会社売却の利益はどれくらい?計算方法、税金、高額売却のポイントも解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

会社売却とは、自社の有する資産・権利・契約・ノウハウやブランドなど、会社のすべてを売却することです。会社売却の際は、利益の計算方法やかかる税金を把握しておくことが大切です。本記事では、会社売却時の利益の計算方法や税金の種類、節税の仕方を解説します。

目次

  1. 会社売却とは
  2. 会社売却における利益の計算方法
  3. 会社売却の利益に影響を及ぼす要素
  4. 会社売却の手法と税金
  5. 会社売却の節税方法
  6. 会社売却を行う手続きの流れ
  7. 会社売却の利益・メリット
  8. 会社売却の不利益・デメリット
  9. 会社売却の利益を最大化するポイント
  10. 会社売却の利益最大化に関する相談先
  11. 会社売却の利益まとめ
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1. 会社売却とは

会社売却とは、会社の経営権、あるいは事業の運営権を買い手に売却することです。株主である経営者(オーナー経営者)が自社を売却したり、親会社が子会社を売却したりするケースがあります。

会社売却の具体的なM&A(Mergers and Acquisitions=合併買収)スキームとしては、以下の2つが代表的です。

  • 株式譲渡:株式=経営権を買い手に売却することで会社を丸ごと譲渡する。
  • 事業譲渡:会社の事業・資産を選別して売買する。会社組織は売り手の手元に残る。

M&Aは直訳すると合併と買収のことですが、買収側に対し売却側が存在することで成立するのがM&Aです。本記事では、M&Aの売却側の立場に立ち、会社売却の利益に関わる内容を解説します。

従来、会社売却が行われる場合の主な理由は、以下のようなものでした。
  • 売却利益の獲得(老後の生活資金や新たな事業資金などとして)
  • 事業の選択と集中(多角化経営から主力事業に注力する経営への転換)
  • 大手企業傘下に入ることで経営安定化と業績向上を目指す

昨今、上記の理由以外に、会社売却数増加の一因が事業承継問題です。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によると、全国の中小企業約26万社において、61.5%の会社が後継者不在でした。

このように、親族や社内に後継者がいない場合の解決策として、会社売却し、その買い手が後継者(新たな経営者)として事業承継するようになってきている状況です。

参考:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)

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2. 会社売却における利益の計算方法

この章では、会社売却における利益の計算方法として、代表的な以下の方法の概要を説明します。

  • 時価純資産法による価格算出
  • 類似会社比較法による価格算出
  • DCF法による価格算出

M&A手法ごとに利益は異なる

会社売却の利益計算の前に、まずM&Aスキーム(手法)による利益額の違いを確認しておきましょう。会社売却の代表的なM&Aスキームは株式譲渡と事業譲渡ですが、その売却額・利益は以下のような差異があります。

  • 株式譲渡:会社のすべてを売却するので事業譲渡よりも売却額は高くなる
  • 事業譲渡:会社の一部の事業・資産の売却であるから株式譲渡よりも売却額は低くなる

事業譲渡で、会社のすべての事業を売却することは可能です。しかし、例えば、事業譲渡では許認可などは売却対象にできないため、売却側に残ります。すべての事業を譲渡したとしても、株式譲渡よりも売却額は下がるのが一般的です。

時価純資産法による価格算出

時価純資産法とは、貸借対照表に着目し、現在における資産と負債をもとに会社売却の価格を導き出す方法です。企業価値評価の体系では、コストアプローチと呼ばれる分類になります。時価評価される対象および時価評価の具体的な方法は、以下のとおりです。
 

評価対象 時価評価の方法
債権 回収を含めるが、回収できないなら減額評価とする
不動産 不動産鑑定の時価評価もしくは固定資産税評価額より評価する
(古い建物はマイナス、メンテナンスの不備は費用追加)
有価証券 取引市場の相場で時価評価する
退職給付引当金 現状の支給額で評価する
生命保険 現状の払戻額で評価する
美術品 ゼロ評価
流通不可の会員権 ゼロ評価
電話加入権 ほとんどのケースでゼロ評価

時価純資産法では純資産の評価額にのれん代がプラスされますが、資産を重要視するあまりに企業の収益力が評価されないこともあるため、無形資産を加えて企業本来の価値を導き出します。

