2024年05月28日更新
株式譲渡とは?事業譲渡との違い・適切な活用方法・目的からケースに合わせた対応方法まで解説
株式譲渡は中小企業がM&Aで活用するケースも多く、事業の存続を実現している企業も少なくありません。本記事では、株式譲渡の目的やメリット・デメリット、株主の状況に合わせた活用方法に至るまで詳しく解説します。正しく株式譲渡を活用できれば、損失を抑えながら利益を生み出すことも可能です。
目次
1. 株式譲渡とは?
株式譲渡とは、売り手側企業の株主が保有株式を買い手側に譲渡するもので、会社の経営権を引き継ぐ手続きのことです。株式譲渡は、会社の規模拡大や組織再編、事業承継などさまざまな目的で行われています。
中小企業の売買でよく使われる方法が「株式譲渡」です。株式譲渡では、譲渡側と譲受側が契約を結び、譲受側が対価を支払い、譲渡側がその企業の株式を渡す取引です。
株式譲渡は手続きが簡易なことから、M&A手法として最も多く採用されています。買い手側は売り手側から株式を取得する必要があり、その方法には、公開買い付け(TOB)、市場買い付け、相対取引の3種類あります。
公開買い付け(TOB)
公開買い付け(TOB)とは、上場企業の株式に対し買い手が公開取引市場以外で買い集める方法のことです。買い手は買い付ける株式数、買い付け価格、買い付け期間などを公告や個別通知によって周知し、株主はその条件に賛同すれば保有株式を譲り渡します。
買い集めやすくするため、買い付け価格は割高に設定するのが通例です。日本では友好的買収がほとんどですが、2005(平成17)年前後に村上ファンドが敵対的買収を行ったことで、日本でも敵対的買収が知られるようになりました。
市場買い付け
売り手側が上場企業の場合、公開取引市場で株式を買い集められます。一定の流通量があるので株式を短期間で集めやすいメリットはありますが、大量に購入すると株価が上昇してしまうデメリットもあるので、過半数以上取得する目的で行うのはあまり現実的ではありません。
相対取引
上場していない企業の株式を集める場合は、株主と直接交渉する相対取引を行います。非上場の中小企業の場合は、オーナー社長が会社の株式の大半を保有していることが多いため、オーナー社長の合意が得られればスムーズに株式譲渡手続きを進められる点がメリットです。
しかし、株主が分散していて過半数の取得に多くの株主との交渉が必要な場合は、株式譲渡手続きが滞ってしまいデメリットとなります。
2. 株式譲渡と売却、事業譲渡、会社合併の違い
株式譲渡と事業譲渡、会社合併には、それぞれ以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット | |
株式譲渡 | ・手続きが容易 ・譲渡後も会社が存続する |
・簿外債務リスクがある ・株式の買い集めに苦労する場合がある |
事業譲渡 | ・譲渡事業の選択ができる ・簿外債務を回避できる |
・手続きが多い ・税負担が大きい |
会社合併 | ・事業シナジーを得やすい ・1社に統合される |
・簿外債務リスクがある ・手間とコスト負担が大きい |
株式売却との違い
譲渡とは、所有権や権利を自発的に他者に渡すことを指す一般的な概念です。一方、売却は特に金銭を伴って財産や物品を提供する形態の譲渡です。つまり、売却は譲渡の一部ですが、譲渡には売却以外にも贈与や譲渡契約などの方法も含まれます。
事業譲渡との違い
事業譲渡とは、売り手側の事業の一部または全部を買い手側に売却するM&A手法のことです。事業譲渡では引き継ぐ資産を個別に選択できるので、売り手側は会社の独立性を保ったまま事業再編ができます。
買い手側は必要な資産だけを引き継ぎ、債務は引き継ぐ必要がないので、リスクを最小限に抑えられるのがメリットです。しかし、事業譲渡は手続きが煩雑で税金の負担も大きいため、デメリットの少ない小規模の中小企業でよく用いられます。
会社合併との違い
会社合併とは、2社以上の会社を1つの会社に統合するM&A手法をさします。消滅する会社の資産、負債、権利義務の全てが存続する会社に引き継がれるでしょう。会社合併には、既存の会社に他の会社が吸収される吸収合併と、新設会社が既存の会社を吸収する新設合併があります。
