2020年10月21日更新
企業価値とは?概念や計算方法、時価総額との違いを解説

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。
企業価値とは、会社全体の価値を金額として表したものです。M&Aや投資を始めとしたビジネスシーンで多用され、会社は企業価値を高めるための体制づくりが求められています。当記事では、企業価値の概念や計算方法、時価総額との違いを解説します。
1. 企業価値とは?
企業価値とは、会社全体の価値を示す指標のひとつです。会社が将来的に生み出す収益を現時点の価値に換算することで、会社としての価値を金額として表すことができます。
企業価値は、会社経営を行ううえでさまざまな場面で必要になります。例えば、M&Aや投資などのような会社にとって大きな選択を行う際は、正しい企業価値を把握していなければ適切な判断を下すことはできません。
しかし、企業価値の算出には複数の計算方法が用意されており、どの方法を用いるかによって計算結果は大きく変わります。
そのため、自社の価値を高めるためには、企業価値の概念や計算方法について理解することが大切です。
2. 企業価値が表す概念とは
企業価値は、個別の事情や特殊性を評価したうえで適正に計算する必要があります。この章では、日本公認会計士協会が示す「企業価値評価ガイドライン」における5つの要因を解説します。
【企業価値が表す概念】
- 目的要因
- 一般要因
- 業界要因
- 企業要因
- 株主要因
一般要因
企業価値は、社会的な要因や景気動向などのマクロ環境にも大きな影響を受けます。企業側が直接コントロールすることはできない要因ですが、企業価値を計算するうえでは考慮しなくてはなりません。
【一般要因】
- 社会的要因
- 政治状況
- 経済政策・景気対策
- 法令
- 景気動向
目的要因
企業価値を計算する目的次第で、企業価値を形成する要因の捉え方は大きく変わります。適切な企業価値を計算するには、目的を明確にしておくことが大切です。
【目的要因】
- 取引目的
- 裁判目的
- その他(処分目的、課税目的、PPA目的他)
業界要因
評価対象会社が属する業界動向も大きく影響します。一般要因と同様、企業側がコントロールすることはできませんが、市場環境を正しく反映した企業価値は客観性に優れた評価であるとされています。
【業界要因】
- 属する業界のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期、成長期、安定期又は衰退期)
- 業界の組織再編の動向
- 類似上場会社の株価動向
- 同業他社の経営戦略転換
- 同業他社の業績変化
企業要因
企業要因は、業種・業態や企業の収益性などの企業内部の要因で構成されています。マクロ環境で構成される一般要因とは異なり、企業側がコントロールすることができる部分であるため、5つの要因のなかで最も改善しやすいといえます。
【企業要因】
- 業種、業態及び取引規模
- 評価対象会社のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期、成長期、安定 期又は衰退期)
- 経営戦略や経営計画とそれらの達成状況
- 収益性
- 財政状態
- 配当政策
- 経営、営業、技術、研究等の特異性
株主要因
企業価値を構成する要素の1つに株主価値が存在します。しかし、非上場企業は明確な株価が存在しないため、株主や株式の状況を考慮することになります。
主な要因は、株式の分散や取引状況などです。中小企業の場合は譲渡制限株式の定めがされていることも多いため、株主要因に影響を与えることも少なくありません。
【株主要因】
- 株主構成(株主の集中、分散の状況)
- 株主関係(同族関係、支配株主関係、一定の株主グループの形成状況)
- 株式の種類と発行状況(普通株式、種類株式)
- 取引後の株主構成の変化
- 取引数量(全量、大量、中量又は少量)
- 過去における売買の事例(株式の流動性の状況)
