2020年07月15日更新
M&Aによる買収の目的は?目的別にメリット・課題を分類!

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。
今回は、M&Aによる買収の目的について解説していきます。また、M&Aの目的別のメリット・課題を分類して説明していきます。企業買収の目的に適した「M&A戦略」についても解説しているので、M&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. M&Aによる買収は目的の明確化から
近年では、大企業に限らず、中堅・中小企業や個人でもM&Aが頻繁に行われるようになっています。大企業の経営者はもちろんのこと、後継者を探している中小企業の経営者や個人事業主、サラリーマンの方まで、M&Aが身近なものになりつつあるのです。
そこで当記事では、M&Aについて気になっている方や、これからM&Aを積極的に行っていこうと考えている経営者のために、「M&Aによる会社・事業を買収する目的」「M&Aで企業を買収するメリット」などについてまとめていきます。
そもそもM&Aとは?
M&Aとは「Merger and Acquisition」の略で、「企業の合併・買収」のことを意味しています。M&Aを行い、既存の会社や事業を買収することで、買い手側は「自社にさまざまなメリットをおよぼしてくれる」ことを期待します。
M&Aは、もともと大企業同士の間で行われるイメージでした。しかし、現在では、後継者不足となっている中小企業のM&Aや、個人が作ったアフィリエイトサイト・ECサイトなどを売買する「サイトM&A」も活発に行われています。
M&Aを行う目的を明確化しよう!
M&Aで会社や事業を買収しようと検討している方は、まず「どのような目的でその会社・事業を買収するのか」をしっかり明確化させることが大切です。
目的が明確化していないと、「不要な資産や負債を抱えてしまう」「M&A費用が余分にかかってしまう」「考えていたメリットを獲得できない」といったリスクが伴い、M&Aが失敗に終わってしまう可能性もあります。
そこで、次の項目から、「M&Aによる買収の目的」についてまとめていきます。M&Aで会社や事業の買収を検討している方は、「自社に必要な経営資源」や「今後の経営戦略」を頭に思い浮かべながら、M&Aでの買収の目的を確認してください。
2. M&Aの分類
ここからは、M&Aの「分類」について簡潔にまとめていきます。M&Aは大きく分けて「買収」「合併」「分割」に分けることができます。
M&Aの分類:買収
M&Aの分類の一つである「買収」は、買い手が売り手の「経営権」を買い取る、または「事業」を譲受することを意味します。
買収された企業は、買い手側に経営権が移った状態で存続し続けます。「M&Aの買収」はさらに「事業譲渡」と「株式取得」に分類できます。
- 事業譲渡:企業・会社の「一部」の事業を譲渡すること
- 株式取得:買収企業の株式を買い取ることで、企業全体の経営権を取得すること
M&Aの分類:合併
M&Aの分類の一つである「合併」は、複数の企業が一つになることを意味しています。M&Aにおける合併は、さらに「新設合併」と「吸収合併」に分類されます。
- 新設合併:合併に参加した企業すべてが消滅して、新たな企業が誕生する
- 吸収合併:合併に参加した企業の一つを残して、他の企業は消滅する
M&Aの分類:分割
M&Aの分類の一つである「分割」は、企業が「事業」に関して有する権利・義務を、新しく新設する企業または相手に承継することを意味しています。このM&Aにおける分類は、さらに「新設分割」と「吸収分割」に分類できます。
- 新設分割:M&Aの対象となる両企業が、両事業を新設する企業に引き継がせること
- 吸収分割:一方の企業の事業をもう一方の企業に引き継ぐこと
3. M&Aによる買収の目的①:技術獲得
ここからは、M&Aの目的について解説していきます。まずご紹介する「M&Aによる買収の目的」は「技術獲得」です。自社にはない「最新技術」や長年にわたって獲得された「熟練の技術」を獲得する目的で、M&Aが実施されるケースがあります。
