2023年05月16日更新
製造業(メーカー)のM&A・売却・買収!最新動向や成功事例・価格相場・注意点を解説
日本の製造業(メーカー)は、第二次産業の一大分野です。現在の製造業(メーカー)におけるM&Aでの売却・買収動向やその事例、売却・買収が行われる理由、M&Aの価格相場、M&Aのメリットと注意すべきポイントや20の事例などを解説します。
目次
1. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収
製造業(メーカー)とは
製造業(メーカー)とは、原材料を加工したり組み立てたりして製品を作っている企業のことです。製造業(メーカー)に該当する分野は、各種機械・電子機器・化学製品・衣料品・食料品など多岐にわたります。
製造業(メーカー)の定義
製造業とは、総務省の定義によれば「新たな製品を製造し、これを卸売する事業所」と定義されています。「新たな製品の製造」とは、金属加工、修理、部品の組み立て作業が含まれます。梱包や包装作業のみを扱う事業所は製造業に含まれません。
「卸売」は、消費者ではなく業者に対して製品を販売することです。この2つの条件を満たす事業所を製造業といいます。
製造業(メーカー)の分類
日本標準産業分類(総務省)では、製造業を以下の24業種の中分類に分類しています。
- 食料品製造業
- 飲料・たばこ・飼料製造業
- 繊維工業
- 木材・木製品製造業(家具を除く)
- 家具・装備品製造業
- パルプ・紙・紙加工品製造業
- 印刷・同関連業
- 化学工業
- 石油製品・石炭製品製造業
- プラスチック製品製造業
- ゴム製品製造業
- なめし革・同製品・毛皮製造業
- 窯業・土石製品製造業
- 鉄鋼業
- 非鉄金属製造業
- 金属製品製造業
- はん用機械器具製造業
- 生産用機械器具製造業
- 業務用機械器具製造業
- 電子部品・デバイス・電子回路製造業
- 電気機械器具製造業
- 情報通信機械器具製造業
- 輸送用機械器具製造業
- その他の製造業
製造業(メーカー)の歴史・変遷
トヨタ、ソニー、パナソニックなどに代表される日本の製造業は、世界の中でもトップクラスの技術と業績を誇っていました。
しかし、1990年代以降、中国、台湾などの新興家電メーカーの台頭で、日本の製造業の地位は急激に低下しました。その主な理由には、日本企業が持つ技術のコモディティ化が進み、国際的な競争力が相対的に低下したことが挙げられます。
今後、日本の製造業は、性能以上の付加価値を付けられるかが重要です。
M&A・売却・買収とは
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、株式譲渡や事業譲渡などによって株式や事業用資産の売買を行ったり、合併によって複数の法人を統合したりする手法の総称をいいます。Mergersは合併、Acquisitionsは買収のことです。
製造業(メーカー)では、以前まで大企業・中堅企業によるM&Aがほとんどでした。近年では、中小企業による事業承継を目的としたM&Aが増加しています。
2. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収動向
昨今、製造業(メーカー)のM&A動向は以下のように推移しています。
- 大手企業による中小規模の部品メーカーのM&Aが増加
- IT化などの導入を行うための異業種M&Aが見られる
- 本業を革新させるM&Aが行われている
- 大手への傘下入りを図る中小企業の売却も目立っている
- 業績低迷中のメーカーをファンドが買収するケースも多い
①大手企業による中小規模の部品メーカーのM&Aが増加
近年は、大手企業による中小部品メーカーのM&Aが増加中です。大手企業が自社グループ内で一貫した製造を行うようになってきていることが理由として挙げられます。
中小部品メーカー側も、大手企業の傘下に入ることで、求められるクオリティの高さに対応するようになってきました。
②IT化などの導入を行うための異業種M&Aが見られる
業界の変革に対応するため、異業種企業とM&Aを行い、ビジネスモデルを変革する企業が目立つようになりました。特にAIやIoTに対応するため、IT関連企業をM&Aによって取り込む企業が増えています。
③本業を革新させるM&Aが行われている
製造業(メーカー)では、事業の多角化から方向転換し、コア事業に集中する企業も増加中です。特にノンコア事業の売却とともに、コア事業とシナジー効果のある他業種企業をM&Aによって取り込むケースが増えています。
事業の選択・集中と同時にコア事業の革新を進める企業が目立ちます。
④大手への傘下入りを図る中小企業の売却も目立っている
