2025年07月10日更新
M&Aのクロージングとは?手続きの流れから必要書類、注意点まで徹底解説
M&Aの最終手続きであるクロージングは、経営権を移転させる重要な工程です。本記事では、M&Aにおけるクロージングの重要性や手続きの流れ、期間、必要書類、注意点までを網羅的に解説します。
目次
1. M&Aにおけるクロージングとは?
クロージングとは英語のclosingであり、直訳すると「終わり」「閉鎖」などの意味です。
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書に基づいてM&A取引が行われ、株式譲渡や事業譲渡による引渡しの手続きと支払い手続きを行った結果、経営権の移転が完了することをいいます。
この記事では、M&Aがクロージングするまでの手続き・流れ、クロージング条件について解説しますが、まずはM&Aにおけるクロージングの重要性、M&A手法によるクロージング手続きの違いを見ましょう。
M&Aではクロージングが重要
M&Aにおけるクロージングは、法律に基づいて手続きが行われる非常に重要な手続きです。クロージングが全て完了し、売り手側企業の経営権が買い手側企業へ正式に移行して、はじめてM&Aが成約します。
クロージング手続きを行うにあたって、漏れや不適格な事項があった場合は、法律的にM&Aの有効性を証明できなくなるため、十分注意しましょう。
M&A手法によりクロージング手続きは変わる?
M&Aは、株式譲渡や事業譲渡といった手法によってクロージング手続きが異なります。また、M&Aの相手探しからクロージングまでの期間も様々です。一般的には、交渉開始からクロージングまで半年から1年程度を要しますが、当事者間の交渉や許認可の取得状況によっては、さらに長い期間が必要になることもあります。
株式譲渡のクロージング
取締役会決議のみでM&Aを実行できるM&A手法(株式譲渡など)もあります。
株式譲渡を選んだ場合、売却側から買収側への株式の譲渡と、買収側からの株式代金における支払いがクロージングの内容です。株券発行会社、非上場でかつ株券不発行の会社、上場会社により、手続きは異なります。
~株式発行会社の場合~
M&A(企業の合併・買収)をする際、買収する会社が株券発行会社の場合、株式を売買するためには、株券の交付が必要です。そのため、契約の最終手続き(クロージング)では、株券の交付が含まれます。
また、株式を第三者に売る場合、売主名簿の書き換えが必要です。そのため、クロージングの際に、買主は売主から、株主名簿を書き換えるための書類(例えば署名済みの名義書換請求書)や、書き換え済みの株主名簿の写し(M&A対象会社の代表取締役の証明書付き)を受け取ることが一般的です。
~非上場でかつ株券不発行の会社の場合~
非上場かつ株券を発行していない会社では、株式の売買はお互いの同意だけで成立します。特別な手続きや株券の交付は必要ありません。
しかし、他の会社や第三者に対抗するために株式を売る場合は、株主名簿を書き換える必要があります。そのため、クロージングの際には、株主名簿を書き換えるための書類(例えば署名済みの名義書換請求書)や、書き換え済の株主名簿の写し(M&A対象会社の代表取締役の証明書付き)を売主から買主が受け取ることが重要です。
株券を発行している場合と比べて、この手続きは非常に重要です。
~上場会社の場合~
上場会社では、株主の権利の管理は証券保管振替機構や証券会社の口座を通じて電子的に行われます。この制度については、証券保管振替機構のHPで詳細を確認できます。
そして、上場会社の株式譲渡には、社債や株式等の振替に関する法律や証券保管振替機構の規定が適用されます。M&A対象会社が上場会社の場合、クロージングの際には、売主が振替申請を行う必要があります。
そして株式譲渡の効力は、買主の口座における保有欄に、対象株式の数の増加の記載や記録を受けることによって生じます。
事業譲渡のクロージング
事業譲渡では、効力発生日にすべての手続きが完了するわけではありません。事業に関連する資産や負債、従業員との契約、取引先との契約などを個別に移転させる必要があり、それぞれ関係者の同意を得なければならないためです。全ての同意をクロージング日までに得ることは実務上困難な場合が多く、手続きが長期化する傾向にあります。
買い手側から売り手側に対価は支払われますが、対価の支払いは重要な契約の移管が前提条件のこともあるでしょう。いずれにしても、M&A手法として事業譲渡を選ぶと、クロージングで法律において必要な手続きはありません。事業譲渡のクロージングは、資産の譲渡や契約の移管などのための手続きが行われるといえます。
合併、会社分割、株式交換・株式移転のクロージング
合併には吸収合併と新設合併があり、吸収合併の対価が現金であれば、クロージングの手続きとして現金の払い込みを行います。新設合併では、クロージングの際、設立登記における申請の手続きが必要です。
株式交換で対価が現金の場合は、クロージングとして現金の払い込みが実施されます。株式移転のクロージングでは、設立登記における申請の手続きが必要です。
~合併の場合~
合併には、吸収合併と新設合併の2つがあります。
- 吸収合併
- 新設合併
吸収合併とは?