「技術獲得」というM&Aの目的は、「事業規模の拡大」という、買い手企業全体の目的とも合致します。うまくメリットが発揮されると、市場でトップのシェアを獲得することも可能です。
メリット
「技術獲得」を目的にM&Aによる買収を実施した場合に、獲得できるメリットと考えられる課題を分類して説明していきます。まずは、「技術獲得」によって得られるメリットです。メリットとしては、以下のことが挙げられます。
- 既存事業の強化
- 技術獲得にかかる年数の短縮
既存事業の強化
M&Aによる買収で「技術獲得」ができると、自社の既存事業を強化できます。これまでの自社が持っている技術だけでは達成不可能だった「製品の開発」や「事業の拡大」「新規マーケットへの展開」が期待できます。
また、自社の事業を展開していくうえで見つかる「課題」を、技術獲得によって改善できるケースがあります。
技術獲得にかかるコストの削減
単純に、市場の競合他者に差をつけるための「技術獲得」には、相当な時間と資金が必要です。M&Aによって、自社が必要とする技術をすでに持っている会社を買収することで、技術獲得にかかるコストを削減できます。
課題
M&Aによる「技術獲得」の課題として考えられることは、「想定していた効果が生まれない」「優秀な人材が流出してしまう」などが考えられます。
想定していた効果が生まれない
自社に必要と思われる技術を獲得できれば、必ず既存事業が成長していくかというと、決してそうではありません。せっかくM&Aにお金と時間をかけたのに、期待通りの効果が得られない課題が考えられます。
優秀な人材が流出してしまう
これは、「M&A全体の課題」と考えられますが、M&Aによって「買収された側」の企業・会社の従業員が辞めてしまうリスクがあります。
企業文化の違いや労働条件の変更などが原因で、技術を使いこなせる・発揮できる人材が流出してしまい、結果的に想定していたメリットが発揮されない可能性もあるでしょう。
事例
ここでは、「技術獲得」を目的に行われたM&Aの事例を紹介していきます。「技術獲得」を目的としたM&Aの事例には「『メタップス』による『ビカム社』の完全子会社化」があります。
「メタップス」による「ビカム社」の完全子会社化
スマートフォンアプリの広告効果測定やユーザー分析などを行うプラットフォームを提供する「メタップス」は2016年、通販検索や価格比較サイトを運営している「ビカム社」をM&Aによって完全子会社化しました。
メタップスは、EC事業者向けのオンライン決済プラットフォームである「SPIKE」を展開していますが、急成長するEC事業における「デバイスの多様化」や「消費者の行動様式の変化」に対応できていないという課題がありました。
そこで、「ビカム社」が持つ「データフィードマネジメント技術」を取り入れることで課題を解決する目的で、「ビカム社」をM&Aによって完全子会社化する戦略を取りました。
メタップスはビカム社の技術を獲得することで、さらなる既存事業(SPIKE)の拡大とグローバル展開を視野に入れています。
4. M&Aによる買収の目的②:人材確保
「M&Aによる買収の目的」の一つに「人材確保」があります。この「人材確保」は、M&Aにおいて非常に重要な目的の一つと考えられます。
メリット
M&Aによる「人材確保」では、以下のようなメリットがあります。メリットをそれぞれ見ていきましょう。
- 既存商品・サービスの向上
- ノウハウの移植
- 事業承継が可能
既存商品・サービスの向上
新たな人材・専門性の高い人材を獲得することで、既存事業では発揮できなかった効果を期待できます。新たな考え方の循環によって、現在直面している課題を解決できるかもしれません。
また、すでに完成されている「オペレーション体制」を獲得できれば、専門性の高いオペレーションサービスの提供も期待できます。
ノウハウの移植