- 株式譲渡制限の有無
3. 企業価値の計算方法
企業価値は、評価対象会社の個別の事情や外部環境次第で計算結果が大きく変わります。絶対的な価値を計算することはできませんが、状況に合わせた適切な計算方法を用いることで判断材料の1つとして活用できるようになります。
この章では、ファイナンス理論による企業価値の計算方法を3つ解説します。非上場企業の企業価値を計算する際は、以下のいずれかを用いることになります。
【企業価値の計算方法】
- コストアプローチによる計算
- マーケットアプローチによる計算
- インカムアプローチによる計算
1.コストアプローチによる計算
コストアプローチは、企業の純資産の時価評価額を基準として企業価値を計算する方法です。貸借対照表の価額を基準とする「簿価純資産法」や、時価評価を行った資産と負債の差額である「時価純資産法」などがあります。
基本的にバランスシート(貸借対照表)に記載されている資産のみを考慮するので、計算しやすい特徴があります。
しかし、あくまでも現時点での資産としてしか評価することができないため、将来的な収益価値を考慮することはできません。
また、企業が存続することを前提としていないので、利用される場面は会社の清算などに限定されます。
【コストアプローチ】
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
1.簿価純資産法
簿価純資産法は、バランスシートの帳簿価格の資産から負債を差し引いて求める方法です。帳簿上に記載されている数値を基準とするため、誰が計算しても同じ結果となり、客観性に優れている特徴があります。
しかし、多額の含み益・含み損が発生している場合は、簿価と時価で大きな乖離がみられることになるため、実際の企業評価で使われることはあまりありません。
2.時価純資産法
時価純資産法は、時価評価した資産と負債の差額を企業価値とする方法です。時価評価を行うため、簿価純資産法のデメリットを排除したコストアプローチ方法となっています。
しかし、全ての資産について適切な時価評価を行うことは難しく、無形資産などの将来の収益力を評価できない点については、簿価純資産法と変わりありません。
2.マーケットアプローチによる計算
マーケットアプローチは、上場としている類似企業を比較対象として企業価値を計算する方法です。数ヶ月間の平均株価を基準とする「市場株価法」や、業種を基準とする「類似会社比較法」があります。
上場企業は実際に株式が取引されているため、客観性に優れた判断材料という評価が行われます。そのため、M&AやIPO直前の企業価値の計算方法として利用されることが多いです。
その一方で、類似する企業をみつけることが難しいという問題があります。事実、事業規模や業種が完全に一致する企業は存在しないため、何をもって類似とするのか明確な基準を設けておく必要があります。
【マーケットアプローチ】
- 市場株価法
- 類似会社比較法
1.市場株価法
市場株価法は、類似企業の平均株価を基準とする方法です。参照する期間については、1ヶ月~6ヶ月の間が一般的とされています。
上場企業の株式は多くの投資家の間で取引が行われているため、客観性の高いデータとして扱うことができます。
ただし、著しく出来高が低かったり株価変動が激しかったりする場合、適切なデータとして認められないこともあります。
2.類似会社比較法
類似会社比較法は、類似会社の評価倍率を基準に計算する方法です。利益やEBITDAなどの財務指標を用いて評価倍率を計算し、判断材料として活用します。
市場株価法と同様に客観性の高い計算方法なので、事業内容や事業規模などが類似する上場企業が複数存在する場合に有効です。
3.インカムアプローチによる計算
インカムアプローチとは、将来的な収益価値を基準として企業価値を計算する方法です。当期純利益の現在価値を基準とする「収益還元法」や、フリー・キャッシュフローを基準とする「DCF法」があります。