株式譲渡による会社売却価格の計算例

時価純資産法の考え方を生かした簡易的な会社売却価格の計算方法があります。株式譲渡の場合は、以下の計算式です。

  • 会社売却価格(株式譲渡価額)=時価純資産額+(営業利益+役員報酬)×2~5

「2~5」は年数のイメージです。業種の特性や売却企業の状況に合わせて、何年分の収益を上乗せして売却額を導き出すか決めるため、数字が固定されていません。以下に前提と計算例を示します。
  • 時価純資産額2,500万円、営業利益1,500万円、役員報酬1,000万円、変数3年
  • 2,500万円+(1,500万円+1,000万円)×3=1億円

事業譲渡による会社売却価格の計算例

事業譲渡の場合の簡易計算式は以下のとおりです。

  • 事業譲渡価額=譲渡する事業資産の時価+事業利益×2~5

以下に前提と計算例を掲示します。
  • 譲渡する事業資産の時価1,500万円、事業利益1,000万円、変数3年
  • 1,500万円+1,000万円×3=4,500万円

類似会社比較法による価格算出

類似会社比較法は、企業価値評価の体系ではマーケットアプローチに分類されています。自社と類似する上場企業の株価と財務に関する指標の倍数によって、会社の株価を導き出す方法です。

上場していない企業は株式を公開していないため、相場とされる株価を確認できないことから、類似会社比較法によって価格を算出します。類似会社比較法では、事業の種類や規模・戦略などから似ている会社を選び、EBITDA・PBR・売上高の倍率を用いて計算するのが一般的です。

  • 会社売却価格=比較する上場企業株価の時価+純有利子負債̠-非事業の資産÷選択した倍率

倍率に一定時期に得られる利益・1株あたりの利益・売上高などを用いるため、選ぶ倍率によって評価額が変動します。選んだ倍率で比較する企業との差を補いますが、企業規模が違い過ぎると補正が限界を超えてしまうので、小規模会社の価格を算出する際は向いていません。

DCF(Discounted Cash Flow)法による価格算出

DCF法とは、将来手元に残る現金(FCF=Free Cash Flow)を資本コストで割り、現在の価値に置き換える方法です。損益計算書に重きを置いて、1年間に得られる利益をもとにして企業価格を導き出します。企業価値評価の体系の分類は、マーケットアプローチです。

買い手が上場企業の場合、株主の利益を守るために投資利回りの良さを重視するので、収益性に優れた売り手の獲得を目指します。DCF法は、収益性が見込める売り手にとって、自社の価値を高く評価できる計算法です。

  • 会社売却価格=FCF×割引率+事業以外の資産価値

FCFに掛ける割引率は経過年数を増やすごとに小さくなりますが、計算に加える年数によって導き出される価値の値は変わるため、FCFが将来のどの時点まで得られるのかを見極める必要があります。

会社売却の利益は価格算出法により大きく変わる

以上の各計算方法の主な特徴として、売り手の純資産・のれん代を主張するならば時価純資産法が適切といえるほか、将来に獲得する利益を押すならばDCF法が自社の価値を高く評価した値が得られます。

上場していない自社の株価算出には類似会社比較法が適しています。とはいえ、3つの手法で導き出した利益にはどうしても差が生じるものです。計算方法の違いから数十億に達する差が生じることもあるので、会社売却価格を算出する際は、専門家に依頼する必要があります。

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3. 会社売却の利益に影響を及ぼす要素

本章では、会社売却の利益を最大限に高めるために、取引価格に影響を及ぼす代表的な要素として5つをピックアップし、順番に解説します。

人材

会社を運営していくうえで、人材は非常に大切な要素です。営業系の企業など人手が必要とされる業態では、人手が充実しているほど収益性が高まりやすいと考えられています。

人材の多い会社は、人材を求める買収側企業から高い相場価格を付けられる可能性が高いです。当然ですが、人材はその人の持つ技能とセットで価値を発揮します。例えば、建築・インテリアなど専門的技能を持つ人材がいる会社の場合、企業価値が高まりやすいです。薬剤師・医師・エンジニアなど、資格の求められる業務に就いている人がいる場合も、会社売却時の評価が高まります。

