2021年08月21日更新
会社法における組織再編行為を図解で解説!
当記事では、会社法における組織再編行為について、図解でわかりやすく解説しています。そのほか、会社法における組織再編行為の手続きや改正点についても解説しており、図解と併せることにより複雑な組織再編行為に関して理解を深めることができます。
目次
1. 会社法と組織再編
合併や株式移転などの組織再編を行う際は、会社法に基づいて手続きを進めていかなければなりませんが、その仕組みは複雑であるので、あらかじめ理解を深めておくことが大切です。
この記事では、会社法に基づく組織再編を図解を用いてわかりやすく解説します。この章では、まず会社法や組織再編の概要について簡単に説明します。
会社法とは
会社法とは、会社の設立・組織・運営および管理について定めた日本の法律です。会社を経営していくうえで、会社法には3つの役割があると考えられています。
1つ目は、会社の取引相手を保護する役割で、会社に法人格を与え必要な情報を開示することで、保護を図っています。
2つ目は、利益を得やすい仕組みを作ることです。例えば、利害関係者の合意が得られれば定款の変更を可能にするなど、柔軟な制度にすることで利害関係者の利益を実現できます。
3つ目は、法律関係を明確にできることです。会社法では会社組織に関する訴えを一定期間内に行わなければ法律的な主張はできないとしており、法律関係を早期安定化させることを可能にしています。
組織再編とは
組織再編とは、企業の利益拡大や事業運営の効率化などを目的とし、企業内の組織を編成しなおすことです。
組織再編の手法には、合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡があります。これら3つの手法については、後の章でくわしく解説します。
組織変更との違い
組織再編と似た言葉に組織変更がありますが、組織変更とは、法人格を維持したまま会社の形態を変更することをさします。
会社の形態には、合同会社・合資会社・合名会社・株式会社の4種類があり、合同会社・合資会社・合名会社の3つは持分会社とも呼ばれます。
組織変更は、持分会社から株式会社に会社形態を変更すること、もしくは株式会社から持分会社に会社形態を変更することです。
持分会社から株式会社に変更するメリットには、知名度の向上や資金調達のしやすさなどがあります。一方、株式会社から持分会社に変更するメリットには持分(出資者)が従業員であるため、意思決定が迅速になり従業員の意思を反映できる点が挙げられます。
2. 会社法における組織再編行為の図解
次は、会社法における組織再編行為について図解を交えて紹介します。会社法における組織再編には、以下の5種類があります。
- 合併
- 会社分割
- 株式交換
- 株式移転
- 事業譲渡
①合併
合併とは、複数の法人が1つの事業体になることと定義されており、合併後の事業体が既存か新設かによって、以下の2種類に分類されます。
- 吸収合併
- 新設合併
吸収合併
ここでは、吸収する会社(存続会社)をA社、吸収される会社(消滅会社)をB社として、この2社で吸収合併を行う場合のケースで説明します。
取引前はA社・B社ともに株式会社であるため、それぞれの株主がシェア100%分を出資しています。吸収合併が行われるとA社はB社の株式を買い取り、B社の経営権を取得します。
吸収合併後、A社はB社の株主から株式を取得することになりますが、一般的には対価としてA社の株式を交付します。
交付される株式の比率は一般的に株価に応じて交付され、この比率を株式比率といいます。なお、吸収合併に反対するB社の株主に対しては、反対株主の株式買取請求権により対価を金銭で交付します。取引が完了するとB社は消滅することになり、B社株主はA社株主になります。
下の図解ではA社株主のシェアが75%、元B社株主のシェアは25%となっていますが、これにより株式比率が3:1であったことがわかります。
新設合併
新設合併の基本的な仕組みは、吸収合併の場合と同じですが、新設する会社が株式を取得し経営権を獲得する点が異なります。
つまり、新設合併では消滅会社の株主から株式を買い取り、その対価として新設会社の株式を交付することになります。
②会社分割
会社分割とは、既存の会社をほかの会社に分割することと定義されています。分割した会社が既存の会社に吸収されるか新設会社にするかによって、以下の2種類に分類されます。
- 吸収分割
- 新設分割
吸収分割
事業を引き受ける会社(承継会社)をA社、事業を分割する会社(分割会社)をB社として、この2社で吸収分割を行うケースで説明します。
取引前はA社・B社ともに株式会社であるため、それぞれの株主がシェア100%分を出資しています。会社分割が行われると、B社のb1事業を分割しA社がそれを取得します。
A社はb1事業の対価として自社の株式を交付し、会社分割が完了するとb1事業はA社が経営することになります。
下の図解では株式のシェアが25%になっていますが、会社分割で引き受ける事業の対価によってシェアは変わります。つまり、事業の取引価格が大きい場合は交付する株式が多くなり、取引価格が小さい場合は交付する株式が少なくなります。
新設分割
