吸収合併後の社員の待遇はどう変わる?リストラのリスクや最新の雇用ルールを解説

取締役副社長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

吸収合併時の社員の待遇や雇用契約の変化は、働く人にとって最大の関心事です。2026年現在の労働市場では人材確保が重要視されていますが、リストラの不安も拭えません。本記事では、法的根拠に基づいた最新の処遇や雇用継続の実態を詳しく解説します。
 

目次

  1. 吸収合併とは
  2. 吸収合併における社員の待遇と雇用契約の仕組み
  3. 吸収合併後のリストラ発生リスクと解雇の制限
  4. 2026年現在の労働環境における吸収合併後の待遇変化の傾向
  5. 吸収合併の告知は会社の義務
  6. 吸収合併されたときの社員の処遇まとめ
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1. 吸収合併とは

吸収合併とは、2つ以上の複数の会社を1つの会社に結合させることをいいます。どのようなM&A手法なのでしょうか。ここでは、吸収合併の定義や当事者など、基本的なことを確認します。
 
吸収合併と買収の違いは、下記リンクで詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

定義

吸収合併とは、2つの企業が統合する際に、一方の当時会社を残し、もう一方の当時会社を消滅させ、権利義務の全てを合併後に残った会社に承継させる手法です。
 
新設する会社が、消滅する会社から全ての権利義務を承継する新設合併とは、新たな法人格を必要としない点で異なるものです。実務上はほとんどのケースで吸収合併が選択されています。
 
吸収合併の手続きには、主に次のようなものがあります。

  • 合併契約書の作成
  • 合併契約の締結
  • 株主・債権者への通知・公告
  • 株主総会決議(合併の承認)
  • 合併の効力発生
  • 合併の登記申請
 
新設合併との違いなどは、下記リンクを参考にしてください。

親会社が子会社を吸収合併する場合

親会社が子会社を吸収合併する場合も、一方の当時会社を残し、もう一方の当時会社を消滅させることとなります。会計処理上、一般的な吸収合併と異なる点は、共通支配下の取引であることです。

共通支配下の取引とは、吸収合併の前後で同一の株主・企業により最終的に支配され、その支配が一時的ではない場合の企業の結合をさします。この場合の会計処理は、内部取引として見なされます。

吸収合併の当事者

吸収合併の際の当事者は、「存続会社」と「消滅会社」の2つがあります。それぞれの言葉の定義を解説しましょう。

存続会社

吸収合併における「存続会社」とは、吸収合併後に残る方の会社をいいます。売り手企業の資産、負債、権利義務など全てを引き継ぐ会社のことです。例えば、親会社が子会社を吸収合併する場合でいえば、親会社が存続会社になります。

消滅会社

吸収合併における「消滅会社」とは、存続会社に吸収される方の会社をいいます。存続会社側に、資産、負債、権利義務の全てを引き継ぐ会社のことです。親会社が子会社を吸収する場合、親会社に全ての権利義務を引き渡して消滅する子会社のほうをさします。

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2. 吸収合併における社員の待遇と雇用契約の仕組み

吸収合併されたときの社員の処遇はどのように扱われるのでしょうか。解雇、リストラ、役職や待遇などの変更を言い渡されることはあるのでしょうか。ここでは、告知義務や雇用契約を説明しましょう。

告知は必要不可欠ではないが重要

吸収合併では包括承継の原則に基づき、消滅会社の権利義務が存続会社に引き継がれるため、従業員の雇用も原則として維持されます。このため、現在の法制度下では合併そのものを理由とした解雇は認められません。

法的には従業員一人ひとりの個別同意を得る義務はありませんが、現在の経営環境では「人的資本」の価値がかつてないほど高まっています。2026年現在のM&A実務においては、強引な統合は貴重な人材の流出を招くリスクがあるため、法的な義務を超えて丁寧な説明会や面談を行うことが一般的です。

特に吸収合併における待遇の変化については、労働条件通知書の再作成や就業規則の変更を伴う場合、不利益変更とならないよう慎重な手続きが求められます。事業継続を円滑にするためにも、従業員の心理的安全性を確保するプロセスは非常に重要な手続きといえます。