技術・ノウハウ・販路

会社売却を行う会社が持っている技術・ノウハウ・販路なども、取引価格の相場に影響を与えます。人材と重なる部分もあるものの、その会社が築いてきた技術・ノウハウ・販路の希少性が高いほど企業価値を高めます。

とりわけ買収側企業が新事業を展開したがっていたり、新たな設備を欲しがっていたりする場合、相場が上がる可能性が高いです。

取引先・顧客

会社売却を行う会社が持つ取引先・顧客のリストも、相場に影響を与えます。もともと買収側企業は、取引先・顧客リストの獲得を狙って会社買収を実施するケースが多いためです。自社の有している取引先・顧客リストが相手企業にとって魅力的であれば、高い相場価格を付けられる可能性があります。

市場シェア

会社売却の対象となる企業が特定の分野で高い市場シェアを占めている場合、取引価格の相場に良い影響を与えます。一般的に、市場のシェアは、規模が大きければ大きいほど望ましいです。

経営理念

売却する会社の体質・理念によっては、売却相場に良い影響を与えることもあります。買収側からすると、会社を買収する際、企業風土の相性を考慮しなければなりません。これは、企業風土の相性が悪い会社や事業を買収すると、スムーズに企業統合できないおそれがあるためです。企業風土の相性が悪いと、人材流出だけでなく、その後の企業運営に悪影響が及ぶおそれもあります。

4. 会社売却の手法と税金

会社売却で得た利益には、当然ながら税金が課されます。手元に残る利益額を知るためにも、課税措置を知っておくことが大切です。売却利益への課税内容はM&Aスキーム(手法)によって異なるので、それぞれ分けて説明します。

株式譲渡で課される税金

株式譲渡で会社売却をした場合、その利益額への課税内容は当事者の立場により違います。個別に説明するので、それぞれの内容をご確認ください。

売り手企業(個人株主)

売り手企業の個人株主に課せられる税は、申告分離課税として所得税・復興特別所得税・住民税の3種類です。株式を譲渡して得た額から取得・譲渡費用を引いた額に対して税額計算されます。

株式譲渡の場合、所得税は15%、復興特別所得税は0.315%(2037(令和19)年までの時限措置)、住民税は5%がかかり、合計20.315%の税率です。

売り手企業(法人株主)

法人株主に対しては、法人税が課せられます。譲渡益は株式を譲渡して得た金額から取得・譲渡費用を引いた金額となりますが、株式譲渡益単独には課税されません。その年度の決算で、ほかの損益と通算して利益が出ていれば、その金額に対して課税されます。

したがって、通算して赤字だった場合、課税されません。2021(令和3)年10月現在での法人税の実効税率は約30~33%です。会社の所在地や会社の規模によって税率にバラツキがあります。

売り手企業(役員)

会社売却時に役員が退職金を受け取った場合、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。課税所得は、退職金から退職所得控除を引いた額に2分の1を掛けた金額となり、課税所得に応じた税率を掛けてから控除額を差し引く計算です。

税率は対象の所得額に応じて5~45%です。復興特別所得税の税率は2.1%で、課税対象の所得額に掛けて算出します。住民税の税率は10%で、市町村民税が6%、都道府県民税が4%の内訳です。

事業譲渡で課される税金

事業譲渡の場合、売却の主体は会社です。事業譲渡の利益への課税は、法人株主が株式譲渡した場合と同じ課税内容になります。譲渡する資産の中に消費税課税対象資産が含まれていれば、こちらの税金も納付しなければなりません。

ただし、消費税を負担するのは買収側です。事業譲渡の対価を受け取る際に消費税額も併せて請求し、税務署への消費税の納付は売却側が行います。

会社売却における税金の支払い

上述した税金の納付方法も、それぞれ掲示します。

売り手企業(個人株主)

個人株主の場合、翌年に復興税を含んだ所得税の確定申告を済ませて、所管の税務署に税金を納めます。住民税は確定申告で手続きが完了しているので、市町村へ納めるだけです。住民税の納め方には、給料から引かれる特別徴収と個人で納める普通徴収があります。

納税に関する通知が届くのは、どちらも所得を得た翌年の6月です。特別徴収は、6月~翌年の5月まで月々の給料から差し引かれる形で納め、普通徴収は6月・8月・10月・翌年1月の末日に分けて納めるか、一括で納税します。

