2021年08月09日更新
M&AのMOU(Memorandum of Understanding)とは?基本合意書の効力について解説
MOUは、その時点までに合意されたM&Aの条件についての基本合意書です。それ自体に法的拘束力はなく、その後のデューデリジェンスの結果などの影響で内容が変更されることもあります。この記事では、MOU(基本合意書の概要、効力、項目について解説します。
1. M&AにおけるMOU(基本合意書)とは
MOU(基本合意書)とは、意向表明書の受領後、デューデリジェンス(売却企業の精密監査)の時点において、売り手と買い手の間で共通認識がある項目について締結する契約です。「基本合意契約書」と呼ばれる場合もあります。
LOI(意向表明書)と混同される場合もありますが、両者は異なる概念で、分けて締結されることが一般的です。MOUはLOIと同様に法的拘束力は強くありませんが、契約の内容について大筋合意したことを意味します。
MOUの中心的効力かつ特徴的項目は「独占交渉権」で、これにより売り手と買い手の交渉の立場が逆転し、買い手が有利の心理状況に変化します。この記事では、M&Aのプロセスのなかでも重要なMOUについて解説します。
MOU(基本合意書)とは
MOUは、買い手が売り手に意向表明書を提出した後、また、売り手が複数の買い手と接触し比較検討した後に締結される、その時点でお互いが合意した項目が明文化された契約です。
通常、M&Aを検討する会社(売り手)が打診する買い手候補会社の範囲には制限がありません。
しかし、MOU締結により買い手が独占交渉権を獲得すれば、売り手が打診する買い手候補会社の範囲が制限されます。そして、売り手の打診先の範囲の制限は、双方の心理状況を買い手有利へと変化させます。
法的には、MOUはM&Aで必須のプロセスではないため、省略される場合もあります。例えば、買い手が上場企業の場合はMOUの締結が適時開示の範囲内なので、MOUを避けて覚書で対応するケースがあります。
MOUに記載される具体的な項目は、後述の通り、買収価格(譲渡価格)、取引日程、独占交渉権、デューデリジェンスの実施要領などです。
MOU(基本合意書)を交わす目的
MOUは、その段階で互いに合意している事項を確認する目的で締結されるもので、M&Aのプロセスのひとつです。
しかし、売り手と買い手ではMOU締結のメリットが異なるため、MOU締結の目的にもずれが生じます。
一般的に、MOU締結は買い手に独占交渉権を付与する効力を持つことから、買い手側のメリットが大きいといわれています。
MOU締結に関するお互いの目的(メリット)を把握しておくことで、交渉をスムーズに進めることが可能です。
売り手側
売り手がMOU締結により得られる目的(メリット)は、進行中のM&Aについて、売買金額・時期・スキームなどをある程度確定できることです。
MOUは弱い法的拘束力しか持ちませんが、心理的や道義的な拘束力は期待できます。実際、最終契約書はMOUを基に作成されるなど、記載された項目の内容はある程度保証されるといえます。
また、デューデリジェンスの内容や対応スケジュールを明確にし、M&A全体のタスクを整理するという目的を達することが可能です。
買い手側
買い手側がMOUを締結する目的(メリット)は、独占交渉権を得ることと、M&Aのプロセスを前に進めることでしょう。
一般的に、MOU締結により買い手が独占交渉権を得ますので、売り手が複数の買い手と同時に交渉することを防ぎ、買い手との交渉に集中させるメリットが期待できます。
逆にいえば、MOUに独占交渉権が含まれない場合は、買い手企業は当該M&A取引の検討を継続するか否かを改めて検討する必要が生じます。
なぜなら、買い手は売り手が当該M&A取引を真摯に検討するかどうかわからないので、当該M&A取引の検討に費やした経営資源が無駄になる可能性が存在するからです。同様の理由で、MOUの締結によりデューデリジェンスの実施に進むことが可能です。
また、MOUの中で買収価格(譲渡価格)の範囲が定められる場合には、買い手が将来負担する買収対価の上限の目途を立てられるメリットがあります。MOUは、買い手にとりM&Aプロセス上の重要な一歩の意味合いを持ちます。
MOU(基本合意書)を交わすタイミング
売り手側は、自社の買い手候補を一通り打診・検討して交渉を進める相手を絞り込み、その相手を買い手候補として認めた段階で、MOUを締結します。
というのも、MOU締結により買い手企業に独占交渉権が付与された場合、MOU締結後、売り手は買い手候補に自由にM&Aを打診をすることが難しくなるからです。そして、一般的なMOUには独占交渉権の項目が記載され、法的拘束力が生じます。
したがって、売り手は、売り手の社内で買い手候補の選別がある程度された段階でMOUを交わさざるを得ません。
