M&A戦略とは?策定の流れや戦略構築の手順・成功のポイント・フレームワークを徹底解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aを行う際には、売却・買収後を視野に入れた戦略が必要です。この記事では、M&A戦略の策定方法、M&A戦略の重要性や策定の流れを売却側・買収側でそれぞれの戦略の要点を解説します。

目次

  1. M&A戦略を策定する重要性
  2. M&A戦略の策定方法・手順
  3. M&Aの目的別の戦略のポイント(売却側)
  4. M&Aの目的別の戦略のポイント(買収側)
  5. M&A戦略策定のためのフレームワーク
  6. M&A戦略策定の注意点
  7. M&A戦略の事例25選
  8. M&A戦略のまとめ
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1. M&A戦略を策定する重要性

M&Aは、買う側と売る側のそれぞれに目的があります。

買収側の会社は、自社の経営資源のみで成長を図るよりも、他の会社と手を組む方が効率的に規模を拡大できると考えることが多いです。売却側の会社は、事業を絞り込みや終了、再建、後継者不足による引き継ぎなどを目的とするのが一般的です。

ただし、M&Aは期待したシナジーが得られないと、お互いの経営を悪化させるリスクもあります。そのため、M&Aを実施する際には、まず戦略を策定することが重要です。

M&A戦略では、M&Aの希望取引額、希望するM&A相手の業種など、自社が行うM&Aを具体的に決めていきます。ここでは、売り手側と買い手側に分けて、M&A戦略の重要性について詳細をお伝えします。

売り手側におけるM&A戦略の重要性

売り手側がM&A戦略を策定しておくのは、希望の譲渡額で会社を売却できるかに影響するからです。ねじ工場の中小企業を例に解説します。

このねじ工場では、さまざまな家電製品に使われているねじを製造・販売しています。しかし、経営者の高齢化と後継者が見つからない問題からM&Aで事業承継を行おうと考えました。

もし、M&A戦略を考えず買収してくれる企業に打診をすると、譲渡額は低くなる可能性が高いでしょう。加えて探索対象が多いため、売却先を見つけるまでに時間がかかる可能性があります。

一方で、M&A戦略を考えて実行した場合、売却先の業種を絞っているためすぐに売却先候補を見つけられるでしょう。売却先が大手家電メーカーであり、その会社に対して「自社の子会社化によって製品コストを抑えられます」などをプレゼンすると、会社の魅力が高められ、希望譲渡額よりも高くなる可能性があります。

あくまでも一つの例ですが、M&A戦略の策定がいかに重要であるか理解できるでしょう。

買い手側におけるM&A戦略の重要性

もし、戦略なしにM&Aを行うと、既存事業とのシナジーが得られず、費用対効果も合わなくなる可能性が高いでしょう。

M&Aで失敗をすると多額の資金が移動しているため、自社の経営悪化を招くことになりかねません。従業員同士で摩擦が生じる、貸借対照表には載っていない「簿外債務」を引き継いでしまう、などのリスクも考えられます。

このようなことがないように、M&Aでどのような経営戦略を取るのか、どのようなシナジー効果が期待できるのかなど、M&A戦略を売り手側よりも詳細に考えておく必要がありますM&Aアドバイザーなどと相談して、より綿密なM&A戦略を策定しましょう。

【関連】M&Aとは?M&Aの流れやメリット・手法などわかりやすく解説!

2. M&A戦略の策定方法・手順

M&A戦略の策定で自社や業界の分析を行い、今後どのような経営戦略を取るのか、具体的に考えていきます。M&A戦略の策定方法は以下の5つのステップを経て作成します。

  1. 自社の分析を行う
  2. M&Aの目的を定める
  3. 市場調査を行う
  4. M&Aを行うための戦略オプション案をまとめる
  5. 財務や会計を踏まえて点検する

それぞれのステップを一つずつ確認しましょう。

①自社の分析を行う

まずは、自社の分析を行います。自社分析は、専門家とともに行うことをおすすめしますが、この記事では経営者自身が簡単に自社分析できる方法を紹介します。それがSWOT分析です。

SWOTとは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)のそれぞれの頭文字を並べたものです。

StrengthとWeaknessは、内部の経営環境の強い部分と弱い部分をピックアップします。例えば営業部門が強い、人事システムが他社に比べて遅れているため弱いなどの特徴があります。

その一方でOpportunityとThreatは、外部の経営環境に関してチャンスとピンチの内容をピックアップしましょう。例えば、規制緩和により売り上げ増加のチャンスがある点や消費税増税により売り上げ減少のピンチがある点などです。

このようにSWOT分析を行うことで自社の経営環境を改めて把握します。SWOT分析であげられた内容を組み合わせることで、チャンスを生かして事業を強化したいなど考えられる経営戦略をいくつかリストアップしておきます

②M&Aの目的を定める

①であげた経営戦略のうち、M&Aを行うことで業績の向上もしくは経営課題が解決できるものを選び、それをM&Aの目的とします。

詳細なM&A戦略のパターンは後ほど紹介しますが、ここではM&Aにおける買い手側と売り手側の視点から見たM&Aの目的を紹介します。

もちろん企業によって目的は異なるので、自社にとってふさわしい目的は何なのか参考程度にご確認ください。

売り手側の目的

売り手側の目的で近年増加している目的は、後継者問題です。この目的は、特に高齢の経営者が経営している中小企業でよく見られます。家族や従業員に事業を任せられる人がいない場合に、M&Aが活用されるでしょう。