専門性の高い人材を確保することで、新たなノウハウを自社に移植できます。例えば、「営業面」に課題がある企業であれば、営業ノウハウを蓄積している人材を確保することで、売り上げ増加が期待できるでしょう。
事業承継が可能
後継者不足で「事業を続けていくことが困難」な中小企業では、M&Aによって人材を確保することで、会社を廃業せずに継続できます。最近では、この事業承継を目的としたM&Aも増えています。
課題
M&Aによる「人材確保」の課題としては、「獲得した人材がうまくフィットしない」「人材の流出」などが考えられます。
獲得した人材がうまくフィットしない
あくまでも人間なので、働く環境・企業文化が変わってしまうことで、「これまで発揮できていた能力が発揮できなくなる」「想定していたような人材確保の効果が生まれない」といった課題の発生が考えられます。
人材の流出
新たな人材が流入してくることで、これまで働いていた人材のケアが必要になるかもしれません。必ずしも全員が「M&Aによる人材確保」をプラスに捉えているとは限らないためです。
M&Aで人材確保をしたら、反対にこれまで一緒に働いていた従業員が流出してしまうケースもあります。
事例
「人材確保」を目的の一つとして行われたM&Aの事例をご紹介します。ここで紹介する「人材確保」の事例は、「小僧寿し」による「阪神茶月社」と「スパイシークリエイト社」の連結子会社化です。
「小僧寿し」による「阪神茶月社」と「スパイシークリエイト社」の連結子会社化
持ち帰り寿司チェーンを展開している「小僧寿し」は2016年、同じく持ち帰り寿司チェーンを運営している「阪神茶月社」と、カレーハウススパイシーなどを運営する「スパイシークリエイト社」の株式を取得して、両者を連結子会社化しました。
このM&Aの背景には、「小僧寿し」が「商品開発能力の強化」と「各社の人材共有化」を実現し、フランチャイズ事業体制を全国に網羅させる目的があったようです。
M&Aには税務や法務、経営・労務など多面的な考察が必要です。メリットを最大化した上でM&Aを行うためには、M&A仲介会社であるM&A総合研究所にご相談ください。専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが在籍しており、培ったノウハウを活かしてM&Aをサポートいたします。相談は無料ですので、お気軽にお問合せください。
5. M&Aによる買収の目的③:事業成長の期間短縮
M&Aによって会社や事業を売却する目的の一つが、「事業成長の期間短縮」です。
企業にとって、事業を成長させたり、新規事業に一から参入したりするには、相当な時間を要します。M&Aで会社・事業を買収することで、この時間を短縮できます。
メリット
「事業成長の期間短縮」の目的でM&Aを実施する場合、「より早く事業が成長できる」「新規事業参入のコストを減らすことができる」といったメリットを得ることができます。
より早く事業が成長できる
これは、「期間短縮」を目的にM&Aを行っているので当然のメリットではありますが。M&Aですでに利益・実績を上げている会社・企業を買収することによって、自分たちの事業をよりスピーディーに成長させることが可能です。
新規事業参入のコストを減らすことができる
新規事業に参入を検討している企業が、「期間短縮」を目的としてM&Aを実施するケースもよく見られます。これまでに経験のない新規事業・未開拓市場に参入する際は、多くの人員の導入・資金の投入が必要です。
また、ノウハウのない状態から、新たなスキル・経験を獲得するには、相当な時間を要します。
そのようなとき、M&Aによって、すでにその市場で実績・経験を積んでいる会社を買収できれば、新規市場参入後に、良いスタートダッシュをきることが可能です。
また、人材の育成などにかかる「費用」や「時間」といった「コストを削減」も可能です。
課題
「事業成長の期間短縮」を目的としたM&Aにおいて、起こりうる課題としては、「優秀な人材の流出」「想定通りのシナジー効果が生まれない」といったことです。
優秀な人材の流出
