2022年08月31日更新
M&Aの会計|仕訳(会計処理)の全体像、のれんの取り扱いをわかりやすく解説
M&Aには会計処理が異なるいくつかの取引形態があり、ケースによってはのれんが認識されることもあります。M&Aの会計の知識は、M&Aを有利に進めるために不可欠な基礎知識です。ここでは、押さえておくとよいM&Aの会計の知識を解説します。
目次
1. M&Aの会計は4種類
M&Aは、「Mergers=合併」と「Acquisitions=買収」の略語であり、合併や会社分割などの企業組織再編行為と、会社・事業そのものの売買取引の総称です。M&Aの具体的なスキーム(手法)には、さまざまな種類(取引形態)があります。
それら各種の取引内容に応じて、異なった会計処理を行わなければなりません。企業経営にとって、会計は最重要な存在です。M&Aと会計処理との相関関係は、概要を理解しておくのが得策といえます。
ここでは、企業会計の根本となる以下の4種の会計について概要を確認しましょう。
- 個別会計
- 連結会計
- 税務会計
- 財務会計
①個別会計
個別会計とは、対象となる企業単体の会計処理のことです。独立した1企業なら当然の会計処理ですが、仮にグループ企業が存在する場合などは、グループ他社の会計とは完全に切り離して1社単独の会計処理をします。
M&Aスキームの1つである株式譲渡によって、買い手が売り手を子会社化した場合などでも、買い手・売り手がそれぞれ単独に自社の会計処理をした結果が個別会計です。別称として個別決算ともいいます。
②連結会計
連結会計とは、企業グループの親会社において、グループ全体を1つの組織にみなして行う会計処理のことです。グループ会社のいない単立の企業の場合には、連結会計は存在しません。連結決算は、連結会計の別称です。
企業グループ内でも事業取引が行われたり、運転資金の融資が実施されたりします。そのような状況下で、グループ各社の個別会計を単純合算するだけでは、正しい連結会計にはなりません。「のれん」の処理も発生します(のれんの詳細は後述)。
連結会計を行うには、会計処理方法を効果的に用いることが必要です。これまで連結会計で用いられてきた代表的な会計処理には、以下の2つがありました。
- パーチェス法(時価評価)
- 持分プーリング法(簿価引き継ぎ)
パーチェス法(時価評価)
パーチェス法とは、パーチェス(Purchase)=購入を前提とした会計処理方法であり、M&Aを行う際に、買い手の企業が売り手の企業を購入したと捉え、会計処理を実施する方法をいいます。
別の会社を購入する(購入対象の価値は時価)という前提であるため、売り手企業の資産・負債はそのときの時価で評価されたうえで、買い手企業が買い取る会計処理です。どういったケースにパーチェス法が適用されるかは、会計基準で設定されています。
持分プーリング法(簿価引き継ぎ)
持分プーリング法とは、取引の前後における持分の継続を前提とした会計処理です。たとえば、親会社が子会社を合併するケースでは、連結会計上、実質的な実態は何も変わらないため、子会社の資産や負債をそのまま簿価で引き継ぐ会計処理が行われます。
持分が継続=単純にM&A当事者の財務諸表数値が合算されるイメージです。親会社の新たな持分が、そのままの価値で引き継がれることから、持分が維持される=持分プーリング(Pooling)法と呼ばれます。
なお、持分プーリング法は、2008(平成20)年、「企業結合に関する会計基準」の改正により廃止され、現在の会計処理法はパーチェス法に一本化されました。
③税務会計
上述した個別会計、連結会計は、いずれも企業の適正な損益計算や財政状態を表すための会計基準に基づいて実施される会計処理です。一方、税務会計は、税金計算のための会計処理であり、法人税法を前提とした会計になります。
税務会計に会計基準はなく、税法の規定に沿った会計処理を行う意味です。税法は「確定決算主義」という考えに基づいており、企業会計による決算数値を前提として税金計算を行います。
したがって税務会計のためには、個別会計や連結会計などの企業会計に関する理解が前提として必要です。そのうえで、税務会計に関する知識も求められます。いずれにしろ、税務会計は、税金という直接的な資金負担に影響するものですから、慎重な検討が欠かせません。
④財務会計
財務会計とは、社外の利害関係者(投資家、債権者など)を対象として、その意思決定に関わる経営情報(財務情報)を提供する目的をもって開示される会計のことです。一般に会計と言えば、この財務会計をさします。
個別会計、連結会計は、財務会計における会計処理上の形式の違いのことです。
2. M&Aの会計基準は3種類
財務会計・個別会計・連結会計・税務会計など、企業の決算に関する各種資料の総称を財務諸表といいます。それら財務諸表を作成するには、一定のルールが必要です。そのルールに該当するのが「会計基準」になります。
面倒なことに、この会計基準は1つではありません。M&Aの会計処理にも関わってくる企業決算の会計基準は、現在、以下の3種が主流です。
- 日本基準
- 国際財務報告基準(IFRS)
- 米国基準