雇用も承継

吸収合併により、従業員が何より心配するのは、給与と雇用がどうなるのかという点でしょう。吸収合併では、消滅会社の権利義務が全て存続会社に引き継がれるため、基本的には雇用契約もそのまま承継することになります。この雇用契約が引き継がれることを、消滅会社の労働者から同意を得ることは不要です。
 
ただし、実務上、存続会社の雇用契約に合わせていくこととなります。吸収合併の契約が成立する前に、雇用契約に変更について合意を取ることもあります。その場合には、内容を書面で説明し、従業員の確認を取っておく必要があるでしょう。

3. 吸収合併後のリストラ発生リスクと解雇の制限

吸収合併は、基本的に労働契約および雇用関係が継続されることを前提とします。吸収合併をする際に、それを理由として、従業員を解雇はできません。
 
ただし、吸収合併では、業績のよい会社が、業績の悪い会社を吸収するため、組織再編を伴うことがあります。消滅会社の部署がそのまま残ることはなく、たいていは同一部門が複数ある場合にはなくなることもあり得るでしょう。

吸収合併後の組織再編に伴って、社員のリストラがあり得るのではないか、などの点が懸念されます。この疑問を解説しましょう。

吸収合併で承継される権利と労働条件の保護

基本的に、従業員と会社で取り交わされた雇用契約は、合併後も存続会社に全て引き継がれます。吸収合併をしたからといって、従業員をリストラすることは法的に許されていません。
 
雇用契約を変更するには、従業員への通知・告知や書面での説明、合意の取得などを行う必要があります。それ以外にも、存続会社の雇用契約に合わせる処置がとられることもあります。
 
会社側からリストラを言い渡されるのではなく、従業員が個人の判断で離職することは自由です。こちらは、のちほど詳しく説明しましょう。

勤務形態の変更はあり

雇用契約の変更は基本的にないものと理解してよいでしょう。しかし、勤務形態が変更となることはあり得ます。雇用契約の範囲内であれば、吸収合併に伴う組織再編の一環として、個人の勤務形態が変更となる可能性はあります。

例えば、営業職から事務職へ、事務職から営業職へ、など全く異なる業務へ配置転換が行われることもあるでしょう。この場合も、当初の雇用契約の範囲内であれば、個別の労働者との合意や説明などは必要ありません。

管理職の身分は?

管理職であった場合、吸収合併後、その管理職の身分はどうなるのでしょうか。労働条件にもよりますが、管理職の身分は保証されるわけではありません
 
例えば、合併直後に降格される場合もありますし、同格の身分でいられる場合もあるでしょう。これは、合併に伴い組織の編成がどうなるかによっても左右されます。一つの会社に同じ部門は複数必要ないため、どちらかがなくなるのは当然のことでしょう。

吸収合併に伴う労働条件や給与体系の統合ルール

吸収合併では、原則として労働条件はそのまま引き継がれます。しかし、合併を契機として、労働条件が変更となる可能性があるでしょう。

吸収合併は、親会社が子会社を吸収し、経営の効率化を図るきっかけとすることが多いことに起因します。ただし、労働条件の変更は、企業側が勝手には行えません。

労働条件にかかわる労働協約や就業規則の変更は、労働者や労働組合と事前に協議しなければなりません。そのうえで、労働者にとって不利益な変更を含む場合は、個別に通知することや、書面での合意が必要となります。
 
次に、福利厚生や給料、退職金などがどのように取り扱われるのか、それぞれ解説しましょう。

福利厚生

福利厚生とは、企業が従業員に対して、給与や賞与以外に支給する報酬などをさします。福利厚生には、主に住宅手当や家賃補助、社宅といったものがあります。

この福利厚生制度を含めた労働条件は、基本的にはもとの会社の条件をそのまま承継することになるでしょう。しかし、経営合理化・効率化のため、社宅の廃止などの不利益な変更がとられる場合があります。この場合にも、事前に従業員への説明と書面での合意が必要です。

