法務デューデリジェンスとは?法務DDの目的や流れを解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aにおける法務デューデリジェンスの位置づけや目的、プロセスを網羅的に解説しているため、全て読めば法務デューデリジェンスの基礎は完璧です。M&A実施時の法務デューデリジェンスを行ううえでの注意点を経験を踏まえて解説しています。

目次

  1. 法務デューデリジェンス(法務DD)の概要
  2. 法務デューデリジェンスの目的
  3. 法務デューデリジェンスのチェック項目
  4. 法務デューデリジェンスを実施するタイミング・期間
  5. 法務デューデリジェンスの流れ・手続き
  6. 法務デューデリジェンス後の対応
  7. 法務デューデリジェンスでの注意点
  8. 法務デューデリジェンスの費用相場
  9. 法務デューデリジェンスの実務に携わる専門家
  10. 法務デューデリジェンスを学べる本・書籍
  11. 法務デューデリジェンスのまとめ
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1. 法務デューデリジェンス(法務DD)の概要

M&Aでは基本合意締結後、買い手企業が売り手企業の実態を専門家に依頼して細かく調査します。この調査をデューデリジェンスといい、調査を行う分野ごとに財務デューデリジェンス・人事デューデリジェンス・ビジネスデューデリジェンスなどがあり、法務デューデリジェンスもそのひとつです。

デューデリジェンスは買い手企業が買収リスクの有無や程度を確認し、M&A実施や価額の妥当性を判断するために行います。法務デューデリジェンスはどのM&Aでも必ず行われるものなので、調査内容や対象など基本的な事項を理解しておきましょう。

法務デューデリジェンスとは

法務デューデリジェンスとは、労務・法令遵守・訴訟・許認可・組織の状況・契約関係など、法務面のあらゆるリスクの有無を調査することをいいます。

法務デューデリジェンスは、ビジネスデューデリジェンス・財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンスと並ぶ重要なデューデリジェンスです。

各デューデリジェンスはその分野の専門家によって行われ、法務デューデリジェンスでは、対象企業の法的リスクを確認した結果をもとにM&A実施可否の判断を行い、M&Aを実施する際の条件に反映させます。

デューデリジェンスで検出した法的課題はチェックリストを作成することになっており、このチェックリストはM&A成立後に担当部門に引き継がれるものです。その後は再度チェック項目の確認を行い、対応方針の決定や解決を図っていきます。

法務デューデリジェンスの対象

効果的にデューデリジェンスを行うためには、調査スコープ(範囲)の絞り込みと優先順位付けが重要です。法務デューデリジェンスでは、調査スコープを絞り込むために事前レビューの結果だけでなく、他のデューデリジェンスと情報を共有し、役割分担を行う必要があります。その際のポイントは以下の3点です。

調査スコープの決定

法務デューデリジェンスで重要なのは、調査スコープをどのように定めるかということです。調査スコープを絞り込まないと、費用がかさむうえにデューデリジェンスの期間も長くなります。具体的には次のようなことを検討するといいでしょう。

グループ会社まで調査するか

対象企業に子会社や関連会社がある場合、対象企業よりもガバナンス体制が弱く、大きな法的リスクを有している可能性があります。

特に近年では、持株会社制度を有している企業もあるため、この場合、純粋持株会社よりも傘下の事業会社に対してのデューデリジェンスに多くのコストがかかってしまうのをどう判断するかがポイントです。

海外をどこまで調査するか

対象企業が日本企業でないケース、および対象企業の主要な事業が海外にあるケースが増加しています。海外の子会社がディールブレーク(M&A取引を中止すること)となる大きな法的リスクを有している可能性もあるでしょう。