売り手企業(法人株主)

法人株主の場合、法人税・法人住民税・法人事業税の確定申告書を出し、決算の完了日から2カ月の間に税金を納めます。法人税・地方法人税の納付先は所管の税務署、法人事業税・法人住民税は事務所を置く都道府県または市町村です。

売り手企業(役員)

役員の場合、会社が源泉徴収し税金を控除した退職金を払うので、基本的に確定申告の必要はありません。しかし、役員が退職金を受け取るまでの間に退職所得の受給に関する申告書を会社に提出していない場合は、例外として確定申告書の提出により清算する形です。

住民税は10%と同じですが、退職金には20.42%の税金がかかるため税負担が重いです。住民税は退職金の支払いに合わせて引かれ、会社側が翌月の10日までに役員が住所を置く市町村に納めます。

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5. 会社売却の節税方法

会社売却を行う際は、節税方法も理解しておくことが必要です。ここでは、以下2つの節税法を紹介します。

  1. 退職金により節税を行う
  2. 第三者割当増資により節税を行う

①退職金により節税を行う

会社売却の場合、個人株主にかかる税額は「譲渡所得×20.315%」で算出され、この際の株式譲渡所得は「取引価格-(取得費あるいは取得価格×5%の高い方-取得手数料)」となります。

取引価格が高いほど課税される金額も増えますが、譲渡した株式対価の一部を退職金として受け取るようにすると、取引価格から退職金の分が引かれるため課税所得額を減らすことが可能です。

受け取った退職金に対する課税には勤続年数に応じた所得控除などが適用されるので、譲渡株式の対価をすべて株式譲渡所得にするよりも税金を抑えられます。退職所得および課税額は以下の計算式で求められますが、勤続期間が5年以下では(退職金-控除額)に掛ける2分の1は適用されません。

【退職所得と税額の計算】

  • 退職所得=(退職金-控除額)×1/2
  • 所得税:退職所得額×所得税率×1.021
  • 住民税:退職所得額×10%

【退職金の控除額の計算】
  • 勤続20年以下:40万円×勤続期間 ※最低額は80万円
  • 勤続20年超: 800万円+70万円×(勤続期間-20年)

②第三者割当増資により節税を行う

会社が定めた相手に発行する新株を引き受けてもらう方法が、第三者割当増資です。親族や社内の人物へ株式を売り渡す事業承継では株式の取得費用がハードルとなりますが、第三者割当増資を用いれば株式の総数が増えることで1株の価値を下げられます

承継する人物が低い株価で多くの株式を買い取れるため、株式の取得で生じる税金を低くできる仕組みです。

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6. 会社売却を行う手続きの流れ

会社売却(株式譲渡)での売却側の手続きは、以下の流れで進めるのが基本です。それぞれのプロセスの概要を掲示します。

  1. 売却ニーズの発生・事前準備
  2. マッチング・交渉
  3. 秘密保持契約(NDA)の締結
  4. 企業概要書(IM)の提示
  5. トップ面談の開催
  6. 基本合意契約の締結
  7. デューデリジェンス(買収監査)の実施
  8. 詳細な条件交渉
  9. 最終契約の締結
  10. クロージング

①売却ニーズの発生・事前準備

以下にまとめたことが理由となって、会社売却の必要性が生じます。会社売却の意思が明確に固まったのであれば事前準備に入りますが、この段階からM&A仲介会社などの専門家に相談するのがおすすめです。事前準備の内容に適切なアドバイスを得られます。

  • 売却利益の獲得(老後の生活資金や新たな事業資金などとして)
  • 事業の選択と集中(多角化経営から主力事業に注力する経営への転換)
  • 大手企業傘下に入ることで経営安定化と業績向上を目指す
  • 後継者不足による事業承継

②マッチング・交渉

売却する相手候補探しを始めます。M&A仲介会社に業務依頼をしていれば、相手探しは彼らがすべて行ってくれます。M&A仲介会社以外でも、取引金融機関や顧問税理士がM&Aサポートを行っているのならば依頼可能です。

事業承継が目的であれば、公的機関として各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターも頼りになります。以後の手続きや交渉をすべて自力で行わなければなりませんが、無料のM&Aマッチングサイトで探すのも1つの手段です。

