2022年04月05日更新
M&Aスキームの事業譲渡と株式譲渡の違い|メリット・デメリット、選択ポイント、税務面も解説
事業譲渡は会社における一部の事業のみを売買すること、株式譲渡は株式を全部か割合を定めて売買することです。事業譲渡と株式譲渡では、取引の相手や売買対象となるもの、税金についても違ってきます。この違いとメリット・デメリットを解説します。
目次
1. 事業譲渡と株式譲渡の違い簡単まとめ
事業譲渡と株式譲渡の一番の違いは、「何が売買の対象であるか」の点です。事業譲渡では「事業」を、株式譲渡では「株式」を売買します。
事業譲渡と株式譲渡の違いをまとめると、以下のとおりです。
事業譲渡 | 株式譲渡 | |
取引の相手 | ・売却側→法人 ・買収側→法人 |
・売却側→株主(経営者) ・買収側→法人 |
売買対象 | 事業の一部または全て | 株式 |
契約名 | 事業譲渡契約 | 株式譲渡契約 |
移転するもの | 事業に必要なヒト・モノ・権利の一部または全て | 会社の所有権と経営権・許認可・経営者の個人保証 |
譲渡手順 | ①事業譲渡契約締結 ②株主総会決議 ③譲渡効力発注 ④資産引渡し ⑤代金受渡 |
①株式譲渡契約締結 ②取締役会承認 ③名義交換手続き ④代金受渡し |
目的 | ・売却側→事業の選択と集中・不採算事業からの撤退 ・買収側→事業拡大、新規事業への参入 |
・売却側→事業承継・経営基盤の強化 ・買収側→事業拡大・新規事業への参入 |
これらの違いに関して、今回の記事で詳しく説明します。
それぞれにメリット・デメリット・目的は異なりますが、何を目的としたM&Aであるかを最優先に手法を決定しましょう。
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事業譲渡とは?
事業譲渡とはM&Aスキームの一つで、会社における一部の事業のみを売却する手続きです。
事業譲渡では、売却する事業の中でも、ヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)などをあらかじめ定めて売却できます。
この事業譲渡は、事業を売却する会社が、事業を買収する会社に売る形式です。したがって、売却の対価も会社が受け取ります。
株式譲渡とは?
株式譲渡とはM&Aスキームの一つで、株主が会社の株式を売却して、新たな法人の株主に会社の所有権を移転させることです。
ただし中小企業の場合は、経営者が個人で株主を兼ねていることがほとんどです。その場合、所有権とともに経営権も移転させることになります。
株式譲渡では、株式の全部ではなく一部のみを売却もできますが、中小企業で経営権まで移転させる場合は通常、株式を全部売却する形が取られます。これは、会社を丸ごと売却しているのと同じです。
株式譲渡は、売却する会社の株主が、所持している株を、買収する会社に売る形式です。したがって、売却の対価は株主が受け取ります。
相対取引
相対取引(あいたいとりひき)とは、取引所を通さずに買い手と売り手の株主と個別に交渉を行い、株式譲渡する取引をいいます。
非上場株式の場合は、相対取引でしか株式譲渡ができません。他にも、株式譲渡制限を設けている企業の株式を売買するケースや、上場企業など有価証券報告書を提出している企業の株式を市場外で売買するケースなどに活用される取引です。
譲渡価格は、売り手の株主ごとに違った価格を付ける可能性もあり、個別に対応すると、交渉や売買手続きなどに時間がかかってしまう可能性があります。株主間で不満が生じるおそれもあるでしょう。実務上は、同一価格で取引するのが一般的です。
市場買付け
市場買付けは、M&Aの対象会社が上場している場合、株式市場から買い進める方法をいいます。株価が安いときに株式を取得する方法で、投資コストを圧縮するのが可能です。
ただし、発行済株式総数および潜在株式総数の5%を超えて取得した場合、5営業日以内に管轄の財務局へ「大量保有報告書」を提出する必要があります。その後、1%を超える保有割合の変動があった際は、変更報告書の提出が必要です。
大量保有報告書が開示されれば、買い手が対象会社の株式を買い進めているなどの動向が明らかとなり、株価が高騰するおそれがあります。したがって、対象会社を連結子会社化したい場合には、市場買付けを選択するケースはほとんどないでしょう。
TOB