基本的に海外でデューデリジェンスを行う際も日本の専門家に依頼することが多いですが、海外の法律までスコープに入れると時間とコストがかさむ可能性が高まります。

2. 法務デューデリジェンスの目的

M&Aにおける法務DD(デューデリジェンス)の目的は、主に以下の4項目に分類されます。

事業継続の障害となる項目の確認

対象企業が法的な観点から事業が中断されるリスクがある、もしくは競争力の源泉が損なわれる恐れのある事業が存在しなかを確認します。

対象企業の価値を減少させる項目の確認

事業継続や法的問題の解決によって、対象企業の収益性が減少する、もしくは資産が損なわれるといった企業価値を減少させることがないかを確認します。

当該M&Aを阻害する法的要因の確認

M&Aの阻害要因となる、法制度や法規制がにならないかを確認します。

当該M&Aの法的スキームの可否の確認

M&Aを実施することにおいて、株式譲渡による株式の取得のほか、合併会社分割株式移転事業譲渡などさまざまなスキームがあります。これらのスキームについて、想定どおりに実行できるかも検証目的です。

【関連】M&Aのデューデリジェンス(DD)とは?用語の意味、項目別の目的、業務フロー、注意点を徹底解説

3. 法務デューデリジェンスのチェック項目

法務デューデリジェンスでは、以下の項目をチェックします。

組織・株式内容・株主

現在の株主が、適切な手続きのもとで存在しているかを確認します(非公開会社における譲渡制限が守られているかなど)。

既存株主の動向として、過去の企業再編により、既存株主より買取請求や決議無効の訴訟などを提起されていないか、優先株などにおいて転換の請求などがなされているかの確認も必要です。

また、潜在株主の有無を確認し、転換社債など株主数の変動する要素は存在するか、変動する要件および議決権に及ぼす影響はどの程度かを把握しておきます。

そのほか、規則や各種会議体などが適正に運営されているかなど、組織面の確認も法務デューデリジェンスの範囲です。その際は、対象企業が適法かつ有効に設立されたものであるかという点の確認も行われます。

資産・負債

一般的に、帳簿上の資産、債務の有効性などは財務デューデリジェンスの範囲です。法務デューデリジェンスでは、不動産やリースなどの動産、金融資産などの確認を行います。

また、譲渡対象の事業用資産はM&A後も使用されるため、登記簿の内容や担保権の設定、チェンジオブコントロール条項の有無などの確認も必要です。そのほかにも、譲渡対象事業によっては知的財産権についても調査を行います。

帳簿上の資産、債務の有効性などは財務デューデリジェンスの範囲ですが、借入金がある場合は財務制限条項やM&Aで影響を受ける条項の有無などの調査は法務デューデリジェンスの担当です。そのため、事前に調査スコープを決定し、財務デューデリジェンスのスコープと役割分担しておく必要があります。

契約関係

契約書の存在の有無や契約が適切に取り交わされているかを確認します。ライセンス契約やリース契約などに事業継続を回避できるものの、賠償や追加の出捐(当事者の一方が自分の意思で財産上の損失をし、他方に利益を得させること)を求められる法的根拠があるかなども確認事項です。

金融機関からの借入においては、コベナンツ(契約内容に記載する一定の特約事項)の存在により、融資条件の変更を求められることもあるため、その確認も行います。

人事労務

人事デューデリジェンスを行う場合、労務に関するトラブルやリストラに関する事項は人事デューデリジェンスで行うため、法務デューデリジェンスでは労働条件やセクハラ・パワハラといったハラスメント問題の有無、希望退職・解雇に関する問題の有無を確認します。

事前に人事デューデリジェンスとのスコープを確認し、調整することが必要です。役員に関してチェックする項目としては以下のようなものがあります。

  • 役員の選任や報酬、委嘱事項などについて明示的かつ適切なプロセスで決定されているか
  • 役員の活動はどのような形で報告および共有されているか
  • 役員の活動を監督・牽制する機能は存在するか
  • 上記の機能は有効に作用しているか