会社が他の会社と合併する際に、消滅する会社の権利や義務を合併後に存続する会社が引き継ぐことを言います。
新設合併とは?
2つ以上の会社が合併して、消滅する会社の権利や義務を新たに設立した会社が引き継ぐことを言います。
吸収合併では、合併契約に定めた効力発生日に合併が実行されます。株式を対価とする場合、消滅する会社の株主に対して、存続する会社の株式が交付されます。特別な手続きは必要ありませんが、前提条件を満たす必要があります。
現金を対価とする場合、クロージングの際に現金を支払います。売主と買主は、この手順を最終契約で決めることができます。
一方、新設合併では、現金を対価とすることはできません。消滅する会社の株主には、新たに設立した会社の株式が交付されます。合併の効力は、新設会社の設立登記によって発生します。仮に効力発生日を定める場合は、法務局の営業日をクロージングの日とし、登記を行う必要があります。
最後に、最終契約で規定した効力発生日は、会社法上の効力発生日ではないことに注意してください。新設合併の効力は、設立登記によって生じます。登記は一定日以内に行う必要があります。
~会社分割の場合~
会社分割には、吸収分割と新設分割の2種類があります。
- 吸収分割
- 新設分割
吸収分割は、ある会社が持っている権利や義務の一部または全部を分割して、他の会社に引き継がせることです。一方、新設分割は、ある会社が持っている権利や義務の一部または全部を分割して、新しく会社を設立してそれを引き継がせることです。
吸収分割では、分割の効力発生日に吸収分割契約によって定められた効力が発生します。対価が株式の場合は、承継会社から分割会社に株式が交付されます。この場合、特別な手続きは必要ありませんが、最終契約に規定した条件が満たされたら、吸収分割の効力が発生します。対価が現金の場合は、クロージングで現金が払い込まれます。
一方、新設分割では、新設会社の設立登記によって分割の効力が発生します。対価として新設会社の株式が交付されるのが一般的ですが、会社法上は現金を対価とすることも可能です。新設分割のクロージングとしては、設立登記の申請が必要であり、登記がない場合は効力が生じません。
最終契約に効力発生日を規定しても、効力は新設会社の設立登記によって生じるため、一定日以内に登記が行われる必要があります。
~株式交換・株式移転の場合~
株式交換は、ある会社が発行した全ての株式を別の会社や合同会社に譲渡することを言います。株式移転は、ある会社が発行した全ての株式を新しく設立された会社に譲渡することを言います。
株式交換では、株式交換契約によって効力発生日が規定されます。株式を対価とした場合、譲渡元の会社から譲渡先の会社の株主に対して株式が交付されます。特別な手続きは必要ありませんが、最終契約に定められた条件を満たす必要があります。現金を対価とした場合、クロージングで現金を支払います。
一方、株式移転では、新設会社の設立登記によって効力が発生します。対価は新設会社の株式が交付されるのが一般的ですが、会社法上は現金を対価とすることも可能です。クロージング手続きとして設立登記の申請が必須であり、この登記が完了するまで効力は生じません。
最終契約で効力発生日を規定したとしても、新設会社の設立登記が必要です。この登記は一定期間以内に行われなければなりません。
M&Aのクロージングにかかる期間
一般的に、最終契約(DA)の締結からクロージングまでは、一定の期間を設けます。この期間は「クロージング期間」と呼ばれ、実務上は1ヶ月から数ヶ月、場合によっては1年以上かかることもあります。
これは、独占禁止法に基づく届出や許認可の再取得といった法令上の手続きや、デューデリジェンスで発見された課題の解決など、クロージングの前提条件を充足させるために時間が必要だからです。
2. M&Aの検討開始からクロージングまでの8ステップ
M&Aがクロージングするまでの手続き・流れはどのようになっているのでしょうか。ここでは、一般的なクロージングの流れを見ましょう。
【M&Aがクロージングするまでの手続き・流れ】
- 専門家への相談
- 企業価値評価
- M&A先の選定・交渉
- トップ同士の面談
- 基本合意の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終合意の締結
- クロージング
①専門家への相談
M&Aからクロージングまでの手続きには、専門的な知識が必要となるものが多いため、一般的にはM&Aの専門家におけるサポートのもとで進めます。
よく利用されるのはM&A仲介会社であり、M&Aの相手先探しからクロージングまでの一括支援が受けられる点が特徴です。まずは、M&Aの専門家にサポートを依頼して、具体的にどのようにM&Aを進めていくのかを決めます。
