M&Aにおける「のれん」とは?仕組み、償却期間、会計処理をわかりやすく解説

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取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

のれんはM&A時に資産計上され、償却期間を通じた費用計上や減損を行うことが会計基準で定められています。のれんは、会社買収の基礎的な項目で、M&A時の会計処理を理解することが重要です。会社買収の基礎知識であるのれんの取り扱いを解説します。

目次

  1. M&Aにおける「のれん」とは?わかりやすく解説
  2. M&Aと「のれん」の関係
  3. 「のれん」の減損処理
  4. 日本会計基準を用いた「のれん」の会計処理
  5. 国際会計基準(IFRS)を用いた「のれん」の会計処理
  6. M&Aにおける「のれん」に関する税務
  7. 売却側から見たM&Aにおける「のれん」
  8. M&Aにおいて「のれん減損」が発生する理由
  9. M&A前に考える「のれん減損対策」
  10. M&A後に「のれん」が問題となった事例
  11. M&Aにおける「のれん」まとめ
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1. M&Aにおける「のれん」とは?わかりやすく解説

M&Aとは合併買収といった組織再編のための手法であり、簡単にいえば、ある企業が別の企業を購入する取引です。日本では少子高齢化の時代背景もあり、事業承継や事業規模拡大のためなど、さまざまな理由でM&Aを実行するケースが増加しています。

増加傾向にあるM&A取引の報道などで、よく見かけるワードの1つが「のれん」です。買収側にとって、のれんはM&A後も自社の会計に影響を及ぼすので、適切な理解が必要になります。まずは、のれんの基礎的な内容を確認しましょう。

のれんとは?その由来を解説

のれんとは、会計基準で定義された用語です。企業における歴史の中で確立してきたブランド力、信用力、顧客との関係などを表すもので、お店の軒先に掲げられる暖簾(のれん)に由来します。

お店や企業にとっての看板という、過去からの歴史の中で築き上げた信頼や、他の企業に比べた収益力の高さである超過収益力を含む、目に見えない資産を表すものとして会計上の専門用語で使用されるようになりました。

のれんは、建物などの固定資産とは異なり、実物がなく目に見えない資産であることから無形資産の1つとして扱われます。

のれん償却とは?

のれんは、無形固定資産として会計処理することが定められています。特許権やソフトウエアなども無形固定資産です。無形固定資産は減価償却することになっており、会計上では機械や工場などと同様に見なされます。

のれんの価値は、ずっと続くものではありません。したがって、機械などと同様に、のれんの取得費用を一定期間の中で減価償却することが定められているのです。

負ののれんとは?

通常、のれんは資産として認識されますが、負債として認識される「負ののれん」もあります。具体的には、買収価額から売却側企業の時価純資産額を引いた結果がマイナスの数値である場合があります。

負ののれんがあるということは、割安な取引なので買い手にはありがたい状況です。ただし、割安であることには理由があります。

たとえば、将来のリストラ計画や会計処理されていない簿外債務などが発覚したため、買収価額が割り引かれているのです。

負ののれんの会計処理は、負債計上して償却するわけではなく、一括で全額収益計上します。通常ののれんが将来の一定期間に渡って影響を及ぼすのに対し、負ののれんは買収時における年度の収益に影響を与えます。

損益への影響も大きく変わるため、通常ののれんと負ののれんで会計処理が異なる点は、頭に入れておきましょう。

【関連】負ののれんとは?わかりやすく解説!仕訳、税務処理はどうなるの?

2. M&Aと「のれん」の関係

M&Aは合併・買収という組織再編の手法です。買い手が売り手の企業・事業を購入し、売り手企業からすると買い手に企業を売却する形式を取ります。つまり、企業や事業の売買契約です。したがって、M&Aの実行に際しては、買収価額が最も重要なポイントです。

通常のM&Aでは、買収価額は売却側企業における資産・負債の価値と将来の収益予測に基づき算定します。すでに保有している資産・負債の価値は、個々でも市場で売買が可能なケースが多いため、市場価格なども参考に時価で会計処理するのが常です。

一方、将来の収益予測に基づき反映される価値は、売り手と買い手の協議により決定します。その際に、売却側企業の時価純資産額と買収価額の間に生じる差額がのれんです。

のれんのM&Aでの計算方法

のれんは以下の計算式で算出できます。

  • のれん=買収価額-売却側企業の時価純資産額

買収価額

M&A時の買収価額の算定方法には以下の3体系があります。

  • 売り手の純資産額をベースにした「コスト・アプローチ」
  • 将来獲得される収益をベースにした「インカム・アプローチ」
  • 他社事例を参考にした「マーケット・アプローチ」