法令順守・許認可

対象企業が法令を順守していない事業運営を行なっていた場合、経済的リスクにとどまらない影響をおよぼす可能性があります。

具体的な違反事項としては、事業運営において法に定める必要な手続きがなされていないことや、無許可・無認可による事業展開、談合・利益供与など反社会的行為への関与などです。法令違反の程度によっては、M&Aの検討および交渉を打ち切る可能性も想定されます。

対象企業の事業遂行において許認可が必要な場合、許認可は一定の期間で更新することが多いものの、主要株主の変更があると許認可の継続や更新が不可能な場合があることも認識しておきましょう。

なお、対象企業が海外の場合は、許認可の取得・継続において外資規制があることも多く、留意しなければなりません。許認可の主なチェックリストは次のとおりです。

  • 許認可の種類、内容、有効期限
  • 当該許認可の更新の可能性
  • M&Aによる許認可取り消しなどの可能性
  • 許認可が取得できない場合の影響

訴訟紛争

対象企業が訴訟紛争を抱えている場合、ディールブレークすることもあります。潜在的に訴訟紛争を引き起こす可能性がある契約などを抱えている場合もあり、それを未然に検知するのも法務デューデリジェンスの役割です。

ディールブレークするような訴訟紛争でなくても、訴訟が続くと大きな支出を伴います。M&A成功のためだけでなく、支出を減らすためにも、訴訟紛争を未然に防ぐ、または早めに解決することは重要です。

独占禁止法

独占禁止法は公正かつ自由な競争の妨げとなる行為を規制する法律です。M&Aの場合、業界大手企業同士が統合すれば市場は支配された状態となり、需要者がデメリットを被る状況になりかねません。

そのため、M&Aの規模が大きい場合、法務デューデリジェンスで独占禁止法や企業結合規制に抵触していないかを確認します。

環境問題

一般的なM&Aでは環境コンサルタントなどが環境問題を調査するケースが多いですが、法務デューデリジェンスで調査を行う内容もあります。たとえば、環境調査報告書などの開示資料・インタビュー・Q&Aリストなどから検出されたリスクの検討や対応などです。

ですが、法務デューデリジェンスで扱う範囲は限定的となるため、詳細な調査・検討が必要なケースでは環境コンサルタントなどの専門家が調査を担当します。

4. 法務デューデリジェンスを実施するタイミング・期間

法務デューデリジェンスはM&Aプロセスのうち、どのタイミングで行われるのでしょうか。ここでは、法務デューデリジェンスを実施するタイミングと完了までにかかる期間について説明します。

実施するタイミング

法務デューデリジェンスを実施するタイミングは、先述したM&Aの大まかなスケジュールで掲示したとおり、基本合意書締結後です。基本合意書の締結は、交渉で条件面の大筋合意がなされたときに行われます。

ただし、基本合意書に法的拘束力はないため、M&Aが成約したわけではありません。デューデリジェンス完了後、その結果を踏まえた検討が買収側で行われ、最終交渉が行われます。最終交渉で合意してはじめて、正式な契約締結となる流れです。

完了までにかかる期間

法務デューデリジェンスを含めたデューデリジェンスに要する期間は、対象企業の規模や事業内容により変動しますが、平均的な目安は1~2カ月です。ただし、小規模事業であれば1~2週間、大規模企業であれば3カ月以上、要することもあります。

5. 法務デューデリジェンスの流れ・手続き

一般的なM&Aの大まかなスケジュールは、以下のようになっています。

  1. M&Aの検討開始
  2. 相手先の選定(マッチング)
  3. 秘密保持契約締結
  4. 交渉開始
  5. トップ面談
  6. 基本合意書締結
  7. デューデリジェンス
  8. 最終交渉
  9. 最終契約書締結
  10. クロージング(契約内容の履行)