ここまでで何度か登場していますが、M&Aでは「優秀な人材の流出」という課題があります。
これから自社の事業を大きく成長させるために、M&Aによって企業を買収したのに、「M&Aが原因」となって、優秀な人材が転職してしまうという課題がつきものです。
優秀な人材が流出すると、事業を成長させるスピードが低下してしまうかもしれません。そのため、M&A後の従業員に対するアフターケアが非常に重要になってきます。
想定通りのシナジー効果が生まれない
新規事業の参入や、既存事業のさらなる成長を目的としていても、必ず想定通りにいくとはかぎりません。
M&Aで経験や実績を積んでいる企業を買収しても、いざ一紙に事業を進めていくと、想定通りの「シナジー効果(相乗効果)」が生まれず、苦戦を強いられることも考えられます。
事例
「事業成長の期間短縮」を目的としたM&Aの事例として、「グリーによる3ミニッツの買収」をご紹介します。
「グリー」による「3ミニッツ」の買収
ゲーム業界大手の「グリー」は2017年、「ファッション動画マガジン」や「動画マーケティング」「インフルエンサーマーケティング」などを手掛ける「3ミニッツ」を100%子会社化しました。
グリーは、成長著しい「動画広告市場」に新規参入し、いち早く市場規模を拡大するために3ミニッツの買収を行いました。
6. M&Aによる買収の目的④:多角化対応
「多角化」に対応することを目的として、M&Aで会社や事業を買収するケースもあります。
「多角化」とは、企業が既存事業で得られる売上・利益をさらに伸ばすために、既存の事業・製品に固執することなく、新事業・新製品で新たな市場のシェア拡大を図る「事業戦略」のことです。
メリット
「多角化」を目的としたM&Aを行うことで、「イノベーションの促進」や「経営資源の有効活用」などのメリットを得ることができます。
イノベーションの促進
多角化戦略のためにM&Aを行うことで、企業のイノベーションが促進され、競合他社との競争に勝てる可能性が高まります。
既存の企業の状態のまま製品を開発したり、サービスを提供したりしているだけだと、いつか成長がストップしてしまいます。
そこで、異業種企業の買収などによってシナジー効果が発揮されると、企業内に新たな経営戦略が生まれたり、新規市場に投入する新製品が開発されたりする可能性が期待できます。
経営資源の有効活用
多角化は、主に「新製品・新サービス」を「新市場」に投入する戦略であるため、これまで発見できなかった・見過ごされてきた「自社の経営資源」を有効活用できるチャンスです。
M&Aによって、これまでは自社の利益・売上につながらなかった経営資源を有効活用できることで、企業内に新しい風が吹き、「相乗効果」が発揮される可能性があります。
市場・技術の変化に即対応できる
市場の変化・技術の進歩に乗り遅れないよう、M&Aを行わずに自社での対応力が育つのを待つことにすると、投資分を回収するまでにかなり乗り遅れてしまうでしょう。
しかしM&Aを行ってすでに対応力を持つ会社と統合すれば、市場やビジネス環境の変化などにすばやく対応できます。
課題
多角化を目的としたM&Aの課題は、やはり「想定通りの多角化戦略にならないリスクがある」ことです。
想定通りの多角化戦略にならないリスクがある
多角化戦略は、これまでとは違う製品・サービスを、これまで戦ってこなかった市場に投入する戦略であるため、「思った通りにならず、撤退する」という可能性も考えられます。
「多角化の対応」を目的にM&Aを実施したのに、新規事業がうまくいかないと、「M&A自体が失敗だったかも」と感じるでしょう。「多角化すれば必ずうまくいく」というものではないことを認識してM&Aをする必要があります。
事例
M&Aによる多角化戦略として有名な企業が「楽天」です。楽天は、これまで事業多角化を加速させるために、さまざまなM&Aを行ってきました。
「楽天」による「あおぞらカード」の完全子会社化
2004年に楽天は、個人向けカードローン会社であった「あおぞらカード」を完全子会社化しました。
