2024年05月24日更新
M&Aスキームの事業譲渡と株式譲渡の違い|選択のポイント・税務面についても詳しく解説
本記事では、中小企業のM&Aでよく用いられる事業譲渡と株式譲渡の違いについてまとめました。事業譲渡・株式譲渡のメリット・デメリット、税務の違い、選択ポイント、事例について紹介しています。
目次
1. 事業譲渡と株式譲渡の違い簡単まとめ【比較表】
事業譲渡 | 株式譲渡 | |
取引の相手 | ・売却側→法人、個人事業主 ・買収側→法人、個人 |
・売却側→株主(個人、法人) ・買収側→個人、法人 |
売買対象 | 事業 | 株式 |
契約名 | 事業譲渡契約 | 株式譲渡契約 |
移転するもの | 事業とそれに関連する資産、権利義務、人材など | 会社の所有権と経営権 |
譲渡手順 | ①事業譲渡契約締結 ②株主総会特別決議 ③譲渡効力発注 ④資産引渡し ⑤代金受渡 |
①株式譲渡契約締結 ②取締役会承認 ③名義変更手続き ④代金受渡し |
目的 | ・売却側→事業の選択と集中、不採算事業からの撤退、事業承継 ・買収側→事業拡大、新規事業への参入 |
・売却側→事業承継、経営基盤の強化 ・買収側→事業拡大、新規事業への参入 |
事業譲渡とは
事業譲渡とは、M&Aスキーム(手法)の1つで、会社における事業を売却する手続きです。事業譲渡では、売却する事業の中でも、人材、設備や施設、権利(取引先や顧客)などを選別して売却できます。事業譲渡の売却当事者は会社です。したがって、対価も会社が受け取ります。
事業譲渡は、すべての事業を譲渡する「全部譲渡」と、譲り渡したい事業のみ譲渡する「一部譲渡」の手法に分かれており、状況によって使い分けられます。
株式譲渡とは
株式譲渡とは、M&Aスキームの1つで、株主が株式を売却して新たな株主に株式の所有権を移転させることです。ほとんどの中小企業では、経営者やその親族などが全ての株式を所有しています。買い手が過半数の株式を取得すれば、株式の所有権とともに会社の経営権も移転するのです。
株式譲渡では、株式の全部ではなく一部のみも売却できますが、中小企業で経営権まで移転させる場合は通常、株式を全部売却する形が取られます。これは、会社を丸ごと売却しているのと同じです。株式譲渡の対価は、売却当事者である株主が受け取ります。
相対取引
相対取引(あいたいとりひき)とは、買い手と売り手の株主が直接、個別交渉を行い、株式譲渡する取引をいいます。非上場株式の場合は、相対取引でしか株式譲渡ができません。
また、株式譲渡制限を設けている企業の株式を売買するケースや、上場企業など有価証券報告書を提出している企業の株式を市場外で売買するケースなどで活用される取引方法です。
譲渡価額は、売り手の株主ごとに違った金額をつける可能性もあり、個別に対応すると、交渉や売買手続きなどに時間がかかってしまう可能性があります。株主間で不満が生じるおそれもあるでしょう。したがって、実務上は、同一価格で取引するのが一般的です。
市場買付け
市場買付けは、M&Aの対象会社が上場している場合、株式市場で株式を買い進める方法をいいます。株価が安いときに株式を取得する方法で、投資コストの圧縮が可能です。
ただし、発行済株式総数および潜在株式総数の5%を超えて取得した場合、5営業日以内に管轄の財務局へ「大量保有報告書」を提出する必要があります。その後、1%を超える保有割合の変動があった際は、変更報告書の提出が必要です。
大量保有報告書が開示されれば、買い手が対象会社の株式を買い進めていることが明らかになり、株価が高騰するおそれがあります。したがって、対象会社を連結子会社化したい場合、市場買付けを選択するケースはほとんどないでしょう。
TOB
TOB(Take Over Bit=株式公開買付け)は、上場会社などの発行する株式に対して、不特定多数の株主から公告によって買付けの申込を勧誘し、市場外で株式を買い集める方法です。