法務デューデリジェンスは、上記のデューデリジェンスプロセスで行われるものです。以下では、基本的な法務デューデリジェンスの進め方・手順を説明します。

調査体制の検討

まずは、調査体制の検討を行います。一般に法務デューデリジェンスを行う際には、外部の専門家に依頼するのが一般的ですが、それは次のような理由が存在するためです。

専門性

法務デューデリジェンスでは、法的リスク検出のためにさまざまな法律の解釈が重要です。その意味で会社法、民法、その他の法律に関して幅広い知識が必要になります。

社内に法律部門がある企業では、法律に関して知見のあるスタッフがいることもありますが、M&Aのような法的検証が必要な項目を検討するには限界があるため、外部の専門家を活用するケースが多いです。

守秘義務の徹底

M&Aは秘密裏に行われるものであり、場合によっては社内スタッフにも知らせないケースも存在します。扱う情報も他の企業の情報や個人情報を含むものもあり、情報管理の徹底が必要です。

弁護士をはじめてとした法律事務所は守秘義務を有しているため、法務デューデリジェンスの担当に適しています。

説明責任

法務デューデリジェンスでは高度な専門的判断を要する項目が含まれるので、その成否は会社の存続に関わるリスクや大きな経済的リスクがつきまといます。判断するにあたって十分な検討をしたという説明責任を果たすためにも、外部の専門家の起用が必要です。

このような観点から、法務デューデリジェンスでは外部の専門家を活用する必要が高いものの、一方で検討にかかる費用が高額であるため、利用する専門家を事前に吟味しておかなければなりません。

特に法律事務所によっても得意分野があるため、相談したい分野において実績を有しているかを事前に把握することが重要です。

調査方針・範囲決定

デューデリジェンスに際し、どのような方針で進めていくか、調査範囲はどこまでとするかなどを、買い手企業と協議して決定します。
方向性はコストや実施期間なども考慮したうえで決定することが多いです。また、売り手企業がグループ企業である場合は、子会社まで調査が必要かなども検討します。

買い手企業は法務以外でもデューデリジェンスは行わなければなりません。そのため、あまり範囲を広げすぎると時間もコストもかさみ、買い手企業の負担が非常に大きくなるため、対象・範囲をどう設定するかを事前にしっかり決めておく必要があります。

事前確認

デューデリジェンスの調査方針と範囲が決まったら、次は対象企業のホームページ・登記簿・有価証券報告書・企業概要書など、その時点で取得可能な情報を集め、初歩的な分析などの準備や事前確認を行います。

キックオフ・ミーティング

デューデリジェンス前の確認が済んだら、キックオフミーティングを開きます。売り手企業・買い手企業の双方が揃ってミーティングを行うケースとそれぞれ開催されるケースとがあり、そのほかには各専門家やFA・仲介会社などを含む関係者が出席するのが一般的です。

売り手企業・買い手企業の双方が揃う場合、ミーティング内容はデューデリジェンスの日程、資料の依頼方法やQ&Aリストの作成方法など、全体の流れを中心とすることが多く、併せて双方の協力体制などを確認します。

一方で、売り手企業・買い手企業がそれぞれミーティングを行う場合は、デューデリジェンスの方針やポイント事項などを確認することが多いです。

資料の開示請求

調査スコープと体制の確定後に調査対象の企業に資料の開示請求を行います。法務デューデリジェンスの場合、資料の開示先は基本的に法律事務所です。法律事務所は秘密保持義務・守秘義務があるため、あえて契約書に秘密保持の条文がない場合や秘密保持契約を結ばない場合もあります。

開示請求がなされた企業側はチェックリスト項目の資料があれば提出し、指定の資料がない場合は代替できる資料を探すか専門家への相談が必要です。

また、担当にFA(ファイナンシャルアドバイザー)などが入っている場合は、FAがチェックリストを準備して一斉にデューデリジェンス実施企業に送付することもあります。要求する資料は、主に次のとおりです。

