2023年04月29日更新
中小・零細企業のM&A戦略!手法・注意点・事業承継問題の解決方法を解説
近年、多くの中小・零細企業で、M&Aによる事業承継で経営者の引退などによる事業承継問題を解決するケースが増えています。本記事では、中小・零細企業のM&A戦略について、目的・手法・注意点など経営者の方が押さえておきたい事項を解説します。
目次
1. 中小・零細企業とは
中小・零細企業のM&Aを考える前に、まずはそもそも中小・零細企業とは何か、整理しておきましょう。日常会話で「中小・零細企業」は、事業規模の小さな会社のことを漠然と差していることが多いです。
中小企業基本法では、「中小企業者」と「小規模企業者」という用語が下の表のように定められています。中小企業者・小規模企業者のことを中小企業・零細企業と呼ぶこともあります。
どちらの使い方も慣習的に定着しているのではないでしょうか。一方が正しくてもう一方が間違っているわけではありません。中小・零細企業という言葉には、このような曖昧さがあります。
【中小企業者】
業種 | 資本金 | 従業員数 |
製造業など | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
【小規模企業者】
業種 | 従業員数 |
製造業など | 20人以下 |
商業・サービス業 | 5人以下 |
日本の零細企業数
2020年版「中小企業白書」によると、日本の企業数の推移は年々減少傾向にあります。直近の2016年のデータでは、全体の企業数が359万者のうち、中小企業は358万者です。その内訳として、さらに小規模企業は304.8万者と、全体の84.9%を占めているのが分かります。
企業数の減少率は高くなっているものの、日本経済を支えている中小企業の中でも、零細企業がその大きな役割を担っていることがうかがえます。
2. 中小・零細企業がM&Aを実施する主な目的
中小・零細企業がM&Aを実施する目的を大きく分類すると、主に以下の3つになります。
【中小・零細企業がM&Aを実施する主な目的】
- 事業承継
- 会社売却
- 事業売却
事業承継
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。単に経営権を引き継ぐだけでなく、設備や不動産などの有形資産、ノウハウや技術、経営理念などの無形資産も含めて全てを引き継ぎます。
単に社長を交代するだけの場合は、事業承継とは呼ばないのが一般的です。事業承継は、後継者を誰にするかによって、親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継の3つに分類できます。
親族内事業承継とは、現経営者の親族が後継者になる事業承継です。中小・零細企業の事業承継では一般的に用いられています。
親族外事業承継とは、親族ではない役員や社員、外部から招へいした人物などを後継者にすることです。親族が後継者に就くまでの一時的な社長交代など、柔軟性のある戦略がとれるのが特徴といえるでしょう。
M&Aによる事業承継では、M&Aで会社を他者へ売却して、買い手企業(または個人)が後継者となります。
これまで、中小・零細企業の事業承継では、親族内事業承継が多く見られました。しかし近年では、親族内に適切な後継者がいないケースが増えています。その代わりに、M&Aによる事業承継が増えてきているといえます。
会社売却
会社売却を目的に、中小・零細企業のM&Aを行うのも多く見られるケースです。特に、ベンチャー企業ではイグジットの手段として、会社売却によるM&Aがよく使われています。
会社売却とは、会社を売却すること全般を指す用語です。法律上の明確な定義があるわけではありません。一般には株式譲渡のような包括的な売却のことを指します。事業譲渡による一部事業の譲渡などは含まないことが多いでしょう。
単に株式譲渡のことを会社売却ということもあります。しかし、事業譲渡も含めて会社売却と呼ぶこともあるため、使い方にはやや曖昧さがあるといえます。
事業売却
事業売却を目的に、中小・零細企業のM&Aが行われることもあります。事業売却も会社売却と同様、慣習的な用語といえるでしょう。一般には、事業譲渡などによって事業を個別に売却し、会社の経営権は譲渡しないケースを指します。
事業譲渡と同じ意味で使われることもある、中小・零細企業の事業売却は、不採算事業の切り離しや、コア事業に集中するための資金の獲得などを目的とすることが多いでしょう。
それ以外にも、個人事業主が事業売却でM&Aを行うケースも増えています。個人事業主は株式譲渡をできないので、M&Aは事業売却で行われるでしょう。
3. 中小・零細企業で多く用いられるM&A手法
M&Aの手法にはさまざまなものがあります。代表的なものを列挙すると、株式譲渡・事業譲渡・株式交換・株式移転・合併・分割などです。種類が多くて難しいと感じるかもしれません。しかし、中小・零細企業のM&Aで使われるのは、主に株式譲渡と事業譲渡です。その他の手法はほぼ使われません。