TOBは、対象会社の経営権取得を目的として実施され、買付けの期間や株式数、買付け額などを事前に公告したうえで実施されます。一定以上の数の株式買付けが実施されるため、規制やルールが設定されており、それに従って実施しなければなりません。
具体例としては、市場外で5%を超える買付けを行う場合は「5%ルール」として、TOBで行うとする規制があります。TOBを行う場合、現時点の株価からプレミアム分を乗せた高い株価で申込を勧誘するのが一般的です。
その他のM&A手法
事業譲渡と株式譲渡はよく用いられているM&Aスキームですが、それ以外にもさまざまな手法があります。それぞれの手法にメリット・デメリットが存在するので、それらを勘案して最適な手法を選ばなければなりません。ここでは、以下のM&Aスキームの概要を説明します。
- 第三者割当増資
- 株式交換
- 株式移転
第三者割当増資
第三者割当増資とは、既存株主以外の特定の第三者に対し、新株の引受権を与えるM&Aスキームをさします。ここでいう第三者とは、会社の役員・従業員・取引している金融機関、取引先など、会社と関係のある特定の主体のことです。
第三者に対して新株の引受権を与える第三者割当増資は、縁故募集というケースもあります。第三者割当増資は、特定の株主の影響力を強める目的で利用されるケースがほとんどです。
経営状態が悪化し株価が悪化している企業では、他のM&A手法の採用が難しい場合、経営支援を第三者から求めるために利用するケースもあります。
株式交換
株式交換とは、完全親子会社関係になる前提で、買収企業(親会社)と被買収企業(子会社)の株式を交換するM&Aスキームです。つまり、子会社となる企業の株主から株式を取得する対価として、親会社の株式を交付します。現金を必要としないことが特徴のM&A手法です。
株式移転
株式移転とは、持株会社(親会社)を新設するために、すでにある会社(複数社でもよい)の株式を、新設した持株会社の株式と交換するM&Aスキームです。子会社となる企業の株主は、持株会社の株主と変わります。
2. 事業譲渡と株式譲渡の違いは?
①取引による違い
事業譲渡と株式譲渡では、取引の相手が違います。
売却側 | 買収側 | |
事業譲渡 | 法人、個人事業主 | 法人、個人 |
株式譲渡 | 株主(個人、法人) | 個人、法人 |
②売買対象による違い
事業譲渡と株式譲渡では、売買の対象が以下のとおり異なります。
- 事業譲渡…事業とそれに関連する資産、権利義務、人材など
- 株式譲渡…株式
事業譲渡と株式譲渡(株式を100%譲渡する株式譲渡、つまり会社売却)では、売買金額の相場を比較すると「事業譲渡<株式譲渡(会社売却)」です。
事業譲渡は、一部の事業のみを切り離して売却するM&Aスキームです。全体の中の一部ですから、会社を丸ごと売却する株式譲渡よりも相場は低くなります。その代わり、譲渡側は、継続保有したい事業・資産を法人格ごとに残せるのです。
株式譲渡は、会社を丸ごと売却するM&Aスキームです。したがって、売却側が持っていた全ての資産が買収側に移動します。全事業・全資産を取引するわけですから、一部の事業を売却するだけの事業譲渡よりも相場が高くなるのは明らかです。
③契約についての違い
事業譲渡と株式譲渡では、契約と買収側に移転するものの違いがあるのです。
契約 | 移転するもの | |
事業譲渡 | 事業譲渡契約 | 事業とそれに関連する資産、権利義務、人材など |
株式譲渡 | 株式譲渡契約 | 会社の所有権と経営権 |
④譲渡手順の違い
事業譲渡と株式譲渡では、最終契約の内容とその後の流れが少し異なります。
- 事業譲渡:事業譲渡契約締結→株主総会特別決議→譲渡効力発注→資産引渡し・代金受渡し
- 株式譲渡:株式譲渡契約締結→取締役会承認→名義変更手続き・代金受渡し
⑤目的による違い
事業譲渡と株式譲渡では、それぞれで目的が異なります。
売却側 | 買収側 | |
事業譲渡 | 事業の選択と集中、不採算事業からの撤退、事業承継 | 事業拡大、新規事業参入 |