公的資料

具体的には、定款、登記簿謄本、各種許認可・届出書類などです。対象企業の存続状態、およびビジネスに規制がないかを確認します。

社内資料

株式関係書類や株主総会議事録、取締役会議事録、決裁書・稟議書、各種規程類です。これらの書類により、コンプライアンスや内部統制に問題がないかを確認します。

取引関係資料

各種契約書、取引約定、および取引上のトラブルに関する資料を確認します。公正に取引が行われているかを確認するための資料です。

その他の資料

訴訟をはじめとする法的トラブルなどの発生可能性を判断するために情報を収集します。勤怠管理がしっかりなされているかなどはもちろん、訴訟の一因となるため調査が必要です。場合によっては、担当の弁護士から話を聞くこともあります。

資料の分析・検討

法務デューデリジェンスの実施にあたって、必要な分析の視点を整理します。分析の目的は、ディールブレーカーの存否確認、企業活動への影響考慮、スキームの有効性確認です。

その目的に従い分析の視点を整理すると、以下が主なチェックリストになります。なお、ディールブレーカーとは、M&A取引を中止せざるを得ないような重大な障害のことです。

事業運営の前提条件となる事項

  • 会社機関、ガバナンスの観点から、当該企業が存続しうるかを分析する
  • 当該事業を推進するために必要な許認可を取得しているか、またその許認可は維持が可能かを分析する

企業価値に重要な影響を及ぼす事項

  • 事業活動において重要と思われる各種計画に欠けている要素はないか、有利な条件での継続が可能かを分析する
  • 現段階ではリスクは顕在化していないものの何らかの条件でリスクが発生した場合、その影響の程度を分析する

M&Aの推進そのものに影響のある事項

  • 法律や各種規制の存在により、M&A自体が制限されていないかを分析する
  • M&A推進において想定しているスキームを阻害する法的な要件は存在しないかを分析する

対象企業の経営者と対談

資料の調査だけでなく、対象企業の経営者、役員と面談を行います。必要に応じ、役員以外でも会社のキーマンに対して面談を行うこともあるでしょう。方法としては、対面での面談や、電話会議などを活用することもあります。

一度で足りなければ複数回の面談を繰り返し、調査企業への理解を深めることがポイントです。経営者らも忙しいので、直前にチェックリストを調査企業へ送付し回答を考えておいてもらいます

ビジネスデューデリジェンスや財務デューデリジェンスなどと質問が重複することもあるので、チェックリストや回答の共有などの工夫は必須です。一回の面談で複数のデューデリジェンス分をすませて、時間の短縮を図ります。

法務デューデリジェンス報告書の作成

分析結果を取りまとめます。主な取りまとめ項目は次のとおりです。

ディールブレーカーの存否

一定の条件でディールブレーカーが発生するケースもあるので、スキームとの関係性や相手方および利害関係者の存在を踏まえて、M&Aにおける交渉方針や契約における諸条件の付与を検討すべきです。

企業価値選定・スキームへの影響

法務デューデリジェンスにおいては、対象企業の収益性や競争力の源泉となる事業が法的に持続できるかを検証し、企業価値算定へその結果を反映させる必要があります。反映の視点は、下記の2点です。

  • 事業を継続できない場合、どの程度、収益が減少するか
  • 継続するためにはどの程度の投資が必要になるか

そのうえで、訴訟など対象企業が将来にわたって発生・継続するリスクファクターを明確にする必要もあります。対象企業に対するM&Aスキームがディールブレーカーの要因にならないか、あるいはチェンジ・オブ・コントロール条項などの適用、もしくはその回避のために追加の負担などで企業価値にどれだけの影響が発生するか明確にすることが必要です。

なお、これらの影響額をどれくらい取り込むかは他のデューデリジェンスの結果を踏まえた企業価値算出との兼ね合いになるので、算出に資する一定の金額的なレンジを提示できるようにすることが望ましいといえます。

ディールブレーカーになりうる問題や、少なくともM&Aのディールが完了する前に解決しておかなければならない問題は、検討がしやすいようにチェックリスト形式が望ましいでしょう。