実務上は、これらの方法を複合的に用いて計算します。売却側企業をM&Aで取得したことによるシナジー効果など、将来の収益状況が加味されて買収価額が決定されるので、単純な売却側企業の時価純資産とは異なる金額となるのです。

売却側企業の純資産

純資産には、時価に置き換えられるものとそうでないものがあります。株式・債券・投資信託などの金融商品や不動産などが時価に置き換えられる純資産です。それ以外の時価に置き換えられない純資産は、簿価のまま計算します。

のれんの財務諸表での取り扱い

実施されるM&Aスキーム(手法)によって、財務諸表におけるのれんの仕訳は異なります。大別すると株式譲渡・株式交換などのケースと、合併などのケースです。

株式譲渡・株式交換などを採用するケース

株式譲渡・株式交換などのケースとは、売却側企業が買収側企業の子会社になるケースです。この場合、買収側企業の単体財務諸表では子会社となった企業の株式を取得したことが計上されるだけで、のれんは計上しません。

ただし、子会社の会計データを含める連結財務諸表ではのれんを計上しなければなりません。

合併などを採用するケース

買収側による売却側企業の合併とは、吸収合併をさします。この場合、売却側企業の会計情報を全て取り込むので、買収側の単体財務諸表にのれんを計上するのが必定です。

ほかに子会社がいて連結財務諸表を作成する場合には単体財務諸表と同様ののれんを計上します。

取扱い上の留意点

以上のように、用いるM&Aスキームによって、単体財務諸表にのれんを計上するケースとしないケースがあること、また、連結財務諸表ではいずれにしてものれんを計上することをよく理解しておきましょう。

のれんの仕訳を行う方法

のれんの仕訳の実例を、以下の前提条件で説明します。

  • 売却側企業:資産2,000、負債1,400、純資産600
  • 買収側企業:資産4,000、負債2,400、純資産1,600
  • 取得対価:1,000

株式譲渡・株式交換などを採用するケース

単体の帳簿では以下のように仕訳します。

借方 貸方
子会社株式 1,000 現金    1,000

その結果、単体の貸借対照表は以下のようになります。
資産  4,000 負債 2,400
  純資産 1,600

連結の帳簿では以下のように仕訳します。

借方 貸方
純資産    600 子会社株式 1,000
のれん 400  

その結果、連結の貸借対照表は以下のようになります。
資産  5,000 負債 3,800
のれん 400 純資産 1,600

合併などを採用するケース

単体の帳簿では以下のように仕訳します。

借方 貸方
資産    2,000 負債 1,400
のれん 400 現金 1,000

その結果、単体の貸借対照表は以下のようになります。
資産  5,000 負債 3,800
のれん 400 純資産 1,600

今回の前提条件としては、合併の場合において連結での仕訳は特に生じません。したがって連結の貸借対照表は、単体の貸借対照表と同様になります。

仕訳の留意点

M&Aスキームによって単体での仕訳内容には違いがあるものの、最終的な連結の貸借対照表の内容はM&Aスキームによる差異は生じないことを理解しておきましょう。

【関連】株式交換の仕訳・会計処理まとめ!のれんはどう処理するの?
【関連】吸収合併の仕訳・会計処理を解説!のれんはどうなる?【会計士監修】

3. 「のれん」の減損処理

ここでは、のれんの減損処理に重大な影響を持つ会計基準ついて解説します。

IFRS(国際財務報告基準)とは?

日本で会計処理の話をする場合、一般的に日本の会計基準が前提です。日本基準は、日本で活動する企業の大半が採用している会計基準で、日本独自の会計基準として設定されています。

一方、海外にはIFRSという国際的な会計基準が存在します。IFRSは、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)の略で、日本とアメリカを除く多くの国で採用されている会計基準です。

企業活動のグローバル化や海外投資家の増加といった背景もあり、日本でも少し前から、上場企業を中心にIFRSを採用する会社が増加しています。IFRSの存在感が、年々大きくなっているといえるでしょう。

IFRSと日本基準は、いずれも会計基準です。日本基準がIFRSの考え方を取り入れていることもあり、多くの点で共通した会計処理が設定されています。しかし、両者には前提となる考え方が違うことを要因として、いくつかの異なる論点が存在します。