株式譲渡 | 事業承継、経営基盤の強化 | 事業拡大、新規事業参入 |
⑥譲渡益税の違い
株式譲渡では、個人株主の場合、申告分離課税で税率が20.315%、株主が法人であれば利益へ法人税の実効税率が課税されるでしょう。
事業譲渡では取引主体が法人です。そのため、対象会社の実効税率で税金がかかります。実効税率は法人により違いますが、だいたい30-40%なので、税制面では株式譲渡が有利であることが多いです。
事業譲渡では対象会社へ譲渡対価が支払われるので、事業譲渡の後、株主が会社から資金を受け取る場合にも課税されます。会社からの資金は、配当や会社の清算、役員の場合は役員退職金などにより受け取れます。
税金が生じる程度は個別の状況により替わるので、専門家に確認するのがベストです。
⑦のれん発生有無の違い
株式譲渡では、買収側は取得の際、子会社株式として取得価格が簿価となり資産計上されるため、特にのれんは発生しないでしょう。ただし、連結会計を導入している会社は、連結時にのれんが生じる可能性があるので気を付けてください。
事業譲渡では、譲渡対価と引き継いだ事業における純資産価格との差額がのれんとして計上され、償却期間の間に減価償却します。のれん償却費用は、税法上も費用として計上できます。
3. 事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡のメリット ・デメリットについて、譲渡側・譲受側に分けて解説します。
譲渡側のメリット
事業譲渡の譲渡側のメリットのうち、「主要事業への集中」が最大のメリットです。
主要事業への集中
事業譲渡の譲渡側のメリットとして、非主力事業や不採算事業を売却し主要事業へ資源を集中させられます。
譲渡側のデメリット
事業譲渡の譲渡側の主なデメリットは、以下の2つです。
- 手続きが面倒
- 競業避止義務
手続きが面倒
譲渡側が事業譲渡を決定するには、ほとんどのケースで株主総会の特別決議が必要です。これは会社法に定められており、特別決議では、議決権を行使できる過半数の株主が出席し、かつ出席した株主における議決権の3分の2以上の多数をもってなされる決議をしなければなりません。
この特別決議は、時間および手間の両面で大きな負担がかかります。
競業避止義務
事業譲渡を行うと、譲渡側には競業避止義務が課せられます。これは会社法で規定されていることです。競業避止義務により、同一市区町村および隣接市区町村内にて、20年間、事業譲渡したものと同種の事業を行えません。
譲受側のメリット
事業譲渡の譲受側の主なメリットは、以下の2つです。
- 必要な事業のみを取得できる
- 負債へのリスク回避
必要な事業のみを取得できる
事業譲渡は、譲渡側の企業全体を買収するのではなく、事業だけを取得できます。会社法上、個別の財産などに関する単なる売買取引となるので、会社の買収と比べて、コストをかけずに特定の事業を展開できるのです。
負債へのリスク回避
事業譲渡の場合、譲渡側の持つ債権・債務は、自動的に譲受側へ移転しません。譲渡対象を選別することで、不要な負債の引き継ぎを回避できます。
譲受側のデメリット
事業譲渡の譲受側の主なデメリットは以下のとおりです。
- 煩雑な手続きを求められる
- 許認可の譲渡不可
- 従業員の再契約が必要
煩雑な手続きが必要
事業譲渡は会社法上、個別の財産などに関する売買取引に過ぎません。したがって、譲渡する資産・負債などは個別に契約を結んで移転する必要があります。包括契約を結べないので、個別に手続きをしなければならず、その手続きに手間と時間を取られてしまうのです。
特に、従業員との雇用契約や取引先との契約を一から結び直す手間は煩雑となります。
許認可の譲渡が不可
事業譲渡では、その事業の事業主に対して有効である許認可を、譲受側は引き継ぎ出来ません。許認可が必要な事業を買収した場合は、譲受側で新たに許認可を取り直す必要があります。
従業員の再契約が必要