TOB(公開買付け)は、上場会社などの発行する株式に対して、不特定多数の株主から公告によって買付けの申込を勧誘し、市場外で株式を買い集める方法です。
TOBは、対象会社の経営権取得を目的として実施され、買付けの期間や株式数などを事前に公告したうえで実施されます。
一定以上の株式を買付けが実施されるため、規制やルールが設定されています。例えば、市場外で5%を超える買付けを行う場合は「5%ルール」として、TOBで行うとする規制がされているのです。
TOBを行う場合、現時点の株価からプレミアム分を乗せた高い株価で、申込を勧誘するのが一般的でしょう。
その他のM&A手法
事業譲渡と株式譲渡はよく用いられているM&A手法ですが、それ以外にもさまざまな方法があります。それぞれの手法のメリット・デメリットが存在するので、それらを勘案して最適な手法を選ばなければなりません。
以下では、事業譲渡と株式譲渡以外のM&A手法を説明します。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、既存の株主以外の第三者に対して、新株の引受ける権利を与えるM&A手法です。ここでいう第三者とは、会社の役員・従業員・取引している金融機関、取引先など、会社と関係のある特定の主体のことをいいます。第三者に対して新株を引き受ける権利を与える第三者割当増資は、縁故募集といわれるケースもあります。
第三者割当増資は、特定の株主による影響力を強める目的で利用されるケースがほとんどです。経営状態が悪化し、株価が悪化しているような企業は、他のM&A手法の採用が難しい場合に、経営支援を第三者から求める場合に利用されるケースもあります。
株式交換
株式交換とは、買収企業と被買収企業の株式を交換するM&A手法です。株式の取得や売却は必要ありません。買収コストを大幅に引き下げられるのが、他のM&A手法にはない特徴です。
株式移転
株式移転とは、持株会社(親会社)を新設するために、すでにある会社(複数社でも良い)の株式を新設した持株会社と交換して100%子会社を作るM&A手法です。株式移転では、子会社になる企業の株主に対して交付する対価として、金銭などの交付以外は認められていません。
2. 事業譲渡と株式譲渡の違いは?
事業譲渡と株式譲渡では、以下の点で違いがあります。加えて、事業譲渡は会社分割で行われることもありますので、参考までに会社分割も簡単に説明を加えています。
- 取引
- 売買対象
- 契約
- 譲渡手順
- 目的
順番に違いを確認しましょう。
①取引による違い
事業譲渡と株式譲渡では、取引の相手が違います。
売却側 | 買収側 | |
事業譲渡 | 法人 | 法人 |
株式譲渡 | 株主(経営者) | 法人 |
②売買対象による違い
事業譲渡と株式譲渡では、売買の対象が以下のように異なります。
- 事業譲渡…事業(事業に必要なヒト・モノ「商品・工場」・権利「取引先」の全部か一部)
- 株式譲渡…株式
③契約についての違い
事業譲渡と株式譲渡では、契約と買収側に移転するものの違いがあります。
契約 | 移転するもの | |
事業譲渡 | 事業譲渡契約 | 事業に必要なヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)の全部か一部 |
株式譲渡 | 株式譲渡契約 | 会社の所有権と経営権、許認可、経営者の個人保証 |
④譲渡手順の違い
事業譲渡と株式譲渡では、最終契約の内容とその後の流れが少し異なります。
- 事業譲渡:事業譲渡契約締結→株主総会決議→譲渡効力発注→資産引渡し・代金受渡し
- 株式譲渡:株式譲渡契約締結→取締役会承認→名義交換手続き・代金受渡し
⑤目的による違い
事業譲渡と株式譲渡では、それぞれで目的が異なります。
売却側 | 買収側 | |
事業譲渡 | 事業の選択と集中、不採算事業からの撤退 | 事業拡大、新規事業への参入 |
株式譲渡 | 事業承継、経営基盤の強化 | 事業拡大、新規事業への参入 |
⑥会社分割との違い【参考】
事業譲渡と株式譲渡はこれまでのおさらいを含んでいますが、これに会社分割のM&Aスキームを入れた違いは以下のとおりです。
事業譲渡 | 株式譲渡 | 会社分割 | |
許認可 | 移転不可 | 移転 | 移転不可 |
従業員 | 移転不可 | 移転 | 移転※1 |
債権・債務 | 移転不可 | 移転 | 移転※2 |
消費税 | 課税 | 非課税 | 非課税 |
