M&Aのリスクとは?買収側・売却側それぞれのリスク、マネジメント方法を徹底解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aには多くのメリットがある一方、リスクも存在します。100%安全なM&Aは存在しませんが、細かなところまでリスクマネジメントを行い、リスクを最小限に抑えるようにしなければなりません。この記事では、M&Aのリスクを詳しく解説します。

目次

  1. M&Aのリスクとは
  2. M&Aのリスクマネジメント
  3. M&Aのリスクを軽減する買収防衛策一覧
  4. M&Aのリスクを回避して成功させるためのポイント
  5. M&Aのリスクまとめ
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1. M&Aのリスクとは

M&Aのプロセスは長時間を要し、複雑であることからリスクが多数存在します。さらには、予想外の事象やトラブルも発生することが多く、当初の予定どおりにM&Aを進めていくことは非常に困難です。

M&Aを成功させるにはこのリスクを先に把握し、リスクマネジメントをしっかりと行い、状況に合わせて柔軟な行動をとれるようにしなければなりません。ここでは、M&Aのリスクを買い手側と売り手側に分けて解説します。

M&Aにおけるリスクの種類

M&Aは異なる複数の会社が経営統合を行うものであるため、経営上重要な資源が動くこととなり多くのメリットをもたらします。しかし、売り手も買い手もリスクを抱えます。M&Aのリスクの種類には、一般的に財務リスク、経営リスク、人材リスクが挙げられるでしょう。

M&Aの成功率は、全体の2割から4割といわれています。買い手・売り手それぞれにリスクも異なるため、双方ともに直面するリスクをきちんと理解しておくことが必要です。

買い手のリスク

M&Aにおいて買い手側は買収後もその買収した事業や従業員と目標に向けて経営を進めていかなければなりません。M&Aのリスクとは取引中の交渉だけではなく、統合後のプロセスも含まれており、買収した後のプロセスがM&Aを実施したことが成功だったのか失敗だったのかの分かれ道となります。

極めて規模が小さな企業であればリスクが限定的であるので、そのような取引を検討する選択肢としてありますが、ここではM&Aを全体的に見て考えられるリスクを解説します。

高く買ってしまう

これは買い手側の企業の基本的なリスクです。買い手側は事業を買収するときに希望している金額に見合った売り手企業を見つけ、買収に向けて手続きを行っていきます。このときに買収金額を決めるために売り手企業の財務状況などの調査を行います。

このときの失敗としてよくあるのが、簿外債務保証債務など企業情報の書類に載っていない部分の見落としをしてしまい、買収価格を設定し、後々その簿外債務や保証債務が発覚するリスクです。このときに引き継いだ債務は後々大きな損失を生むリスクとなります。

気軽に当事者同士の同意だけで条件交渉してしまうと、自社の経営戦略には不要な資産も引き継いでしまうなどのリスクがあることを理解しておかなければなりません。

会社が不正を働いている

買い手企業は買収後もその対象会社を経営していかなければなりません。そこで売り手企業の会社にもともと働いている従業員などが顧客との不正取引をしている可能性も考えられます。

買収前から行っていた場合も同じですが、親会社が変わったからといって何もしなければ不正を繰り返す従業員がいなくなることはありません。実際にこのような事例は頻繁に存在していて、その不正の発覚から信用問題などで事業がうまくいかないことや最悪は多額の負債をもつこともあり得ます。

従業員だけではなく、脱税や賄賂での不正も考えられ、法的に罰せられることや追徴課税の対象になるリスクがあることも理解しましょう。

特殊契約などのリスク

M&Aを当事者同士で行う場合は一番気をつけなければならないリスクといえます。例えば、M&Aにて買収した会社で、「納期や期限を守らない場合は2倍で請求される契約」などのような特殊な契約を結んでいた場合です。

商品を取り扱うような業界ではこのリスクもM&Aではよくある話です。こういった契約は財務諸表のどこを見てもわからないもので突然このようなトラブルが起きることがあり、履行義務者は基本的に買収した会社の経営者になるので多額のお金が流れるリスクもあります。