経営の効率化や売却益による資金調達などがあります。大企業の傘下に入ることで経営基盤を安定させたり、新しいITシステムを活用させたりするのが期待できるでしょう。

M&Aの企業売却で、その対価にまとまった資金を得られます。

買い手側の目的

買い手側の目的で最も考えられるM&Aの目的は、事業や販路の拡大です。海外進出を目的として海外企業の買収を行う例もあります。経営の多角化や新規事業への参入、シナジー効果を得るためなどがあります。

企業の価値を高めるためにM&Aを実施し、手に入れたいものをお金で効率よく買収するのが可能です。

特殊な目的

特殊な目的でM&Aを行う場合があります。それが企業再生とグループ内の再編です。

まず、企業再生を目的としたM&A(再生型M&A)は、資金繰りが悪化している企業を買収し、資金提供を行うことで利益額を向上させる手法です。利益をあげる技術を持っているが、資金繰りが悪化している企業を対象に再生型M&Aが行われます。

再生型M&Aのメリットは、その会社の債権者が債権を確実に回収できる点や、従業員の雇用維持・取引の維持ができる点などです。

一方、グループ内再編を目的としたM&Aでは、事業を子会社化したり、子会社を親会社に吸収する合併を行ったりします。このM&Aのメリットは、シナジー効果を得られ、税務上で有利になるケースが多いです。

③市場調査を行う

M&Aの目的を定めたら、次は市場調査を行います。シナジー効果を目的としたM&Aや同業種内でのM&Aの場合は、同じ業界内の市場調査を行えばよいので比較的情報は得やすく、市場調査を行いやすいでしょう。

しかし、新規参入を目的としたM&Aや異業種とのM&Aを行うときは、買収相手の業種の市場調査を行う必要があるため、困難であると考えられます。もし、市場調査が困難である場合はM&Aアドバイザーに相談したり、調査を依頼したりする必要があります

④M&Aを行うための戦略オプション案をまとめる

市場調査が終わった後は、M&Aを行うための戦略オプション案をまとめます。戦略オプション案とは、M&A後にどのような経営戦略を取るかまとめた案のことです。

一般的に4種類の戦略オプション案がベースであり、M&Aの手法や目的により決めていきます。そのベースとなる4種類の戦略オプション案とは以下の4つです。

  • 市場浸透戦略
  • 新市場開拓戦略
  • 新製品開発戦略
  • 多角化戦略

市場浸透戦略とは、既存の市場に既存製品を投入する戦略です。同業種におけるM&Aや規模の経済性を目的としたM&Aを行うときに取る戦略でしょう。新市場開拓戦略とは、新市場に既存製品を投入する戦略です。海外進出を目的としたM&Aや販路拡大を目的としたM&Aなどを行うときに取る戦略でしょう。

新製品開発戦略とは、既存の市場に新製品を投入する戦略です。研究開発シナジーを目的としたM&Aなどを行うときに取る戦略でしょう。最後の多角化戦略とは、新市場に新製品を投入する戦略です。これらの戦略をベースにM&A後の経営戦略を考えていきます。

⑤財務や会計を踏まえて点検する

最後に自社の財務や会計を踏まえて点検をしておきましょう。特に買収企業では、のれんの取り扱いに注意が必要です。

のれんとは、会計上の純資産額に加算する金額です。のれんは、会計上に記載されていないノウハウや顧客情報などに対して支払われる対価で、M&A後は最大20年間かけて償却を行います。

しかし、買収した事業もしくは会社の業績が悪くなり、事業計画よりも悪化した場合は、のれんの減損処理を行う必要があります。のれんの減損処理とはM&A失敗を意味し、税務上などで不利になることから、このようなことが起こらないように自社の財務や会計を点検しておくことが必須です。

⑥相手先候補をリストアップする

自社売却候補を探す場合には、まずはロングリストの作成が必要です。M&Aの経営戦略や目的に適合した企業を20~30社程度リストアップしたものがロングリストです。条件に合った企業が多いと、100社程度のロングリストになる可能性もあります。

ロングリストは売り手企業で作ることも可能ですが、実際には情報不足で自作するのは非常に困難です。ロングリストの作成は、M&Aの専門家への依頼が多いでしょう。

その後に検討を加え、絞り込んでいったものがショートリストです。売り手にとってM&Aが成功できるか、目的が果たせるかなどを検討して、ショートリストに優先順位をつけていきます。

優先順位を売り手企業が決めるのは、ロングリストの作成以上に難しい作業です。ここで判断を誤るとM&Aの成功は望めないでしょう。

⑦相手先企業への接触手段を検討する

交渉の相手先を絞り込めたら実際の交渉に入ります。主な相手先との交渉方法は、次の2つです。

  • 相手企業との直接交渉
  • M&A支援会社(仲介会社・FA・マッチングサービス)の利用

では、具体的な方法を見ていきましょう。

直接的に接触する

自社売却企業を絞り込んだ後は、相手企業への直接交渉も可能です。直接交渉をすればスピーディーに交渉を進められ、機密情報の共有を当事者間だけに留められるメリットがあります。

しかし、直接交渉はとても負担が大きいです。M&Aの検討自体が会社の機密情報にあたるので、相手企業への直接交渉の場合はトップクラスとの面談が必要です。相手企業との事業規模の違いや相手先の面目などへの考慮も必要になります。