近年、後継者不足や業況の不振を背景に、事業承継を検討する中小規模のメーカーが増加しています。事業承継をせずに廃業した場合、従業員の雇用、顧客との取引を打ち切らなければいけません。
こういった中小メーカーは、経営基盤が安定しており、従来から取引関係のある大手メーカーの傘下に入る場合が多いです。
⑤業績低迷中のメーカーをファンドが買収するケースも多い
技術力はあるものの業績が低迷しているメーカーを、ファンドが買収するケースも多くみられます。中小メーカーには、高い技術力を有している一方で、経営戦略や資本戦略が検討されていない会社もあります。
近年、そういった会社を、ファンドがM&Aにより買収し、事業再生を行うケースが多いです。ファンドがこのようなM&Aを行う目的は、メーカーの企業価値を向上させた後に売却しキャピタルゲインを得ることです。
3. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収するメリット
製造業(メーカー)が事業をM&Aにより売却・買収するメリットはさまざまありますが、主なメリットを売却側、買収側に分けて掲示します。
売却側のメリット
製造業(メーカー)は、M&Aによる売却で以下のメリットが得られます。
- 将来の不安から開放される
- 自由な時間が生まれる
- 従業員の雇用先を確保できる
- 廃業に伴うコストの発生を回避できる
- 売却・譲渡益を獲得できる
将来の不安から開放される
大きな変革の時期を迎えている製造業では、常に先行きの見えない不安がつきまといます。M&Aによる事業売却であれば、自身は経営から退くとともに、売却先で会社の継続が可能です。
製造業(メーカー)のなかには、高い技術を持ち、事業の継続が可能な経営状況であるにもかかわらず、後継者がいないことによって廃業せざるを得ない会社が多く存在するのが現実です。近年では、廃業ではなくM&Aを選択し、事業を承継するケースが増えています。
自由な時間が生まれる
中小製造業(メーカー)のなかには、高齢になっても事業をやめられず、休みなく働き続けている経営者も多くいます。M&Aによる売却により、事業を引き継げれば、自由な時間を得られるでしょう。
下請の製造業(メーカー)では、値下げ要求や要求水準の高さにより、厳しい経営を強いられている会社も少なくありません。自身の子どもなどに事業を継がせることは困難と判断した場合、M&Aにより事業を売却するケースもみられます。
従業員の雇用先を確保できる
従業員のことを考えると事業をやめられないと考える経営者や、廃業に向けて従業員の再雇用先に苦心する経営者は少なくありません。中小製造業(メーカー)の中で多いのが、製造業の先行きがみえないことから、自身の代で廃業を予定している経営者がいることです。
しかし、近年は、M&Aに対するイメージが向上してきたことから、第三者に事業を売却するケースが増えています。M&Aによる売却によって従業員の雇用確保が可能です。
廃業に伴うコストの発生を回避できる
製造業は、通常、大型生産機械や大型設備を自社の資産として保有しています。これらの機械・設備を廃棄処分するためには、多額の費用が必要です。単に廃業するのではなく、事業譲渡または機械・設備を他社へ譲渡する選択肢を取れば、廃業費用の発生を避けられます。
本業で厳しい経営を強いられるなか、新事業を立ち上げて経営をカバーするケースもあります。新事業が軌道に乗った場合、これまでの本業をM&Aによって売却し、新事業に集中することを選択する経営者も少なくありません。
売却・譲渡益を獲得できる
十分なリタイア資金を残したまま、廃業できる会社であれば問題ありませんが、製造業(メーカー)の場合、負債があったり、会社にキャッシュがほとんどなかったりするケースも多いです。売却益を得ることを目的として、M&Aによる売却を行うケースもあります。
買収側のメリット
従業員のことを考えると事業をやめられないと考える経営者や、廃業に向けて従業員の再雇用先に苦心する経営者は少なくありません。M&Aによる売却によって従業員の雇用確保が可能です。
経験豊かな人材を獲得できる
団塊の世代が大量退職したことにより、製造業(メーカー)では高い技術を持った技術者の確保が難しくなっています。技術者の育成には時間がかかりますが、M&Aによる買収であれば、短期間で優秀な技術者の確保が可能です。
必要な設備や技術を獲得できる
大きな環境変化が速いスピードで起きているなか、製造業(メーカー)が変化に対応し、自力で設備や技術を整えていくことは簡単ではありません。M&Aによる買収であれば、時間的成約を受けず、環境変化に対応できます。
事業の内製化につながる
多重下請構造から、自社グループ内で一貫した製造を行うビジネスモデルに転換する大手製造業(メーカー)が増えています。M&Aによる買収であれば、効率よく事業の内製化が可能です。