事業譲渡では、従業員との契約を譲渡後に改めて結ぶことになります。契約を締結する際に既存の従業員が離職を選ぶ可能性があり、これまで主力だった従業員が離れてしまうケースも考えられます。スムーズな事業譲渡を行うためにも、事前に従業員との交渉を進めておくことが重要です。
4. 株式譲渡のメリットとデメリット
ここでは、株式譲渡のメリット・デメリットを、譲渡側・譲受側に分けて解説します。
譲渡側のメリット
株式譲渡の譲渡側の主なメリットは以下のとおりです。
- 社名を含めた会社の存続
- 株式保有率の調整が可能
- 売却益
社名を含めた会社の存続が可能
後継者不在や、経営が行き詰まり会社存続の危機である場合、株式譲渡で買い手に経営を委ねることで会社は存続します。売却後の社名の決定権はあくまで譲受した側にありますが、歴史や伝統、ブランド力のある社名であれば、引き続き継続されることも多いでしょう。
株式保有率の調整が可能
株式譲渡では、株式の全部を譲渡しないことも可能です。これは、譲渡側が経営に対する影響力を残しておきたい場合に行われます。過半数の株式を譲渡すると経営権は譲受側に移りますが、3分の1以上の株式を保有し続けていれば、株主総会での特別決議を単独で否決可能です。
売却益が得られる
中小企業経営者が、株式譲渡で自社株式を売却すれば当然、対価を受け取ります。老後の生活費や新事業の立ち上げなど自由使途の資金を手にできるのです。
譲渡側のデメリット
譲渡側における株式譲渡のデメリットは、株式分散時の取りまとめに手間がかかる点です。
株式分散時の取りまとめに手間がかかる
中小企業の株式譲渡において株式が経営者以外の第三者などに分散している場合、買い手は個別交渉をしません。経営者自身が取りまとめを求められます。しかし、多くの中小企業では株主に関する情報が記録されておらず、経営者が記憶しているだけの状態であるのが実情です。
このような場合、株式の取りまとめだけでかなりの労力を割かなくてはなりません。
譲受側のメリット
株式譲渡における譲受側の最大のメリットは、許認可の引き継ぎが可能なことです。
許認可の引き継ぎが可能
譲受側にとって、事業譲渡では許認可を引き継ぐことが出来ず、買収後に再取得する必要がありました。株式譲渡は包括承継ですから、この許認可も譲受側が引き継ぐことが出来ます。許認可が必要な事業でも、再取得せずそのまま事業を続けられるのです。
譲受側のデメリット
譲受側の株式譲渡のデメリットは、包括承継であるため負債を引き継がなければならない点が挙げられます。
負債を引き継ぐ
株式譲渡では、譲渡側が持っている債権・債務は自動的に譲受側に引き継がれます。問題なのは、譲渡側も気づいていない偶発債務などの簿外債務を引き継いでしまう可能性があることです。帳簿に載っている負債であれば、金額も債務の相手もはっきりしています。
しかし、簿外債務の場合、債務の内容について、債務が明らかになるまでわからず、内容次第では大きな経営ダメージを負う可能性があるのです。
5. 事業譲渡・株式譲渡の選択ポイント
M&Aにはさまざまな手法があるので、それぞれの手法を使い分ける必要があります。特に、事業譲渡と株式譲渡では、譲渡対象の範囲の違い、課税額の違い、雇用移転における同意の有無の違い、取引対象企業における負債状況の違いを踏まえた選択が肝要です。
譲渡対象の範囲
事業譲渡は、譲渡側が所有している一部、もしくは全ての事業を譲渡するのに対し、株式譲渡では、譲渡企業の株式のうち、一定割合の株式を譲渡します。事業譲渡が事業を譲渡するのに対し、株式譲渡は株式=経営権を譲渡するといった大きな違いがあるのです。
この点をきちんと区別しましょう。
課税額
事業譲渡と株式譲渡では、税金の支払額が異なります。事業譲渡では、事業を譲り渡して得られた利益に対し、会社に法人税(実効税率約31%)が課税されます。また、事業譲渡の譲受側は消費税、不動産取得税、登録免許税が発生する場合があります。
一方、株式譲渡では、譲渡側が個人であれば譲渡所得(利益額)に対して20.315%の課税です。譲渡側が法人であれば、法人税(実効税率約31%)が課されます。株式譲渡では、譲受側に対する課税はありません。