実際に直接交渉が行われるケースとしては、トップ同士が知り合いで気心が知れている場合や、相手先に強い思い入れがある場合などに限られるでしょう。

そこで考えられるのが仲介会社の利用です。

M&A仲介会社を利用して接触する

仲介会社を利用した場合、自社名を伏せた交渉が可能です。M&Aは自社にとって機密事項なので、必要以上に情報を知られないのは大きなメリットです。

専門家の立場から交渉の仕方や必要書類の準備などのアドバイスがもらえます。スムーズに交渉を進めるには専門家のアドバイスはとても重要です。

M&Aの経験や知識が豊富な仲介会社の利用はメリットが大きいといえるでしょう。

3. M&Aの目的別の戦略のポイント(売却側)

M&Aを成功させるには戦略の策定が重要です。

戦略が曖昧な場合、買い手側企業に丸め込まれるなど、不利な条件で売却されるケースも考えられます。

以下では、売り手側におけるM&A戦略策定のポイントを目的別に確認しましょう。

事業の選択と集中

選択と集中とは、企業がリソースを効率的に活用するために、収益性の高い事業や成長が期待できる分野(コア領域)に経営資源を集中させ、逆に利益が薄い、もしくは将来性のない事業(ノンコア領域)から撤退することです。

M&Aによって不採算事業を売却する際には、まず、適切な事業評価を行い、財務状況や将来の成長可能性、ブランド価値を考慮した正確な価値算定を行うことが重要です。

現状、当該事業においてほとんど利益が出ていない場合でも、独自のノウハウを有している、ブランド力があるなどの場合には、想定した価格よりも高額の取引となる可能性があります。

また、少しでも高値で取引するためにも、市場環境や業界動向を踏まえた売却に最適なタイミングを検討すると良いでしょう。

M&Aによるイグジットの達成

M&Aによるイグジットは、投資家や経営者が企業を売却し、投資回収や事業撤退を達成するための手段です。目的は、出資金や労力を回収してリターンを得ることや、次のビジネスチャンスに資金をシフトすることにあります。

達成手段としては、他企業への売却(買収)や合併が一般的で、特に戦略的買収や対等合併が検討することが多いです。達成するためには、投資した資金をいつ頃どのような方法で回収するのか、イグジットプランを明確にすることが大切です。

とくにベンチャー企業においては、M&Aによるイグジットを目標とする傾向があります。ただし、日本ではM&Aによるイグジットに会社を見捨てるような負のイメージがあるのも事実です。IPOによるイグジットが多数ですが、近年ではM&Aによるイグジットも徐々に増加しています。

資金不足の解決

会社が保有している技術はトップクラスであるのに、資金繰りに困っている企業もM&Aで解決できます。
このM&Aを特に再生型M&Aと呼び、資金提供を受けることで倒産を回避し、再び健全な会社経営を行います。

まずは資金調達やコスト削減、売上増加を検討するのが一般的ですが、それらの方法で資金繰りができなくなった際には、M&Aを検討すると良いでしょう。

4. M&Aの目的別の戦略のポイント(買収側)

買い手企業のM&Aの目的としては、新規事業への参入や既存事業の拡大などがあげられるでしょう。それらの目的を達成するために、具体的な戦略を立てていきます。買い手側におけるM&A戦略策定のポイントについて、目的別に見ていきましょう。

経営資源の吸収

「経営資源の吸収」を目的としたM&Aでは、他社の持つ技術、知識、顧客基盤、人材などを取り込むことで、自社の競争力の強化を図ります。

特定分野で優れた技術を持つ企業を買収することで、その技術を自社の製品に組み込み、新市場への展開を加速させることが可能です。

主に、人材や設備、取引先、技術などを包括的に承継する合併や、特定の事業のみを包括的に承継可能な会社分割が採択されます。

目的達成のためには、まず買収対象企業の経営資源が自社の戦略と合致しているかを慎重に評価することが重要です。
具体的には、技術やノウハウが自社の事業領域にどう貢献するか、シナジーが生まれるかを検討します。

また、買収後の統合プロセスを円滑に進めるために、組織体制の違いも理解し、統合計画を立てることが重要です。

既存事業の強化

「既存事業の強化」を目的としたM&Aでは、自社の既存事業の競争力や市場シェアを拡大するために、他社のリソースや能力を取り込むことを目指します。同業他社を買収し、市場シェアを拡大する戦略などもあります。これにより競争優位性が高まり、顧客基盤の拡大やコスト削減が可能になるでしょう。

しかし、同業種での市場シェアを拡大させるM&Aでは独占禁止法に注意が必要です。特に規模の大きなM&Aを行う場合は、M&Aにより市場シェアを一気に独占してしまうため、独占禁止法に抵触する可能性があります。

目的達成のためには、まず買収対象企業が既存事業の強化にどのように貢献するか、適切に評価しなくてはなりません。具体的には、製品ラインやサービスが自社のポートフォリオとどのように統合されるか、また顧客層が重複していないかなどを検討します。

また、買収によって生じるシナジー効果を最大化するために、組織の統合計画やマーケティング戦略の見直しも検討しておくと良いでしょう。

成長スピードの向上

会社の成長スピードが他社に比べて遅いといった経営課題に対してもM&Aで解決できます。自社の成長を加速させるために、他社の経営資源や市場シェアを取り込む戦略です。特に業界内で同じような成長スピードの会社がいくつもある場合、M&Aで成長スピードを一気に上げ、業界のリーダーになる経営戦略もあります

目的達成のためには、まずターゲット企業が成長の加速にどれだけ貢献できるかを見極める必要があります。その企業が持つ市場ポジションや潜在力が、自社の戦略と一致しているかを確認しておきましょう。また、成長を阻害する要因がないかを事前に調査しておくことも重要です。
 

新規事業への参入

経営の多角化を行う場合、新たな業界への新規参入が必要です。しかし、業界によっては初期投資額が高すぎるなど、参入の障壁が高い業界も存在します。M&Aは、自社が未開拓の分野や市場に迅速に進出するための戦略でもあります。