給与の未払いなど経営姿勢のリスク

これはさまざまな可能性があげられますが、わかりやすい例としては残業代などの未払い、有給休暇の未消化です。中小企業にはよくあることなどと軽視していると、従業員が会社に対して請求してくることもあり、その対象は法人である会社になるので支払い義務者は当然買収した側の企業になります。

特に従業員と雇用契約を結んでいない中小企業ではこのリスクが潜在している可能性が高く、買収価格とは別に多額の請求を求められるリスクがあります。

優秀な人材が抜けてしまうリスク

M&Aの契約がうまくいったとしても事業がうまくいくかどうかは、従業員の力も関係していることを忘れてはいけません。M&A後の企業文化の違いや雇用条件の変更により優秀な人材を流出させてしまうリスクがあり、M&A後企業に優秀人材を強制的に残せません。

新たな環境と経営陣に対する不信感や従業員同士の衝突も可能性としてはあり、シナジー効果が得られないことやミスによる損賠賠償も起こり得ないため注意が必要です。M&Aは同業種同士のM&Aだったとしても実際は全く別の企業であるので従業員同士の関係、経営陣同士の関係も事業を進めていくうえではリスクになるときもあります。

売り手のリスク

M&Aにおける売却側は、契約が完了したら終わりであると思っている方もいるかもしれませんが、売却するまでのリスクも売却後のリスクも存在します。

認識していなかった債務や売却前のトラブルなど買収側と同じくらいのリスクはありますが、これといって限定的なリスクがないため、いくら準備していても発生してしまうことがあるでしょう。ここでは、売却前・売却後のリスクを解説します。

売却側は事業譲渡の場合、危険なリスクがいくつかあるため、しっかりと理解するのが大切です。

人材が流出する

これはM&A後の事業統合時に起こり得るリスクで買い手側企業も同じことがいえます。従業員が売却に納得のいかない理由はさまざまで、企業文化の違いや、雇用形態への不満など経営者に直接関与する理由もあり、売却後に優秀な人材や業界経験の長い従業員が離職するリスクがあります。

事業がうまくいくかどうかは、優秀な人材の有無でかなり左右されることが多いのでこのような状況は買い手側・売り手側両社にとってリスクといえるでしょう。

買収前の損害への責任を取るリスク

例えば、契約関係で買い手側が不利益を被ることがあった場合は、買収側が契約前にきちんと契約内容を精査する義務があったといえます。しかし、事業譲渡前に売っていた製品が顧客に深刻な損害を与えてしまいその賠償を求められる可能性もあるでしょう。

損害を与えた理由がそれなりである場合は、売却価格以上の損害賠償がかかるリスクもあります。リスクを回避できなかった場合は、複雑な問題となる可能性が高く、そもそも買収前に収めていた商品による損害なのか、買収後のメンテナンスを怠っていたための損害なのか買い手企業とぶつかり合うこともあり得ます。

経営姿勢の問題が発覚するリスク

こちらはかなり深刻なリスクになりかねません。経営者であれば、基本的に雇用契約を従業員と結んでいるのが当然ですが、そのような契約がなくて残業代の未払いや有給休暇の消化の有無を把握していないことで、M&A後に元従業員が請求してくるリスクがあります。

つまり法律上で定められている雇用契約を結んでいないことを知っていながら事業を売却したと見なされるので、経営者個人での責任問題となるリスクも考えられます。これらの問題がM&A終了後に発覚した場合は、その全ての問題から逃れられる可能性が極めて低いでしょう。

事業が売却できないリスク

いざM&Aにて事業を売却しようとしても、簡単に条件に当てはまることはなく、タイミングや状況把握を誤るとM&Aの実行ができなくなります。

これは不動産のような業界でもよくある話で、M&Aや事業売却の決断はしたものの、条件をかたくなに変えなかったり、もっといい条件の買い手が現れてそちらと交渉をした結果破談したりするケースです。その後はタイミングを逃し事業が売却できなくなるリスクもあります。