雇用移転の同意
事業譲渡では、資産に対する個別の契約の結び直しが必要であるのと同様に、一人ひとりの従業員と雇用契約の結び直しをしなければなりません。雇用契約を結ぶにあたって本人の同意が得られない場合は、譲受側に雇用を移転できないでしょう。
一方、株式譲渡の場合は、従業員が働いていた会社は存続しているので、従業員に対して個別に雇用契約を結び直す必要はありません。
取引対象企業における潜在負債の状況
事業譲渡では、個別に引き継ぐ財産の契約を結ぶので、契約を結んだ財産以外は引き継ぎせん。したがって、簿外債務を引き継がないですみます。一方、株式譲渡は包括承継であるため、買収後、簿外負債が発見された場合、それを引き継がなければなりません。
再取得が困難な許認可等
事業譲渡では、許認可は引き継がれません。再取得が困難な許認可があれば、事業譲渡を用いるのは難しいでしょう。具体的な許認可を挙げると、産業廃棄物処理や酒造の許認可などです。
再取得が困難な許認可があれば、株式譲渡を選ぶことをおすすめします。
株主の特徴
個人株主の場合、税率は20.315%です。事業譲渡では、対象会社へお金が支払われるので、個人株主がお金を受け取るときは、配当金で受け取るか会社を清算します。得た所得は総合課税となるので、住民税を足して最大55%となり、かなり高い税率となってしまいます。
法人株主は、事業譲渡した子会社が100%子会社で完全支配関係の場合、受け取った配当金は益金不算入となるので課税されません。事業譲渡のときに生じた利益は、対象会社がその利益に応じた税金を払います。
対象企業の繰越欠損金、消費税の課税
株式譲渡では、買収側が対象会社の法人格をそのまま引き継ぐことが出来ます。将来対象会社に利益が出ても、過去の繰越欠損金により利益を相殺できるでしょう。
事業譲渡では、買収側は繰越欠損金を引き継ぐことが出来ませんが、対象会社が繰越欠損金を抱えていれば譲渡で獲得した利益と過去の繰越欠損金を相殺し、利益を圧縮できます。事業譲渡では、課税対象の資産に消費税が生じるので、気を付けましょう。
6. 事業譲渡と株式譲渡における会計処理
ここでは、事業譲渡、株式譲渡が成立した際の譲渡側・譲受側それぞれの仕訳方法を解説します。
事業譲渡の会計処理
譲渡側の事業譲渡の会計処理は、一般的に簿価ではなく時価で譲渡価格を決定します。一方、譲渡側が譲渡する資産は簿価で計上されているため、時価総額から簿価総額を引いた額が「事業譲渡益」です。借方には譲渡価額、貸方には売却した資産・事業譲渡益が入ります。
<借方> | <貸方> | ||
現金預金 | 501,200,000円 | 棚卸資産 | 20,000,000円 |
土地 | 250,000,000円 | ||
建物 | 30,000,000円 | ||
機械装置 | 100,000,000円 | ||
特許権 | 1,000,000円 | ||
商標権 | 200,000円 | ||
事業譲渡益 | 100,000,000円 |
譲受側の事業譲渡の会計処理は、時価で資産を譲り受けるため、資産の金額は全て時価での記載です。したがって、譲渡側の仕訳とは逆で、譲り受ける資産は借方に記載され、譲受価額は貸方に記載します。
<借方> | <貸方> | ||
棚卸資産 | 20,000,000円 | 現金預金 | 501,200,000円 |
土地 | 310,000,000円 | ||
建物 | 25,000,000円 | ||
機械装置 | 90,000,000円 | ||
特許権 | 55,000,000円 | ||
商標権 | 1,200,000円 |
株式譲渡の会計処理
譲渡側が法人の場合、株式譲渡の会計処理は、売却価格と売却する株式簿価の差額を「株式売却益」として計上します。売却代金を5,000万円、株式簿価を2,500万円とした場合の会計処理は以下のとおりです。
<借方> | <貸方> | ||