内部で新規事業をゼロから開発するよりも、既に確立された事業や技術、顧客基盤を持つ企業を買収することでリスクを軽減し、事業が走り出すまでのスピードを大幅に縮められるでしょう。初期投資額が低く抑えられる、経営のノウハウを得られるなど、M&Aなしの新規参入より成功率を上げられます

目的達成のためには、まずターゲットとなる企業が、新規事業としてどの程度のポテンシャルを持っているかを評価することが重要です。その業界の市場規模、成長率、競争率などを分析し、買収後に自社がスムーズに参入できるかを検討しましょう。

節税効果の獲得

M&Aの目的は、事業拡大や経営課題の解決だけではありません。事業承継時の節税対策を目的としたM&Aもあります。それが、分社型(タテ)分割によるM&Aスキームです。

通常の株式売買によるM&Aの場合、株式売却で会社の経営権を譲渡します。このとき、M&A対象外資産も渡す必要があり、売主がそれらの所有権を戻したいと思ったら、買い戻すことが必要です。このようなM&Aの場合、売主は売却益の税金とM&A対象外資産を買い戻したときの利益に課税される税金の両方を払うことになるでしょう。

一方、分社型分割によるM&Aスキームでは、事業部分を子会社化し、その子会社の株式の売却によって事業を売却します。M&A対象外資産は、親会社に残ったままになるので、買い戻しによる税金を払う必要がありません。

また節税効果を獲得するためには、まず買収対象企業がどの程度の節税効果をもたらすかを事前に精査することが重要です。たとえば、繰越欠損金や税務優遇が適用できるか、またその適用がどれだけ持続可能かを確認しておくと良いでしょう。

5. M&A戦略策定のためのフレームワーク

M&A戦略策定のために役立つフレームワークをまとめて紹介します。それぞれの考え方を把握し、自社のM&A戦略策定にお役立てください。

バリューチェーン分析

バリュー・チェーン分析とは、自社の事業がどの段階でどれくらいの価値を作り出しているかを調べる方法です。この分析を通じて、自社の強みと弱みを理解し、ビジネスをよりよくするための手がかりを見つけられます。

具体的には、以下のようにビジネスの様々な段階を見てみることになります。

  • 商品やサービスの購入や運送:商品を作るための材料を手に入れる過程や、それを適切な場所へ運ぶこと。
  • 製造:商品を作る過程。材料を組み合わせて商品を作り出す作業が含まれる。
  • 販売:完成した商品を顧客に売る過程。

これらの各段階でどれくらいの価値が作られ、どれくらいの利益が得られるかを計算します。この情報をもとに、自社の強みや弱みを明らかにし、ビジネスの改善ポイントを見つけることが可能です。

ポーターの競争優位の戦略

これはビジネスの世界でどうすれば成功するかについての考え方で、大きく3つの戦略に分けられます。

  • コストリーダーシップ戦略:商品やサービスを作るために必要なコストを最も少なくすることで、他の競争相手よりも安く提供することが目標の戦略。
  • 差別化戦略:自社の商品やサービスを他社とは違う特別なものにすることで、顧客に選ばれやすくする戦略。特別な特徴やサービスがあると、顧客はより高い価格を払ってでもそれを選ぶことがある。
  • 集中化戦略:特定の市場や顧客のグループに焦点を絞って、その特定のニーズに合った商品やサービスを提供する戦略。

これらの戦略はビジネスの成功につながる考え方の一部で、理解してうまく使いこなせば自社の競争力を高めることが可能です

アンゾフの成長マトリクス

これは、企業がビジネスをどう成長させるべきか考えるためのフレームワークです。自社が提供する商品やサービスとそれを売り込む市場の2つの視点から考えます。以下のように、製品と市場は、それぞれ今(既存)とこれから新しく作るもの(新規)の2つに分けて考えることが可能です。
 

  既存製品 新規製品
既存市場 市場浸透戦略 新製品開発戦略
新規市場 新市場開拓戦略 多角化戦略

このフレームワークを使うと、自社がどの方向にビジネスを拡大すべきか、どんな成長戦略を立てるべきかを考えられます。それは自社の強みや、市場の状況などを考えながら、どの製品をどの市場に売り出すかを決めるために役立つでしょう。

6. M&A戦略策定の注意点

M&A戦略を策定する際には、成功への道筋を明確にし、計画的に進めることが重要です。戦略を誤ると、期待した成果を上げられないリスクがあります。以下に、M&A戦略を策定する際の主要な注意点について解説します。

目的を見失わないようにする

M&A戦略を策定する際、目的を明確にし、それに沿った計画を立てることが大切です。買収の目的が不明確な場合、選定するターゲット企業や統合計画が曖昧になり、統合失敗や経営悪化につながる可能性があります。

具体的な目標を設定し、その達成に向けた明確なステップを設けることで、目的を見失わずに進めることができるでしょう。目的達成のためには、定期的に進捗を評価し、必要に応じて戦略を見直すことも重要です。

そもそもM&Aが最適か前提も疑う

そもそもM&Aが本当に最適な解決策なのか、前提を振り返ってみることも大切です。場合によっては、M&Aよりも他の方法(提携、内製化、戦略的パートナーシップなど)が効果的な可能性もあります。

自社のニーズや目標に対する最適な手段を見極めるためには、M&A以外の選択肢も比較し、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて検討する必要があるでしょう。

見通しが合理的か考える

M&A戦略の見通しが合理的であるかどうかを確認することも重要です。ターゲット企業の評価や統合後のシナジー効果、コスト、時間などの見積もりが楽観的でないか注意しましょう。