M&Aのご相談はM&A総合研究所へ

法務デューデリジェンスでは、多くの手続きや高い専門性が要求されます。そして、法務デューデリジェンスを含めた各デューデリジェンスの結果は、M&Aの成否を左右するほど重要です。

M&Aでは、交渉や手続きなど経験や知識が必要になる場面も多いため、専門家のサポート下で進めることをおすすめします。M&Aの専門家選びでお悩みでしたら、M&A総合研究所にご相談ください。

M&A総合研究所には、M&Aの知識・経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、相談時から交渉・クロージングまでしっかりサポートします。ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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6. 法務デューデリジェンス後の対応

対象会社の法的課題は、法務デューデリジェンスが実施されても、網羅的に全てを解明できるわけではありません。M&Aの期間中に解決できないことが多いのも事実です。したがって、法的課題のハンドリング方法と、リスク顕在化をどう抑制するかが鍵になります。

他のデューデリジェンスと比べると、PDM(Post Deal Management=Post M&Aマネジメントの総称)を意識することが肝要です。法務デューデリジェンスの成果物は、その性質上、評価額が定量的に示されないことが多いものの、デューデリジェンスの企業価値算出の基礎資料であるため、取りまとめの際に定量的な換算ができるか否かを確認する必要があります。

なお、法務デューデリジェンスにおいて、ディールブレーカーや重要なコンプライアンス違反が検出された場合は、全ての調査が終わる前、もしくはM&Aのディールが完了する前に対応策を検討しなければなりません。ディールブレークが生じる問題が検出された場合は、その解決が最優先事項です。

7. 法務デューデリジェンスでの注意点

法務デューデリジェンスの結果は、売り手企業・買い手企業ともにM&Aの重要な要素です。ですが、法務デューデリジェンスではいくつか注意点もあります。

提出資料のデータだけで判断しない

法務デューデリジェンスでは売り手企業から資料やデータなどが提出され、それをもとにリスクの有無や程度を判断します。ですが、提出された資料やデータのみで判断するのは危険性もあるため、不明点の確認はもとより、作成方法なども確認したうえで用いることが重要です。

提出された資料やデータだけで判断が難しい場合は、インタビューなどを行い十分確認することも重要であり、そうすることでよりデューデリジェンスの精度をより高めることができます。

他分野のデューデリジェンスも考慮する

通常、M&Aのデューデリジェンスは、法務・人事・財務など複数分野で行われます。そのなかでリスクや問題点がみつかった場合、リスクが存在する分野だけでなく、法務デューデリジェンスにも影響を与える可能性もあるため注意が必要です。

法務デューデリジェンスを進める際は各分野と連携をとり、ほかのデューデリジェンス結果も考慮したうえで判断する必要があります。

情報漏洩に注意

M&Aの実施はそれ自体が秘密事項であり、その情報は限られた者にしか共有されません。デューデリジェンスで知り得た情報は、対象企業にとって重大な秘密情報であるため、情報漏洩がおこらないよう取り扱いには十分注意しなければなりません。

もし情報が漏洩するようなことがあれば、M&A取引が中止になるだけでなく、対象企業の価値を損ねるおそれもあります。法務デューデリジェンスを行う際は、情報漏洩が起こらないよう、情報・資料の取り扱いには十分注意して進めなければなりません。

売り手側は情報を隠さない

法務・人事・財務などのデューデリジェンスは買い手企業が主体で行われ、売り手企業には必要資料の提出などの協力が求められます。売り手企業からすれば、少しでも自社をよく見せて高値で売却したいと考えるのは当然ですが、もし自社に不利な情報であっても隠したり偽ったりせず、事実を正確に伝えることが重要です。