複数の候補から検討し、相手を絞り込めれば交渉プロセスに移行します。

③秘密保持契約(NDA)の締結

会社売却先との交渉にあたっては、まず秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement)の締結が必須です。会社売却交渉のため、経営に関する情報を相手に開示しなければなりませんが、どれも重要な機密情報です。

決して外部に漏れることがあってはならないうえに、会社売却交渉を行っていること自体も伏せておく必要があるため、お互いに秘密情報が流出しないための誓約を行ってから交渉に入ります。

④企業概要書(IM)の提示

会社売却側は、自社の経営に関する情報を網羅した企業概要書(IM=Information Memorandum)を買収側に提示します。買収側は企業概要書の中身を吟味し買収の意思を固めれば、さらに交渉を進めていく流れです。

このとき、買収側によっては意向表明書(LOI=Letter of Intent)が提示されるかもしれません。この書類は、その時点で買収側が考えている買収の諸条件や方針を明らかにするため、その内容を文書にして売却側に提出するものです。

意向表明書は必須のプロセスではないため、提示があるかどうかは買収側の考え方次第となります。

⑤トップ面談の開催

会社売却の交渉を進める過程で必ず実施されるのが、双方の社長同士によるトップ面談です。具体的な条件交渉はM&A仲介会社側で進めているので、トップ面談実施の意図は経営者の人物像・経営ビジョン・企業文化などを相互に確認することにあります。

トップ面談で意気投合した場合、一気に成約まで交渉がまとまることもあり、重要なプロセスです。

⑥基本合意契約の締結

会社売却の条件面が大筋でまとまれば、基本合意書(MOU=Memorandum of Understanding)を締結します。この契約は、現時点での合意内容の確認書のような位置付けのものです。したがって、基本的に法的拘束力はありません。基本合意契約後に破談となった例もあります。

ただし、例外的に基本合意書の内容で法的拘束力を持たせるのが独占交渉権です。これは、買収側に一定期間(通常1~3カ月程度)、独占交渉権を与えるもので、その間は売却側がほかの相手と会社売却交渉を行えません。この点に注意が必要です。

⑦デューデリジェンス(買収監査)の実施

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、買収側が行う売却企業に対する精密調査のことです。財務・税務・法務・労務・IT・事業などの各分野に関して、それぞれ士業などの専門家が起用されて調査を行います。

この主な目的は、会社売却後に買収側にとって経営リスクとなるような事象が隠されていないかどうかの探索と、最終的な会社売却価額決定のための情報収集です。デューデリジェンスは買収側の責任で行うものなので、その費用は買収側が負担します。

一方、売却側はデューデリジェンスがスムーズに進むよう、全面的に協力をしなければなりません。

⑧詳細な条件交渉

デューデリジェンスで得た情報をもとに、買収側から最終的な交渉金額が提示されます。デューデリジェンスで大きな問題が出ていなければ、基本合意書に記されたとおりの金額となるのが一般的です。仮にデューデリジェンスで問題が出ていれば、減額などの条件変更が提示されます。

⑨最終契約の締結

最終条件交渉が合意に至れば、株式譲渡契約書を締結します。これは最終契約であり、法的拘束力があるのは当然です。締結以降、条件変更や翻意などは認められません。

⑩クロージング

クロージングとは、株式譲渡契約書に記されている締結内容を履行することです。具体的には、売却側は株主名簿の書き換えと株式交付、買収側は対価を支払います。クロージングには諸準備が伴うため、契約締結日から必要期間を開けた日付に指定されることが多いです。

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7. 会社売却の利益・メリット

会社売却で得られる利益やメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、主な利益・メリットを5つ取り上げて解説します。

  1. 会社売却による利益を得られる
  2. 早期リタイアができる
  3. 従業員の雇用先を確保できる
  4. 後継者問題の解決
  5. 個人担保や連帯保証からの解放

①会社売却による利益を得られる

会社売却を行うと、利益を得られます。事業をやめようと考えた際、会社売却以外に廃業・清算などの選択肢もありますが、会社売却の方が手元に多く利益を残せるでしょう。廃業・清算をするためにはコストがかかるだけでなく、税金も課せられます。