取り扱いが異なる論点にはのれんの会計処理も含まれているのです。

日本会計基準とIFRS(国際財務報告基準)の違い

ここで、日本会計基準とIFRS(国際財務報告基準)の違いを詳しく見ていきましょう。

IFRSはのれんの減価償却はしない

IFRSでは、のれんは資産計上されますが、償却を行いません。そのため、貸借対照表に資産として計上され続けます。その代わり、少なくとも年に1回は減損テストを実施してのれんの価値を客観的に検証し、計上された価値よりかなり下がった場合は減損処理を行う決まりです。

日本会計基準(のれん償却)のメリット

日本会計基準(のれん償却)のメリットは、のれんの価値が継続しないことを決算書に反映できる点です。のれんの価値が著しく下がり、減損処理を行わなければならないケースでは、一気に多額の損失が計上され、損益が予算から外れます。

のれんの価値が減ることを見込んで償却すると、減損処理を実施する可能性が下がります。つまり、予算から大きく外れない経営が実現するのです。また、のれん償却は減損テストほど事務処理の手間がかかりません。

IFRS(のれん非償却)のメリット

IFRS(のれん非償却)のメリットは、のれん償却費の負担がない点です。のれん償却費は、販売費および一般管理費に計上されます。そのため、営業利益が圧迫されるのです。買収した会社がスムーズに利益を上げ続ければ問題ありません。

しかし、利益がのれん償却費より下がると、営業利益と利益率が悪化します。これは、大型M&Aを実施する多くの日本企業がIFRSに移っている理由です。ただ、買収した会社が予想どおりに利益を上げられない場合、IFRSでは減損処理が必要になります。

IFRSののれん処理の今後

IFRSは2021(令和3)年3月時点では、のれんの会計処理を見直し、償却の義務付けを検討しています。したがって、IFRSを活用している企業は会計処理が変更となるかもしれず、その場合は多大な影響が避けられません。

減損テストとは?

M&A時に識別されたのれんは資産として計上されます。その後、計上されているのれんの価値が残っているかどうか定期的に検討を行い、価値が棄損している場合は減損処理、つまり資産の評価を下げる処理を行います。これが「減損テスト」です。

IFRSでは、減損の兆候有無にかかわらず、減損テストを少なくとも年に1回実施しなければなりません。日本基準を前提とした場合とIFRSを前提とした場合で、のれんは取り扱いが異なるため、毎期の計上額が異なる可能性がある点に注意が必要です。

【関連】のれんの減損とは?償却との違いや株価への影響、税務を解説【事例あり】

4. 日本会計基準を用いた「のれん」の会計処理

ここでは、日本会計基準でののれんの会計処理について、具体的な説明を記します。

のれんの償却期間と仕訳方法

日本基準でののれんの会計処理は、資産計上のうえ規則的に一定の償却を行います。のれんは徐々にその価値が減少する前提に立った会計処理です。具体的には、のれんの計上後、20年以内の一定年数で均等償却します。

「20年以内の期間を何年とするか?」については、各企業における判断です。経営者が想定する期間や投資回収を想定する期間を見積もったうえで、償却期間は決定されます。たとえば、M&Aに関する投資を10年で回収すると想定している場合、のれんの償却期間は10年です。

負ののれんの計上

負ののれんの場合は、通常ののれんとは違った会計処理です。償却処理はせず、特別利益として一括計上することになっています。

具体的な仕訳のイメージ

以下の前提条件で、のれんの仕訳例を見てみましょう。

  • のれん計上額:1,000
  • 償却期間:10年
 
1期における仕訳は以下のようになります。
借方 貸方
のれん償却費 100 のれん    100
10期の間、上記と同様の会計処理を行っていくことになります。

回収困難となったら「のれんの減損処理」を実行する

回収困難、つまり、事業計画の未達による赤字状態に陥っているようなケースでは、のれんの減損処理を行うことになります。のれんの減損処理を判断するには、以下の3段階のプロセスを経るのが条件です。

  1. 減損の兆候の把握
  2. 減損損失の認識
  3. 減損損失の測定

減損の兆候は主に以下のとおりです。
  • 事業損益またはキャッシュフローが継続して赤字
  • 使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化
  • 経営環境の著しい悪化
  • 資産の市場価格の著しい下落

減損の兆候を把握した場合、減損損失の認識プロセスに移行し、割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回るどうか確認します。下回っていた場合には減損損失の測定プロセスへ移行し、回収可能額を算出しなければなりません。