不動産所得税 | 課税 | 非課税 | 非課税※3 |
※1 労働承継法の手続きが必要
※2 債権者保護の手続きが必要
※3 一定の要件あり
会社分割とは
会社分割とは、事業の一部(資産・負債・契約関係)を他の企業に承継し、1つの会社を2つ以上に分割するM&Aスキームです。会社分割の主な目的は、企業グループの再編成、新規事業の導入、後継者不足による経営困難の改善などがあります。
なお、会社分割は2つあり、事業譲渡をこの会社分割のスキームで行うこともあります。
- 会社分割のスキームその1:既存の企業に事業を承継する「吸収分割」
- 会社分割のスキームその2:新規で企業を設立する「新設分割」
会社分割のメリット・デメリット
会社分割のメリット・デメリットは以下のとおりです。
【会社分割のメリット】
- 消費税が課税されない
- 不動産を移動するにあたり、登録免許税が減額になる
【会社分割のデメリット】
- 手続きが複雑
3. 事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡のメリット ・デメリットを見ます。
譲渡側のメリット
事業譲渡のメリット・デメリットのうち、「主要事業への集中」が最大のメリットです。
主要事業への集中
事業譲渡では売り手側のメリットとして、売却したい特定の事業を切り出し譲渡する方法で、主要な事業へ資源を集中させられます。
同じことですが、事業譲渡では必要な資産はそのまま残せるともいえます。
譲渡側のデメリット
一方で、譲渡側のデメリットは、以下の3つが挙げられます。
- 手続きが面倒
- 譲渡内容の制限
- 必要な事業の獲得
それぞれを詳しく説明しましょう。
手続きが面倒
売却側にとって、事業譲渡を決定するには、ほとんどのケースで株主総会の特別決議が必要です。これは会社法に定められているもので、特別決議では、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもってなされる決議をしなければなりません。
この特別決議が、時間および手間の両面で大きな負担がかかります。
一方、買収側も、事業譲渡では事業の買収時に、買収した事業の従業員や取引先との契約を一から結び直す必要があります。この手続きが、時間および手間の両面で負担のかかるものです。
譲渡内容の制限
事業譲渡を行うと、売却側には競業避止義務が課せられます。これは会社法で規定されていることです。
競業避止義務とは、同一市区町村および隣接市区町村内にて、一定期間事業譲渡したものと同種の事業を行えない義務です。当事者の別段の意思表示がない限り、20年間この義務が課されます。
売却側は、事業譲渡後の事業には制限がかかる点に注意が必要です。
必要な事業の獲得
事業譲渡では、買収側は会社を丸ごと買わなくても必要な事業だけ、そして事業の中でも必要なヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)を選択して買収するのが可能です。
交渉次第ですが、事業譲渡では不要なものは自社に移転する必要はありません。
譲受側のメリット
他方で、譲受側のメリットは、以下の2つが挙げられます。
- 必要な事業のみを取得できる
- 債務や負債へのリスク回避
それぞれを詳しく説明しましょう。
必要な事業のみを取得できる
事業譲渡は、譲渡側の企業全体を買収するのではなく、事業だけを取得できます。会社法上、個別の財産などに関する単なる売買取引となるので、会社の買収と比べて、コストをかけずに特定の事業を展開できるようになります。
債務や負債へのリスク回避
事業譲渡の場合、売却側の持つ債権・債務は、買収によって自動的に買収側へ移転するのではありません。
売却側が当該事業の債権・債務を移転する条件での売却を希望する場合もありますが、それは事業譲渡が成立する必要条件ではありません。
譲受側のデメリット
事業譲渡のメリット デメリットのうちのデメリットは以下のとおりです。
- 煩雑な手続きを求められる
- 許認可の譲渡不可
煩雑な手続きを求められる
すでに説明したように、事業譲渡は会社法上、個別の財産などに関する売買取引に過ぎません。したがって、譲渡する資産・負債などは個別に契約を結んで移転しなければなりません。包括契約を結べないので、個別に手続きをしなければならず、その手続きに手間と時間をとられがちです。
許認可の譲渡不可