従って、中小・零細企業のM&Aを考えるときは、株式譲渡と事業譲渡だけ知っておけば十分といえるでしょう。
【中小・零細企業で多く用いられるM&A手法】
- 株式譲渡
- 事業譲渡
株式譲渡
株式譲渡とは、株式を売却して経営権を譲り渡すM&A手法のことです。中小・零細企業だけでなく、大企業も含めて最もよく使われるM&A手法の一つです。
メリット
株式譲渡の主なメリットは以下の3点です。
【株式譲渡のメリット】
- 許認可や権利義務を引き継げる
- 経営者が交代すること以外大きな変化がない
- 事業譲渡より手続きが簡単
許認可や権利義務を引き継げる
株式譲渡は会社の経営権の移転なので、会社が持つ許認可や権利義務なども全て引き継ぐことになります。許認可が必要な業種でも、新たに許認可を取る必要がないのは大きなメリットといえるでしょう。
経営者が交代すること以外大きな変化がない
株式譲渡は株主が変わるだけです。従業員や取引先から見ると、経営者が交代する以外はさほど大きな変化はないでしょう。
M&Aを実施すると、従業員が不安を感じて離職したり、取引先が取引停止したりすることにつながりかねません。変化が少なく不安を与えにくいのは、大きなメリットといえます。
事業譲渡より手続きが簡単
株式譲渡の手続きは株主を変更して対価を支払うだけなので、資産を個別に売却する事業譲渡に比べると手続きが簡単です。
中小・零細企業は株主数も少なく、経営者一人が全株式を保有していることも多く見られます。中堅・大企業の株式譲渡と比べて、手続きがさらに簡単といえるでしょう。
デメリット
メリットの多い株式譲渡にも当然デメリットが存在します。特に注意しておきたいのは、以下の2点です。
【株式譲渡のデメリット】
- 簿外債務などを引き継ぐ恐れがある
- のれんの償却が負担になることがある
簿外債務などを引き継ぐ恐れがある
株式譲渡は経営権を譲渡して会社を包括的に引き継ぐため、負債も全て引き継がれることになります。特に譲渡時には把握していなかった簿外債務が譲渡後に発覚すると、買い手は予定外の負担を背負うことになるでしょう。
表明保証違反であれば、訴訟に発展することもあり得ます。未払い残業代などの簿外債務は、従業員から訴訟される恐れもあるでしょう。株式譲渡の際は、売り手企業のデューデリジェンスを徹底して、できるだけ簿外債務を洗い出しておくことが重要といえます。
のれんの償却が負担になることがある
M&Aで株式を売却するときは、売り手企業の無形資産を「のれん」として盛り込みます。のれんは一定期間かけて償却されていくので、思わぬ負担となることがあります。
のれんの価値に見合うシナジー効果が得られた場合は問題ないでしょう。しかし、思ったほどのシナジーが得られなかった場合は、のれんが経営を大きく圧迫することもあります。
事業譲渡
事業譲渡とは、株式は譲渡せずに事業に関連する資産を譲渡するM&A手法のことです。下の図を見ると、A会社はA事業に関わる資産(店舗や設備、在庫など)をB会社に売却し、B会社は対価として現金を支払います。
しかし、譲渡後もA会社はそのまま存続し、B会社の子会社にはなりません。この点が、会社を子会社化する株式譲渡との大きな違いといえるでしょう。
売却する事業は複数事業のうちの一部だけでもいいですし、全ての事業の売却も可能です。
メリット
事業譲渡の主なメリットには、以下の3つが挙げられます。
【事業譲渡のメリット】
- 譲渡する資産を選べる
- 会社の経営権を保持できる
- のれんを損金算入できる
譲渡する資産を選べる
事業譲渡は、株式ではなく事業資産の売買なので、全ての資産を譲渡する必要はありません。買い手は、余計な負債を引き継がなくて済みます。売り手は、コア事業を残して経営を続けられるでしょう。
会社の経営権を保持できる
会社の経営権を保持できるのも、事業譲渡のメリットといえるでしょう。株式譲渡のように子会社化されないので、会社の独立性を維持できます。
のれんを損金算入できる
事業譲渡では、のれんの償却が損金として計上できます。買い手にとっては、株式譲渡より節税効果が高くなるでしょう。
デメリット
事業譲渡の主なデメリットは以下の3つです。
【事業譲渡のデメリット】
- 債権者や従業員の了承が必要
- 株式譲渡より手続きが面倒
- 競業避止義務
債権者や従業員の了承が必要
事業譲渡では、債務の移転や雇用の再契約が行われます。債権者や従業員の了承がなければ、引き継ぐことは難しくなるでしょう。
株式譲渡より手続きが面倒
事業譲渡は資産や権利義務を売買するので、株式譲渡よりも手続きが面倒になります。
競業避止義務
事業譲渡では、売却した事業と同じ事業を一定期間行えない「競業避止義務」が課されます。M&A後も同じ事業を立ち上げたいと考えている場合は、よく検討してから行う必要があるでしょう。
4. 中小・零細企業の会社売却価格相場
どのような目的でM&Aを行うにしろ、売却価格の決め方を知っておくのは重要です。この章では、会社の売却価格はどうやって決まるのか、売却価格の目安となる企業価値評価とは何かについて概要を解説します。
会社の売却価格はどうやって決まる?