②企業価値評価
企業価値評価とは「エンタープライズ・バリュー」とも呼ばれ、企業そのものの価値や株式の価値のことです。企業価値評価は、売り手企業の譲渡価格の基準となるため、専門家に算出を依頼するのが一般的です。
主な企業価値評価の方法には、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3つがあり、これらを組み合わせて算出します。
③M&A先の選定・交渉
M&A仲介会社に依頼した場合は、自社の希望条件を伝えましょう。候補先企業を何社かリストアップしてくれるため、そのなかから交渉先候補を絞ります。
候補が絞ったら、「ノンネームシート」と呼ばれる匿名の会社概要を候補先業へ提示し、交渉へ進むかを検討してもらいます。M&A先を選定する際は、専門家に相談したうえで必要な情報を共有しながら検討してください。
④トップ同士の面談
M&A先の選定を行い交渉先の企業が決まり、ある程度交渉が進んだ段階でトップ同士の面談を行います。トップ同士の面談は、経営者同士が互いの人間性を知る機会でもあり、疑問に感じていることを直接質問できる機会でもあります。
譲渡先企業へのアプローチをある程度行っているため、条件に関しては大まかに決まっていますが、経営理念などの確認などもできる重要な工程です。
⑤基本合意の締結
トップ同士の面談が終わり、売り手側企業と買い手側企業がM&Aを行うことに大筋で合意したら、基本合意所の締結を行います。基本合意所に記載される内容は、取引の対象と価格・使用するM&Aスキーム・M&Aを実際に行う時期・独占交渉権の付与などです。
基本合意はいわば仮契約であり、次に行われるデューデリジェンスの結果によって、条件や取引価格が変更することもあります。基本合意書は一部の内容を除き法的な拘束力はないため、注意が必要です。
⑥デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは企業調査のことをさし、M&Aでは買い手側企業が売り手側企業に対して行うものです。
売り手企業が提出した財務や労務などの資料に相違がないか、専門家が細かく調査を行います。デューデリジェンスには、財務・税務・法務・人事・ITなどさまざまなものがあり、これらのいくつかを行うのが一般的です。
株式譲渡のような包括承継が原則となるスキームでは、簿外債務や偶発債務などがないかを徹底的に調査し、リスク回避に努めます。
売り手企業は、買い手側からデューデリジェンスに必要な資料の提出を求められた場合、誠実に対応する義務があります。不利な情報を意図的に隠蔽すると、表明保証違反として契約解除や損害賠償請求に繋がるリスクがあります。円滑なM&Aのためにも、正確な情報開示を心がけましょう。
⑦最終合意の締結
デューデリジェンスを実施した結果、売り手企業に問題がなく双方がM&Aの実施に合意したら、最終条件が決定して最終合意所の締結を行います。
最終合意書の締結には、事業や株式などM&Aで譲渡する内容・譲渡価格を記載しなければなりません。条件や取引価格はデューデリジェンスの結果を加味して、最終的に決定します。
最終合意書は基本合意書とは異なり、全ての内容に法的な拘束力があります。正式に締結したあとに一方的に破棄することがあれば、損害賠償を請求される可能性があるでしょう。
最終合意書の締結にあたっては、専門家とともに内容をしっかり確認したうえで、行ってください。
⑧クロージング
M&Aにおいてクロージングは最後の手続きとなり、最終契約の内容を基に売却側の経営権を買い手会社に移転させ、それに伴う対価の支払いを完了させます。
M&Aの最終契約締結からクロージングまでは、クロージング条件を満たすために必要な手続きもあるため、一定期間を空けるのが一般的です。
3. クロージング前後の「プレ・ポストクロージング手続き」とは
M&A(企業の合併・買収)においては、クロージング(契約締結)後の手続きが重要なポイントです。クロージング前には、デューデリジェンス(事業評価)が実施され、契約書が作成されますが、それらはあくまで取引の前段階であり、実際のM&Aはクロージング後のプレ・ポストクロージング手続きから始まります。
本章では、M&Aのプレ・ポストクロージング手続きについて、詳細に解説していきます。
プレクロージング
最初に、プレクロージングを見ましょう。
クロージングにおける準備が、プレクロージングです。売却側と買収側における合意により実施し、最終契約の規定をしないこともあります。クロージングの前日や数日前に行うのが一般的です。
プレクロージングでは関係者が参加し、クロージングでチェックする事項が書かれたリストを用いて行います。