会社合併は1社に統合されるので、スケールメリットが得られる、ブランド力や信用力が上がる、事業シナジーが得やすいことなどがメリットです。しかし、会社合併には多くの手間とコストがかかるデメリットもあります。
3. 株式譲渡のメリット
株式譲渡にはいくつかのメリットがあります。株式譲渡のメリットを、譲渡(売り手)側と譲受(買い手)側のメリットに分けて確認しましょう。
譲渡側のメリット
譲渡側には以下のメリットがあります。
- 素早い現金化が可能
- 後継者問題を解決可能
- 会社のさらなる発展が可能
素早い現金化が可能
売り手側は株式を譲渡する対価として現金を受け取ります。非上場の中小企業の場合、株主は流動性の低い株式の売却に苦労しますが、株式譲渡によって契約手続き完了後に現金を受け取れる点がメリットです。
後継者問題を解決可能
株式譲渡は中小企業の事業承継にも用いられます。中小企業の事業承継では、親の事業を継ぐ子供の割合が年々、減少傾向です。その結果、廃業した会社や廃業を予定している会社が少なくありません。
廃業を予定している中小企業経営者へのアンケートでは、約6割の会社が事業に成長性や将来性はあると答えており、株式譲渡を用いることで後継者問題を解決して事業を継続できます。
会社のさらなる発展が可能
株式譲渡で買い手企業の子会社になることによって、売り手企業は買い手企業のさまざまなリソースを活用できるでしょう。買い手企業のブランド力や技術力、人材などによって成長可能です。
譲受側のメリット
M&Aでの取引の多くは、株式譲渡が選ばれています。中小企業の株式譲渡の場合、譲受側のメリットは、簡易的に経営権を取得できることです。
会社の支配権を全て取得できる
会社法によると、株式の過半数(50%超)を取得している場合、支配権を取得できます。したがって譲受側は、譲渡側の株式を全部取得すると、会社の支配権をすべて取得できるでしょう。
しかし、株式譲渡が実行できたとしても、株式の全部を取得しないケースでは、残りの株主から経営に対して反対されるおそれもあります。重要な意思決定を行う株主総会の特別決議を可決するためには、議決権3分の2以上の賛成が必要です。
そこで、譲受側の意思決定をスムーズに実行させるためにも、3分の2以上の株式取得を目指すのが一般的です。非上場の中小企業が対象であれば、M&Aの際に全株式取得も可能であり、譲受側はスムーズに支配権を行使できます。
譲渡側・譲受側共通のメリット
ここでは、株式譲渡の譲渡側・譲受側共通のメリットを紹介します。
- 複雑な手続きが不要
- 従業員、許認可などをまとめて引き継ぐことが出来る(引き渡せる)
複雑な手続きが不要
株式譲渡は手続きが簡便なため、譲渡側と譲受側の交渉がスムーズに進めば短期間でM&Aが完了する可能性があります。譲受側は取引先や従業員との契約をし直す必要がなく、法務局への登記変更申請手続きも必要ありません。
M&Aは手続きが長引くほど費用の負担が大きくなり、経営者や従業員の精神的負担も大きくなります。M&A専門家への要望でよくあるのが、極力、短期間でM&Aの手続きを済ませてほしいものです。その点でも、株式譲渡にはメリットがあります。
従業員、許認可などをまとめて引き継ぐことが出来る
事業譲渡や新設合併では譲受側が許認可などを取得しなければいけないのですが、株式譲渡では許認可なども引き継がれます。取引先との契約や従業員との雇用契約も全て引き継ぐことが出来るため、あらかじめ許認可申請をする必要がなく株式譲渡後、スムーズに事業活動が可能です。
株式譲渡は事業譲渡に比べ、独立性を担保できます。PMIのために現経営者が譲渡後も社内にしばらく残るケースもあり、従業員にとっても新しい経営体制でのスタートを迎えられるでしょう。
4. 株式譲渡のデメリット
ここでは、株式譲渡によるM&Aのデメリットを、譲渡(売り手)側と譲受(買い手)側のデメリットに分けて紹介します。
譲渡側のデメリット
譲渡側の主なデメリットは以下のとおりです。
- 株式を50%以上譲渡すると支配権を失う
- 負債が大きいと譲受側企業が見つからない恐れがある
- 不採算事業があれば譲渡価額が低下する可能性がある
株式を50%以上譲渡すると支配権を失う