買い手側は、NDA締結後に売り手から得た情報を基礎として意向表明書を作成・提出した後、双方で合意した事項についてMOUを締結するという流れになります。
MOUのひな形は、買い手(もしくはそのアドバイザー)が作成することが多いです。なお、MOU締結後は、買い手が売り手に対するデューデリジェンスを行うことになります。
LOI(意向表明書)との違い
LOIとは、意向表明書とも呼ばれる書類で、MOU(基本合意書)よりも前に取り交わす書類です。
売り手と買い手がトップ面談などを行った後など、お互いの信頼関係がある程度構築されたタイミングで取り交わされ、買い手候補が自身の買収意思を表示するために用いられます。
そのため、買収意思の表明、買収価格、スキーム等が盛り込まれる一方、MOUに記載される項目である独占交渉権、デューデリジェンスの実施要領等に係る定めは盛り込まれません。
もちろん、LOIとMOUを1本の契約で締結する場合は、上記全ての内容が盛り込まれた契約が締結されます。
また、LOIとMOUは契約の形式が異なり、LOIは買い手が売り手に意思表示をするだけで足りるのに対し、MOU締結には買い手売り手の双方が合意することが必要です。なお、後述の通り、MOUの一部の項目の除き、どちらにも法的拘束力はありません。
2. MOU(基本合意書)の効力
MOUは、最終契約書(DA)締結までの途中で合意した項目を明文化したものであり、一部の項目を除いて、基本的には法的拘束力はありません。
そのため、MOUの後に行われるデューデリジェンスにおいて、M&A条件に影響を及ぼす事項が発見されたときは、MOUに記載された条件が変更される可能性があります。特に買収価格は、変動する可能性が高い項目です。
また、「ディールキラー」と呼ばれる重大な障害が発見された場合は、当該M&Aが白紙になるケースもあります。
MOUのなかで例外的に法的拘束力を持つ項目は、独占交渉権・デューデリジェンスの範囲・裁判所管轄等です。これら項目の拘束力のため、MOUはLOIからさらに一歩進んだ効力を持つことになります。
3. MOU(基本合意書)に記載する主な項目
前述の通り、MOUは必ず締結しなければならない書類ではないため、M&Aの状況やMOUの目的などによって記載内容が修正される可能性もあります。また、一般的に、MOUの草稿は買い手が作成します。
MOU締結時は、法的拘束力を持つ項目とそうでない項目を注意して確認することが大切です。ここでは、MOUに記載される代表的な項目について解説します。
1.取引価格(M&A価格)と対象
取引価格とは仮合意された株式価値または事業価値のことを指し、通常はその算出の根拠、金額のレンジ(範囲)、上限等を記載します。
また、MOU締結後のデューデリジェンスにて問題点が発見された場合は、価格の調整を行う旨を規定することが一般的です。
逆にいえば、取引価格は将来変動する可能性があるため、必ずしも記載しなくてよいとも考えられますが、MOUに記載をすることで、その後の交渉のたたき台としての役割が期待できます。
取引の対象とは、株式譲渡の場合には対象株式とその数、事業譲渡の場合には対象事業のことを指します。
2.使用する手法
一口にM&Aといっても、実際の手法にはさまざまな種類があります。例えば、通常の株式譲渡のほかには、会社法上の組織再編行為に該当する合併、会社分割、株式交換などの手法が挙げられます。
使用する手法によって、会社法上・会計上・税務上の処理が少しずつ異なります。少しでもメリットのある手法を使用したい場合は、アドバイザーやコンサルタントを起用するとよいでしょう。
また、取引価格と同様、その後修正される可能性もある事項です。なお、「スキーム」という場合、このM&Aの手法を指すことが多いです。
3.スケジュール
MOUでは、そのM&Aを遂行するうえでのスケジュールを定めます。最終契約締結日の予定日を定め、そこから逆算してスケジュールを組み立てます。
最終契約締結は、MOU締結してから1~3ヵ月後とすることが一般的です。交渉が難航し、最終契約の締結が後ろ倒しになる場合も多く、その場合はスケジュールを修正することになります。
なお、MOUの有効期間も、最終契約締結予定期間である1~3ヵ月と同じにすることが一般的です。
4.表明および保証の内容
表明保証条項と呼ばれる項目で、売り手が自社に関する一定の事項を表明し、その内容が正しいことを保証する項目です。
具体的には、会計処理が適正に行われていること、簿外債務がないこと、訴訟の提起等経営成績に影響を及ぼす重大事由がないこと、などを表明し保証する必要があります。
売り手に上記を表明させることで、後にそれに反する事項がみつかった場合に、契約解除などを容易に行えるようになります。