企業が持つ固有の将来性や成長性を考慮することができるメリットがあり、企業が存続することを前提としているため、M&Aや投資などのあらゆる局面で利用されています。
しかし、将来的な予測は主観的な評価になるため客観性を欠いている問題もあり、取引の関係者全てが納得することができる根拠を提示することが必要になります。
【インカムアプローチ】
- 収益還元法
- 配当還元法
- DCF法
1.収益還元法
収益還元法は、不動産の将来的な収益価値を現在に価値に換算して計算する方法です。対象の不動産にいくら稼ぐ力があるかという考え方となっています。
1年間の利益から還元利回りを割ることで、収益還元価値を算出することができます。還元利回りとは、物件周辺の取引事例や、現在売りに出されている物件事例を元に算出される値です。
2.配当還元法
配当還元法とは、株主が受取る配当金を基準に計算する方法です。将来的な配当期待額を株主資本コストで現在価値に換算することで計算します。
配当金のみに着目しているため、企業の収益性が配当政策に正しく反映されていないと適正な企業価値を算出できない問題があります。M&Aの場面ではあまり利用されることはありません。
3.DCF法
DCF法とは、企業が将来的に生み出す収益価値を基準に計算する方法です。フリー・キャッシュフローを資本コスト(WACC)で割ることで、現在価値に換算して企業価値を計算します。
対象会社の期待される収益価値を考慮できるため、上場企業やベンチャー企業の計算方法として適切とされています。
その反面、入念な事業計画が必要という問題もあります。客観性の乏しい事業計画である場合、適正な企業価値を計算することができなくなってしまいます。
4. 企業価値と時価総額との違い
企業価値を計算する際、引き合いに出されることが多いものとして時価総額があります。両者は混同されることも多いので、それぞれの違いについて解説します。
企業価値と時価総額の違い
時価総額とは、株価の総額を指します。企業価値を構成する重要な要素であり、有利子負債を足すことで最終的な企業価値を算出することができます。
有利子負債は会社が返済しなければならない負債ですが、投資家や金融機関がお金を回収することができると判断されたものであるため、企業価値として考慮されます。
そのため、自己資本比率100%で有利子負債がゼロの場合は、企業価値=時価総額という図式が成り立つこともあります。
企業価値とEVの違い
企業価値を英語にすると、EV(Enterprise Value)となります。一見すると企業価値とEVは同等のものと認識されがちですが、実はイコールで結びつけることはできません。
前述した企業価値は、時価総額と有利子負債を加算することで算出されましたが、EVは対象会社を実際に買収するためにいくら必要になるかという考え方で計算されます。
- 企業価値 = 株式価値(時価総額) + 負債価値(有利子負債)
- EV = 株式価値(時価総額) + 負債価値(有利子負債) - 現金および現金同等物
現金および現金同等物を差し引く理由は、企業買収が完了すれば負債返済に充てることができるためです。現金および現金同等に該当する部分は実質的に必要がなくなるため、差し引いて考えることができます。
企業価値と株主価値の違い
株主価値とは、会社の株式価値のことです。株価の総額であるため、時価総額とほぼ同じものとして扱われます。
株主価値は、企業価値から有利子負債を差し引くことで算出できます。これは、企業価値から他人資本である有利子負債を除けば、残りは株主が自由にすることができる資産という考え方です。
5. 企業価値とM&Aの関係
企業価値が重要視される理由は、M&Aを始めとしたさまざまなメリットを得ることができるためです。この章では、企業価値とM&Aの関係やメリットについて詳しく解説します。
【企業価値を高めることで得られるメリット】
- 企業価値が高いとM&Aで有利
- 企業価値は融資を受けやすくする
- 企業価値の高さは倒産のリスクを軽減する
企業価値が高いとM&Aでは有利?