例えば、株式譲渡による会社売却の場合は、譲渡益に対してのみ課税されます。しかし、廃業・清算の場合、法人課税(解散する年度に対して)・総合課税(みなし配当に対して)・住民税がかかる決まりです。

廃業・清算の場合は営業権が評価されませんが、会社売却の場合は取引価格に営業権が上乗せされるので、より多くの利益が得られます。

②早期リタイアができる

会社売却でまとまった利益を得られれば、40・50代での早期リタイアも可能になります。株式譲渡の場合は経営者に譲渡益が入るため、リタイア後の生活資金に充てることが可能です。

自社の経営が良い状態で会社売却を行えば、より多くの譲渡益を見込めるので、早期リタイアを希望する経営者にとって会社売却はメリットがあります。

③従業員の雇用先を確保できる

買い手が会社売却に応じる根拠を探ると、自社を成長させることに行きつきます。

買い手は同業を買い取る優位性の向上をはじめ、川上か川下の会社を買い取ることでの質の向上・コスト減、近隣業を買い取ることでの相乗効果、新事業取得による開発コストの抑制などを期待するため、事業が継続される可能性が高いです。

売り手が運営していたときのように買い手は事業に取り組むことから、雇用している社員も引き継ぐと判断できます。つまり、会社売却は売り手と買い手に利益のある方法です。

④後継者問題の解決

事業を引き継ぐ人物が見つからない後継者問題は、多くの中小企業が抱える悩みの1つです。近年では、経営者に子どもがいる場合でも会社を継ぐ意思がなかったり、経営者としての能力に乏しかったりなど、事業を引き継ぐことが難しいケースが増えています。

会社売却であれば、M&Aによって第三者の企業へ譲渡できるため、後継者問題を解決し自社を存続させられます。

⑤個人担保や連帯保証からの解放

多くの場合で、中小企業では経営者が個人担保・連帯保証を提供して借り入れを行っています。引退したい年齢に差し掛かって個人担保や連帯保証のことを考えると、精神的負担も大きいです。

会社売却(株式譲渡)では、会社の債務は買い手に引き継がれるため、売り手経営者の担保や連帯保証は解消されます。ただし、自動的に担保や個人保証が解除されるわけではないので、金融機関・買い手との打ち合わせは必要です。

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8. 会社売却の不利益・デメリット

会社売却には利益とメリットがある反面、残念ながら不利益とデメリットがあることも事実です。ここでは、会社売却で考えられる主な不利益とデメリット4点を解説します。

  1. 会社売却後に拘束を受ける可能性がある
  2. 契約成立まで時間がかかる
  3. 希望する譲渡先が見つかるとは限らない
  4. 会社売却後に寂しさを感じる

①会社売却後に拘束を受ける可能性がある

会社売却は自社を手放したら終わりというわけではありません。経営の引き継ぎが必要な場合、現経営者は会社売却後に拘束を受ける可能性もあります。これをロックアップといい、1年~数年程度、売却先の企業で引き継ぎなどをしなければならないケースも少なくありません。

ロックアップに関する事項は契約時に盛り込まれるので、内容をしっかり確認しておくことが大切です。

②契約成立まで時間がかかる

一般的にM&Aが成立するまでに必要な期間は、10カ月~1年程度です。会社売却を行う際に、なかなか買収側企業が決まらなければ、長い期間がかかってしまいます。

会社売却を進める間も経営を並行して行わなければならないため、成立までの期間は体力面の負担や精神的なストレスを抱えることもあります。会社売却の成約するためにある程度の時間がかかることは、経営者にとってデメリットです。

③希望する譲渡先が見つかるとは限らない

長い期間を会社売却に費やしたとしても、自社の希望条件に合った譲渡先が見つかるとは限りません。自社の希望に完全に合致した譲渡先が見つかれば問題ないものの、難しいケースが多いです。

会社売却をスムーズに進めるためには、どの条件であれば譲歩できるかなど優先順位を定めておくことも必要です。会社売却を検討する際は、希望する譲渡先が見つかるわけではないことを考慮しておき、自社の条件などを整理しておくと良いでしょう。