株式の過半数を保有することは、企業の重要な意思決定において決定的な影響力を持つことを意味します。過半数の株式を持つ株主は、以下のような権利を持つことが一般的です。
- 取締役の選任・解任
- 会社の定款変更
- 重要な経営方針の決定
株式の過半数を譲渡すると、経営への影響力が著しく低下します。重要な経営戦略や方針を自ら決定することが難しくなるでしょう。
取締役の選任や解任に対する発言権を失うため、経営陣の構成に関する影響力も失います。これにより、自らが信頼する経営陣を維持することが困難になります。
新たな過半数株主の意向によって、企業の方向性や戦略が大きく変更されるリスクがあります。これにより、元々の経営方針やビジョンが損なわれる可能性があるでしょう。
負債が大きいと譲受側企業が見つからない恐れがある
株式譲渡では、負債もまとめて譲渡側に引き継いでもらえますが、負債が大き過ぎると譲受側企業が見つからないおそれもあります。その場合は、事業譲渡に手法を変更し、現金化しやすい事業のみ売却する方法に切り替えれば、譲渡先が見つかる可能性も高くなります。
不採算事業があれば譲渡価額が低下する可能性がある
採算が取れていない事業があった場合、評価が下がり譲渡価額が低下する可能性があります。できるだけ高い価額で株式譲渡を行うためには、不採算事業を会社分割で切り離したり、撤退したりする方法が有効です。
譲受側のデメリット
譲受側の主なデメリットは、以下のとおりです。
- 債務も引き継がれる
- 簿外債務などのリスクがある
- 買収資金が必要
- 企業文化の違いでシナジー効果が得られないおそれ
- 株主分散時は全株式を取得できない可能性
債務も引き継がれる
株式譲渡は会社を包括的に承継するので、債務も引き継ぐデメリットがあります。簿外債務は譲渡側も気付いていない場合や、譲受側がデューデリジェンスをしっかり行ってもその時点では出てこないこともあります。
事業譲渡は債務を引き継がないので、小規模の中小企業の場合は株式譲渡ではなく事業譲渡を選択するのも1つの方法です。譲受側は、簿外債務によって経営にダメージを受けたり、訴訟リスクを抱えたりするデメリットに注意が必要です。
簿外債務などのリスクがある
株式譲渡においては、企業のすべての資産と負債が新しい株主に引き継がれます。このため、簿外債務や偶発債務などの引き継ぎリスクがあります。
簿外債務とは、企業の財務諸表に記載されていない負債を指します。これには、未払いの税金や未記載の取引債務などが含まれます。
偶発債務は、特定の条件が発生した場合に負担する可能性のある負債を指します。例えば、訴訟の結果次第で発生する賠償金などがこれに該当します。
簿外債務が発覚すれば、予期しない支出が発生し、企業の財務状況が悪化する可能性があります。また、偶発債務の場合、企業が抱える潜在的な負債を引き継ぐことになり、将来的に訴訟や賠償金などの支払い義務が発生するリスクがあるでしょう。
買収資金が必要
会社合併の場合は株式を対価にしたM&Aが可能ですが、株式譲渡の場合は株式を買い取る対価として現金を支払う必要があります。手持ち資金が足りない場合は、買収資金を銀行などから調達しなければなりません。
特に銀行融資による資金調達は、利息の支払いや長期的な返済によって資金繰りが悪化してしまう要因にもなりますので、返済計画をしっかりと立てて調達するようにしましょう。
企業文化の違いでシナジー効果が得られない可能性がある
株式譲渡を行うと譲渡側は譲受側の傘下に入りますが、会社としての組織はそのまま継続されます。企業文化の違いや譲受側の経営陣との関係性によっては、シナジー効果が得られないおそれもあります。
トップ面談などの話し合いの際に、しっかりと互いの企業文化の見極めや相性を確認することが大切です。
株主分散時は全株式を取得できない可能性がある
譲渡側の経営者が全株式を保有していて、その全てを取得できれば問題はありませんが、株主が分散している場合、全株式を取得できず100%の支配権を手に入れられないかもしれません。株主が分散している場合は、各株主から個別で買い取ることになります。