これによって、楽天は「個人向けカードローン市場」に参入することとなります。現在は「楽天カード」となって、運営を続けています。
7. M&Aによる買収の目的⑤:リスク回避
「リスク回避」を目的にM&Aを進める企業も多いです。企業活動には、さまざまな「リスク」が伴います。「M&A」で企業・会社を買収することで、そのリスクを回避できる可能性があります。
メリット
「リスク回避」を目的に行われるM&Aによって、「新規事業に参入する際のリスクが軽減される」という大きなメリットがあります。
新規事業に参入する際のリスクが軽減される
新規市場に参入する際には、「失敗する」という大きなリスクが伴います。失敗する可能性が大いに考えられる新規事業に一から参入するのは、多くの資金・時間・労力が必要不可欠です。
もし、M&Aによって、ある程度収益化できている企業や事業を買収できれば、「ゼロ」から事業を立ち上げることと比べて、「非常にローリスク」で新規事業に参入できます。
課題
「リスク回避」を目的にM&Aを行ったはずなのに、「企業文化の違い」や「従業員の流出」によって、事業失敗というリスクが伴う可能性が考えられます。
企業文化の違い
「企業文化の違い」というのは、M&Aにおいて非常に大きな課題となり得ます。「新規市場参入のリスクを減らす」ことばかり考えて、新しく向かい入れる優秀な人材のケアを怠るのは危険です。
想定していた通りのシナジー効果が発揮できず、結局「新規市場の参入」にも失敗してしまうかもしれません。
従業員の流出
「従業員が流出」することで、リスク回避どころか「新規事業の失敗」というリスクが生まれるかもしれません。優秀な人材の流出を避けるためにも、事前に待遇について話し合ったり、お互いの将来のビジョン明確化させたりすることが非常に重要です。
事例
「リスク回避」を目的としたM&Aの事例として、楽天による「イーバンク銀行」の子会社化を紹介します。
「楽天」による「イーバンク銀行」の子会社化
楽天は、2008年に「イーバンク銀行」を連結子会社化しました。これにより、当時ネット銀行としてNo.1の口座保有数を誇っていたイーバンクの顧客基盤へアクセスできるようになりました。
また、イーバンク銀行が提供していた「決済サービス」が利用可能となりました。現在は、「楽天銀行」として、ネット銀行の第一線でその存在を示しています。
まさに、M&Aによって「銀行・決済サービス」への参入に伴うリスクを回避し、うまく市場に参入できた例といえます。
8. M&Aによる買収の目的⑥:海外進出
「M&Aによる買収の目的」には、「海外進出を成功させるため」というものもあります。実際、海外進出を目的としたM&Aを実施している日本企業も数多く存在しています。
メリット
「海外進出」を目的としてM&Aを実行すれば、日本市場で企業活動している以上の「シェアの獲得」が期待できます。また、「海外の優秀な人材の獲得」も可能です。さらに、「人件費・原材料費などを安く抑えることができる」という魅力もあります。
自社事業のシェアをさらに拡大できる
M&Aによって海外に進出できれば、「大きなシェア拡大」につながります。日本市場のみでは到底およばないような規模のシェアを獲得でき、売り上げ・利益はもちろんのこと、「企業ブランドの定着」「企業価値の向上」などが期待できます。
海外の優秀な人材を確保しやすくなる
海外の企業をM&Aによって買収すれば、海外の優秀な人材を確保しやすくなります。また、日本にはまだない技術や専門知識を持った人材を獲得できるかもしれません。
コストを削減できる
発展途上国に進出すると、日本と比べて「人件費を安く抑える」ことが可能になります。また、場所によっては「原材料費」も日本より安く済ませることができます。
さらに、進出する国によっては「税率」が日本よりも低く、支払う税金を少なくすることが可能です。このようなことから、企業を経営していくうえで必要となるコストを、日本にいるときよりも削減できるケースがあります。
課題