商品や不動産と同じで時期やタイミングを逃してしまうことで生じるリスクはかなり高く、最悪の場合は事業が倒産するまで続けなければならない状況になることもあり得ます。M&Aを長引かせるとこのリスクは巨大化していくでしょう。

敵対的買収のリスク

M&Aとは買い手側企業と売り手側企業の両社が納得したうえで買収などの契約を行うもので、これを友好的M&Aといい、その逆で株式の過半数を取得し実質上経営権を獲得する敵対的買収が行われるリスクがあります。

この敵対的買収のリスクは、従業員のモチベーションの低下と人材の流出、業績の悪化などさまざまなトラブルを生じ、当然シナジー効果はなく、スピーディーな経営はできなくなるでしょう。

買収に応じるか否かを最終的には株主が決めるのですが、その株主が自社の事業をしっかりと理解していない場合は株主にリスクが生じる可能性があります。

海外企業とのM&Aにおけるリスク

海外企業とM&A(クロスボーダーM&A)を行う際は、商習慣、法律、文化、言語などが異なり距離もあるため、国内で行うM&Aよりもリスクが多い傾向があります。

現地に関する情報を把握しないままM&Aを実施すれば、M&Aが成約してからトラブルが生じる可能性が上がります。法律や規制などの基本情報を把握し、商習慣や労務管理、文化の違いに対しても認識をもつようにしましょう。

海外企業とのM&Aでは国内でのM&Aより高度な分析と経営判断、M&A後の高い経営管理能力が欠かせません。したがって、海外企業とのM&Aに精通したM&Aの専門家に依頼することをおすすめします。

個人・スモールM&Aにおけるリスク

取引規模が譲渡価額1,000万円以下のM&Aなど、個人・スモールM&Aであっても、リスクに注意しましょう。売り手は当然、小規模事業、個人事業の経営者となりますが、小さい案件であっても税務・会計・法務の面からトラブルが発生する可能性があります。

規模が小さいからと個人間でM&Aを進め、専門的な知識を必要とする問題が発生した場合、自力で解決するのは非常に困難です。個人・スモールM&AでもM&A仲介会社ともに進める方がベストといえるでしょう。

2. M&Aのリスクマネジメント

M&Aを成功させるにはリスクマネジメントを行って、さまざまなリスクを回避していく必要があります。M&Aのリスクマネジメントには専門業者に依頼することが多く、それなりの費用が必要なことから怠ってしまう経営者の方がたまにいますが、これはM&Aが失敗してしまう一番の理由です。

M&Aにて生じるリスクは各プロセスや契約の前にリスクマネジメントをすることで必要以上の経費や負債を負うこともなくなり、事業の拡大や目標の達成へ大きく近づけるでしょう。ここでは、リスクマネジメントのポイントを解説します。

買い手のリスクマネジメント

M&Aにおける買い手側企業は成功したときに得られるメリットが大きい分、リスクが生じることも比較的に多いです。このリスクマネジメントを怠るとM&Aは失敗する可能性があります。M&Aで買収を考えている方が失敗しないために、ここでは買い手側のリスクに対するリスクマネジメントを解説します。

デューデリジェンス強化&不確実性の排除

上記の「高く買ってしまう」に対応するリスクマネジメントです。デューデリジェンス(DD)とは売り手企業の財務状況や会社状況・債務の有無を専門家が調査することで、その調査結果を評価額や条件交渉へ活用するプロセスです。

M&Aのリスクマネジメントとしては実に一般的な手法ですが、その重要性をいまだにわからず、それなりの費用がかかってしまうため怠ってしまう企業が多く存在します。

この財務デューデリジェンス(DD)で専門家から得られる情報は書面上や交渉内容の不確実性を排除して一番適正な買収額を決めるときに役に立ち、失敗のないM&Aを実現します。