ただし、強制力はないため、株主から拒否されるかもしれません。その場合は、株式等売渡請求の手法を用います。総株主の議決権の90%以上を保有していれば、相手の同意なしで強制的に株式買い取りが可能です。
議決権の要件を満たさない場合には、全部取得条項付種類株式や株式併合の手法を用います。このような手法を活用するためには、専門的な知識や手続きが必要であるため、M&Aの専門家に依頼するのが得策です。
株式譲渡のご相談ならM&A総合研究所へ
株式譲渡のご相談ならM&A総合研究所へお任せください。株式譲渡のスキームから節税方法までM&Aの知識と経験が豊富なアドバイザーが対応します。ご相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
5. 株式譲渡の手続きと流れ
上場企業の株式であれば原則、誰でも自由に売買できますが、非上場企業の場合は譲渡制限があることが一般的なので、譲渡制限株式の売買には承認機関の決議が必要です。
そして、株式譲渡の手続きの流れは、取締役会があるかないか、承認機関がどこかで手続き方法が変わります。ここでは、中小企業に多い、取締役会が非設置で承認機関が株主総会である場合の手続きの流れを確認しましょう。
- 株式譲渡の承認請求
- 臨時株主総会の開催日の決定と株主への招集通知
- 株式譲渡の承認決議
- 株式譲渡契約の締結
- 株主名簿の書き換え請求
- 株主名簿記載事項証明書の交付請求
①株式譲渡の承認請求
上場企業など株式を公開している会社であれば株式の売買は自由なので、承認手続きの流れは必要ありません。しかし、大半の中小企業は非公開会社で株式譲渡制限があるため、会社から株式譲渡の承認を得る手続きが加わります。
譲渡制限のある株式を売買するには、譲渡する当事者は株主譲渡承認請求書に必要事項を記載して会社に請求しなくてはなりません。中小企業の場合、オーナー社長が譲渡人であることが多いので、実際には請求書を提出する手続きの前に会社との合意は得られています。
②臨時株主総会の開催日の決定と株主への招集通知
会社は株主譲渡承認請求書を受け取ったら、臨時株主総会の開催日を決めて株主へ招集通知を送ります。臨時株主総会の開催には、過半数以上の取締役の承認手続きが必要です。招集通知は個別に書面で送付します。
③株式譲渡の承認決議
譲渡会社は臨時株主総会で株主譲渡承認請求の承認決議を行い、承認された場合は譲渡承認請求者に承認された旨を通知します。これにより、譲渡制限株式の売買が可能となります。
④株式譲渡契約の締結
譲渡人は承認された通知を受け取ったら、買い手と株式譲渡契約締結の手続きを行います。手続きの際は、作成しておいた株式譲渡契約書にサイン(記名押印)することで締結が完了です。
株式譲渡契約書の記載内容は後述しますが、譲渡日や譲渡価額、株主名簿の名義書換請求など、各種必要事項を記載します。
⑤株主名簿の書き換え請求
株式譲渡の効力は、譲渡制限株式を譲渡しただけでは発揮されません。会社が株主名簿を書き換える手続きが必要です。譲渡人と譲受人は、会社に対して株主名簿の書き換え請求手続きを行います。
⑥株主名簿記載事項証明書の交付請求
株主名簿書き換え請求手続きを受けた会社は、速やかに株主名簿書き換え手続きを完了させます。その後、譲受人から株主名簿記載事項証明書の交付請求手続きが行われたら、証明書を交付します。
6. 株式譲渡の価格算定方法
株式譲渡では、株式譲渡の価額算出が必要です。専門的な算出方法が数多く確立されており、それらは以下の3種に大別されます。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
7. 株式譲渡の税務
株式譲渡によるM&Aでは、上場企業か非上場企業か、個人か法人か、時価の算出方法などによって税金が大きく変わります。株式譲渡で課せられる税金の注意点を確認しましょう。
譲渡所得税について
譲渡側が個人の場合、課せられる税金は、保有株式の譲渡益への譲渡所得税です。譲渡益は、売却して得た金額から株式の取得費用や手続きにかかった費用などを引いて算出します。譲渡所得税は、他の税金と通算しない申告分離課税の対象です。