事業譲渡では、その事業の事業主に対して有効である許認可は、買収側に引き継げません。つまり、許認可が必要な事業を買収した場合は、買収側で新たに許認可を取り直す必要があることです。
4. 株式譲渡のメリットとデメリット
株式譲渡のメリット・デメリットのうちのメリットを見ます。
譲渡側のメリット
株式譲渡のメリット・デメリットのうちのメリットは以下のとおりです。
- 社名を含めた会社の存続
- 株式保有率の調整が可能
- 売却益
順番に見ましょう。
社名を含めた会社の存続
後継者不在や、経営が行き詰っていたことにより会社存続の危機にあった場合の売却側に当てはまることですが、株式譲渡で所有と経営を引き継いでもらうことで、とにかく会社自体は存続が可能です。
売却後の社名は、最終的な決定権はあくまで買収した側にありますが、歴史や伝統、ブランド力のある社名は、引き続き継続してもらえることも多いでしょう。
株式保有率の調整が可能
事業承継を目的とする株式譲渡の例は多くありませんが、株式の全部を譲渡しないことも可能です。これは、売却側が経営に対する影響力だけは残しておきたい場合に行われます。
過半数の株式を譲渡すると経営権は譲受企業に移りますが、3分の1以上の株式を保有し続けていれば、株主総会における特別決議を単独で否決するのが可能です。
売却益
売却側の話ですが、中小企業で経営者個人が株主でもある場合、株式譲渡で得た株式の売却益は、経営者個人のものになります。
所得税や住民税の課税はありますが、まとまった金額の創業者利潤は、経営者引退後の生活資金にできます。
譲渡側のデメリット
譲渡側における株式譲渡のデメリットは、株式分散時の取りまとめに手間がかかる点です。以下で詳しく説明しましょう。
株式分散時の取りまとめに手間がかかる
株式譲渡では、譲渡する株式を株式譲渡実施前に集める必要があります。しかし、中小企業では株券と株主に関する情報が記録されておらず、経営者が記憶しているだけの状態の場合があります。
このような場合で、かつ株主が複数いる場合は、株式の取りまとめだけでかなりの労力を割かなくてはなりません。
譲受側のメリット
他方で、譲受側のメリットはどのような点が挙げられるでしょうか。事業譲渡最大のメリットは、許認可の引継ぎが可能である点です。以下では、この点を詳しく説明しましょう。
許認可の引き継ぎ可能
買収側にとって、事業譲渡では許認可を引き継げず、買収後に再取得する必要がありました。株式譲渡では、この許認可も買収側が引き継げます。許認可が必要な事業でも、再取得せずそのまま事業を続けられます。
譲受側のデメリット
他方で、譲受側のデメリットはどのような点が挙げられるでしょうか。譲受側の事業譲渡のデメリットは、債務や負債を引き継がなければならない点が挙られます。以下では、この点を詳しく説明します。
債務や負債を引き継ぐ
株式譲渡では、売却側が持っている債権・債務は自動的に買収側に引き継がれることが前提です。見た目の債権・債務だけでなく、簿外債務や賠償金なども同様です。
したがって、買収側は買収前に、それら売却側の簿外債務なども注意してチェックしておく必要があります。
5. 事業譲渡と株式譲渡における相場の違い
事業譲渡と株式譲渡(株式を100%譲渡する株式譲渡、つまり会社売却)では、売買金額の相場を比較すると「事業譲渡<株式譲渡(会社売却)」です。さほど難しい話ではありませんが、相場が違う理由を見ます。
①事業譲渡は事業の移動
事業譲渡は、会社全体の一部の事業のみを切り離して売却するM&Aスキームです。会社全体の中の一部ですから、当然ながら株式譲渡(会社売却)よりも相場は低くなります。
相場が低いとはいえ、事業譲渡は売却側にもメリットがあって、それは「継続保有したい事業・資産を法人格ごと残せる」ことです。
②株式譲渡(会社売却)は全資産の移動
株式譲渡(会社売却)では、会社を丸ごと売却するM&Aスキームです。したがって、基本的に売却側が持っていたすべての資産が買収側に移動します。
全資産を取引するわけですから、同じ事業規模で比較するとしたら、当然ながら事業売却よりは相場が高めです。
売却側にとっては大きな金額で売却できるので、それだけでメリットがあるように思いますが、株式譲渡(会社売却)は株主兼経営者の中小企業にとって、後継者がいなくても会社を存続できる点が非常に大きなメリットになります。
6. 事業譲渡と株式譲渡における会計処理
事業譲渡、株式譲渡それぞれが成立した際の売り手と買い手それぞれの仕訳方法を解説します。