算出した回収可能額を超えているのれんの残額分を減損損失として計上します。

【関連】減損処理とは?減価償却との違いやメリット、計算方法を解説【事例あり】

5. 国際会計基準(IFRS)を用いた「のれん」の会計処理

国際会計基準におけるのれんの会計処理についても確認しておきましょう。

のれんの償却はしない

国際会計基準では、のれんの償却処理は行いません。会計上に費用計上がないため、日本会計基準のように営業利益を減らすことにはならない特徴があります。

減損テストを毎年行う

国際会計基準では、のれんの償却処理をしない代わりに、毎年必ず減損テストを行わなければなりません。減損テストとは、のれん計上された事業の価値をDCF法で算出し、その事業の簿価と比較して減損の有無をチェックすることです。

減損が発生していれば、回収可能額を上回る金額分を減損損失として計上することになります。減損テストの実施時期は、毎年同じ月に行うのであれば決算月でなくてもよいです。

【関連】M&Aの会計|仕訳(会計処理)の全体像、のれんの取扱いをわかりやすく解説

6. M&Aにおける「のれん」に関する税務

会計におけるのれんと税務におけるのれんは、全く別の扱いになります。会計は会社法、税務は税法というふうに、それぞれを規定している法律が異なるからです。税法上で資産調整勘定と呼ばれる、のれんの税務に関して説明します。

税務でのれんに該当するもの

各企業は個別に法人税を課されるのが税法の基本です。企業グループの連結決算に対して課税されることはありません。したがって、株式譲渡・株式交換などのM&Aスキームを実施した場合、単体の財務諸表にのれんは計上されないので、税務も発生しないことになります。

その一方で事業譲渡や合併などのM&Aスキームを実施した場合、単体の財務諸表にのれんが計上されるので、法人税の課税対象です。ただし、合併の場合は課税対象とならないケースがあります。
 

税務におけるのれんの償却期間

資産調整勘定(のれん)が課税を受ける場合、償却期間が5年間と定められています(会計上では最大20年間の償却処理)。負ののれんの償却期間も同様に5年間です(会計上では一括計上処理)。

資産調整勘定への課税の有無

2001(平成13)年に導入された組織再編税制により、会社分割と合併のM&Aスキームについて、課税制度上、適格組織再編と非適格組織再編に分けられました。これは、資産調整勘定(のれん)への課税にも関係しています。

複数の要件を満たし適格組織再編と認められる場合、資産調整勘定(のれん)への課税が発生しません。要件を満たせず非適格組織再編と認定された場合、資産調整勘定(のれん)への課税が発生します。

【関連】事業譲渡の税務仕訳(会計処理)とのれんの税効果・償却期間まとめ!

7. 売却側から見たM&Aにおける「のれん」

ここでは、売却側から見たM&Aにおけるのれんを見ていきましょう。

のれんは会社売却の基礎知識の1つ

M&Aの実行に際して、将来の価値を反映しているといえるのれんは、会社売却の基礎となる知識として非常に重要です。のれんは、売買価額が高くなるほど大きくなり、売買価額が低くなるほど小さくなります。

売却側から見た場合、自社の将来をより良く見せられれば、のれんという資産を売買価額に乗せることで、売却益を大きくできるのです。

したがってM&Aでは、売却側はできるだけ多くののれんが算定できる要素を準備すると有利でしょう。そのためには、少しでも有利な交渉を行えるように、会社売却の基礎的な知識としてのれんを理解する必要があります。

話題のアーンアウト条項とは?

アーンアウト条項とは、M&A後の一定期間(通常1~3年)、設定した業績以上の条件を達成した場合は、買収側が売却側に追加のM&A対価を支払う契約条項をさします。アメリカなど海外のM&Aでは一般的な条項です。

日本のM&Aでも定着してきた条項の1つで、会社売却の基礎知識として理解するべき重要な内容でしょう。M&Aの契約条件で、売買価額は最も重要なポイントです。売り手と買い手で合意するのは簡単ではありません。

将来の状況について合意が難しい場合、アーンアウト条項を設定することで、両社における利害関係の調整を図れます。

条件達成ができれば売り手はトータルで受け取る対価が増え、買い手は不確実な状況において、いったん対価の支払いを抑えて様子を見られます。双方にとってメリットがある条項です。