上場企業の株式と非上場企業の株式は損益通算ができません。譲渡所得税の税金は、15%の所得税に復興特別所得税0.315%(2037(令和19)年まで)と5%の住民税を加えた、20.315%が税金として課されます。
譲渡側が個人の場合
相手が個人か法人か、譲渡価額が時価よりも高いか極端に低いかといった条件で税金は変わります。まずは売り手が個人の場合の税金を解説しましょう。
個人への株式譲渡
個人から個人へ時価で株式譲渡する場合、売り手側の税金は譲渡所得税が20.315%課せられます。このとき、買い手に税金は課せられません。
時価の2分の1未満の金額で株式譲渡した場合の税金は、譲渡益があれば差額分に譲渡所得税が課せられ、譲渡益がなければ売り手に税金は課せられません。そして、買い手には時価と購入代金の差額分に対し、贈与税が課せられます。
時価よりも高い金額で譲渡した場合の税金は、売り手には時価より高い部分に贈与税、時価の部分には譲渡所得税が課せられ、買い手への税金は課せられません。
法人への株式譲渡
個人が法人に時価で株式譲渡する場合の税金は、売り手側には譲渡所得税が課せられ、買い手の法人には税金が課せられません。
譲渡価額が時価の2分の1未満における税金は、売り手は譲渡所得税が課せられ、買い手の法人には受贈益として時価と譲渡価額の差に対して法人税が課せられます。
時価よりも譲渡価額が高い場合の税金は、売り手の個人には時価との差額が給与所得や一時所得とみなされ、譲渡益には譲渡所得税が課せられます。買い手の法人は、差額が賞与や寄付金とみなされます。
時価と譲渡価額の差額 | 個人から個人 | 個人から法人 |
---|---|---|
時価の場合 | ・売り手 = 譲渡所得税 ・買い手 = 税金なし |
・売り手 = 譲渡所得税 ・買い手 = 税金なし |
時価の1/2未満の場合 | ・売り手 = 差額に譲渡所得税 ・買い手 = 差額に贈与税 |
・売り手 = 譲渡所得税 ・買い手 = 差額に法人税 |
時価よりも高い場合 | ・売り手 = 贈与税と譲渡所得税 ・買い手 = 税金なし |
・売り手 = 譲渡益に譲渡所得税 ・買い手 = 差額が賞与・寄付金 |
譲渡側が法人の場合
譲渡側が法人の場合も、買い手が個人か法人か、時価よりも高いか極端に低いかといった条件によって税金に違いがあります。
個人への株式譲渡
法人から個人へ時価で株式譲渡した場合の税金は、売り手の法人には譲渡差益に法人税が課せられ、買い手の個人に税金は課せられません。
譲渡価額が時価の2分の1未満の場合の税金は、売り手の法人には法人税が課せられ、時価との差額は賞与や寄付金とみなされます。買い手の個人には、売り手が自分の会社の場合は給与所得、それ以外は一時所得とみなされます。
時価よりも譲渡価額が高い場合の税金は、売り手の法人は時価の部分の譲渡益と差額の部分に法人税が課せられ、買い手に税金はかかりません。
法人への株式譲渡
法人から法人へ時価で株式譲渡した場合の税金は、売り手の法人に法人税が課せられ、買い手の法人に税金は課せられません。
譲渡価額が時価の2分の1未満の場合の税金は、売り手の法人は時価の譲渡益に法人税が課せられ、差額は寄付金とみなされます。買い手の法人は、時価と譲渡価額の差が受贈益とみなされ、法人税が課せられます。
譲渡価額が時価よりも高い場合の税金は、売り手の法人は時価の部分に法人税が、差額の部分には受贈益として法人税が課せられ、買い手の法人は差額が寄付金とみなされます。
時価と譲渡価額の差額 | 法人から個人 | 法人から法人 |
---|---|---|
時価の場合 | ・売り手 = 法人税 ・買い手 = 税金なし |
・売り手 = 法人税 ・買い手 = 税金なし |
時価の1/2未満の場合 | ・売り手 = 譲渡益に法人税 ・買い手 = 給与所得・一時所得 |
・売り手 = 譲渡益に法人税 ・買い手 = 法人税 |
時価よりも高い場合 | ・売り手 = 法人税 ・買い手 = 税金なし |
・売り手 = 法人税 ・買い手 = 寄付金 |
非上場企業は課税される税金額が時価に影響される
非上場企業の株式譲渡にかかる税金は、時価をベースに算出されます。
しかし、非上場企業の時価を正確に算出するのは難しく、前述したような企業価値算定方法を用いて数字を出したとしても、最終的には株式譲渡を行う当事者の交渉で決まった金額が時価とみなされることがほとんどです。
