のものもあります。下表はその他の権限の株式割合や権限内容をまとめました。

【その他の権限】

権利名 株式割合 主な権限内容
単独株主権 1株以上 ・株主代表訴訟の提訴権
・新株発行の差し止め権
少数株主権 一定割合 ・株主提案権
・取締役・監査役の解任を求める権利
・帳簿閲覧権
完全経営支配権 100% ・一切の制約を受けない

支配権と経営権のそれぞれの可能決議

支配権や経営権を行使することで、株主総会での決議を成立させられます。ここでは、支配権と経営権で行える決議内容を解説します。

支配権

支配権により特別決議を成立させることが可能となります。主な決議事項は、以下のものが挙げられるでしょう。

【支配権の主な可能決議】

  • 定款の変更
  • 役員の解任
  • 譲渡承認請株式の自社または指定買取人による買取
  • 特定株主からの自己株式の取得
  • 全部取得条項付種類株式の全部取得
  • M&A(合併・会社分割・株式交換・株式移転)の承認

経営権

経営権により普通決議を成立させることが可能となります。主な決議事項は以下のものが挙げられます。

【経営権の主な可能決議】

  • 役員の選任
  • 役員の報酬
  • 譲渡制限株式の承認
  • 計算書類の承認
  • 余剰金の配当

拒否権

拒否権を有することで株主総会の特別決議を単独で否決させられます。1株持つだけで権利を行使できる「拒否権付種類株式」の株式もあります。

黄金株ともいわれており、事業承継の場面や買収防衛策などに活用されることがあるでしょう。ただし、自社で保有できないので友好的な第三者に渡しておく必要があるなど、一般的な拒否権とは使い勝手が異なります。

2. M&Aの際に適した持株比率と支配権

一定以上の株式を取得することで支配権を有することが可能です。行使できる支配権の内容は、持株比率によって異なるでしょう。ここでは、M&Aの際に適した持株比率による支配権の内容を解説します。

持株比率:10%以下

持株比率が10%以下であっても、最低限の支配権が認められるでしょう。例えば、3%以上株主には「会計帳簿閲覧権」や「株主総会招集の請求権」が認められています。3%以上の持株比率を有していれば、会計帳簿である仕訳帳や総勘定元帳などの閲覧が可能となるでしょう。

他にも、10%以上の持株比率を有する株主には、会社解散請求権が認められています

持株比率:過半数

持株比率を過半数(50%を超える)保有する株主は、株主総会の普通決議を可決できる権利を得られるでしょう。普通決議は「取締役の選任・解任」や「取締役や監査役の報酬決定」「配当金額の決定」などが挙げられます。ただし、合併や資本金の減額、定款変更など、重要な意思決定に関して独力では実施できません。

持株比率:2/3以上

持株比率が2/3以上の持株比率を有した株主は、株主総会の特別決議を単独で可決できるようになります。特別決議では、「定款変更」や「事業譲渡や株式交換などの合併」「監査役の解任」「解散」などです。会社の根幹に関わる内容を決議できるため、経営上、重要な事項を決定できる権利を握っているといえるでしょう。

M&Aは会社にとって重大な意思決定なので、M&Aを実施する際は特別決議による可決が必須となります。M&Aの際は最低でも支配権を有する持株比率2/3は必要といえます。

持株比率:9/10以上

M&Aの買い手の目的は株式100%取得であることが多いので、前述の持株比率2/3であるとM&A相手が提示する条件を満たせない可能性があります。M&Aの際は持株比率90%であれば、支配株主が単独で判断して実施することが可能です。

90%以上を有する株主は、「特別支配株主の株式等売渡請求」の権利を保有しています。特別支配株主の株式等売渡請求とは、他の株主に対して、株式の全部を特別支配株主に売り渡すことを請求できる権利です。

M&Aや事業承継の際、この権利を行使することで、少数株主から強制的に株式を買い付けて持株比率を100%に高めることが可能です。これは非常に強力な権限であるために、9/10以上といった持株比率の条件が設定されています。しかし、特別支配株主は1人あるいは1社である必要があります。

M&Aの流れ・手順については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】M&Aの流れ・手順を解説!進め方、手続きのポイントは?

3. 事業承継の際に支配権を獲得する3つの方法

M&Aと同様に、事業承継の場面でも支配権の移転は重要です。持株比率を高めて支配権を獲得する方法には、主に以下の3つがあります。

【事業承継の際に支配権を獲得する方法】

  1. 株主・相続人から株式を買い集める
  2. 無議決権株式を発行する
  3. 黄金株を後継者に保有させる

株主・相続人から株式を買い集める

株式が分散していて支配権を有していない状況ならば、他の株主から株式を買い集めておきます。事業承継の前に現経営者が支配権を獲得しておくことで、スムーズに引継ぎを進められるようになるでしょう。

複数の法定相続人がいる場合は、相続の際に株式を折半することがあります。株式分散により支配権を発揮できなくなるので、他の相続人から株式を売却してもらえるように話を付けておくことが大切です。

無議決権株式を発行する

無議決権株式とは、株主総会の決議で議決権を持たない株式のことです。経営に干渉できない代わりに優先的に配当を受ける権利を持ちます。

後継者以外の相続人に対して無議決権株式を発行することで、後継者の支配権に影響を与えない形で公平な財産の引継ぎを実現できます。

黄金株を後継者に保有させる

黄金株とは、株主総会決議事項に関して拒否権を行使できる株式のことです。株式が分散していて支配権の維持が難しい場合は、後継者に黄金株を保有させておくことで不本意な決議を否決させられます。

黄金株は、事業承継後も現経営者の影響力を残したいときにも活用できます。現経営者が黄金株を1つだけ保有しておくと、後継者の判断ミスなどで会社が傾くリスクを軽減できるでしょう。

4. M&Aにおける支配権プレミアムとは

M&Aにおける支配権プレミアムとは、支配権に対して上乗せされるM&Aの売却価格ボーナスのことです。M&Aの買い手側の目的は支配権の獲得であることが多いですが、M&Aの売り手側の株式が分散している場合、M&Aの買い手は他の株主との交渉や買い付け、スクイーズアウトなどの手間をかける必要があるでしょう。

M&Aの売り手側が支配権を有しているのであれば、M&Aの買い手側は一度のM&A取引で支配権を獲得できて手間を省けます。

M&A売却の際は支配権を獲得している状態が好ましいといえます。M&A検討段階では獲得できていなくても、M&A成約段階までに獲得できていればM&A相手の条件を満たせます。

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M&Aは支配権を移転できるかがポイントになります。持株比率のコントロールは難しく、M&A自体の手続きも複雑なので専門家のサポートを受けるのがベストです。

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5. 支配権の意味のまとめ

支配権を有していると会社に対してさまざまな権限を行使できて、その影響力の高さからM&A・事業承継の場面でも重要視されています。

M&Aの際は株主の持株比率を確認して、支配権の所在をはっきりさせておくことが大切です。手続きや交渉に不安がある場合は、M&Aの専門家に相談しておくとスムーズに進めやすくなるでしょう。

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