ポストクロージング
次に、ポストクロージングを見ましょう。クロージングの後に行う義務付けられた手続きが、ポストクロージングです。手続きは、下記の内容になります。
- 株主総会や取締役会で必要な決議を得る
- クロージングしてからの誓約事項の実施
- 財務諸表の作成
- 対価の調整、など
対価の調整では、対象会社における将来の業績などに関して買収側と売却側の意見が合わない場合などに、アーンアウト条項を用いるケースもあるでしょう。
4. クロージング後の流れとPMIの重要性
M&Aはクロージングしたら全て完了ではなく、クロージング後は総合プロセスを行う必要があります。統合プロセスは非常に難易度が高く、M&Aの成否を分けるといっても過言のない行程です。ここでは、M&Aのクロージング後の流れを見ましょう。
統合プロセスの実施
統合プロセスとは買収や合併の後に行われるもので、PMI(ポスト・マネジメント・インテグレーション)ともいいます。統合プロセスは大きくソフト面とハード面に分かれます。
総合プロセスにおけるソフト面について
ソフト面の総合プロセスでは、企業文化や風土などについての統合・浸透を行うために、新体制の発表や目標の提示などを行いましょう。
M&Aを行うと、買い手側の従業員が上の立ち場になってしまうことが多いですが、双方のキーパーソン同士で認識などをすり合わせるなどして、お互いの理解を深めていくことが重要です。
総合プロセスにおけるハード面について
ハード面の総合プロセスとは、業務・人事制度・システムなどの統一を行うことをいい、そのなかでも業務プロセスは慎重に進める必要があります。
人事制度や退職金制度などに関しては会社によって大きく異なる可能性があり、格差や不満などが生じやすくなるため、注意が必要です。今まで以上により効果を高めるために、双方のよいところを積極的に取り入れることも重要です。
5. M&Aクロージングにおける売買双方の必要書類
M&A(企業の合併・買収)において、クロージング(契約締結)前には、多くの書類が作成され、それらが正確かつ完全であることが重要です。クロージング時には、これらの書類が必要となります。
本章では、M&Aのクロージングに必要な書類について、売却側と買収側に分けて詳細に解説していきます。
売却側の必要書類
最初に、売却側の必要書類から見ましょう。
- 会社実印押印の株主名簿写し
- 株式譲渡に関する名義書換の委任状と印鑑証明書、または名義書換済の株主名簿写し
- 株式譲渡承認申請書、株式譲渡承認書(譲渡する株式が譲渡制限株式の場合)
上記にプラスして、売却側の表明補償事項がクロージングで真実であり正確である、クロージングまでに売却側が行うべき義務を行っていることを証明する書類があれば、それが必要なこともあります。
買収側の必要書類
次に、買収側の必要書類を見ましょう。
- クロージング書類の受領書
- 印鑑証明書
- 登記事項証明書
クロージング書類の受領書は、売却側から必要な書類を授受したことを証明します。印鑑証明書は、印鑑が買収側のものであることを証明する必要書類です。登記事項証明書は、買収側の登記事項を示します。
6. PMI(経営統合プロセス)の具体的な内容と注意点
そもそもですが、M&Aのクロージング後に行うPMIとはどういうものなのか解説します。
PMIとは
PMIとは、ポストマージャ―インテグレーション(post-merger integration)の略語で経営統合手続きのことを指します。
M&Aの目的は統合効果を発揮することにあるという考えから、PMIは非常に重要な手続きです。クロージングが完了しないとPMIはできないということはありませんので、M&Aの最中にもPMIを適宜行っていくべきです。
PMIの内容
PMIの内容としては3つあります。
- 最終契約の交渉・締結からクロージングまでのPMI
- クロージング後の数か月間から中期経営計画の策定までのPMI
最終契約の交渉・締結からクロージングまでのPMI
まずは、最終契約の交渉・締結からクロージングまでのPMIです。
統合に関する方針を整理する必要があり、以下の経営統合において手続きが異なることをまずは理解しましょう。
- 連邦型統合
- 支配型統合
- 吸収型統合
共通して、最終契約の交渉を行うなるべく早めの段階でPMIを行いましょう。
クロージング後の数か月間から中期経営計画の策定までのPMI
続いて、クロージング後の数か月間から中期経営計画の策定までのPMIです。
クロージング後の数ヶ月間にわたり行われる統合手続きは「ランディングプラン」といわれます。「ランディングプラン」は以下の作業が含まれます。
- 組織や人員配置の調整
- 職務分掌や決済権限などの調整