時価によって税金も変わることになるので、時価の算出や株式譲渡価額の交渉は税金の負担も考慮して慎重に行う必要があります。
株式譲渡損失の繰り越しについての注意
株式譲渡で生じた損失は、上場株式であれば翌年以降3年間の繰り越しが可能です。しかし、非上場株式は損失の繰り越しができません。上場株式と非上場株式の損益通算は2016(平成28)年以降できなくなりました。非上場株式同士の損益通算は可能です。
親族・関係者間の株式譲渡価額に対する課税の注意点
同族会社での株式譲渡は、親族関係から手続きや譲渡金額の決め方が緩くなりがちです。
通常であれば、株式譲渡価額の算定方法で前述したような客観性のある計算により時価を算出して取引額を決めたり、手続き方法で説明したような適正な手続きを踏んだりして株式譲渡を行います。
しかし、同族会社では、当事者の都合に合わせた譲渡価額の決め方をしたり、譲渡手続きを簡単に済ませていたりするケースも少なくありません。
税法上の評価額からかけ離れた価額で売買してしまうと、税務上で寄付金や贈与と認定されてしまい、余計な税金が発生する可能性があります。後々トラブルになった際に困らないよう、親族間であっても厳正な手続きを踏んでおくようにしましょう。
株式譲渡における節税方法
株式譲渡で売り手が自社のオーナー社長である場合、役員退職慰労金によって税金の負担を軽減できる場合があります。
役員退職慰労金は税金が優遇されているため、オーナー社長は通常の株式譲渡よりも税金が減額でき、会社は株式譲渡の対価を役員退職慰労金として渡すことで、損金への算入が可能です。
ただし、役員退職慰労金が不自然に高額であるなどの理由で税務署から否認される場合があるので、役員退職慰労金の金額には注意しましょう。
8. 株式を譲渡した企業の処遇
株式譲渡によって譲渡された企業は、経営権が買い手側に移ります。その際、譲渡企業の関係者の処遇はどうなるでしょうか。これら譲渡企業関係者の処遇を解説します。
- 経営者の処遇
- 従業員の処遇
- 取引先の処遇
- 債権者や債務者の処遇
①経営者の処遇
株式譲渡の目的や株式譲渡時の譲渡企業の状況によって、譲渡企業経営者の処遇は変わります。
事業承継目的で譲渡した場合、譲渡企業の経営者は事業譲渡手続き終了と同時にリタイアするか、しばらく何かしらの役職で会社に残り、引き継ぎを済ませた後に退職するパターンです。
当事会社同士のさらなる成長のために株式譲渡を行った場合は、譲渡企業の経営者はそのまま残り、譲受企業の経営資源を利用して経営を続けるケースとなります。譲渡企業の経営者が、譲受企業の役員として招かれるケースも少なくありません。
②従業員の処遇
株式譲渡の場合、従業員は待遇を変えずに引き継ぎ、その後は必要に応じて徐々に変えていくのがよくあるパターンです。会社合併や事業譲渡などのM&A方法では、M&A完了後、引き継がれた従業員の処遇は大きく変わります。
その結果、処遇の変化や会社の風土になじめないなどの理由で不満を持つ従業員が現れることも少なくありません。株式譲渡は会社がそのまま引き継がれるので、そのようなデメリットを防止できます。
しかし、株式譲渡を完了する前にM&A専門家の協力も得ながら、入念にPMIの計画を策定しておくことが重要です。
③取引先の処遇
株式譲渡では、取引先との関係はそのまま引き継がれます。株式譲渡後にあらためて契約し直す必要もありません。しかし、中小企業ではオーナー社長との人間関係で成り立っている取引先も多いので、オーナー社長にしっかりと説明や引き継ぎをしてもらうなどの対処は必要です。
④債権者や債務者の処遇
株式譲渡では債権や債務もそのまま引き継がれるため、債権者や債務者に不利益が生じることは基本的にはありません。むしろ、資本力のある企業に会社が譲渡されることで、債権者としてはメリットが多くなるでしょう。
9. 家族間における株式譲渡の手続き
親族同士の間で生前贈与による株式譲渡を行う場合の手続きは、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは生前贈与を活用した際のメリットやデメリット、税金、手続きの流れを紹介します。