デューデリジェンス(DD)の重要性は最近M&A市場が活発になっていることで知られてきており、デューデリジェンス(DD)対策を行う企業も増えているため、専門家に依頼することを忘れてはいけません。

風評DDと反贈収賄DDの実施によるリスクマネジメント

買い手のリスク「会社が不正を働いている」に対応するマネジメント手法です。風評デューデリジェンス(DD)とは買収または投資対象企業のバックグラウンドチェックを行うもので、経営陣の中に風評に影響を与えるような人物がいないか、不透明な資本関係や組織構成などの調査も行います。

反贈収賄デューデリジェンスとは買収対象企業をもとに開示されていない情報の収集を行うものです。調査の対象としては風評デューデリジェンスと同じ内容が含まれます。そのほかに、会計や支払いデータ・証憑(しょうひょう:取引成立を立証する書類)のレビューも含まれるでしょう。

この2つのデューデリジェンスを行うことで、過去の不正の履歴や対象者の判別が行えます。

契約関係はM&A専門家に相談する

M&Aのリスクで一番厄介なのが契約関係に関するものです。これは財務諸表にも記載がなく特殊な契約を売り手企業がクライアントなどとしていた場合、事業承継とともにこれらの契約も引き継がれることになります。

これらのリスクマネジメントとしては、専門家(弁護士・税理士)に依頼して、契約の見直しや最終契約書に特殊契約の事項を入れるなど、契約書にてリスクマネジメントを行うことが重要です。契約書上にないものは、M&Aにて統合後に責任追求されても買収側に責任がないようにしなければなりません。そのうえで相手側企業が納得できる契約である必要があります。

表明保証規定や補償規定の設定

これも契約関係に関するリスクマネジメントですが、「給与の未払いなど経営姿勢のリスク」のようなケースのリスクマネジメントです。万が一、M&A後に従業員の未払い給与に対しての請求を受けた場合、「売り手企業は、対象会社の従業員などに対する給与の未払いによって買い手企業に経済的負担が生じた場合は、買い手企業に対してその全額を直ちに補償するものとする。」となります。

これに似た文章が表明保証規定補償規定に残されていれば、最悪な状況になったときに売り手企業に損害賠償の請求を行えます。中小企業のM&Aではよくある事例なので、対処をしましょう。

PMIの実施によるリスクマネジメント

M&Aのリスクとして「⑤優秀な人材が抜けてしまうリスク」がありますが、これはPMIの実施によってリスクマネジメントができます。PMI(Post Merger Integration)とは経営戦略・ビジョンの浸透・従業員のモチベーション向上と維持などを目的としたM&A後のプロセスです。

これにより組織体制の構築の仕組み作りをしていくことで優秀な人材の流出を防ぐことも可能であり、M&A後、最初に行うプロセスといえます。もちろん、M&Aに対してもともと反対意見のあった従業員は抜けてしまうこともありますが、事前に調査して対処していくことも重要です。

売り手のリスクマネジメント

M&Aにおける売り手側のリスクとしてあげられる事象がM&A後のトラブルとなることが多いので、そのようなトラブルに対してのリスクマネジメントを行わなければいけません。

トラブルは売却金額を上回るほどの賠償を支払う可能性もあり、売り手側も厳重に対処していく必要があります。ここではM&Aにおける売り手側のリスクマネジメントを解説します。

信頼関係の構築

「人材が流出する」に対応するための売り手側のリスクマネジメントですが、M&Aでは買い手企業と売り手企業のコミュニケーション不足は経営陣に対する不信感や買い手企業と売り手企業の双方の従業員の衝突によって、優秀な人材が離職するパターンが多いでしょう。

このようなM&Aのリスクを回避するために、買収前後に双方の企業の経営陣と従業員が十分にコミュニケーションを取り合い、信頼関係を構築することを優先して行うことが重要です。これには、PMI(Post Merger Integration)の実施も不可欠となります。