④会社売却後に寂しさを感じる

オーナー経営者として会社を創業し、長い期間にわたり経営を続けてきた人ほど、会社売却後に張り合いをなくしてしまうなど、何ともいえない感情におそわれると考えられます。会社売却後の人生プランを具体的に決めておくと、その忙しさで寂しさを紛らせるかもしれません。

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9. 会社売却の利益を最大化するポイント

会社売却を成功させて、より多くの利益を得るためには、以下の各項目を実践することが肝要です。

  1. 企業価値が最大化するタイミングで会社売却を行う
  2. 企業価値が低下する前に会社売却を行う
  3. 買収側が魅力に感じる経営資源をそろえる
  4. 自社の強み・アピールポイントを洗い出す
  5. 自社とのシナジーが期待できる相手先を見つける
  6. 信頼できるM&Aの専門家にサポートを依頼する

①企業価値が最大化するタイミングで会社売却を行う

企業価値を最大化するタイミングとは、業績が好調の時期です。直近の決算が過去最高益であるなら、まさに今が会社売却の利益を最大化できるタイミングだといえます。

過去最高益ではなくても、決算が黒字化しており、なおかつ業界全体が市場を拡大していて注目を集めている場合も、企業価値が最大化するタイミングです。

②企業価値が低下する前に会社売却を行う

会社経営には、好調期もあれば不調期もあります。完全な不調に陥ってしまうと、会社売却したくても買い手探しが難航します。不調の予兆を感じたら、明確にダメージが出てしまう前に会社売却に動くのも1つの手段です。

③買収側が魅力に感じる経営資源をそろえる

買収側の立場になって、会社買収の目的を考えましょう。自社が会社買収の目的に合致するものを持っていれば、有力な買収先候補となれます。一般にいわれている買収側のM&A目的は以下のとおりです。ご参考ください。

  • 人材の獲得
  • 特許・商標・ノウハウなど知的財産の獲得
  • 独自の技術力・開発力・機械設備などの獲得
  • 営業ブランド力の獲得
  • 顧客・取引先の獲得(市場シェアの拡大)
  • 簡単に取得できない許認可の獲得
  • 買収側と同一事業の獲得(事業規模の拡大)
  • 買収側事業の近接事業の獲得(事業領域の拡張)
  • 買収側とは異なる事業の獲得(新規事業への進出)

④自社の強み・アピールポイントを洗い出す

自社の強みとは、同業他社と比較したときに抜きん出ているもの・引けを取らないもののことです。具体的には、前項の買収側が獲得したいものと重なりますが、以下に例示します。自社を改めて見つめ直し、強みを見いだしましょう。

  • 特許・商標・ノウハウなどの知的財産
  • 独自の技術力・開発力・機械設備など
  • 営業力
  • 知名度・ブランド力
  • 顧客・取引先
  • 簡単に取得できない許認可

⑤自社とのシナジーが期待できる相手先を見つける

シナジー(相乗)効果が得やすいことは、会社売却後に買収側で大きな収益向上が見込めることを意味します。この場合、買収側がつける買収額には、その期待分ののれんが加味されることになり、高い金額がつきやすいです。

⑥信頼できるM&Aの専門家にサポートを依頼する

会社売却の実現には、専門的な知識・経験を要するさまざまなプロセスがあります。利益を最大化させることまで考えると、M&A仲介会社など専門家のサポートは必要不可欠です。

昨今はM&Aが盛況となったことで、M&A仲介会社やM&Aサポートを行う士業・経営コンサルタントなども急増しました。選択肢は幅広くなったので、それら専門家をよく吟味し、自社と相性が良く信頼できる相手を選んで会社売却のサポートを依頼しましょう。

【関連】事業売却・会社売却の相場は?金額の決め方と高く売る方法、税金も解説【事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

10. 会社売却の利益最大化に関する相談先

会社売却を成功させるためには適正な取引額を計算する必要もあり、相手先探しや交渉などにも専門的な知識や実績があるM&A仲介会社のサポートがおすすめです。

全国の中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、経験豊富なM&Aアドバイザーが案件ごとに専任となり、相談時からクロージングまでフルサポートします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。会社売却をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所の無料相談をご利用ください。

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11. 会社売却の利益まとめ

この記事では、会社売却で得られる利益に関する情報をまとめました。会社売却を行ううえでは、利益額だけでなく支払う税金も十分に理解しておくことがポイントです。

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