現預金 | 50,0000,000円 | 株式 | 25,000,000円 |
株式売却益 | 25,000,000円 |
譲受側の株式譲渡の会計処理は、株式取得を計上する処理を行います。譲受側が支払ったデューデリジェンス費用・仲介手数料などは、株式の取得原価への算入です。買収価格を5,000万円、デューデリジェンス費用・仲介手数料などを500万円としたケースの仕訳は以下のとおりです。
<借方> | <貸方> | ||
子会社株式 | 55,000,000円 | 現預金 | 55,000,000円 |
7. 事業譲渡と株式譲渡における税務の違い
事業譲渡と株式譲渡は、取引で発生する税金が異なります。税務の違いをそれぞれ見てみましょう。
事業譲渡で発生する税金
事業譲渡で発生する税金および2022(令和4)年11月現在の税率は以下のとおりです。
税金 | 税金の税率 | |
譲渡側税務 | 法人税 (法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税) |
実効税率約31% |
消費税 | 譲受側から対価と一緒に受け取り納付する | |
譲受側税務 | 消費税 | 課税資産の売却金額に対して10% |
不動産取得税(土地、建物を取得した場合) | 固定資産税評価額の4% | |
登録免許税 | 固定資産税評価額の2% |
譲渡側の税金
事業譲渡では、譲渡益に対し法人税が売却側に課税されます。ただし、事業譲渡益単体に課税を受けるわけではなく、同一年度内の会社の全損益が通算され、その益金に対しての課税です。したがって、損益通算後、赤字であれば課税を受けません。
また、税務としては、譲受側の対価支払い時に預かる消費税を納付する義務を負うのは譲渡側です。
譲受側の税金
譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、譲受側に消費税が発生します。課税対象は、以下のとおりです。消費税は、対価支払い時に合わせて譲渡側に渡します。
- 消費税課税資産:土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権(のれん代)
- 消費税非課税資産:土地、有価証券、債権
事業譲渡で譲渡側から不動産を取得した場合は、不動産取得税と登録免許税が課税され、税務が発生します。
株式譲渡で発生する税金
株式譲渡では、譲受側に課税はありません。譲渡側に発生する税金は、個人か法人かで以下のように異なります。
- 個人:譲渡益に対して20.315%の課税(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
- 法人:法人税(実効税率約31%)
なお、復興特別所得税は2037(令和19)年までの時限税です。
8. 事業譲渡の事例
ここでは、事業譲渡のM&A事例を2つ紹介します。
- 事業譲渡の事例①:ブランドの事業譲渡
- 事業譲渡の事例②:外食の事業譲渡
事業譲渡の事例①:ブランドの事業譲渡
アパレルブランドの事業が、同業他社に事業譲渡された事例です。
事業譲渡側 | 事業譲受側 | |
---|---|---|
事業内容 | アパレル製造 | アパレル製造 |
売上 | 40億円 | 非公表 |
目的 | 事業再編 | 事業拡大 |
譲渡側の事情
複数のブランドを保有していましたが、その中に収益力の悪いブランドがありました。このブランドを自社のリソースだけで立て直すことは困難と判断し、他社に事業譲渡したのです。
譲受側の事情
売却側と同業で、こちらも多数のブランドを保有していました。マーケティング力・販売力に定評があり、これまでも他社からブランドを買収し、事業を拡大してきています。
売却側の対象ブランドは、自社がすでに保有しているブランドと競合関係になく、むしろ補完関係にあると考えられたことから取得を決めました。
事業譲渡の事例②:外食の事業譲渡