実際の市場環境や競争状況、経済的な要因などを踏まえて現実的なシナリオを描くことで、成功率が高くなります。合理的な見通しを持つように徹底し、計画実行段階で予期せぬトラブルや予算オーバーが発生しないように気をつけましょう。

7. M&A戦略の事例25選

次にM&A戦略が行われた事例を20例紹介します。この記事で紹介する企業はいずれも日本の企業であり、ほとんどの企業が海外進出を買収で行うクロスボーダーM&A戦略で事業を拡大しています

しかし、すべての企業でM&A戦略に成功しているわけではありません。自社のM&A戦略を策定するときには、M&Aの成功事例・失敗事例を参考にしましょう。

①日本電産のM&A戦略

日本電産は、モーター製造を中心とする電気製品メーカーです。1973年に創業し、1984年2月のトリン社軸流ファン部門(アメリカ)を皮切りに、2021年8月の三菱重工工作機械まで約35年の間に67件のM&Aを行っています。

日本電産は2021年4月、2022年3月期連結業績(国際会計基準)で売上高が前期比5.1%増の1兆7,000億円、営業利益で同12.5%増の1,800億円と、ともに過去最高となる見通しを発表しています。

海外の企業を買収するクロスボーダーM&Aも積極的に行っており、67件のうち半分以上がクロスボーダーM&Aです。日本電産がここまでM&Aを行ってきた理由は2つあり、1つは車部品や家電業界において新規技術などを手に入れるため、もう1つは経営のリスク分散を行うためです。

日本電産の会長である永守氏は、失敗しないためのM&A戦略のポイントには以下の3つがあると明言しています。

  • M&Aの買収価格
  • 買収後の経営への関与
  • シナジー効果

1つ目の買収価格は、日本電産のM&Aでは、算定した買収価格よりもできるだけ安い価格で買収を行っています。これはM&Aに失敗したときのリスクを最小限に抑えるためです。

2つ目の経営の関与は、日本電産は買収後の統合作業で社員教育やコスト削減への努力などを徹底的に行います。これを行うことで、被買収会社が利益を上げています。

3つ目のシナジー効果は、日本電産が一番の目的としている効果です。以上の戦略をもとに日本電産はM&Aに成功し続けています。

三菱重工工作機械株式会社の株式取得等の完了と新子会社概要

②ソフトバンクのM&A戦略

ソフトバンクは、1981年に創業した孫正義氏を社長とする会社です。参入している業界は幅広く、携帯電話通信事業やインターネット事業(ヤフーと共同出資)、最近ではエンタメ事業(パズドラなどのアプリを制作しているガンホーなどを子会社化)にも進出しています。

2020年度のグループの売上高は連結で約5.6兆円と日本企業の中でM&A戦略に最も成功している企業といえるでしょう。

ソフトバンクのM&A戦略に「同士的結合」といった言葉があります。これは利益重視の結合よりも、同じ目標に向かって協力する志に基づいた結合のほうが強いといった理念です。

この理念のもとにグループの体制も、ソフトバンクをトップとした体制ではなく、個々の会社が自立してかつグループ会社からのシナジー効果を得ながら経営を行っていく体制を取っています。

このような戦略を取っているため、同じ志を持つ経営者がソフトバンクに集まり、数多くのM&Aに成功しました。

この後、ソフトバンクグループは2010年から30年間に、5,000社体制になることを目指しており、世界に影響を与える集団になることを目標に計画を実行しています。

ソフトバンク、「パズドラ」のガンホー連結化

③ダイキンのM&A戦略

ダイキンは、エアコンなどの空調事業として世界のトップシェアを占める企業です。空調事業以外にもフッ素化学製品、換気製品でも世界のトップシェアを誇っています。

ダイキンのM&A戦略は、海外販路拡大を目的としたクロスボーダーM&A戦略です。単に売り上げるだけではなく、成長戦略に沿ったM&Aであるのが重要と考えています。

この戦略により、売り上げの比率は海外が約7割を占めており、従業員も全体の約8割が海外で働いています。2020年度売上高は連結で約2兆4,934億円となっており、ダイキンもM&A戦略に成功している企業です。

④NTTデータのM&A戦略

NTTデータは、データ通信やシステム構築事業を行っている企業です。NTTデータのM&A戦略も海外販路拡大を目的としたクロスボーダーM&A戦略です。2017年までの11年間で約6,000億円以上をかけて、約50社の企業を買収してきました。

この戦略により、売上高は2020年現在連結で約2兆2,000億円、従業員の海外比率は45%程度になっています。今後、この事業で世界の5番以内に入ることを目標に、さらなるクロスボーダーM&A戦略を行っていく予定です。

⑤サントリーのM&A戦略

サントリーは、ビールや清涼飲料水の製造・販売を行う会社です。サントリーのM&A戦略も海外販路拡大を目的としたクロスボーダーM&A戦略です。

1980年代から海外のビール・洋酒メーカーのM&Aを積極的に行い、現在までに10社以上の買収を行い、グローバル展開をしています。2020年度サントリーの売上高は連結で約2兆3,676億円です。

近年も、サントリーは大型のM&Aを行っており、2014年にジン・ビームを販売しているビーム社を160億ドルで買収し、サントリー酒類のスピリッツ事業と統合しました。今後も海外企業のM&Aを行っていくことで事業を拡大していくと考えられます。

サントリーホールディングス(株)によるビーム社買収について

⑥リクルートのM&A戦略

リクルートは、人材派遣・人材紹介などのサービスを行っている会社です。リクルートのM&A戦略も海外販路拡大を目的としたクロスボーダーM&A戦略で、2009年からのM&Aは海外企業のみになっています。その結果海外60カ国で事業を展開し、海外売上高比率は46%まで伸びています。