- 定款の変更
- 規定・業務ルールの調整
- M&A対象企業の役員人事
PMIを行う上での注意点
PMIを成功させるための注意点は、現実的かつ詳細な「統合計画とスケジュールの策定」です。
PMIは多くの部署が関与し、想定外の問題も発生しやすいため、計画通りに進まないことが少なくありません。優先順位を明確にし、定期的な進捗確認を行う体制を構築することが、計画の完遂に繋がります。
7. クロージングの前提となる「クロージング条件」
クロージング条件とは、M&Aを実施するために厳守すべき条件をいい、条件を満たさない限りクロージングは行えません。
クロージングを行う際は、必要な条件を全て満たしたうえで、売り手企業から買い手企業へ、株式や資産など対象となるものが移行されます。その後、買い手側企業から売り手側企業へ対価が支払われ、クロージングを迎えます。
クロージング条件が満たされなかった場合は、M&A取引を実行しなかったり、クロージング条件を変えなければならなかったりする可能性があるでしょう。
8. クロージング条件を設定する際のポイント
クロージング条件を決める際の注意点はさまざまですが、ここでは下記の2点を解説します。
- クロージングの価格調整を盛り込むようにする
- 具体的なクロージング条件を入れるようにする
クロージングの価格調整を盛り込むようにする
最終契約締結日からクロージング日までの間に、対象会社の企業価値は変動する可能性があります。この変動リスクに備え、取得対価を調整する条項(価格調整条項)を盛り込むことが一般的です。例えば、クロージング日の純資産額や運転資本を基準に価格を調整する方法があり、これにより公平な取引を実現します。
具体的なクロージング条件を入れるようにする
最終契約書のクロージング条項に具体的な内容を入れておくと、クロージングを円滑に進めやすくなります。クロージング条項には、主に以下の内容を盛り込みます。
- 正しい表明・保証事項が記載されている
- クロージングが行われるまでに前提条件を満たしていること
- 業務上の許認可の取得が終わっていること
- 独占禁止法による届出が終わっていること
- 重要な取引先や役員から同意を得ていること
クロージング条件の具体例
ここでは実際にクロージング条件を検討する場合の、具体例について説明していきます。
- MAC条項
- 瑕疵の治癒
- キーマン条項
- M&Aの事前準備行為
- 関係法上要請される手続き
MAC条項
MACとは、Material Adverse Changeの略です。MAC条項は、M&A対象会社の財政状態などに重大な悪影響を及ぼす変化がないことを、クロージング条件として定める条項です。
この「重大な悪影響」の範囲は問題となることが多いので、売主と買主とで具体的に話し合うことが望ましいです。
瑕疵の治癒
瑕疵の治癒とは、契約締結後に発覚した売り手が保証した内容に欠陥があった場合に、それを買い手が指摘し、売り手がその欠陥を修正することを指します。この場合、買い手は瑕疵の発見後一定期間内に売り手にその旨を通知する必要があります。
売り手は、買い手が指摘した欠陥を調査し、修正することで、条件を満たすようになります。なお、瑕疵の治癒については、売り手と買い手が契約書で事前に取り決めておくことが一般的です。
キーマン条項
キーマン条項とは、M&A対象会社の特定の役員・従業員がクロージング後もM&A対象会社に継続して従事する意思があることを、買主がクロージング条件として確認する条項です。
特定の役員・従業員が重要なノウハウや経験を持っている場合、買主はその保持を望むことがありますが、売主がそれを拒否するケースも少なくありません。
M&Aの事前準備行為
M&Aの事前準備行為とは、M&A契約を完了するために必要なクロージング条件を満たすために、M&Aを実施する前に行うべき準備行為のことです。M&Aの事前準備行為には、以下のようなものがあります。
- 目的と戦略の明確化
- デューデリジェンス
- 法務的調査
- 契約交渉
- 資金調達
目的と戦略の明確化
M&Aを行う目的と戦略を明確にすることが重要です。M&Aを行うことで、どのような目的を達成し、どのような戦略を実行するのかを決定する必要があります。
デューデリジェンス
M&Aを行う前に、対象企業の財務状況や事業戦略、知的財産などについて、詳細な調査を行う必要があります。これをデューデリジェンスといいます。デューデリジェンスにより、対象企業の実力や課題を把握することができます。
法務的調査
M&Aを行う前に、対象企業の法的問題や契約内容などについて調査を行う必要があります。これを法務的調査といいます。法務的調査により、対象企業が抱える法的リスクを把握することができます。