生前贈与のメリット
生前贈与の最大のメリットは、節税効果です。生前贈与によって相続財産が減ると、課税対象も減少するため、累進課税の税率も低く抑えられます。
株式の価値が上昇する前に家族に贈与すると、相続で株式を譲渡するよりも税金が減るため、節税効果も高くなります。他にも生前贈与のメリットとして、贈与税免除措置が挙げられるでしょう。
年間110万円までであれば贈与税が免除されるため、計画的に行うと税負担を軽減可能です。
生前贈与のデメリット
生前贈与のデメリットは、贈与をしてから被相続者が3年以内に亡くなってしまうと、相続税の課税対象となることです。このような場合は、節税効果を得られません。自社株の場合、株式の所有比率が経営権です。
したがって、生前贈与で家族に株式を譲渡しようとする場合、株式所有比率が分散してしまうおそれもあります。自社の重大事項を決定する際に不都合が起こる可能性もあるため、計画的に行う必要があるでしょう。
生前贈与で課される税金
株式譲渡を家族間で生前贈与を行う場合、贈与税が課税されるのが一般的です。しかし、年間110万円までは非課税になります。生前贈与で課される税金は、贈与税、譲渡益税などです。仮に株式譲渡の贈与がみなし贈与と認められてしまった場合、税金が増加する可能性があります。
生前贈与を行う手順・流れ
株式譲渡を生前贈与で行う場合、手続きは以下のとおりです。
- 株式の評価額決定
- 贈与契約書作成
株式の評価額の方法で価格が決定された後、贈与契約書を作成します。贈与契約は口頭でも成立は可能ですが、トラブルの原因となるため契約書を作成しておくのがよいでしょう。
10. 中小企業の株式譲渡で起こりうるケースと対応
続いて、中小企業の株式譲渡で起こりうるケース別の対応方法を紹介します。株主の状況によって求められる手続きや売却方法も変化するため、適切な対応ができるよう確認しておきましょう。
①株主が未成年者や成年被後見人のケース
株主が制限行為能力者となる、成年被後見人や未成年者の場合、保護者の確認と特定が必要になります。さらに、株式譲渡を行う際は親権者もしくは未成年後見人からの同意を受けるか、株式譲渡の手続きを代行してもらわなければなりません。
また、成年後見監督人がいるのであれば、そちらから同意を得る必要があり、株式譲渡価格が多額になるケースでは、家庭裁判所への相談が必要になる点に注意が必要です。
②株主が認知症になってしまったケース
株主が認知症や精神障害などにかかってしまい、判断能力がないとされた際には、成年後見の手続きが検討されるのが一般的です。しかし、株主が被保佐人もしくは。成年被後見人だと判断されると、取締役の欠格事由となり、退任扱いとなってしまいます。
そのため、株式会社に属する役員の最低人数を満たしているかどうかの確認を、M&Aを実施する前に行わなければなりません。
③行方が分からない株主がいるケース
行方がわからない株主がいるケースでは、会社法上の手続きに従い裁判所の許可を得れば株式譲渡が可能になります。しかし、所在不明株主として認定されない場合もあるため、事前確認を必ず行わなければなりません。
また行方がわからない株主がいる場合であっても、株式会社は株式名簿記載の住所の宛所に通知を行う責任があります。加えて、競売または売却する手段として、金銭を対価として株式を得るスクイーズ・アウトや、不在者財産管理人を選任して譲渡するなどの方法が一般的です。
行方がわからないからといって、勝手に当該株主の株式を売却することだけはしてはいけません。
④株主が分散しているケース
株式譲渡の会社売却では、オーナー経営者が100%の株式を保有している場合、オーナー側の一存で売却をすることが可能です。しかし、株主が他にいる場合は同意がなければ株式を売却することはできません。
加えて、株式が分散している状況では全員に声をかけるのも一苦労です。株式を売買するのは株式譲渡契約の上で株主と買い手が行うこととなっています。ところが、一般的には M&Aを実施する際にオーナー経営者が代表者となり、買い手と決断するのがほとんど。
その際に、株主の意見を集める手段として用いられるのが委任状です。