表明保証条項は最終契約書に盛り込まれ、MOUには盛り込まれない場合も多くあります。
5.独占交渉権の付与
MOUの有効期間中に、売り手がその買い手以外と交渉することが出来ない旨を定めるもので、MOUのなかでも法的拘束力を持つ項目です。
MOUの後に行われるデューデリジェンスは、買い手が外部のアドバイザーに高額の報酬を支払って行うことが一般的です。独占交渉権があることで、買い手は安心してデューデリジェンスを行うことが可能です。
6.デューデリジェンスを行う範囲
デューデリジェンスを行うにあたり、売り手がそれに協力し、経営・財務・労務・契約等に関する情報を提供する旨を定める項目です。
100%子会社化するのであれば、その会社に関する一切の情報を提供する必要がありますが、一部事業を譲渡する場合などは、その事業に関連する情報のみを提供する旨を定めます。
7.公表
上場会社は、証券取引所の上場規定において、MOUの締結をM&Aの合意と同一視して適時開示を行うように定めれている場合があります。そのため、MOU締結に先立って、開示すべきなのかを検討する必要があります。
その一方で、適時開示が必要でない場合であっても、対外的な発表のスケジュールを定めてプレスリリースを行う必要があります。このいった、対外的な公表のスケジュールについて定める項目です。
8.善管注意義務
MOU締結から最小契約書締結までの間に、売り手の経営陣等が自社の価値を毀損するような行為(増減資、重要財産の売却購入等)を、買い手の承諾なしに行わないことを定める項目です。
善管注意義務とは、民法上の用語で「善良なる管理者の注意義務」を持って自社を管理するということです。売り手の経営陣等は、MOU締結後、買い手に対する善管注意義務をもって自社を経営する必要が生じます。
9.法的拘束力の適用範囲
上記の通り、MOUは法的拘束力を持ちません。しかし、独占交渉権の付与、デューデリジェンスの範囲、裁判所管轄等にまで法的拘束力を認めないとなると、MOUの存在が無意味になってしまいます。
そこで、この項目では、MOUの項目のうちでどの部分が法的拘束力を持つかが定められます。
取引価格や使用する手法、スケジュールについては、その後修正される可能性が高いため、通常は法的拘束力の適用範囲外とされます。
10.準拠法と管轄・言語
MOUに関する解釈や紛争に対して適用される法律と、訴えを提起できる裁判所を合意するための項目です。
日本企業同士の契約であれば日本法が適用されますが、クロスボーダー案件であればどの法律が適用されるかが論点になります。
4. オンラインM&A取引でもMOU(基本合意書)は必要?
近年、M&Aプラットフォームサービスが複数誕生し、徐々にオンラインを介したM&A取引の数が増えてきています。
オンラインM&A取引は小規模の会社がメインということもあり、双方がアドバイザーを起用し時間をかけてデューデリジェンスを行う従来型のM&Aと比較すると、コストを抑えてM&Aを行う方向性になってます。
その一環として、オンラインM&Aにおいては、MOUを締結せずに最終契約書の締結までこぎつけるケースもあるようです。
例えば、売り手がプラットフォーム上のみで買い手を探していて、売り手がほかの買い手に打診することがシステム上できない仕組みであれば、MOUを締結しないことが正当化されるかもしれません。
ただし、買い手側としては可能な限りMOUを交わしておきたいにも関わらず、プラットフォームを運営するM&A仲介会社が対応してくれないようであれば、信頼できるM&A仲介の専門家にセカンドオピニオンを依頼することも一つの手段と考えられます。
5. M&Aにおすすめの仲介会社
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6. まとめ
MOUは、M&A候補先を絞り込み、クロージングまでに持ち込むために重要なプロセスのひとつです。
MOUの内容をあらかじめ整理・想定しておくことで、MOUを適切なタイミングで取り交わすことができ、ひいてはM&Aの成功にも繋がると考えられます。
【M&AにおけるMOU(基本合意書)とは】
- 意向表明書の提出後、その時点で双方が合意した項目を明文化した契約のこと
- 必須のプロセスでは無いため、買い手が上場企業の場合やオンラインM&Aでは省略される場合がある
- 締結前と締結後で売り手と買い手の心理状況に変化が生まれ、買い手有利となる
【MOU(基本合意書)の効力】
- 基本的には法的拘束力はなく、デューデリジェンス等の結果により条件が変更される場合がある
- 例外的に、独占交渉権、デューデリジェンスの範囲、裁判所管轄等の項目は法的拘束力を持つ
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