非常に魅力的なメリットを持つ「海外進出を目的としたM&A」ですが、その分、さまざまな課題も考えられます。「海外進出を目的としたM&A」のデメリットには、以下のことが挙げられます。
- 人材管理の難しさ
- 政治リスク
- 為替レートの変動リスク
人材管理の難しさ
海外進出を目的としたM&Aを行った後、「人材管理の難しさ」という課題に直面する可能性が高いです。
海外に進出すれば、言語の壁・文化や制度の違いなどが原因で、「新たな雇用が難しい」「すぐに人材が流出してしまう」という問題が発生しがちです。M&A後は、適切なコミュニケーションを取っていく必要があります。
政治リスク
「海外に進出を目的としたM&A」には、「政治リスク」という課題が考えられます。いくら「人件費や原材料費が安い」からといっても、「政治情勢が不安定」な国を選んでしまうと、突然のテロや紛争などに巻き込まれてしまう危険性があるでしょう。
また、政治情勢が不安定なことから、政府によって退去が命じられてしまうケースもあります。
為替レートの変動リスク
コスト削減を求めて、新興国や発展途上国に進出した場合、「為替レートの変動リスク」という課題が伴うことをしっかり理解しておく必要があります。
新興国や発展途上国の為替は、急激に変動する危険性があり、場合によっては利益額に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
事例
海外に進出する目的で行われるM&Aは非常に多く、成功事例も多く存在します。「JT(日本たばこ産業)」による「RJRI(米RJRIナビスコの海外たばこ事業)」は良い例です。
「JT」による「RJRI」の買収
「JT」は、1999年に「RJRI」を買収したことで、海外市場において、従来のおよそ10倍にもなる「タバコの販売本数」を達成しました。
RJRIを買収後、積極的なブランディング戦略を行ったことで、海外での知名度が上がったことが、売り上げ増加につながりました。
9. M&Aによる買収の目的⑦:ライバルの買収
「ライバルの買収」を目的に、M&Aを行うケースもあります。同じ市場でシェアを分け合っているライバル企業をM&Aによって買収することで、市場内での自分たちのポジションをより強固なものにできます。
メリット
「ライバル企業の買収」を目的としたM&Aでは、「市場シェアをさらに拡大できる」「競合他社のノウハウを獲得できる」といったメリットがあります。
市場シェアをさらに拡大できる
ライバル企業の買収を目的にM&Aを行えば、これまで「奪われていたシェア」を自社のものにできるため、事業を展開している市場内において、シェアを格段に伸ばすことができます。
競合他社のノウハウを獲得できる
ライバルを買収できれば、これまで自社の脅威となっていた「競合他者のノウハウ」を自分たちのものにできます。これまでライバル同士だった企業が、お互いに手を組むことで、さらなる利益拡大が見込まれるでしょう。
課題
ライバル企業を買収する際には、「買収価格が高くなる」「従業員が流出する」といった課題があります。
買収価格が高くなる
ライバル企業を買収する際に取られるM&A戦略として、「敵対的買収」があります。一般的なM&Aは、「友好的買収」といわれ、買い手と売り手の双方が合意したうえで行われます。一方で、敵対的買収は、売り手側の合意がないまま実行されるM&A戦略です。
敵対的買収の場合、基本的には「TOB(株式の公開買い付け)」が実施され、市場で取引されている株価よりも高い価格で、ライバル企業の株式を購入します。そのため、非常に高い買収金額を用意しなければなりません。
従業員が流出する
ライバル企業を買収すると、企業風土の違いや、事業に対する意識の違いから、従業員が辞めてしまう可能性があります。ライバル企業のM&A後は、十分な従業員のケアが必要不可欠となります。
事例
「ライバル企業の買収」を目的として行われたM&Aの事例として、「楽天」による「マイトリップ・ネット」の買収をご紹介します。
「楽天」による「マイトリップ・ネット」の買収
楽天は2003年に、当時の競合他社であった「マイトリップ・ネット」を完全子会社化しました。