新設分割の基本的な仕組みは、吸収分割と同じですが、分割した事業が新規会社となるか否かが異なります。
吸収分割の場合はb1事業がA社に譲渡されますが、新設分割の場合はb1事業で新たな会社を設立します。新しい会社を設立するか否かという点が、吸収分割と新設分割では異なっています。
③株式交換
株式交換とは、2つの既存会社を完全親子会社にする組織再編のことをいいます。ここでは、完全親会社となる既存の会社をA社、完全子会社となる既存の会社をB社として、この2社で株式交換を行うケースを説明します。
取引前はA社・B社ともに株式会社であるため、それぞれの株主がシェア100%分を出資しています。株式交換では、完全親会社となるA社が完全子会社となるB社の株式を取得するため、A社はB社の株主から株式を取得し、対価としてA社は自社の株式を交付(交換)します。
株主比率は両社の株価に応じて株式比率が決められ、下の図解ではA社株主のシェアと元B社株主のシェアから、3:1の株式比率になっています。
④株式移転
株式移転とは、2つ以上の既存会社を完全子会社とし、新たに完全親会社を設立する組織再編をさし、持株会社制を導入する際に用いられる手法です。
ここでは、完全子会社となる既存の会社をA社・B社、完全親会社となる会社をP社として、この3社で株式移転を行う場合について説明しましょう。
取引前はA社・B社ともに株式会社であるため、それぞれの株主がシェア100%分を出資しています。株式移転では、完全親会社となるP社が完全子会社となるA社・B社の経営権を取得するため、各社の株主から株式を取得します。
P社は株式移転の対価として自社の株式を交付し、A社・B社両株主からすべての株式を取得すれば株式移転は完了です。
この場合の株式比率はA社・B社の株価に応じて決められ、下の図解では元A社の株主のシェアと元B社の株主のシェアから3:1の株式比率となっています。
⑤事業譲渡
事業譲渡とは、対象事業の経営権を売買する取引をさします。図解で見ると吸収分割と似たような構図になっていますが、大きな違いは事業譲受では対価が金銭であることです。
事業を譲り受ける会社(譲受会社)をA社、事業を譲り渡す会社(譲渡会社)をB社として、この2社で事業譲渡を行うケースを例として説明します。
取引前はA社・B社ともに株式会社であるため、それぞれの株主がシェア100%分を出資しています。事業譲渡が行われると、B社がb1事業を譲り渡す対価としてA社は金銭を渡し、金銭の授受をもって事業譲渡は完了します。
なお、事業譲渡では株式の移動は行われないため、両社の株主やシェアは変わりません。
株式交付制度
以前は、株式交付親会社がほかの株式交付子会社を子会社化するときに、時間や費用がかかっていました。そこで2019年に、自社の株式を株式交付子会社の株主に対価として交付する株式交付制度が、会社法改正で作られています。手続きの仕方は、株式交換の発行とほぼ同じです。
3. 組織再編に関する会社法の条文
会社法における組織再編に関する条文は、第5編で組織変更・合併・会社分割・株式交換及び株式移転について規定されています。
個別企業の組織や活動に関する規定と比べた場合、合併など複合企業の組成に関する規定はやや複雑です。
具体的な規定内容は、第5編第1章~第4章までが「制度」(743条~774条)、第5章が「手続」(775条~816条)になっています。また、会社間の事業譲渡については、会社法の第467-470条に記載されています。
会社法 第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転
第一章 組織変更(第743-747条)
第二章 合併
第一節 通則(第748条)
第二節 吸収合併 (第749-752条)
第三節 新設合併 (第753-756条)
第三章 会社分割
第一節 吸収分割(第757-761条)
第二節 新設分割(第762-766条)
第四章 株式交換及び株式移転
第一節 株式交換 (第767-771条)
第二節 株式移転 (第767-771条)
第五章 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転の手続
第一節 組織変更の手続 (第775-781条)
第二節 吸収合併等の手続(第782-802条)
第三節 新設合併等の手続 (第803-816条)
※参考
会社法(電子政府の総合窓口e-Gov)
4. 組織再編に関する会社法の改正について
2015年、組織再編に関して差し止め請求ができるように会社法が改正されました。改正後の会社法では、略式組織再編以外の組織再編(簡易組織再編を除く)、全部取得条項付種類株式の取得および株式併合について、以下2つの条件を満たせば、差し止め請求が可能です。
- 当該組織再編が法令または定款に違反する場合
- 株主が不利益を受けるおそれがある場合
改正会社法ではすべての組織再編について、株主が差し止めの請求を認めるように改正されています。
5. 組織再編の簡単な手続き
組織再編を行うためには、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。この章では、組織再編の簡単な手続きについて、以下7つの手順をそれぞれ解説します。