事業の成長・立ち上げにかかる時間を短縮できる
製造業の新事業の立ち上げには、工場設立、ノウハウ確率、取引先開拓などを要するため、年単位の多大な時間が必要です。M&Aによる他社の経営資源の獲得は、短時間で新事業に進出できます。製造業界の最新のニーズへ対応するために有用です。
実際、製造業の大手企業のなかには、M&Aを活用して事業規模を拡大してきた企業が多くあります。
4. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収事例20選
ここでは、製造業(メーカー)のM&A・売却・買収事例をご紹介します。
- ベインキャピタル連合による日立金属へのM&A
- 日本電産による三菱重工工作機械へのM&A
- オリンパスによるQuest Photonic Devices B.V.へのM&A
- アークランドサービスホールディングスによるコスミックダイニングへのM&A
- テクノホライゾン・ホールディングスによるブルービジョンへのM&A
- 不二精機による秋元精機工業へのM&A
- ヤマシンフィルタによるアクシーへのM&A
- レンゴーによる武田紙器へのM&A
- 東海カーボンによるCOBEXへのM&A
- 文化シヤッターによるARCOへのM&A
- 栗田工業によるAvistaへのM&A
- DICによるIdealへのM&A
- 宇部興産によるRepolへのM&A
- ムロコーポレーションによるイガリホールディングスへのM&A
- コマツによるTimberProへのM&A
- 日阪製作所による小松川化工機へのM&A
- 岡部による河原へのM&A
- オプテックスによる東京光電子工業へのM&A
- 新栄工業とアポロ工業のM&A
- 日本ニューマチック工業と立山高圧工業のM&A
①日本電産による三菱重工工作機械へのM&A
2021年8月、精密小型モータ、産業用モータなどの開発・製造・販売を行う日本電産は、工作機械の設計・製造・販売を手掛ける三菱重工工作機械をM&Aにより取得しました。
日本電産は株式譲渡により、三菱重工工作機械を子会社化しました。取引価格は約300億円といわれています。
本件M&Aにより、日本電産は三菱重工工作機械のギヤ技術や人材を獲得したため、今後は工作機械事業の発展が期待されます。
②ベインキャピタル連合による日立金属へのM&A
2021年4月、米系の投資ファンドであるベインキャピタルが主導するファンドが、日立金属をM&Aにより買収すると発表しました。2022年以降にTOBの方法で行われています。最終的には、ベイン連合が日立金属の完全親会社となる見込みです。
日立金属は、従来から業績が悪化しているところ、本M&Aにより非上場化を行うことで、競争力と収益力を高めることを目的としています。
③オリンパスによるQuest Photonic Devices B.V.へのM&A
2021年2月、医療、ライフサイエンス分野で精密機械の製造・販売を行うオリンパスは、手術向け蛍光ガイド技術を有するQuest Photonic Devices B.V.をM&Aにより取得しました。
オリンパスは、株式譲渡によりQuestの全株式を取得し、完全子会社化しました。譲渡価格は約46億円です。
本M&Aにより、オリンパスは蛍光イメージング技術を強化し、より高品質なサービスが提供可能になるとされています。
④アークランドサービスホールディングスによるコスミックダイニングへのM&A
2020年6月、アークランドサービスホールディングスは、コスミックダイニングおよびコスミックダイニングの子会社(株式90%保有)清和ヤマキフードの全株式を取得し、子会社化しました。
アークランドサービスホールディングスグループは、とんかつ専門店「かつや」などの飲食店経営およびフランチャイズ事業などを行っています。一方、コスミックダイニングおよび清和ヤマキフードは、冷凍食品の製造販売会社です。
アークランドサービスホールディングスとしては、現在の同グループに関連する事業として新たに冷凍食品事業を加えることで、シナジー効果とともに事業領域拡大が望めるとしています。
⑤テクノホライゾン・ホールディングスによるブルービジョンへのM&A
2020年5月、テクノホライゾン・ホールディングスは、100%子会社であるタイテックにより、ブルービジョンの発行済み株式81.11%に相当する1,460株を取得し、グループ化しました。
テクノホライゾン・ホールディングスは、グループとして光学分野と電子分野において製品の開発・製造・販売を総合的に行っています。一方、ブルービジョンは、光学機器製造を得意とする会社です。
テクノホライゾン・ホールディングスとしては、ブルービジョンの製品とその製造ノウハウをグループ内に取り込むことで、高いシナジー効果が得られると判断してのM&Aでした。