アーンアウト条項をうまく活用すれば、M&Aをより有利な条件へと導くことも可能となるため、会社売却の基礎知識として理解したうえで活用を検討しましょう。

【関連】アーンアウトとは?アーンアウト条項付きのM&Aのメリット・デメリット【事例あり】

8. M&Aにおいて「のれん減損」が発生する理由

M&Aでは、多くのケースでのれんが認識されます。しかし、同様に多くのケースでM&A後における会計期間のどこかで「のれん減損」が発生します。これは、計上したのれんの価値が、実際は獲得できなかった状況になり、資産計上していたのれんの価値が落ちた状況です。

逆にいえば、M&A検討時に決定した売買価額が実際よりも大きく算定されていた、つまりは割高な価額でM&Aが実行された状況ともいえます。のれん減損が発生する主な原因の例は以下の5つです。

  1. 当初の予定より業績が伸びない
  2. 見込みよりも生産性が低い工場だった
  3. 償却期間中に著しくブランド価値が低下した
  4. デューデリジェンスが不足している
  5. 買収価額が適切な価値ではない

①当初の予定より業績が伸びない

のれんは、将来の業績予想を前提にした売買価額の計算結果として識別されます。そのため、業績が想定を下回るような場合、のれんの価値は棄損する状態になり、のれん減損の原因となるのです。

これは、M&A前に想定した効果が得られないことであり、のれん減損となるケースの大半を占めています。

②見込みよりも生産性が低い工場だった

M&A前には売却側企業の状況について、詳細な調査を行います。しかし、M&Aの後に調査結果と実際の状況が異なるケースがあります。特に製造業における工場の生産性は、企業における強みの源泉となることも多い重要なポイントです。

この見込みが異なる場合、収益にもマイナスの影響を与えるため、のれん減損の原因となります。

③償却期間中に著しくブランド価値が低下した

のれんは、M&A時に想定したブランド価値を前提としているため、この前提が崩れる事象があれば、のれん減損の原因となり得ます。

④デューデリジェンスが不足している

M&A時にはデューデリジェンス、つまり売却側企業の詳細な調査を行います。財務、会計、税務、法務、ビジネス、人事、システムといった数多くの項目における調査が含まれるため、デューデリジェンスが十分に実施できれば売り手の状況を正確に把握することが可能です。

しかし、このデューデリジェンスが不足すると、M&A実行後に認識していないリスクが顕在化する可能性があり、のれん減損の原因になります。たとえば、多額の簿外債務や主要取引先との関係悪化といった事象が、事後に見つかったケースなどです。

⑤買収価額が適切な価値ではない

M&Aは相対取引であるため、買収価額は相手との交渉により決定されます。ここで、買収価額が実態と大きく乖離した高い価額設定となった場合、その価額を前提として算定されたのれんの価値をカバーするだけの収益獲得が難しく、のれん減損につながるのです。

買い手がオーナー企業で、オーナーの一存で買収価額を決定するケースなどで発生しやすい傾向があります。買収価額は、M&A後の経営に大きな影響を与える点を十分に理解して、買収価額を決定しましょう。

【関連】M&Aのよくある失敗パターン23選!実際の失敗例、成功するための対策も解説!

9. M&A前に考える「のれん減損対策」

のれん減損の要因は、実態以上の買収価額を設定してしまうことです。したがって、できるだけ実態と買収価額を近づけること、また実態を経営努力で少しでもよい状況にすることで、のれん減損を回避できます。以下の具体的なのれん減損対策を検討してみましょう。

  1. 競合商品の選定をする
  2. 人員整理を考える
  3. 人材の再配置を行う
  4. 会計基準の違いを認識する
  5. デューデリジェンスを徹底する
  6. 適切な価値でのM&Aを行う

①競合商品の選定をする

実態把握には、売却側企業の実力を正確に把握することが重要になります。そのためには、競合商品の選定を行い、売却側企業の商品との違いを理解し、強み・弱みを正確に判断することが必要です。

売却側企業の能力を正確に把握すれば、将来の予測における精度が向上し、買収価額を実態に即した金額に設定できます。

②人員整理を考える

収益性を向上するために、コスト削減を検討することも有効です。その1つの方法が、人員整理になります。事業内容にもよりますが、企業におけるコストのうち、人件費は非常に大きな割合を占めているものです。

特にM&Aを実行する場合、間接部門の人員が重複するなどコスト面でマイナスの影響を与えてしまうケースがあります。人員整理により収益性向上を検討することは、のれん減損回避の有効な方法です。

③人材の再配置を行う

収益性を向上するために、人材の再配置を行うことも有効です。M&A実施後に、買い手・売り手の枠を越えて人材の再配置を行うことで、より効率的な組織運営や収益性の高い組織構築が可能となるケースもあります。