リクルートのM&A戦略は、日本で成功したビジネスモデルを買収した海外の子会社に適用して業績を伸ばすことです。近年では、ホットペッパーグルメやホットペッパービューティーの事業モデルのノウハウをヨーロッパの買収した企業に適用して完全子会社化を行いました。

この戦略により、リクルートの売上高は2020年度連結で約2兆2,693億円です。

⑦楽天のM&A戦略

楽天は、インターネットサービスを提供している会社です。1997年に創業した比較的若い会社であるにもかかわらず、2020年の売り上げは連結で前年比15.2%増の1兆4,555億円になっています。

楽天もM&Aにより事業を拡大できた会社で、現在「楽天経済圏」を確立しています。楽天経済圏とは、楽天が楽天市場や楽天トラベルなどさまざまな事業を経営し、楽天ポイントといった楽天経済圏でしか使えないポイントを発行している事業共同体のことです。

この楽天経済圏の形成により、売り上げを大きく伸ばしています。現在は、海外販路の拡大を目指してクロスボーダーM&Aを積極的に行っています。

⑧JTのM&A戦略

JTは日本たばこ産業の略称で、1985年に日本専売公社のたばこ事業を引き継いだ民間会社です。国内でのたばこの売り上げは、喫煙率の低下を背景に下がっています。JTは海外販路拡大の路線をとり、クロスボーダーM&Aを積極的に行う戦略を取りました

まずは、1999年にアメリカのRJRナビスコ社のたばこ事業を買収し、たばこの販売本数を約10倍まで増加させることに成功しました。そのあとも海外のたばこ事業の買収を行い、2020年度の売上高は連結で1兆5,921億円になっています。

衰退産業の元国営企業の印象を完全に払拭(ふっしょく)し、JTもM&A戦略に成功した日本企業であるといえます。

JTグループの歴史

⑨ファーストリテイリングのM&A戦略

ファーストリテイリングは、子会社にユニクロを持っている衣料品会社です。ファーストリテイリングのM&A戦略も海外販路拡大を目的としたクロスボーダーM&A戦略ですが、一方で経営の安定化を目指した多角化戦略も行っています。

例えば、衣料品事業ではユニクロ以外にジーユーのブランドを立ち上げたり、青果事業を行ったりしました。これらの事業を含めたファーストリテイリングの2020年度売上高は連結で2兆22億円になっています。

⑩ZOZOのM&A戦略

ZOZOは、メディアでも有名な前澤友作氏が前社長を務めており、現在は澤田宏太郎氏が代表取締役社長兼CEOを務めている企業です。ZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイから社名変更した会社で、ZOZOは2013年から2017年にかけてM&Aを4件行っています。

特にファッションメディアのIQONの買収は、新規参入のための買収と考えられ、今後にZOZOはファッション系メディアに進出していくでしょう。

2019年にはソフトバンク傘下のヤフーが、ZOZOに対して株式公開買い付け(TOB)を実施し、連結子会社化を発表しました。それまで前澤友作氏のカリスマ経営で成り立っていたZOZOですが、ヤフーの傘下に入ることで新たな販路が切り開かれ、さらなる成長が期待されています。

スタートトゥデイ、ファッションメディア運営のVASILYを買収

⑪イオンのM&A戦略

イオンは、国内最大の流通グループです。総合スーパーなどの小売業以外にも総合金融業、サービス専門店業など多角化経営を行っています。イオンのM&A戦略は、これらの多角化経営の強化です。

例えば、総合金融業の強化として子会社であるイオンフィナンシャルサービスが東芝ローンサービスの買収を行っています。小売業の事業拡大としてダイエーの子会社化を行いました。

その他、数多くのM&Aを行い、事業拡大を行っているため、2021年2月期の売上高は連結で流通グループとしては国内最大の約8兆6,039億円となっています。

経済活動の制限や停滞など、日常生活を根本から変えた新型コロナウイルスの世界的な感染拡大ですが、コロナ禍での新たな需要に取り組み、スーパーマーケット事業・ヘルス&ウエルネス事業が好調に推移しています。

イオンクレとイオン銀、東芝系住宅ローン会社を買収

⑫良品計画のM&A戦略

良品計画は、無印良品をプライベートブランドに持つ小売企業です。もともとは、西友のプライベートブランドとして販売されていましたが、無印良品のブランドを西友の完全子会社化するために良品計画が設立されました

近年では、家具は製造販売での事業を譲り受け、子会社として家具事業を営んでいます。ファミリーマートと資本提携を行い、売り上げが伸びていました。しかし、両社の立ち位置の違いにより、2019年1月で良品計画のファミリーマートへの商品供給は終了しています。

その後良品計画は2020年6月からローソンの都内3店舗で実験導入を始めました。その店舗数は2021年5月には100店舗まで拡大されています。まだ顧客のニーズを見極めている段階ですが、今後はローソン限定の「無印良品」の商品開発も検討されています。

⑬LINEのM&A戦略

LINEの運営会社はLINEで、親会社は韓国最大のインターネットサービス企業のネイバー(NAVER)です。その日本法人であるNHN JAPANは2000年に設立されました。しかしNHN JAPANはいま一つうまくいかず、打開策として行われたのが2010年のライブドア買収で、2011年に公開されたのがLINEアプリです。

LINEは2011年6月にサービス開始以来、急激にユーザー数を伸ばしており、2015年には3億人を突破しています。

2019年11月、LINEとヤフーの経営統合が正式に発表され、2021年3月Yahoo! JAPANなどを傘下に抱えるZホールディングスは、LINEとの経営統合を完了しメディアから注目されました。