⑥不二精機による秋元精機工業へのM&A
おにぎりマシンで8割強のトップシェアを持つ不二精機は、2019年9月、精密金型の製作や精密プレス加工などを行っている秋元精機工業を、株式譲渡により子会社化しました。
これにより、不二精機は、精密成形品の技術力強化と販路の拡大を図っています。
⑦ヤマシンフィルタによるアクシーへのM&A
フィルタメーカーのヤマシンフィルタは2019年8月、同じくフィルタメーカーのアクシーを、株式譲渡により子会社化しました。
ヤマシンフィルタは、既存のオイルフィルタにアクシーのエアフィルタを加えることで、総合フィルタメーカーへの成長を図っています。
⑧レンゴーによる武田紙器へのM&A
2019年8月、段ボールなどの紙製包装資材メーカーのレンゴーは、段ボールケースメーカーの武田紙器を株式譲渡により子会社化しました。これにより、両社は連携を強化し、関東エリアでの段ボール事業強化を図っています。
⑨東海カーボンによるCOBEXへのM&A
カーボン製品メーカーの東海カーボンは2019年6月、ドイツのカーボン製品メーカーであるCOBEX HoldCo GmbHを株式譲渡により子会社化しました。社名をTokai COBEX HoldCo GmbHに変更しています。
これにより、東海カーボンは、ヨーロッパでの事業拡大や製造ラインアップの範囲拡大を進めています。
その一環として、2020年7月にTokai COBEX HoldCo GmbHと共同で、フランスの炭素黒鉛製品メーカーであるCarbone Savoie SASの持株会社の全株式を取得し、子会社化しました。
取得割合は、東海カーボンが7割、Tokai COBEX HoldCo GmbHが3割で、両社合計の取得総価額は約197憶円です。子会社化後、Carbone Savoie SASの社名をTokai Carbon Savoie SASに変更しています。
⑩文化シヤッターによるARCOへのM&A
総合建材メーカーである文化シヤッターは、2019年6月に子会社を通じて、オーストラリアのシャッターメーカーであるARCO(QLD)PTY LTDを、株式譲渡により子会社化しました。
これにより、文化シヤッターは、海外での商業用・産業用ドア事業を強化しています。
⑪栗田工業によるAvistaへのM&A
2019年5月、栗田工業は子会社を通じて、水処理薬品メーカーの米国Avista Technologies, Inc.と、英国のAvista Technologies(UK)Ltd.を、株式譲渡により子会社化しました。
これにより、クリタグループは、水処理装置の構成機器であるRO膜に関連するサービスを強化するなど、水処理事業で世界各国での事業基盤強化を図っています。
⑫DICによるIdealへのM&A
2019年5月、化学メーカーであるDICは、インドの塗料用樹脂メーカーであるIdeal Chemi Plast Pvt. Ltd.を買収しました。
DICグループはIdealと協業することで、高い成長が見込めるインドの塗料市場に本格参入します。インドを足掛かりにグローバル展開を加速させていく計画です。
⑬宇部興産によるRepolへのM&A
総合化学メーカーの宇部興産は、2019年4月にスペインの連結子会社を通じて、コンパウンドメーカーのRepol S.L.を株式譲渡により子会社化しました。
これにより、宇部興産グループは、製品開発力やグローバルな事業展開の加速を進めています。
⑭ムロコーポレーションによるイガリホールディングスへのM&A
2019年3月、精密プレス部品メーカーのムロコーポレーションは、精密樹脂成形部品メーカーのイガリホールディングスを、株式譲渡により子会社化しました。
近年、自動車業界が大きな変革期を迎えていることから、部品メーカーも厳しい環境に置かれています。ムロコーポレーションは、イガリホールディングスと組むことで、グローバルでの協業や製品ラインアップの拡充による提案力の強化を図る考えです。
⑮コマツによるTimberProへのM&A
建設機械や産業機械などのメーカーであるコマツは、2019年2月に子会社を通じて、米国の林業機械メーカー、TimberPro, Inc.を買収しました。
これにより、コマツは製品ラインアップを強化し、より付加価値の高い林業機械の提供を実現しています。
⑯日阪製作所による小松川化工機へのM&A
2019年2月、産業機械メーカーの日阪製作所は、プラント設備の製造などを行う小松川化工機を、株式譲渡により子会社化しました。
これにより、日阪製作所は食品機器・医薬品機器事業の拡大とともに、熱交換器やバルブなどの新規顧客獲得が期待できるとしています。
⑰岡部による河原へのM&A
建設関連製品事業や自動車関連製品事業を営む岡部は2019年2月、産業機械メーカーの河原を株式譲渡により子会社化しました。