会社の価値は無形資産の部分も大きいです。商品の値段のように、はっきりと価格をつけにくい部分があります。
同じ会社でも買い手が求めるニーズと一致するかどうかによって、売却価格が大きく変わることもあります。結局のところ、会社の売却価格は、売り手と買い手が交渉して、双方が納得するかどうかで決まります。
売却価格の目安は企業価値
中小・零細企業の売却価格は、最終的には売り手と買い手の合意で決まります。全くの言い値で交渉するのではなく、企業価値評価を行って、ある程度の目安を算定するのが一般的です。
中小・零細企業では、純資産に数年分の営業利益を足して、さらに無形資産の価値をのれんとして加えて算定する方法が多いです。このような純資産をもとにした企業価値評価を「コストアプローチ」といいます。
それ以外にも、中小・零細企業の企業価値評価の手法には「インカムアプローチ」や「マーケットアプローチ」といったいくつかの種類が存在します。
インカムアプローチ
企業が将来的に生み出すであろう収益を基準として企業価値を評価する方法があります。これをインカムアプローチといいます。現時点での価値だけでなく、将来の価値に基づいた計算をするため、適正に評価しやすい特徴があるといえるでしょう。
インカムアプローチには、大きく分けて、DCF法、収益還元法、配当還元法の3つの種類があります。この中で最も代表的な評価方法は、DCF法です。
- DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー):将来のキャッシュフローを現在価値で割り引くことで企業価値を算出
- 収益還元法:将来的な収益を現在価値に置き換えて企業価値を算出
- 配当還元法:将来予想される株主への配当金を基準として企業価値を算出
中小・零細企業では、非公開株であったり、株主が少なかったりするため、将来の配当額に大きな変化はさほどないものと見られます。配当還元法が採用されることが多いでしょう。
マーケットアプローチ
比較対象となる企業を、市場取引の観点から評価する方法があります。同じ業界や類似企業の市場価値に着目し、企業価値を算出するでしょう。これをマーケットアプローチと呼びます。
マーケットアプローチには、類似企業比準法、類似業種比準法などがあります。
- 類似企業比準法:評価対象となる企業と類似する企業の財務指標を比較する方法
- 類似業種比準法:評価対象となる企業と類似する業種の会社を比較対象として株価を評価する方法
コストアプローチ
評価対象となる企業の貸借対照表の純資産を基準として、企業価値を算出する方法があります。これをコストアプローチといいます。純資産とは、資産から負債を差し引いた額のことです。
コストアプローチには、簿価純資産法、修正純資産法、時価純資産+のれんの3つの手法があります。
- 簿価純資産法:貸借対照表の簿価に基づき企業価値を算出
- 修正純資産法:資産と負債をそれぞれ時価に修正して評価する
- 時価純資産+のれん:時価評価した純資産にのれんを加えて企業価値を算出
貸借対照表という分かりやすい資料を基準とするため、中小・零細企業のM&Aでは多く採用される企業価値評価の手法といえるでしょう。
5. 中小・零細企業が事業承継を会社売却で成功させるには
中小・零細企業のM&Aは成功するわけではありません。買い手が見つからず、失敗することもあり得ます。たとえ買い手が見つかったとしても、会社の業績が落ち、経営方針が望まない方向に変わってしまっては成功したとはいえません。
中小・零細企業のM&Aを行うには、成功させるポイントを押さえておくことが大切です。ここでは、中小・零細企業がM&Aによる事業承継を成功させる主なポイントを解説しましょう。
【中小・零細企業が事業承継を会社売却で成功させるには】
- 会社売却・事業承継のタイミングを逃さない
- 会社売却・事業承継に向けて磨き上げ・体制作りをしておく
- 社員のモチベーション低下・流出を防ぐ
- 情報管理を徹底する
- M&Aの専門家に相談する