2020年12月ソフトバンクが、連結子会社であるLINEモバイルの完全子会社化、および吸収合併に向けて検討を進めることを決定しました。LINEモバイルの吸収合併は現在も協議が進められています。通信事業における新サービスの提供が期待されます。

【図解・経済】ヤフーとLINEの統合計画(2019年11月)

⑭ライブドアのM&A戦略

ライブドアは、かつてインターネットやメディア、金融に関する事業を行っていた堀江貴文氏を代表としていた会社です。ライブドアは多方面の事業に進出しており、1999年から2006年までに約60回ものM&Aを実施しています。

金融や広告、携帯販売店や人材派遣など幅広い業界とのM&Aを積極的に行っていたライブドアは、証券取引法違反で上場廃止になりましたが、日本に大きな影響をもたらした企業といえるでしょう。

ライブドアグループは分散されましたが、さまざまな形で今も残っています。セシールはディノスセシールに、弥生はオリックスの子会社に、ライブドアのWEB事業はLINEに売却され、当時の役員がLINEの役員になるなど影響を残しています。

⑮ライザップのM&A戦略

ライザップとは、「結果にコミットする」キャッチフレーズでおなじみのトレーニングジムを経営している会社です。

ライザップは、2016年ごろから積極的なM&A戦略を取ったため、急速に事業が拡大しました。売上高は2015年度の539億円から2年後には1,362億円と、約2.5倍増加しています。

この間にライザップの子会社になった企業数は約50社にのぼります。経営状態があまりよくない企業も積極的に買収し、独自のメソッドで黒字に回復させる戦略を取っていました。しかし2018年度は、このM&A戦略が裏目に出る結果となりました。

2018年度上期の売り上げは、1,091億円と前年比74%増だったのですが、経常損益が88億円の赤字に転落する結果になりました。一番の原因は、買収後1年以内の子会社の経営不振です。

つまり、M&Aで事業拡大を急ぐあまり、買収した会社すべてが経営状態を回復できていなかったため、グループ全体の経営利益が赤字になりました。

M&Aによる事業拡大戦略を一時中断して、既存子会社の経営回復を優先的に行う方針を定めた結果、2021年3月期決算最終利益が15億5,600万円と3年ぶりに黒字になりました

2019年から子会社や不採算部門を売却する構造改革を実施、2021年は人員配置や店舗の統廃合・本社オフィスの縮小などコスト削減に取り組んでいます。

⑯塩野義製薬のM&A戦略

塩野義製薬は2019年12月、UNMファーマ(秋田市)をTOB(株式公開買い付け)で子会社化しています。それ以前1990年代から海外の同業者や関連企業の買収も進めていました。

UNMファーマを子会社化したことでワクチン開発を本格化しました。新型コロナウイルスのパンデミックにより国内でのワクチン開発が期待され、ワクチンビジネスへの参入が加速化しています。

UMN---ストップ高買い気配、塩野義製薬が1株540円でTOB、UMNファーマ株は上場廃止の見込み

⑰KeyHolderのM&A戦略

KeyHolderグループは将来の収益体質の向上を見据えて、事業部門の拡大・子会社の統廃合・組織再編などを積極的に行ってきました。その結果総合エンターテインメント事業のほか、バラエティー番組・テレビドラマ・映像制作事業から広告代理店事業など幅広く展開しています。

ところがコロナ渦でイベント開催が困難になり、KeyHolderは2020年12月、同じくコロナ渦で打撃を受けたカラオケ業界最大手の第一興商との接点が生まれ、資本業務提携を発表しました。新たな事業展開が期待されます。

KeyHolder、カラオケ・飲食店舗事業を行う第一興商と資本業務提携

⑱大王製紙のM&A戦略

もともと大王製紙はM&Aとは無縁の会社で、多くの従業員の支援で成り立っている会社でした。そのような大王製紙は2017年2月に日清紡ホールディングスの家庭紙事業を買収して以来、5件のM&Aを成立させました。

家庭紙事業では後発組であった大王製紙ですが、「エリエール」などの大ヒットにより家庭紙で国内最大手の地位を獲得しています。

日清紡ホールディングスを買収したことで家庭紙でのシェア固めをし、低価格競争が激化する中で利益率を向上させました。川下にある三浦印刷を子会社化し、紙需要の拡大や印刷事業の強化を図っています

大王製紙、財務悪化でも日清紡の事業買収のわけ

⑲ニトリのM&A戦略

2020年12月ニトリがTOB(株式公開買い付け)で島忠を子会社化しました。複数企業での争奪戦にニトリが勝った形での子会社化です。ニトリのキャッチフレーズである「お値段以上」が株価にも反映されたようでした。

ニトリは両社のゴールが一致しているので、それぞれのブランドに磨きをかけ、ともに歩みたいと話し、島忠をニトリ方式に変えることで生まれ変われると再生計画を立てています。

ニトリの後出しTOBに翻弄された島忠 M&Aに新たな流れも

⑳大和ハウスのM&A戦略

米国東部や中部で戸建て販売をしている大和ハウスが、2021年10月に米国で住宅事業を展開しているキャッスルロックの買収を発表しました。

大和ハウスはM&Aで米国での事業拡大を図っていますが、今回の買収は海外M&Aでは同社で最大です。米国は住宅需要が旺盛なためM&Aで販売地域を拡大し、海外売上高を伸ばしています

CastleRock Communities, L.P.の持分取得(子会社化)及び 特定子会社の異動に関するお知らせ

㉑木曽路のM&A戦略

木曽路は2020年11月、大将軍のすべての株式を取得し、子会社化しました。

木曽路は木曽路(しゃぶしゃぶと日本料理)、素材屋(居酒屋)など飲食事業のチェーン展開を図っている会社です。その一方で大将軍は、特選和牛大将軍・国産牛焼肉くいどん・くいどん食堂・伝助本店などの焼肉店をグループとして展開しています。