社宅廃止になった場合には、対象となる従業員に、家賃補助を支給するなどの措置がとられる場合もあるでしょう。

給料

2026年現在の傾向として、給与体系の統合はスピード感を持って行われるようになっています。合併する企業間で給与格差がある場合、まずは双方の給与テーブルを精査し、激変緩和措置として数年間の「調整給」を支給しながら、段階的に新基準へ移行するのが一般的です。

昨今のインフレや賃上げ機運の高まりを受け、存続会社側の高い給与水準に合わせてベースアップを伴う統合を行うケースも増えています。一方で、給与が下がる方向での統合は労働契約法上の「不利益変更」に該当する可能性が高いため、代償措置の提示など極めて慎重な運用が行われています。

退職金

吸収合併に伴い、退職金が減額されるなどの不利益が被る場合があります。「説明の内容や労働者が受け入れるまでに至った経緯、およびその内容などさまざまな観点に照らし、労働者の自由意思で受け入れたという判断が必要である」との最高裁の判例もありました。

経営者側にとっては厳しい運用となるでしょう。労働者側からすれば、納得するまで退職金制度など十分な説明を経営者から受けられるでしょう。

PMIについて

M&A成立後の統合プロセスであるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)において、現在最も重視されているのが「EX(従業員体験)」の向上です。かつては制度やシステムの統合が中心でしたが、現在は双方の企業文化の融合や、エンゲージメントの維持に主眼が置かれています。

人的資本経営が浸透している今、吸収合併時の待遇改善やキャリアパスの明示は、M&Aの成否を分ける鍵となります。単に存続会社のルールを押し付けるのではなく、両社の強みを活かした新しい評価制度を構築することで、シナジー効果を最大化させるプロセスが現代のPMIの主流となっています。

希望退職などのリストラはある

雇用契約は、吸収合併に伴い自動的に存続会社に承継されます。しかし、吸収合併後、事業の効率化や組織再編を行う必要が出てくるかもしれません。

その際、企業が希望退職を募るといった形でリストラを行うことはあり得るでしょう。希望退職制度を利用するかどうかは、社員個々人の自由です。 

転職のチャンスととらえる人も

組織の若返りやDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を背景に、吸収合併を機とした配置転換や希望退職の募集は、現在でも組織再編の手法として機能しています。しかし、これは単なる人員整理ではなく、適材適所を実現するための「人材の流動化」と捉える向きが強まっています。

特に、異なる企業文化を融合させたPMIの経験を持つ人材は、労働市場での価値が極めて高くなっています。2026年現在の転職市場において、複数の組織をまとめた経験や、変化の激しい環境で適応した実績は、マネジメント層や専門職として高く評価されるポイントです。

吸収合併という大きな変化を、守りの姿勢で捉えるのではなく、自身のスキルセットをアップデートし、より良い待遇を求めてキャリアを切り拓く絶好の機会と捉えるビジネスパーソンが増えています。

4. 2026年現在の労働環境における吸収合併後の待遇変化の傾向

現在のM&Aシーンでは、少子高齢化に伴う深刻な労働力不足を背景に、売り手企業の「人材」こそが最大の買収目的となるケースが目立ちます。そのため、合併後の従業員に対するアプローチも以前とは大きく変化しています。
 

人材流出防止(リテンション)を重視した待遇維持

現代の吸収合併において、存続会社が最も恐れるのは、クロージング直後のキーマンや優秀な若手層の離職です。これを防ぐため、合併後一定期間の給与保証や、リテンションボーナス(継続勤務手当)の支給、さらには福利厚生の拡充など、従業員にとってプラスとなる待遇改善を提示するケースが増えています。

ジョブ型雇用への移行と評価制度の刷新

現在、多くの日本企業が「メンバーシップ型」から「ジョブ型」雇用への移行を進めています。吸収合併はこの移行を加速させる契機となることが多く、職務内容を明確にした上での公正な評価制度が導入される傾向にあります。これにより、年齢に関わらず成果を出した社員が正当に報われる待遇へと変化しています。