事業譲渡の会計処理
売り手側の事業譲渡の会計処理は、一般的に簿価ではなく時価で売却価格を決定します。一方、売り手が譲渡する資産は簿価で計上するため、時価総額から簿価総額を引いた額が「事業譲渡益」です。借方には売却価格、貸方には売却した資産・事業譲渡益が入ります。
<借方> <貸方>
現金預金 | 501,200,000円 | 棚卸資産 | 20,000,000円 |
土地 | 250,000,000円 | ||
建物 | 30,000,000円 | ||
機械装置 | 100,000,000円 | ||
特許権 | 1,000,000円 | ||
商標権 | 200,000円 | ||
事業譲渡益 | 100,000,000円 |
買い手側の事業譲渡の会計処理は、時価で資産を譲り受けるため、資産の金額は全て時価で記載しましょう。したがって、売り手側の仕訳とは逆で、譲り受ける資産は借方に記載され、売却価格は貸方に記載します。
<借方> <貸方>
棚卸資産 | 20,000,000円 | 現金預金 | 501,200,000円 |
土地 | 310,000,000円 | ||
建物 | 25,000,000円 | ||
機械装置 | 90,000,000円 | ||
特許権 | 55,000,000円 | ||
商標権 | 1,200,000円 |
株式譲渡の会計処理
売り手の株式譲渡の会計処理は、売却価格と売却する株式簿価の差額を「株式売却益」として計上します。売却代金を5,000万円、株式簿価を2,500万円とした場合の会計処理は以下です。
<借方> <貸方>
現預金 | 50,0000,000円 | 株式 | 25,000,000円 |
株式売却益 | 25,000,000円 |
買い手の株式譲渡の会計処理は、株式取得を計上する処理を行います。買い手が支払ったデューデリジェンス費用・仲介手数料などは、株式の取得原価に算入されるでしょう。買収価格を5,000万円、デューデリジェンス費用・仲介手数料などを500万円としたケースの仕訳は以下です。
<借方> <貸方>
子会社株式 | 55,000,000円 | 現預金 | 55,000,000円 |
7. 事業譲渡と株式譲渡における税務の違い
事業譲渡と株式譲渡は、取引で発生する税金が異なります。税務の違いをそれぞれ見てみましょう。事業譲渡では、売却側にも買収側にも消費税の税金が課税されます。
事業譲渡で発生する税金
事業譲渡で発生する税金および税率は以下です。詳しい税務は以下で解説します。
税金 | 税金の税率 | |
売却側税務 | 法人税 (法人事業税+法人住民税) |
税引前利益の約40% |
消費税 | 課税資産の売却金額に対して8% | |
買収側税務 | 消費税 | (消費税は売却側と同様) |
不動産取得税 | 土地、建物を取得した場合、 固定資産税評価額の4% |
|
登録免許税 | 土地は固定資産税評価額の2% (令和3年3月31日までは1.5%) 建物は固定資産税評価額の2% |
売り手側の税金
事業譲渡では、法人税と消費税が売却側に課税されます。
法人税(法人事業税+法人住民税)は、事業を売却した対価で得た利益に対して課税され、税務が発生します。
ただし、法人税は売却して受け取った対価のすべてに課税されるのではなく、正しくは「譲渡益=売却額-譲渡資産の簿価」に対してです。この譲渡益がプラスだったらそのまま法人税率を掛けて税金が課されますが、この譲渡益がマイナスだったり、会社自体が赤字だったりする場合は、そのマイナスや赤字の法人税金分は差し引かれます。
そして消費税ですが、消費税は譲渡する資産に対してかかる税金ですので、たとえ法人税(後述)でいう譲渡益がマイナスでも消費税は課税されます。ただし、消費税にも課税の対象となる資産とならない資産がありますので、それぞれ代表的なものを挙げておきましょう。
- 消費税課税資産:土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権(のれん代)
- 消費税非課税資産:土地、有価証券、債権
ただし、会社分割の方法で事業の売却を行った場合には、消費税は課されません。
買い手側の税金
事業譲渡で売却側に説明した消費税は、買収側にも課税され、税務が発生します。基本的に、消費税は売却側から請求されますので、買収側はそれを支払う税金が発生するでしょう。