虚偽のない管理体制の強化

製品を取り扱う事業や輸出業などのM&Aではよくある事例ですが、M&Aにて統合前にクライアントに提供していた商品やサービスがM&A後にトラブルとして出てきます。

M&A直後は少し管理体制が甘くなる部分も否めません。実際にトラブルが起きたときに損害賠償を買い手企業と売り手企業のどちらが責任をもつのかぶつかり合うケースです。
 

M&Aはうまく契約まで終了したにもかかわらずこのようなトラブルが起きてしまっては、全て失敗に終わってしまいます。このリスクに対してもきちんと対処していくべきです。

M&Aのリスクに対してのリスクマネジメントの方法は売っている商品やサービスにより異なりますが、M&A前にしっかりと管理体制を強化して業務に取り組む姿勢を会社内で徹底させることが大切です。

トラブルのリスクがない場合は、表明保証など契約時にその旨を織り込んでおくことで、買い手企業が同意していれば売却後に損害賠償を背負う必要がなくなります。

財務状況と経営姿勢はクリアにしておく

「経営姿勢の問題が発覚するリスク」に対応するリスクマネジメントですが、こちらは極めて深刻な問題です。有給休暇は法律の規定どおりにしっかりと消化されているか、残業代の支払いはなされているか、など労働規則に違反する内容のものがM&A後に発覚するリスクは把握する必要があります。

このような労働規則に反する事象が起こったとき、把握していなかったといって済む問題ではなく、全ての問題から逃れられません。売却前に財務状況と経営姿勢はクリアにしておくことと、把握していない部分に関して専門家に相談し、精査していく必要があります。

M&A進行中の条件交渉はスムーズに済ませる

「事業が売却できないリスク」に対応するリスクマネジメントですが、M&Aはタイミングを逃すと契約や買い手企業がいつになっても見つからないような状況になりかねません。M&Aを成功させるコツとしても取引の条件交渉などはスムーズに済ませるべきです。

M&Aの条件交渉を折り合いがつかないからと1年間など引き伸ばす経営者の方もいますが、結果は交渉決裂となり、当初は興味を示していた企業も興味をなくし、事業の売却の機会を失ってしまうケースがあります。

M&Aを実施すると決断したのであれば、多少の妥協は必要なので、そこの部分もM&A前にアドバイザーなどに相談しておくと交渉を進めやすくなり、事業が売却できなくなるリスクは低減するでしょう。

買収防衛策を用いる

「敵対的買収のリスク」のリスクマネジメントは、買収防衛策を用いて対策します。M&Aで敵対的買収で成功した事例は極めて低いですが、その敵対的買収のターゲットにされやすい企業の例は以下です。

  • 株主構成が不安定な企業
  • 能力が高い企業
  • 株価総額が低い
  • 独自の技術や販路をもっていて他の企業ではまねできない経営

このような企業は敵対的買収の対象とされやすいです。

株主構成が安定している企業とは、中小企業のように経営者が株式の大半を保有していたり、資産管理会社が株式を管理していたりする企業です。

逆に、利益をだけを求めている投資家が株式の大半を占めているような企業は株主構成が不安定であるとはいえ、その投資家たちが経営者交代で利益が上がると見込めば、敵対的買収にて経営陣の変更を望むことがあります。

その他、能力が高くて株価が安いような企業や独自のノウハウをもっている企業は、大手の企業に新規参入を目的とした敵対的買収のターゲットになりやすいでしょう。

3. M&Aのリスクを軽減する買収防衛策一覧

M&Aとは買収と合併を意味していますが、これは友好的M&Aによるシナジー効果や後継者問題の解決のために行われるものです。しかし、ときには予期せぬ形で買収され会社が乗っ取られるリスクもM&Aにはあります。

これが「敵対的買収」と呼ばれるM&Aの手法で大手企業が利益を求める中小企業の株主から企業を丸ごと飲み込み、経営権を乗っ取ってしまう手法です。ここでは、この敵対的買収を詳しくまとめます。