リスキリング支援を通じた社内配置転換の活発化

組織再編によって一部の業務が重複した場合でも、安易なリストラではなく、リスキリング(学び直し)の機会を提供して他部署へ配置転換する動きが活発です。ITスキルや新領域の専門性を身につけるための研修プログラムを会社負担で提供し、社員の市場価値を高めながら雇用を維持する形態が、現在の健全なM&Aの姿といえます。

5. 吸収合併の告知は会社の義務

吸収合併の場合、当時会社には、株主や債権者などへの告知義務が生じます。では、従業員への告知は必要でしょうか。悩んでいる経営者の方もいるかもしれません。ここでは、告知義務の範囲やその法的根拠、告知内容などを解説しましょう。

告知義務

吸収合併に関連する手続きは、会社法で定められるものです。吸収合併の際の義務としては、債権者や株主などの利害関係者に対する告知義務があります。これに対して異議を申し立てるため、債権者・株主を保護するための手続きも用意されています。

こうした手続きが会社法に反してしまえば、合併契約自体も無効になってしまうでしょう。内容に漏れがないか、誤りがないか、よく確認しながら行わなければなりません。
 
M&A総合研究所では、知識や経験が豊富なアドバイザーが案件をフルサポートします。専門知識が必要な吸収合併の際の法的手続きも安心してお任せください。相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

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告知の相手

会社法により要請されている利害関係者への告知の対象者としては、債権者や株主が挙げられます。これは、株主や債権者が、その権利行使を判断する際に必要な情報を提供するためです。社員への告知や同意を得る必要は法律上ありません。

債権者に対する公告

債権者に対する告知の方法は、会社法第789条第2項および第799条第2項によって、「官報への公告」および「債権者への個別の催告」が定められています。債権者に対する公告と株主への通知を、官報と同時に日刊紙や電子公告に掲載する場合は、個別に催告する必要はありません。

社員への通知

先に述べたとおり、社員への通知義務は、法律上必要ありません。吸収合併の際、もとの会社で結んでいた雇用契約がそのまま存続会社に引き継がれるためです。多くのケースで雇用が守られるため、同意を得る必要もありません。
  
吸収合併によりトータルの人員が余剰になったとしても、消滅会社の社員を解雇することも許されないことになっています。社員の雇用は守られるものです。経営者の判断のみで勝手に行うと、トラブルになりかねないため注意が必要です。

株主への通知

株主への通知は、先に述べた債権者への通知とは異なり、官報での報告は必須ではありません。定款所定の公告方法により公告を行うことで、個別通知を省略できます
 
株券の権利を行使する日時を確定する基準日設定公告は、期間中の売買などで株主名簿に記載がないことがあるので、個別通知は認められません。これも、定款所定の公告方法による公告が必要となります。

告知内容

吸収合併に関して、債権者や株主に対して告知が必須です。告知そのものの内容としては、どのような情報を記載すればよいのでしょうか。
 
告知内容として載せるべき内容には、以下のような項目があります。

  • 吸収合併契約の締結
  • 存続会社などの称号や住所
  • 消滅会社・存続会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
  • 債権者が一定期間に異議申し立てできる旨
 
その他吸収合併契約書の作り方などは、下記リンクも参考にしてください。

期日

吸収合併の告知は、吸収合併の効力が発生する前日の1カ月間以上前までに行うと定められています。この期日までに、吸収合併をする旨などを記載して、官報に公告しなければなりません。

合併の効力発生日以降6カ月を経過する日まで、その事前開示書類などを本店に据え置く必要があるため、注意しましょう。

【関連】吸収合併契約書の作り方・記載事項を解説!【ひな型/記載例あり】

6. 吸収合併されたときの社員の処遇まとめ

親会社による子会社の吸収合併など、さまざまなシーンで吸収合併は実行されています。基本的には労働条件が承継されるため、勝手に解雇されることや、退職金や給料が変更されるなどの心配は必要ないでしょう。
 
ただし、その後の労働条件の変更などにより、管理職の地位がなくなるケースもあります。そのほかにも、福利厚生などの制度が変更される場合があるでしょう。
 
吸収合併によって得られる知識や経験をもとに転職することが、今後のキャリア形成に有効な場合もあります。賃金や退職金などの情報をよく検討したうえで、どのようにするか決定しましょう。

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