- 各種方法での契約締結
- 各種書面の事前開示
- 株主総会による承認
- 会社債権者保護手続
- 会社の登記
- 効力発生
- 各種書面などの事後開示
①各種方法での契約締結
まずは、各種方法での契約締結を行いますが、通常のM&Aでは最終契約書の締結にあたります。
この段階では、会社の経営陣同士で組織再編に関する契約を締結し、基本合意書の締結やデューデリジェンス(企業監査)、組織再編に関する詳細な条件交渉は締結前に行っておきます。また、株主や債権者への同意は、契約書を締結してから行われるのが一般的です。
②各種書面の事前開示
次に、各種書面での事前開示を行います。これは株主や債権者に対する通知で、組織再編に関係するすべての会社で行わなければなりません。
開示の方法は会社法で定められており、会社の定款に定めがない場合は官報公告によって告知を行い、併せて、個別の株主や債権者に対する通知、日刊新聞紙・電子公告のいずれかを行う必要があります。
なお、電子公告については、組織再編に関する要旨だけを記載するのではなく、全文を記載しなければなりません。
③株主総会による承認
次に、株主総会を開催し、特別決議による承認を得ます。株主総会での特別決議を得るためには、議決権を有する株主の過半数が出席し、かつ出席株主の議決権において3分の2以上賛成がなければなりません。
株主総会は、組織再編で効力が出る前日までに行えばよいですが、株主総会を開催するためには株主への事前通告が必要になります。
株主への通告は、非公開会社の場合は開催日の1週間前まで、公開会社の場合は開催日の2週間前までに、招集通知を送ることが決められています。
なお、事業譲渡については、すべての案件で株主総会による承認を得る必要はありませんが、会社に大きな影響を与えると考えられる事業譲渡(事業の全譲渡や全受けなど)の場合、株主総会による承認が必要です。
④会社債権者保護手続
会社債権者保護手続とは、組織再編やM&Aにより債権者に重大な影響をおよぼす恐れがある場合、会社が債権者を保護するために行う手続きをさします。
会社債権者保護手続では、債権者に対して官報公告に加え、個別の催告もしくは電子公告による掲載の必要があります。
会社債権者保護手続で組織再編やM&Aに異議を申し出た債権者に対しては、弁済や担保の提供を行いますが、すべての組織再編で会社債権者保護手続が必要になるわけではありません。
例えば、株式交換や株式移転のように債務者が変わらない場合や、事業譲渡のように債権者に個別に同意を求める必要がある組織再編では、会社債権者保護手続の必要はありません。
⑤会社の登記
会社の株主や債権者の同意が得られたら、次は会社の登記を行います。会社の登記では、変更登記・解散登記、新しく会社を設立する場合には新設登記を行う必要があります。
この際、組織再編の契約書や株主総会の議事録、債権者保護手続に関する書面、登記事項証明書などを提出する必要があるため、事前に用意しておくとよいでしょう。
⑥効力発生
組織再編の効力発生日は、事業譲渡や吸収合併などのように組織再編で会社を新設しない場合、組織再編の契約で定めた日が効力日です。
一方、新設合併・新設分割・株式移転のように組織再編で会社が新設される場合、会社の登記日が組織再編の効力日となります。
会社を新設するか否かによって組織再編の効力発生日が異なるため、手続きの際は注意が必要です。
⑦各種書面などの事後開示
最後に、各種書面などの事後開示を行います。組織再編の効力発生日から6か月間は、法務省令で定める書面または電磁的記録を本店に備え置くことが定められています。
なお、効力発生日から6か月間と定められているのは、合併などの組織再編の無効訴えをするか否かの判断材料を与えるためです。
6. 組織再編を行う際のおすすめの相談先について
会社の組織再編を成功させるためには、M&Aに関する知識や見解に加え、会社法に精通していることも必要であるため、M&A仲介会社など専門家のサポートがおすすめです。
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7. 会社法における組織再編行為のまとめ
今回は、会社法における組織再編について、図解を交えながら解説しました。組織再編は、会社の利益を獲得しやすくしたり、運営の効率化を図ったりするための重要な役割を果たします。
しかし、組織再編は利害関係者にも大きな影響を与える可能性があるため、適切な手順で手続きを行う必要があります。
- 会社法における組織再編→会社法では、利益を獲得しやすいよう会社ごとに定款で定めてよいとされている
- 組織再編の種類→組織再編には、合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡の5種類がある
- 組織再編の手続き→組織再編の手続きには7ステップがあり、利害関係者の同意を得る必要がある
組織再編を行う際は、M&Aに関する知識や経験だけでなく会社法に関する知識や見解も必要になるため、M&Aの専門家に相談しながら進めていくのがよいでしょう。
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