つまり、株主が分散している場合は、諸手続きや条件交渉を大株主に委任してもらう必要があります。他にも株主から直接譲り受ける方法もありますが、安価に株主を買い取ってしまうと課税対象となってしまうでしょう。
さらに検討している事実を伝えずに買取を行うと、詐欺や錯誤の疑いがかけられることを忘れてはいけません。
⑤名義株があるケース
名義株を持っている場合、商法改正が行われるまでは7名以上の発起人が必要とされていました。また、指定人数を満たすために知人や親族の名義を借りて出資されるケースも珍しくありませんでした。
そのため、原始定款に載っている発起人の引受け株数と、発行した株数が異なるときは、発起人だけでなく外部から株式の引受人を募集し設立したことが考えられ、さらに、設立後に従業員が株式を持たされたケースもあります。誰が本当の株主で、名義株主の所在がどこにあるのかわからなくなってしまう事態を引き起こしかねません。
そのような事態を避けるためには、以下のポイントに注意する必要があります。
- 出資者や株主総会で議決権をもつ人物の確認
- 名義株主へ配当または株券を渡していないか
- 名義貸しの理由に合理性があるかどうか
以上のポイントに問題がないか確認した上で、名義株を処理するようにしましょう。
⑥株主が死亡したケース
株主が亡くなってしまったケースでは、相続による株式の取得者を確定させ、株式会社に株式名簿の名義書簡請求をする手続きが必要になります。こちらも勝手に削除や売却することは禁止されているので、適切に対応するようにしましょう。
いつ何時どのような事態が起こるかわからないため、株主がどのような状況にあるのか把握しておくことが大切です。
⑦従業員持株会の株式を譲渡するケース
従業員持株会の株式を譲渡するためには、従業員持株会の解散をして精算手続きするか、会員全員の同意を得なければなりません。また、従業員持株会は民法第667条に従って設立された「民法上の組合」となるのがほとんどです。
そのため、従業員持株会に属する会員の共有物として株式を扱わなければなりません。
⑧無償の株式譲渡を行うケース
無償の株式譲渡を行う場合、契約内容と手続きを確認することが重要です。無償株式譲渡は公的な手続きがないため、契約内容の有効性や手続きの正当性を当事者自身で確認する必要があります。トラブルが発生した場合に迅速に解決するためにも、正確な手順に従って株式譲渡を行いましょう。
11. 株式譲渡に関する相談先
株式譲渡は他のM&A手法に比べて手続きが簡便で、法務局への申請手続きが必要ないことから、手続きに不備があるまま放置されてしまうことがあります。同族企業の場合は、株式譲渡価額の交渉に問題が生じる可能性もあるでしょう。
手続きに不備やトラブルがないように株式譲渡を進めるには、専門家の協力が欠かせません。株式譲渡の一貫支援をご希望であれば、特にM&A仲介会社がおすすめです。
M&A仲介会社選びでお困りでしたら、M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所には、株式譲渡を含むM&Aの知識と経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、M&Aをフルサポートします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談は電話・Webより随時受け付けていますので、M&A・株式譲渡をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
12. 株式譲渡のまとめ
株式譲渡は事業譲渡や会社合併などの方法に比べて手続きが簡便なことから、最も多く用いられています。しかし、株式譲渡と事業譲渡・会社合併ではメリット・デメリットがそれぞれ違うので、目的に応じて使い分けることが必要です。
デューデリジェンスやPMIを徹底して行うことはもちろん、株式譲渡を円滑に進めるにはM&A専門家の協力が欠かせません。株式譲渡を検討し始めたら、まずはM&Aの専門家に相談することをおすすめします。
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