今回のM&Aは、木曽路として初めての買収です。国産牛にこだわる大将軍の買収で、木曽路に占める焼き肉事業の売上比率を拡大させ、付加価値の高い商品・サービスの提供を目指します。

株式会社大将軍の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

㉒ココカラファインのM&A戦略

近年、ドラッグストア・調剤薬局業界では、競争の激化や人手不足を背景とした人件費の高騰、物流費の高騰などもあり、生き残りをかけたM&A合戦が繰り広げられています。 

ココカラファインも2010年頃から多くのM&Aを実施していました。2021年10月、業界6位のマツモトキヨシホールディングスと業界7位のココカラファインが経営統合し、マツキヨココカラ&カンパニーとなりました。

ココカラファインとマツモトキヨシとの経営統合で、トップクラスとなる形です。今回のM&A戦略により、ドラッグストア業界の勢力図は大きく変化し、順調に進めば業界1位となるでしょう。

マツキヨココカラ&カンパニーの店舗数は合計で3,200店舗を超え、2026年3月期に売上高1兆5,000億円、アジア展開の加速も目指します。

株式会社マツモトキヨシホールディングスと株式会社ココカラファインとの 経営統合に際しての吸収分割契約の締結等のお知らせ

㉓カクヤスのM&A戦略

酒類販売カクヤスは、売上高の7割が居酒屋などへ提供する業務用で占めており、コロナ禍による飲食店の休業・時短要請の影響を強く受けました。一方、カクヤスの家庭用酒類の販売は好調でした。

そのような中、カクヤスはこの状況をシェア拡大の好機ととらえ、市場環境の変化に即応できる経営体制の構築を狙い、地方へのM&Aを進めています。

2020年5月に、福岡県に拠点を置く業務用酒販のサンノーにおけるすべての株式を取得し、子会社化した。カクヤスは上場後の経営テーマとして掲げたのが「カクヤスモデル」の地方展開であり、地方進出の第一歩のM&Aとなりました。

カクヤス、福岡の業務用酒類販売会社サンノーを買収

㉔アサヒグループHDのM&A戦略

アサヒグループホールディングスは2019年7月、オーストラリアのビール業界最大手カールトン&ユナイテッドブリュワリーズを160億豪ドル(約1兆2,096億円)で買収しました。同社が行った買収では過去最大額で、これによりオーストラリアのビール市場で約5割のシェアを誇ることになりました。

2020年8月には、アサヒグループホールディングス傘下のオセアニア事業統括会社Asahi Beveragesと、Carlton & United Breweriesを統合するのが発表されました。

この統合により、生産・物流・調達・インフラなどのコストが効率化されます。「アサヒスーパードライ」「Peroni Nastro Azzurro」など、既存ブランドの販売拡大、幅広いカテゴリーで高付加価値ブランドの展開を図りました。

アサヒグループホールディングスは、日本・欧州・豪州を核とした強固なグローバルプラットフォームの構築強化、経営資源の高度化によるプレミアムビールメーカーとしてスピーディーな成長を目指します。

AB InBev 社の豪州事業の株式取得及び新株式発行にかかる発行登録に関するお知らせ

㉕ソニーフィナンシャルHDのM&A戦略

ソニーフィナンシャルホールディングスは、生保・損保・銀行・介護をメインの事業としており、M&Aによって創出される企業価値向上を目指していました。

2013年11月には介護付有料老人ホーム「ぴあはーと藤が丘」を運営するシニア・エンタープライズ、2017年4月には介護付有料老人ホーム「はなことば」を運営するゆうあいホールディングスを子会社化し、介護事業へ参入を図りました。
 
2019年5月には、傘下のソニー生命をとおして、ソニーライフ・エイゴン生命とSA Reinsurance Ltd.を完全子会社化します。

その後、ソニーフィナンシャルホールディングスは2020年5月、ソニーがTOBを実施し、完全子会社化となりました。金融事業もコア事業と位置づけ、柔軟な意思決定ができる経営体制の構築を図ります。これにより、TOB成立後に上場廃止となります。

ソニーフィナンシャルホールディングス株式会社の完全子会社化の完了に関するお知らせ

㉖老舗建築建具店のM&A戦略

創業60年の伝統を持つ老舗建具店Aは、高い技術力を誇ります。Aを経営していたオーナーは、自分の理念を共有できる後継者を探していました。そんなとき、長年の顧問税理士であり、信頼できる関係にあったコンサルタントが経営を引き継ぐことになりました。

引き継ぐ前、この店は大手ゼネコンからの下請け仕事で売り上げを上げていましたが、利益率はあまり高くありませんでした。新しいオーナーは事業の方向性を変え、より利益率の高い直接取引を増やすことにしました。また、オリジナル家具の製作と販売、個人向けのショールームを新たに開設するなど、新しい事業にも力を入れています。

事例集

8. M&A戦略のまとめ

M&A戦略とは、M&Aを実行する前にM&Aの目的を明確にし、目的を達成するための戦略です。M&A戦略を立てておくことで、目的を達成するための合理的なM&Aを成立できます。

M&Aを実施するのであれば、事前にしっかりとしたM&A戦略を策定する必要があります。以下の5つのステップでM&A戦略策定しましょう。

しかし、自社だけでM&A戦略を策定するのは難しいでしょう。なんどもM&Aの経験があり、M&A専門で動く部署があれば別ですが、そうでない場合はM&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談するのをおすすめします。

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