岡部は、リフトテーブル業界で高いシェアを持つ河原を子会社とすることで、製品ラインアップの拡充と海外での販路拡大を狙っています。
⑱オプテックスによる東京光電子工業へのM&A
2019年1月、オプテックスグループは、連結子会社で産業用センサメーカーのオプテックス・エフエーを通じて、外径測定器メーカーの東京光電子工業を株式譲渡により子会社化しました。
これにより、オプテックスグループは、商品ラインアップの拡充と国内外での販路拡大を進めています。
⑲新栄工業とアポロ工業のM&A
金属プレス加工の事業を展開する製造会社である「新栄工業」は、埼玉県に拠点を置く金属プレス加工メーカーである「アポロ工業」に対してM&Aを行いました。
手法は株式譲渡です。本M&Aによりアポロ工業は新栄工業の子会社となっています。
⑳日本ニューマチック工業と立山高圧工業のM&A
建機や空機、化工機の企画から開発・設計・製造・販売・アフターサービスに至る全ての工程を手がける会社である「日本ニューマチック工業」は、ホースと継手の加工販売事業を展開する会社である「立山高圧工業」に対してM&Aを行いました。
手法は株式譲渡です。本M&Aは両社がお互いの業界についての知見が深かったことや、経営戦略に納得したことが成功の理由です。
5. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収価格の相場
中小規模の製造会社が売却側となるM&Aでは、「時価純資産+営業利益×2〜5年分」の金額が大まかな相場とされています。数年分の営業利益を加算する理由は、無形資産の価値(のれん代)を評価に加えるためです。
とはいえ、製造業(メーカー)のM&A価格は、製品自体の付加価値や技術力の高さ、優秀な技術者の存在なども影響します。近年は、ITを活用して生産性や安全性を高める、ITソリューションの導入が高いクオリティで構築されているかもM&A価格に大きく影響するようになってきました。
自社の企業価値評価を算出する方法
企業価値評価の算出方法として多く用いられるのが、DCF(Discount Cash Flow)法です。DCF法は、対象企業が将来生み出すと予測される収益を現在価値に修正し、現在の企業価値を算出する方法です。
しかし、景気に左右されやすいうえに、業界自体が大きな転換点を迎えている製造業(メーカー)の場合、DCF法だけで的確な企業価値を算出することは容易ではありません。実際には業界の将来を予測しつつ、いくつかの算定方法を複合して用いながら算出する必要があります。
6. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収における注意点
製造業(メーカー)がM&Aを成功させるための注意点を、売却側と買収側に分けて解説します。
売却側のポイント
売却側のポイントは、主に以下の5つです。
- M&Aの準備は計画的に行う
- 自社の強みや特徴を明確にしておく
- 希望する条件をはっきりしておく
- 交渉中は情報が漏れないようにする
- M&Aの専門家に相談する
M&Aの準備は計画的に行う
M&Aは会社を売却して終わりではなく、売却後も会社を大事に育ててくれる相手に売却する必要があります。そのためには、M&A計画の策定や企業価値の向上、売却相手の選定など、M&Aの準備を丁寧に行うことが必須です。
自社の強みや特徴を明確にしておく
製造業(メーカー)としての強み・特徴を明確にしておくことは、よい買い手と出会うことや、スムーズに交渉を進めることにつながります。M&Aを行う際は、自社の強みや特徴を磨いたり、内容をデータとしてまとめたりしておくなどの準備が大事です。
希望する条件をはっきりしておく
希望条件を明確にしておかないと、交渉の長期化や頓挫にもつながります。M&Aの専門家に相談しながら、譲れないラインや妥協ラインなどを明確にしておくことも大事なポイントです。
交渉中は情報が漏れないようにする
交渉中の情報漏えいはM&Aに影響を与えるだけでなく、経営にも影響を与えかねません。公開義務が生じるまで関係者に話さないようにしたり、厳格に秘密保持を行う専門家に依頼したりするなどの対策が必要です。
M&Aの専門家に相談する
M&Aには多くの準備や複雑な交渉などがあり、経営者にかかる負担は大きなものとなります。M&Aの専門家に相談しながら進めていくことで、少ない負担でM&Aを成功させることが可能です。
買収側のポイント
一方、買収側のポイントは、以下の3つが考えられます。
- デューデリジェンス(買収監査)を徹底する
- 適切な買収価格を検討する
- 経営統合(PMI)を入念に行う
デューデリジェンス(買収監査)を徹底する