事業譲渡で売却側から不動産を取得した場合には、不動産取得税と登録免許税が課税され、税務が発生します。なお、会社分割で事業を取得した場合には、消費税は課されません。
株式譲渡で発生する税金
株式譲渡で発生する税金および税率は以下です。詳しい税務は以下で解説します。
税金 | 税金の税率 | |
売却側税務 | 所得税 | 所得税+法人税で、売却益に対しておよそ20% |
住民税 | ||
買収側税務 | なし | ー |
売り手側の税金
株式譲渡では、中小企業の場合は株主=経営者が買収側に株式を売却します。この場合、株式を売却したのは個人です。
個人における株式の売却益には、所得税と住民税が課税され、個人で税務を行う必要があります。
買い手側の税金
株式譲渡の場合、買収側への消費税や法人税の課税と税務はありません。
8. M&A手法の事業譲渡・株式譲渡の選択ポイント
M&Aにはさまざまな手法があるので、それぞれの手法を使い分ける必要があります。特に、事業譲渡と株式譲渡は、同じ「譲渡」といった組織再編行為なので同一視されがちですが、その効果は全く異なるので、きちんと理解しておかなければなりません。
譲渡対象の範囲の違い、課税額の違い、雇用移転の同意の有無の違い、取引対象企業における負債の状況の違いを踏まえたうえで、事業譲渡にするか、株式譲渡にするかを選択できるように説明します。
譲渡対象の範囲
事業譲渡は、譲渡側が所有している一部、もしくは全ての事業を譲渡するのに対し、株式譲渡では、譲渡企業の株式のうち、保有している一定割合の株式を譲渡します。
この違いは、事業譲渡が事業を譲渡するのに対して、株式譲渡は株式である経営権を譲渡するといった大きな違いを生み出します。この点をきちんと区別しておかなければなりません。
課税額
事業譲渡と株式譲渡では、税金の支払額が異なります。事業譲渡では、事業を譲り渡して得られた利益に対して法人税が約30%かかります。加えて、この取引は消費税の対象となるので、事業の譲受側は消費税を支払わなければなりません。
他方で、株式譲渡では、消費税の対象とはならないものの、株式の売買取引に該当するため、譲渡益に対して20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% + 住民税5%)が課税されます。譲受側が譲り受けた資産のなかに不動産が含まれている場合には、不動産取得税および登録免許税の支払いが必要です。
雇用移転の同意
事業の譲渡を受けるケースでは、資産に対する個別の契約の結び直しが必要であるのと同様に、一人ひとりの従業員と雇用契約の結び直しをしなければなりません。もし、雇用契約を結ぶにあたって同意が得られない場合には、雇用を継続できないでしょう。
他方で、株式譲渡の場合は、従業員が働いていた会社(あるいは事業)はそのまま存続しているので、従業員に対して個別に雇用契約を結び直す必要はありません。
取引対象企業における負債の状況
事業譲渡では、個別に引き継ぐ財産の契約を結ぶので、契約を結んだ財産以外を引き継ぐのはありません。したがって、簿外債務を引き継がないで済みます。
しかし、株式譲渡の場合は、個別の財産の契約を結ぶわけではないので、譲り受けた会社あるいは事業に簿外負債が発見された場合でも、それを引き継がなければなりません。
9. 事業譲渡の事例
事業譲渡のM&Aスキームによる事例を2つ見ます。
- 事業譲渡の事例①:ブランドの事業譲渡
- 事業譲渡の事例②:外食の事業譲渡
事例を確認し、どのように目的を果たしているのかを確認しましょう。
事業譲渡の事例①:ブランドの事業譲渡
アパレルブランドの事業が、同業他社に事業譲渡・事業売却された事例です。
事業譲渡売却側 | 事業譲渡買収側 | |
事業内容 | アパレル製造 | アパレル製造 |
売上 | 40億円 | 非公表 |
目的 | 事業再編 | 事業拡大 |
売り手側の事情
複数のブランドを保有していましたが、その中に収益力の悪いブランドがありました。このブランドを自社のリソースだけで立て直すことは困難と判断し、他社に事業譲渡での売却を決断しました。
買い手側の事情
売却側と同業で、こちらも多数のブランドを保有していました。マーケティング力・販売力に定評があり、これまでも他社からブランドを買収し、事業を拡大してきました。
売却側の対象ブランドは、自社がすでに保有しているブランドと競合関係になく、むしろ補完関係にあると考えられたことから取得するに至っています。