ポイズンビル

「毒薬事項」「ライツプラン」ともいわれているこのポイズンビルは、買収防衛対策では一番有名な手法といえます。これは、敵対的買収を仕掛けている会社が一定数以上の株式を取得した場合に、他の株主に向けて新規予約株式権を発行する手法で相手の株式保有率を下げたり、買収にさらなるコストが必要になる状況を作ることで買収自体を諦めさせたりできます。

この方法を用いる場合は、信託銀行に自動的に発動するように委託しておけば、手続きにかかる費用が抑えられ、相手の敵対的買収を妨害できるので有効的な買収防衛策です。

この手法のリスクとしては、株式そのものを増産するので既存株主への影響があり、既存株主から反発を受ける可能性もあるので注意が必要です。このようなことからこのポイズンビルを実施する際には、事前に入念な協議を設ける必要があります。

黄金株を発行

黄金株とは経営陣が決めた重要事項に対する拒否権の条件が付与された株式です。この株式を保有している株主がいれば、敵対的買収を仕掛けてきて、株式を99%取得されても支配権の譲渡を拒否できます。

これにより、敵対的買収によるM&Aを行った会社が経営陣に成り代わる事態を防止できます。

敵対的M&Aの防止としては強力ですが、もともと黄金株はあまりに強力すぎるが故に東京証券取引所から拒否の意向を示されていました。ただ現在は会社法の施行なども相まって、条件付きで黄金株の発行が認められるようになりました。

M&Aのリスクマネジメントとしては有効的な手法ですが、株主平等原則から大きく外れる条件付きの黄金株は、発行すること自体が難しいといった現実があります。

譲渡制限を細かく設定していないと、敵対的買収によるM&Aを仕掛けてくる方に黄金株が渡ってしまうリスクもあるので、注意が必要です。

ホワイトナイト

敵対的M&Aの防衛策のホワイトナイトは、敵対的買収を仕掛けられたときに別の会社に友好的買収としてM&Aの取引を行ってもらう手法で、敵対的買収を仕掛けられた会社を助けるために他の会社を呼ぶことから「ホワイトナイト」と呼ばれています。

これは敵対的買収が自身の企業にメリットがないと判断したときに使われる買収防衛策です。敵対的買収を防ぎたいときに友好的な会社があれば成功しやすい手法であるといえます。

リスクとしてはホワイトナイトを担ってくれる会社が都合よく見つかる可能性は決して高くなく、見つかったとしても対象企業に資金面の準備が必要なことから、うまく行く保証がない点です。

ホワイトナイトを担う会社に対して、それなりの報酬や有利な条件を提示しなければならないこともあります。

スコーチド・アース

この「スコーチド・アース」は他の敵対的M&Aの買収防衛策とは違い、意図的に会社の企業価値を下げる手法です。企業価値を下げることにより敵対的M&Aを仕掛けようとしている側の意欲を落とすことが目的で別名では「クラウン・ジュエル」とも呼ばれています。リスクの高い買収防衛策ですが、成功すれば敵対的M&Aの目的自体をなくせます。

スコーチド・アースの手法としては利益のある事業を分社化したり、他会社に譲渡したりするなど故意に負債を背負うことが多いです。一度下がった企業価値を回復させる可能性が少なく、株主の利益に反した場合は訟訴に発展することもあるため、リスクが高い手法ですが経営陣の判断で行える買収防衛策です。

パックマン・ディフェンス

これは攻撃的な買収防衛策で、敵対的M&Aによる買収を仕掛けてくる会社に、逆に買収を仕掛ける手法です。「攻撃こそ最大の防御」といった言葉があるように、全面戦争となるリスクがあるため難易度の高い買収防衛策ですが、効果はそれなりにあり、敵対的買収を目的とする企業も損をすることがあります。

買収を仕掛ける場合は、敵対的M&Aによる買収を仕掛けてきている会社の株式の4分の1を取得するのが目標になり、資金が必要となりますが、それが成功すれば仮に買収が成立しても議決権を失わせるのが可能です。