契約交渉
M&Aの契約を締結する前に、契約内容について交渉を行う必要があります。契約内容には、価格や支払い条件、保証内容、約束事項などが含まれます。
資金調達
M&Aに必要な資金を調達する必要があります。資金調達には、自己資金や借入資金などがあります。
これらの事前準備行為を適切に実施することで、M&Aのクロージング条件を満たすことができ、M&A契約を完了することができます。
関係法上要請される手続き
これも必要な手続き全般を指します。M&Aのクロージング条件における、関係法上要請される手続きには以下のようなものがあります。
- 競争法に関する手続き
- 金融商品取引法に関する手続き
- 税務に関する手続き
- 企業法務に関する手続き
競争法に関する手続き
M&Aにより、市場競争が歪曲される可能性がある場合、競争法の規制を受けることがあります。この場合、M&Aを行う前に、関係当局に対して競争法の申告手続きを行う必要があります。
金融商品取引法に関する手続き
金融商品取引法に基づく内部管理体制の整備、取引報告書の提出、および株式公開買付けに関する手続きが必要になる場合があります。
税務に関する手続き
M&Aにより、税務上の影響が生じる場合、税務手続きが必要になります。具体的には、贈与税や相続税、法人税などがあります。
企業法務に関する手続き
M&Aにより、企業法務上の影響が生じる場合、企業法務手続きが必要になります。具体的には、株主総会の承認、会社法に基づく手続き、役員人事の届出などがあります。
これらの手続きは、M&A契約のクロージング条件を満たすために必要なものであり、適切に実施することがM&A契約の完了に不可欠です。
9. M&Aクロージングが失敗する3つの原因と回避策
M&Aの最終契約を締結しても、クロージングに至らずに破談となるケースも存在します。ここでは、クロージングが失敗する主な原因と、それを回避するためのポイントを解説します。
原因1:前提条件(クロージング条件)が未充足
最終契約書に定められた前提条件(クロージング・コンディション)を、クロージング日までに満たせないケースです。例えば、事業に必要な許認可の再取得が間に合わない、重要な取引先から契約継続の同意が得られない、などが該当します。
【回避策】
デューデリジェンスの段階で必要な条件を網羅的に洗い出し、達成可能かを見極めることが重要です。また、現実的なクロージング期間を設定し、双方で進捗を密に確認する体制を整えましょう。
原因2:表明保証違反が発覚
売り手が最終契約書で保証した内容(表明保証)が、事実と異なっていたことがクロージング前に発覚するケースです。例えば、開示されていなかった簿外債務や訴訟リスクが見つかった場合などが挙げられます。内容が重大であれば、買い手は契約を解除できます。
【回避策】
売り手は、デューデリジェンスに対して誠実かつ正確な情報開示を行うことが絶対条件です。買い手は、デューデリジェンスを徹底し、少しでも疑義があれば解消されるまで追及する姿勢が求められます。
原因3:MAC(重大な悪影響)条項の発動
MAC(Material Adverse Change)条項とは、最終契約締結後からクロージングまでの間に、対象会社の事業や財政状態に「重大な悪影響」が生じた場合に、買い手が取引を中止できる権利を定めたものです。天災やパンデミック、大規模なシステム障害などがこれに該当する可能性があります。
【回避策】
MAC条項の適用範囲は、契約交渉における重要な論点です。どのような事象を「重大な悪影響」と見なすか、具体的かつ明確に定義しておくことで、将来の紛争リスクを低減できます。
10. M&Aのクロージングは専門家への相談が不可欠
M&Aを行うためにはさまざまな手続きを行わなければならず、専門的知識や経験も必要です。自社のみで行わずに、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。
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11. M&Aがクロージングするまでの手続き・流れまとめ
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書に基づいてM&Aが行われ、株式譲渡や事業譲渡による引渡しの手続きと支払い手続きを行った結果、経営権の移転が完了することです。
クロージングは、法律に基づく手続きが行われます。クロージングが全て完了することにより、売り手側企業の経営権が買い手側企業へ正式に移行して、はじめてM&Aが成約します。
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