ある会社の外食事業が、食品小売の会社に事業譲渡された事例です。
事業譲渡側 | 事業譲受側 | |
---|---|---|
事業内容 | 外食 | 食品小売 |
売上 | 8,000万円 | 50億円 |
目的 | 事業再編 | 新規事業進出 |
譲渡側の事情
本業は建設業で、外食事業も行っていました。しかし、本業が不振で資金繰りも楽ではない状態となったため、外食事業を事業譲渡して本業に資源を集中させる決断をしています。
譲受側の事情
外食事業の経営に意欲を持つ社員がいたため、取得に至っています。ただし、外食事業は未経験でノウハウがないので、最初は譲渡側を本部とするフランチャイズとして運営をはじめ、ノウハウを学んだ段階で譲受側が完全に運営する形にしました。
9. 株式譲渡の事例
ここでは、株式譲渡の事例を2件、紹介します。
- 株式譲渡の事例①:調剤薬局の株式譲渡
- 株式譲渡の事例②:空調設備工事会社の株式譲渡
株式譲渡の事例①:調剤薬局の株式譲渡
調剤薬局が、上場大手のドラッグストアに株式譲渡をした事例です。
株式譲渡側 | 株式譲受側 | |
---|---|---|
事業内容 | 調剤薬局11店舗 | ドラッグストア・調剤薬局 |
売上 | 18億円 | 3,700億円 |
目的 | 後継者不在 | 規模拡大 |
譲渡側の事情
地元密着で11店舗の調剤薬局を運営していましたが、経営者には後継者がいないため、事業承継問題を抱えていました。薬剤師の確保にも苦戦しており、会社を売却する決断をしたのです。
譲受側の事情
上場大手の譲受側はドラッグストアと調剤薬局を運営していましたが、もともと譲渡側が展開する地域への出店に強い関心を持っていました。11店舗とまとまった店舗を一気に得られるのが非常に魅力であったため、当初から良い条件を提示しての買収に至っています。
株式譲渡の事例②:空調設備工事会社の株式譲渡
空調設備資材販売・工事と人材派遣を行う会社が、空調設備関連の事業に近い事業を行う他社に株式譲渡をした事例です。
株式譲渡側 | 株式譲受側 | |
---|---|---|
事業内容 | 空調設備資材販売・工事/人材派遣 | 空調設備のメンテナンス |
売上 | 6億円 | 10億円 |
目的 | 後継者不在、創業者利益 | 周辺分野への進出 |
譲渡側の事情
空調設備資材販売・工事と人材派遣の2つの事業を行っており、会社設立以来、増収を続けるなど、好調な業績を維持していました。一方で、業績が好調であったために、会社の借入金が増え、それに対する経営者の個人保証も膨らむ一方で、それが心理的負担にもなっていたのです。
経営者は、まだ経営を続けられる年齢ではありましたが、後継者がいないことと、早く心理的負担から逃れてリタイアしたいとの思いから、会社を売却する決断をしました。
譲受側の事情
譲渡側の業績は好調でした。譲渡側の主要事業である空調設備資材販売・工事事業は、譲受側のメンテナンス事業とは少し異なるものの、人材や資産とともに買収すれば引き継ぐのはさほど難しくなく、むしろサービスの強化につなげられると考え、買収を決断しています。
人材派遣業は買収側で全くノウハウはありませんが、収益も出ており設備投資などもかからない事業であることから、譲渡側の希望どおり株式譲渡で買収しました。
10. 事業譲渡と株式譲渡の違いまとめ
事業譲渡と株式譲渡の一番の違いは、「何が売買の対象であるか」です。事業譲渡では「事業」を、株式譲渡では「株式」を売買します。事業譲渡とは、会社における事業、資産、権利義務などを選別して売買取引するM&Aスキームです。
一方、株式譲渡とは、株主が会社の株式を売却して、新たな株主に会社の経営権を移転させます。事業譲渡と株式譲渡では、取引の相手、売買の対象、契約、譲渡手順、税務などが相違点です。それらの違いやメリット・デメリットを理解したうえで、どの手法がベストなのかを見極めましょう。
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