事業譲渡の事例②:外食の事業譲渡
ある会社の外食事業が、食品小売の会社に事業譲渡された事例です。
事業譲渡売却側 | 事業譲渡買収側 | |
事業内容 | 外食 | 食品小売 |
売上 | 8,000万円 | 50億円 |
目的 | 事業再編 | 新規事業 |
売り手側の事情
本業が建設業で、外食事業も行っていました。しかしながら本業が不振で資金繰りも楽ではない状態となったため、外食事業を事業譲渡で売却して本業に資源を向ける決断をしました。
買い手側の事情
外食事業の経営に意欲を持つ社員がいたため、取得に至りました。ただし外食事業は未経験でノウハウがないので、最初は売却側を本部とするフランチャイズとして運営をはじめ、ノウハウを学んだ段階で買収側が完全に運営する形にしました。
10. 株式譲渡の事例
株式譲渡のM&Aスキームによる事例を2つ見ます。
- 株式譲渡の事例①:調剤薬局の株式譲渡
- 株式譲渡の事例②:空調設備工事会社の株式譲渡
事例を確認し、どのように目的を果たしているのかを確認しましょう。
株式譲渡の事例①:調剤薬局の株式譲渡
調剤薬局が、上場大手のドラッグストアに株式譲渡をした事例です。
株式譲渡売却側 | 株式譲渡買収側 | |
事業内容 | 調剤薬局11店舗 | ドラッグストア・調剤薬局 |
売上 | 18億円 | 3,700億円 |
目的 | 後継者不在 | 規模拡大 |
売り手側の事情
地元密着で11店舗の調剤薬局を運営していましたが、経営者には後継者がいないため、事業承継問題を抱えていました。加えて、薬剤師の確保にも苦戦しており、会社を売却する決断をしました。
買い手側の事情
買収側は上場大手のドラッグストアと調剤薬局を運営していましたが、もともと売却側が展開する地域への出店に強い関心を持っていました。
11店舗とまとまった店舗を一気に得られるのが非常に魅力であったため、当初から良い条件を提示しての買収に至りました。
株式譲渡の事例②:空調設備工事会社の株式譲渡
空調設備資材販売・工事と人材派遣を行う会社が、空調設備関連の事業に近い事業を行う他社に株式譲渡をした事例です。
株式譲渡売却側 | 株式譲渡買収側 | |
事業内容 | 空調設備資材販売・工事/人材派遣 | 空調設備のメンテナンス |
売上 | 6億円 | 10億円 |
目的 | 後継者不在、創業者利益 | 周辺分野への進出 |
売り手側の事情
空調設備資材販売・工事と人材派遣の2つの事業を行っており、会社設立以来増収を続けるなど、好調な業績を維持していました。一方で、業績が好調であったために、会社の借入金が増え、それに対する経営者個人の保証も膨らむ一方で、それが心理的負担にもなってきていました。
まだ経営は続けられる年齢ではありましたが、後継者がいないことと、早く心理的負担から逃れてリタイアしたいとの思いから、会社を売却する決断をしました。
買い手側の事情
売却側は業績が好調でした。売却側の主要事業である空調設備資材販売・工事の事業は、自社(買収側)のメンテナンス事業とは少し異なるものでした。しかし、人材や資産とともに買収すれば引き継ぐのはさほど難しくなく、むしろサービスの強化につなげられると考え、買収を決断しました。
人材派遣業は買収側には全くノウハウはありませんが、収益も出ており設備投資などもかからない事業であることから、売却側の希望どおり一緒に買収しました。
11. 事業譲渡と株式譲渡の違いまとめ
事業譲渡と株式譲渡の一番の違いは、「何が売買の対象であるか」です。事業譲渡では「事業」を、株式譲渡では「株式」を売買します。
事業譲渡とは、会社における一部の事業のみを売却するM&Aスキームことです。事業の中でも、ヒト・モノ(商品・工場)・権利(取引先)などを定めて売買できます。
一方で株式譲渡とは、株主が会社の株式を売却して、新たな法人の株主に会社の所有権を移転させるM&Aスキームです。中小企業で経営権まで移転させる場合は通常、株式を全部売却する形が取られ、これは会社を丸ごと売却しているのと同じことになります。
事業譲渡と株式譲渡では、取引の相手、売買の対象、契約、譲渡手順、税務などが異なります。それらの違いやメリット・デメリットをしっかりと理解したうえで、どの手法がベストなのかを見極めましょう。
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