M&Aにより買収する会社は、一見しただけではわからないリスクを抱えている可能性があります。デューデリジェンスは、M&A前に売却会社のリスクを知るため、ほとんどのM&A取引で行われるプロセスです。
会社のリスクには、簿外債務の存在、不当な契約、未払い残業代金などが存在します。そこで、デューデリジェンスは財務、法務、税務などといった複数の観点から行われることが一般的です。
デューデリジェンスは、会計士、税理士、弁護士などの専門家の協力を得て、慎重に行いましょう。
適切な買収価格を検討する
買収価格を決める方法は複数ありますが、売却会社の将来の期待収益にもとづいて決める場合には、シナジー効果の見積もりが重要です。買収会社がシナジー効果を見積もって、売却会社の事業計画をブラッシュアップすることで、より適切な買収価格を決定できます。
期待収益が低く、資産が多い会社の価格決定にあたっては、純資産法を用いることがあります。純資産額の場合には、デューデリジェンスの結果による数値変動に注意が必要です。
経営統合(PMI)を入念に行う
M&Aを成功させるには、対象企業の選定以上にM&A後の統合プロセスが重要です。M&A後の統合プロセスを、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)といいます。両社の人材、資産を統合し経営効率を高める作業です。
一般的には、両社のメンバーから成るチームを組成し、統合計画にもとづいて実行します。
7. 製造業(メーカー)のM&A・売却案件例
以下では、M&A総合研究所で手掛けている、製造業のM&A案件の事例を紹介します。
アウトドアグッズの製造・EC販売業
首都圏エリアで、社員20人以下のアウトドアグッズの製造・EC販売事業を展開する企業です。ECサイトでは、デザイン性と価格のバランスが評価されている自社ブランドだけでなく、海外ブランドの販売を行っています。海外の販路を生かし、自社ブランドの輸出も行っています。
譲渡理由は経営戦略の見直しで、M&A後、オーナーは経営にかかわらない予定です。本案件では、売上は2.5億円から5億円で、1,000万円から5,000万円程度の利益が出ています。
長年の業歴を持つ産業用機械製造業
関西エリアを中心に50年以上にわたり営業している産業用機械製造業が、事業承継目的で売却を検討しています。機械の種類はコーティングマシンです。他社との差別化は、製品設計から完成までの工程を一貫してマネジメントできる点が挙げられます。
社員数10名規模の会社ですが、売上は2.5億円から5億円、利益は1,000万円から5,000万円程度です。
射出成型用の精密金型製造
射出成形用の金型の製造に強みを持つ精密金型の製造業が、後継者不足による事業承継を目的に売却を検討しています。東北エリアに地盤を持つ、社員20名規模の会社です。工場には最先端の加工設備を保有しています。
売上は安定して3.6億円程度、実質利益は3,000万円台半ばです。新型コロナウイルスの影響で一時は落ち込んだものの、すでに回復が見込まれています。
8. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収を行う際におすすめの相談先
製造業(メーカー)がM&Aの相談をする場合、金融機関・公的機関・士業専門家などさまざまな候補があります。M&A仲介会社の場合は、準備段階からM&A後のフォローまで一貫したサポートが可能です。
中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、製造業(メーカー)のM&Aに精通したM&Aアドバイザーが専任に就いてフルサポートします。通常は半年~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月で成約するなど、機動力もM&A総合研究所の特徴です。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談は随時受け付けていますので、製造業(メーカー)のM&Aをご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
9. 製造業(メーカー)のM&A・売却・買収まとめ
本記事では、製造業(メーカー)のM&A・売却・買収をまとめました。製造業(メーカー)のM&A動向をみると、大手企業による中小規模の部品メーカーのM&Aが増加しているほか、IT化などの導入を行うための異業種M&Aがみられる点にも特徴があります。
製造業(メーカー)がM&Aを成功させるには、M&Aの準備は計画的に行うほか、自社の強みや特徴を明確にしておくなどのポイントに気をつける必要があります。
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