会社売却・事業承継のタイミングを逃さない
中小・零細企業のM&Aは、適切なタイミングで行うかどうかによっても成功率が変わってきます。会社の業績が好調なとき、業界全体が好調なとき、大規模な業界再編が起こっているときなどは、M&Aのよいタイミングといえるでしょう。
会社売却・事業承継に向けて磨き上げ・体制作りをしておく
M&Aを行う前の会社の磨き上げと体制作りは、成功率を高めるとともに、売却価格を引き上げるのにも役立ちます。磨き上げの方法はさまざまですが、方針としては、買い手への魅力を高めて、買い手に対する買収リスクを軽減していくとよいでしょう。
例えば、経営状況や財務状況の確認および改善をします。そのほか、簿外債務やコンプライアンス違反などがないかの確認などが挙げられるでしょう。
社員のモチベーション低下・流出を防ぐ
中小・零細企業に限らず、M&Aを行う際には、社員のモチベーションの維持が重要といえます。特に売り手企業の社員は、自身の待遇や給料などの面で不安を抱えることになるでしょう。社員のモチベーションが低下し、中には退職を考える社員も出てくるかもしれません。
社員の不安を取り除き、退職させないためにも、社員への説明やフォローは丁寧に時間をかけて行いましょう。
情報管理を徹底する
M&Aを実施する際は、情報漏えいには十分に注意しましょう。情報管理を徹底しないと、M&Aの情報が漏れてしまい、交渉が進まなくなったり、M&A自体が破談となったりする可能性もあります。
社員へのM&A情報の公表タイミングをしっかりと計り、情報管理を徹底させましょう。場合によっては、損害賠償を請求されることもあるので、注意が必要です。
M&Aの専門家に相談する
中小・零細企業の経営者が自分だけでM&Aを行うのは困難でしょう。M&A仲介会社などの専門家のサポートを得ながら進めていくことをおすすめします。
中小・零細企業のM&Aでは、小規模なM&Aを得意にしている仲介会社を選ぶことが重要といえます。大企業専門の仲介会社は手数料も高く、中小・零細企業の案件は断られることもあるでしょう。事前に確認しておくとよいでしょう。
M&Aは売却金額のみに目が行きがちですが、大事なのは手数料です。手数料が高い専門業者に依頼するとリターンが小さくなるリスクがあるため、手数料の金額も踏まえて業者を選択しましょう。
6. 中小・零細企業のM&Aに関する相談先
中小・零細企業のM&Aをご検討中の方は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。当社はさまざまな業種で中堅・中小企業M&Aの実績があります。中小・零細企業のM&Aを安心して任せられるでしょう。
M&Aの実績のあるアドバイザーが親身にフルサポートします。M&Aのことが何も分からない方でも、基本的なことから相談して進めていけます。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。中小・零細企業のM&Aに関して、無料相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
7. 中小・零細企業のM&A戦略まとめ
中小・零細企業のM&Aを成功させるには、目的や手法などの戦略を理解することが大切です。事業承継問題の解決策として、中小・零細企業の経営者の方もM&A戦略を知っておくとよいでしょう。
【中小・零細企業がM&Aを実施する主な目的】
- 事業承継
- 会社売却
- 事業売却
【中小・零細企業で多く用いられるM&A手法】
- 株式譲渡
- 事業譲渡
【中小・零細企業が事業承継を会社売却で成功させるには】
- 会社売却・事業承継のタイミングを逃さない
- 会社売却・事業承継に向けて磨き上げ・体制作りをしておく
- 社員のモチベーション低下・流出を防ぐ
- 情報管理を徹底する
- M&Aの専門家に相談する
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