マイトリップ・ネットは、「旅の窓口」という宿泊予約サイトを運営しており、楽天が2000年から運営していた「楽天トラベル」よりも圧倒的なシェアを誇っていました。
楽天は、このM&Aによって、宿泊予約サイトにおける楽天グループのシェアを約7割とし、実質トップに立つこととなりました。
10. M&Aの類型
次に、M&Aの「類型」についてまとめていきます。自社が求める「M&Aによって得られるメリット」や「M&Aの目的」「自社の経営戦略」などによって、適切なM&Aの類型が変わります。M&Aの類型は、以下です。
水平統合型M&A
M&Aの類型の一つである「水平統合型M&A」は、同業他社・同じ市場で企業活動を行う会社を買収する形態のM&Aです。
垂直統合型M&A
M&Aの類型である「垂直統合型M&A」は、バリューチェーンの上流または下流の企業を買収する形態のM&Aです。
例えば、自動車メーカーが、自動車を作るための部品を提供する「部品メーカー」を買収したり、自動車を販売する「自動車販売店」を買収したりすることが、この「垂直統合型M&A」の類型に当たります。
新市場・新製品追求型M&A
M&Aの類型の一つに、「新市場・新製品追求型M&A」というものがあります。「新市場・新製品追求型M&A」とは、「自社が提供する製品」または「参入している市場」のどちらかが異なる企業を買収する形態のM&Aです。
例えば、自社の製品を海外市場に展開するために行われるM&Aは、この類型に当たります。
周辺事業拡大型M&A
自社の本業を「補完する」機能・事業を持っている会社を買収するのが、この「周辺事業拡大型M&A」という類型です。EC事業を展開している企業が、配達などを行う運送会社を買収するM&Aは、この類型に当たります。
多角化型M&A
「多角化型M&A」という類型は、市場・製品のどちらとも異なる「他業種企業」を買収するM&Aのことです。新しい収益事業の獲得や、リスク回避を目的に行われるケースが多いです。
11. M&Aの買収目的による戦略決定
最後に、「M&Aの買収目的」ごとに適したM&A戦略の決定について説明していきます。M&Aを実施する「目的」に適した「M&Aの類型」を選ぶことが、M&A成功に必要な戦略となります。
目的 | M&Aの類型 |
---|---|
技術獲得 | 水平統合型M&A / 垂直統合型M&A / 周辺事業拡大型M&A |
人材確保 | 水平統合型M&A / 周辺事業拡大型M&A |
事業成長の期間短縮 | 水平統合型M&A / 新市場・新製品追求型M&A |
多角化対応 | 多角化型M&A / 新市場・新製品追求型M&A |
リスク回避 | 新市場・新製品追求型M&A / 多角化型M&A |
海外進出 | 垂直統合型M&A / 水平統合型M&A |
ライバルの買収 | 水平統合型M&A |
目的ごとに、取るべきM&Aの戦略が異なってきます。例えば、「人材確保」を目的にM&Aを行う場合には、「水平統合型M&A」または「周辺事業拡大型M&A」の類型を適用することが、最も理にかなった戦略です。
同業他社・同じ市場で活動する企業をM&Aによって買収したり、周辺事業を買収したりすることで、「人材確保」の目的を達成できる可能性が高まるからです。
一方で、「人材確保」の目的なのに、「多角化型M&A」の類型を選んでしまうと、うまくシナジー効果が発揮されないなどが原因で、想定している「人材確保」のメリットの獲得が困難になります。
12. M&Aによる買収の目的まとめ
今回は、M&Aを実施する際に考えられる「目的」や、目的別の「メリット」と「課題」を分類して解説してきました。また、M&Aの目的別の「事例」も紹介してきました。
M&Aを行う際には、自社に必要な「M&Aの目的」を明確化して、その目的に適したM&A戦略を取ることが重要です。M&Aを検討している方は、ぜひ当記事を参考にしてください。
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