企業価値は、M&Aの取引価格を決定する重要な判断材料の1つとして活用されています。M&Aの成否に大きく関わるので、企業価値の計算は欠かすことができません。
M&Aにおいては明確な相場が存在しないため、取引価格について売り手と買い手の双方が納得するためには、何かしらの基準を設けた上で金額を提示しなくてはなりません。
その際に活用されているのが企業価値です。適切な企業価値であれば、交渉の土台として活用して高い水準で交渉することが可能になります。
企業価値は融資を受けやすくする
企業の事業資金の調達手段に、投資家や金融機関からの融資を受ける方法があります。基本的に有利子負債となるため、金利や担保を考慮したうえで慎重に決定する必要があります。
融資の債権者視点でみると、債務者の返済能力を総合的に判定したうえで、資金回収リスクを見極める必要があります。
つまり、企業価値が高ければ資金の未回収リスクが低いと判断され、好条件の融資を受けやすくなります。
企業価値の高さは倒産のリスクを軽減する
企業価値が高い会社は、安定した収益性を維持していることが多いです。収益性の高さは会社として健全な状態であることを表しているため、倒産リスクは極めて低いと考えられます。
また、前述した通り、企業価値が高いと融資を受けやすいため、事業資金が確保しやすいメリットもあります。確保した資金を元手に安定した企業成長を図り、企業価値をさらに高めやすくなります。
M&Aのご相談はM&A総合研究所へ
M&Aを成功させるためには、適切な企業価値を計算する必要があります。複数存在する計算方法のなかから最適なものを選択しなくてはならないため、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。
M&A総合研究所は、M&A・事業承継の仲介サポートを手掛けているM&A仲介会社で、中堅・中小規模の豊富な実績をもっています。
M&A経験の豊富なアドバイザーが担当につき、企業価値の計算からM&A交渉まで一貫したサポートを行います。
また、M&A総合研究所には弁護士が在籍しておりますので、法務面でも安心なM&Aを実現することができます。
M&Aの料金体系は完全成功報酬制を採用しています。成約するまで一切の仲介手数料が発生しないため、初期費用に不安のある場合も安心してご相談いただけます。
無料相談はメールフォームで24時間体制でお受けしています。M&Aや企業価値の計算にお悩みの際は、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。
6. 企業価値を高めるには
M&Aに万全の体制で臨むためには、事前に企業価値を高めておくことが大切です。この章では、企業価値を高めるポイント3つを紹介します。
【企業価値を高めるポイント】
- 企業としての収益力を上げる
- 企業として効率の良い投資を行う
- 企業として負債を減らす
企業としての収益力を上げる
企業価値を高めるためには、収益性の向上を図ることが先決です。中長期の経営戦略を立てて、売上高の向上や経費の削減が求められます。
売上高については、新規顧客の獲得やリピート率の向上などがあります。業種によってそれぞれの優先度は変化しますが、多くの業種に共通する売上アップの5原則に従って戦略を立てることが一般的です。
経費削減には、売上原価・販管費・営業外費用の削減などがあります。体制を見直すことで原材料費や人件費を削減して、結果的に収益性を向上させることができます。
企業として効率の良い投資を行う
企業価値を高めるためには、企業の資金や資産を有効活用することも大切です。事業の無駄を徹底的に省くことで企業価値の向上に繋がります。
例えば、事業に運用していない土地や建物などの遊休資産は非事業資産として企業価値に含まれますが、収益力を発揮しないうえに固定資産税が課せられるため、有効活用しているとはいえません。
不要な遊休資産の売却、あるいは事業に関連する形での運用によって、無駄のない投資・運用を心掛ける必要があります。
企業として負債を減らす
財務状況を見直して負債を減らすことで企業価値を高めることもできます。企業価値は株主価値と負債価値の合計なので、負債の減少は企業価値の減少を意味していますが、最終的に企業価値の向上に繋がることが期待できます。
また、負債が減ると自己資本比率が高まり、会社全体の安全性も高まります。一般的に自己資本比率50%以上あると良好な状態であるとされており、融資などを受けやすくなります。
7. まとめ
本記事では、企業価値の概念や計算方法について解説しました。会社を経営するうえでは企業価値を把握することが重要であり、特にM&Aにおいては成否を左右するほどです。
適正な企業価値を計算するためには、概念や計算方法について正しく把握しておかなくてはなりません。複雑な計算方法も多いので、M&Aを検討する際は専門家に相談することをおすすめします。
【企業価値が表す概念】
- 目的要因
- 一般要因
- 業界要因
- 企業要因
- 株主要因
【企業価値の計算方法】
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
【企業価値を高めることで得られるメリット】
- 企業価値が高いとM&Aで有利
- 企業価値は融資を受けやすくする
- 企業価値の高さは倒産のリスクを軽減する
【企業価値を高めるポイント】
- 企業としての収益力を上げる
- 企業として効率の良い投資を行う
- 企業として負債を減らす
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