④会計基準の違いを認識する

のれん減損回避のために、会計基準を検討する方法も考えられます。日本基準とIFRS(国際会計基準)では、のれんの償却・減損の取り扱いが異なるため、自社に有利に働く会計基準を適用するのです。

ただし、会計基準は継続して適用することが前提なので、その他の項目における会計処理なども考慮して、慎重に決定する必要があります。特にIFRSを導入するケースでは、導入コストも多額にかかるため注意が必要です。

⑤デューデリジェンスを徹底する

デューデリジェンスは、潜在的・顕在的なリスクを網羅的に把握するために、M&Aにおいて非常に重要なプロセスです。デューデリジェンスは信頼できる専門家を利用して徹底して実施することで、適切な買収価額を設定でき、のれん減損のリスクを減少できます。

⑥適切な価値でのM&Aを行う

デューデリジェンスの結果も踏まえて、買収価額の算定を適切に行うことで、割高な買収価額の設定を避けられ、のれん減損回避につながります。買収価額の算定は、採用する方法によって大きく結果が異なります。

したがって、実態を正確に反映できる方法を採用しましょう。

【関連】M&Aのデューデリジェンス(DD)とは?用語の意味、項目別の目的、業務フローを徹底解説!

10. M&A後に「のれん」が問題となった事例

のれんは将来の業績予測に基づき評価される資産であるため、前提となる業績が想定と異なる場合、「のれん減損」が生じます。ここでは、M&A後にのれん減損が起こってしまった上場企業の実例を見てみましょう。

ライザップの「負ののれん」計上

ライザップ(現RIZAPグループ)は、業種を問わず業績のよくない企業を安い価額で買収し、グループを拡大する戦略を取ってきました。赤字の企業を買収すれば、そのほとんどのケースで発生する負ののれんを特別利益に計上することで、会計上は増益になります。

しかしM&A後、買収した多くの企業の経営改善が思うように進まなかったことから、2018(平成30)年にはグループとして大幅な営業赤字が計上されるに至り、同年11月にM&Aによる拡大戦略を一時停止する発表を行うに至ったのです。

DeNAのキュレーションメディア事業に関する減損

DeNAは、2017(平成29)年3月期にキュレーションメディア事業に関するのれんについて約38億円ののれん減損を計上しました。

これは「WELQ」という医療情報サイトにおける情報の信ぴょう性について疑義が発生したことを受け、関連するキュレーションサイトの公開を中止したことに起因します。

この事態を受けてキュレーションメディア事業の将来業績が不透明となり、当初想定していた計画進捗が困難となったことから、当該事業に関連するのれんの減損を行った事例です。想定しなかったマイナスの事象による影響で、のれん減損が生じることを示す事例といえます。

楽天の米国子会社Vikiに関するのれん減損

楽天は、2016(平成28)年12月期に約200億円ののれん減損を計上しました。Vikiは米国で動画・音楽のストリーミングサービスを展開する楽天が約200億円で買収した企業ですが、のれん減損でほぼ買収額に相当する金額の損失を計上しています。

減損テストの結果、買収時に想定した投資回収が困難と判断したと発表しており、楽天の積極的な海外展開がうまくいかなかったケースです。これは、新規事業エリアへの進出が難しいことを示す事例ともいえます。

東芝のWEC社に関するのれん減損

東芝は、2016年3月期に約2,600億円ののれん減損損失を計上しました。東芝は、2006(平成18)年度にアメリカの原子力発電所大手ウェスチングハウスを約6,600億円で買収しています。

その後、2011(平成23)年の東日本大震災での福島原発事故をきっかけに、世界的に原発への逆風が吹き、多くの原発建設が中止や凍結される事態となりました。そのため、ウェスチングハウスの業績は悪化の一途をたどり、親会社東芝は巨額の減損損失計上に至ったのです。

【関連】ライザップの買収・M&A実績25選!失敗した理由と次の予定は?
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11. M&Aにおける「のれん」まとめ

M&Aにおいて、のれんは買い手・売り手の双方にとって重要なポイントであり、検討を避けて通れない項目といえます。買い手にとってのれんは、将来における減損リスクのある投資回収すべき資産です。

売り手にとっても自社の将来価値を示す項目を売買価額へ反映させることで、より多くのキャッシュを獲得できる非常に重要な検討項目になります。

のれんの算定が売買価額や将来の業績に影響を与えるため、M&Aの際は会計処理を含め十分に理解したうえで慎重に検討を行いましょう。

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