自社に不利益や情報や資料を隠したとしても、ほとんどの場合はデューデリジェンスで発覚します。もし、発覚しなかった場合でも、M&A後に明らかになれば、損害賠償を請求される可能性が高いです。M&Aは信頼関係がなければ成功しないため、自社に不利な情報でも正直に伝えたほうがよい結果につながることもあります。

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8. 法務デューデリジェンスの費用相場

法務デューデリジェンスを行うにあたり、専門家に依頼するのが一般的です。法務デューデリジェンスには多くの手間と時間が必要であり、それを依頼するとなると多額の費用が発生します。

法務デューデリジェンスの費用相場は一般的に100万~500万円程度です。しかし、費用は調査対象となる会社の規模によって異なり、事業所や子会社・関連会社が多い会社の場合は、数千万円の費用が発生することもあり得ます。

依頼する専門家の規模が大きくなるほど高額になる傾向もあるため、事前に費用がどの程度かかるのかを把握し、適切な専門家へ相談するようにしましょう。

9. 法務デューデリジェンスの実務に携わる専門家

法務デューデリジェンスの実務にかかわるのは、主に弁護士と司法書士です。ここでは、法務デューデリジェンスで各専門家が行う実務について説明します。

弁護士

ほとんどのM&Aでは、弁護士が法務デューデリジェンスを担当します。弁護士であれば誰でもM&Aの法務デューデリジェンスを行えるかといえばそうではなく、M&Aに精通している弁護士でなければ対応が難しい場合もあるでしょう。

弁護士は法務デューデリジェンスで発覚したリスク・問題点について法的な観点からアドバイスを行います。そのほかにも、未払残業代がある場合は潜在債務の金額、訴訟が起こっているケースでは訴訟費用や損害賠償額などについてアドバイスが受けられる点が大きなメリットです。

司法書士

司法書士も法律の専門家ですが、主な業務は法務局などへの提出資料の作成や登記手続きの代行です。業務範囲が限られるため、M&Aにおいて法務デューデリジェンスを担当するケースはあまりありません。

10. 法務デューデリジェンスを学べる本・書籍

ここでは、M&Aにおける法務デューデリジェンスを学べる本・書籍を2つ紹介します。

まずは、「M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務(第3版)」です。概要を以下にまとめました。

  • 著者:長島・大野・常松法律事務所
  • 出版社:中央経済社
  • 発売日:2014/3/27

法務デューデリジェンスの基本から手続きまで詳しく解説しており、会社法改正案や知的財産法、労働契約法など、新しい法律の変更点もカバーしています。実際の業務での使い方や最新の情報も含め、実務者にとって非常に参考になるでしょう。

次に、「法務デューデリジェンス チェックリスト 万全のIPO準備とM&Aのために」です。概要を以下にまとめました。
  • 著者:佐藤 義幸
  • 出版社:good.book
  • 発売日:2016/9/23

効率的な法務デューデリジェンスのためのリストやポイントを提供しています。経験豊富な弁護士が、ベンチャー企業と投資家とのつながりを基に作成しており、最近の法律改正(例:働き方改革関連法や民法の改正)にも対応していて、実務での使用に適しています。

11. 法務デューデリジェンスのまとめ

法務デューデリジェンスは、ビジネスデューデリジェンス・財務デューデリジェンスと並び、M&Aを実施するうえで実施される項目です。法的要因がディールブレークに直結する可能性があることや、法務デューデリジェンスの資料は企業価値算出の基礎資料となることから、他のデューデリジェンス結果との関係が大変重要になります。

加えて、資料収集の効率性や面談の日程調整の効率化、アウトプットの整合性の確保のために、各デューデリジェンス間で調整が必要です。

プロジェクト管理者は、開始前に各デューデリジェンス間で調整が必要な項目を整理およびチェックリスト化し、収集した資料や各種情報を共有して調査結果のすり合わせのタイミングなどを明確にしましょう。そのうえで、それぞれの責任者とチェックリストをもとに、コミュニケーションをとって進めていくことが肝要です。

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