パックマン・ディフェンスはある程度資金力に余裕がないと実施できない敵対的M&Aによる買収防衛策で、相手の会社の株価が高い場合は失敗しやすいです。

4. M&Aのリスクを回避して成功させるためのポイント

さまざまなリスクがあるM&Aでは成功させるために、それぞれのプロセスを丁寧にこなすことが重要です。さまざまなリスクを回避するためのリスクマネジメントは容易なことではなく、年間にいくつものM&Aによる取引が失敗に終わっています。

このような失敗には要因があり、そのリスクやマネジメントを理解せず、怠ることにより失敗に結びついています。ここではM&Aを失敗させないための知識やコツを解説しましょう。

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M&Aの成功と失敗

経営戦略がM&Aありきになっている傾向が強まり、対象企業のことをよく理解していないまま紹介案件でM&Aを進める企業が多く、そのような知識不足により失敗の確率が高まっている傾向があるでしょう。

事業戦略とのシナジー効果を発生させるわけではないのに情緒が介入して、冷静な判断ができていない企業も多く存在していることからかなり高い確率でM&Aの失敗を生んでいます。

特にM&A市場が拡大してきた2000年代では失敗事例も増えています。この成功と失敗がわかれる要因は「迅速な意思決定を行える体制が整えられているか」と「M&Aに取り組む主体性」の違いです。

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M&Aを成功させるコツ

どのような企業でもM&Aを成功させるためにはリスクの認識と共有が成功手法の一つになります。このリスクの認識は経営陣だけでは理解が薄くなり、本当の意味でのリスクマネジメントは行えません。

M&Aアドバイザーを見極めることで成功に近づける

M&Aのリスクはさまざまなプロセスで発生し、そのプロセスやM&Aに手法によって異なるため経営陣のみでの協議では、しっかりとしたリスクマネジメントは望めません。M&Aには仲介会社やアドバイザーが必須になることから優秀なM&Aアドバイザーを見極め、第三者の立場からアドバイスと手助けを受けることがリスクマネジメントになります。

このM&Aアドバイザーを信頼できる会社に依頼することでM&Aのリスクは激減し、冷静な判断と経営戦略の立て直しが行えます。

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企業文化を理解することでM&Aは成功しやすくなる

M&Aのリスクで売り手側にも買い手側にも共通して存在するのが「企業文化の違い」による人材の流出です。この人材の流出は今後の経営方針を大きく変えなければならない問題であり、シナジー効果が発生しなかったり、事業拡大のための経営戦略が無駄になってしまったりすることがあります。

このリスクマネジメントは企業文化を理解し統合をうまく行うことで、PMIの実施や、企業間でのコミュニケーションを取ることが重要です。信頼関係を築き、経営上の目標に向けて調和が取れれば、M&Aの実施によるシナジー効果が得られるでしょう。

M&Aのリスクマネジメントは豊富な経験があるプロに相談

M&A総合研究所には、M&Aのリスクマネジメントに精通したアドバイザーが在籍しております。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

5. M&Aのリスクまとめ

買い手側・売り手側にも非常に魅力的なのがM&Aです。しかし、売り手側の企業としては子供のような会社を手放し、気持ちよくリタイアするために取り組んだM&Aにもかかわらず、いつでもリスクが限定できないこともあり、気が気でない状態で売却価格の全てを失うこともあります。

買い手企業も売り手企業の経営者の思いが詰まった企業を右から左へ売り払うようなことはしたくありません。買収価格に見合わない効果であれば事業の拡大を目的として始めたM&Aが全て無意味に終わってしまうこともあります。

これまでに挙げたリスクは稀(まれ)に起こることではなく、よくある事例として挙げられています。しかし、そのリスクを理解せずにM&Aに取り組んでいる経営者の方、理解していてもリスクマネジメントをせず失敗してしまう経営者の方が多いです。さまざまな点を踏まえ、M&Aには第三者の目としてM&A仲介やアドバイザーの存在は欠かせません。

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