①日本基準
日本国内で広く多くの企業に採用されているのが、日本基準(日本会計基準)です。企業会計基準委員会が設定したもので、内容は大きく以下の3種に分類されます。
- 一般原則
- 損益計算書原則
- 貸借対照表原則
1949(昭和24)年に策定された「企業会計原則」がベースとなり、現在の基準は2001(平成13)年以降、企業会計基準委員会が社会の変化に合わせ改定しています。
②国際財務報告基準(IFRS)
国際会計基準審議会(IASB=The International Accounting Standards Board)が策定した会計基準が、国際財務報告基準(IFRS=International Financial Reporting Standards)です。海外で広く用いられており、EUでは2005(平成17)年以降、域内の上場企業には義務化されました。
日本企業の場合も、クロスボーダーM&Aを行って海外にグループ会社がある場合、国内と海外で会計基準が異なるとダブルスタンダードとなり問題です。したがって、そのようなケースでは国内の親会社が国際財務報告基準を採用することも増えてきました。
その結果、2022(令和4)年7月現在では、日本の上場企業258社が国際財務報告基準を採用しています(適用決定を含む)。なお、2016(平成28)年3月期以降より、日本基準と国際財務報告基準の中間的な基準内容となるJ-IFRSという会計基準も適用され始めました。
③米国基準
アメリカ国内で用いられている会計基準が、米国基準(米国会計基準)です。仮に日本企業がアメリカで上場するのであれば、それ以降は、この米国基準にのっとり各会計資料を作成しなければなりません。
米国基準は米国財務会計基準審議会(FASB=Financial Accounting Standards Board)が策定しており、その中心的な内容は以下の2種類で構成されています。
- 財務会計基準書(SFAS=Statement of Financial Accounting Standards)
- FASB解釈指針(FIN=FASB Interpretation)
3. M&Aで会計が求められるケース
M&Aでは、譲渡側・譲受側の交渉によって買収価額が決まります。建設的に交渉を進めるためには金額の目安が必要です。金額の目安は、譲渡側企業の経営状態(財務状態)を把握することから始まります。
財務状態=会計ですから、M&Aにとっての会計の重要さがうかがい知れるでしょう。ここでは、M&Aのプロセスの中で、特に会計の重要度が高いシーンを取り上げます。
企業価値評価
企業価値評価(バリュエーション)とは、譲渡企業の金額価値を評価・算定することをさします。企業価値評価の結果が、M&Aにおける対価交渉の金額の目安です。企業価値評価では、多くの専門的な算定方法が確立されています。
公認会計士やM&Aアドバイザーなどは、複数の専門的な企業価値評価方法を駆使して、譲渡企業の金額価値を算定しますが、そこでは会計の知識が不可欠です。会計を正しく理解していなければ、適切な企業価値評価を導き出せないでしょう。
財務分析
M&Aにおける譲渡企業の財務分析とは、財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)に対する以下の分析のことです。財務デューデリジェンスでも同等のことを行います。
- 収益性分析
- 安全性分析
- 生産性分析
- 成長性分析
以上の財務分析を行うことで、譲渡企業の現在の状況、弱みや課題、将来性などが把握できるようになります。財務諸表は財務会計において作成されるものですから、ここでも専門的な会計の知識が不可欠です。
会計処理
M&Aの譲受側企業にとって、M&Aを実施することで、その内容に応じたさまざまな会計処理が発生します。会計処理の内容次第では、損益に影響を及ぼしたり、税務内容が変わったりするものです。会計処理を見誤ってしまうと、損益見通しを間違ってしまいかねません。
経営戦略を体現するM&Aを実施するためにも、正しい会計処理の認識が求められます。
4. M&Aの会計で意識すべきポイント
ここでは、M&Aの会計で意識すべきポイントについて、譲渡側・譲受側に分けて解説します。
譲渡側のポイント
M&Aで譲渡側が意識すべき会計のポイントは以下の3点です。
- 企業価値評価
- 粉飾決算
- 逆粉飾決算
企業価値評価
企業価値評価において会計上の観点が必要な事項は以下の3点です。
- 引当金:将来発生する支出(費用・損失)を当期の貸借対照表に負債として繰り入れる金額
- 減損:資産価値が簿価よりも大きく低下した場合に行う会計処理(簿価の減額処理)
- 税効果会計:税務上の所得と会計上の利益の計算方法の違いからくる金額の差異の調整手続き
引当金を計上したり減損処理をしたりすれば、それだけ企業価値評価は下がります。税効果会計では、企業価値評価へのプラス要因になる場合とマイナス要因になる場合の両方があり得るでしょう。
いずれにしても、それぞれの会計処理は譲渡側と譲受側の利害が対立する事柄なので、適切な会計基準による客観的で妥当な判断が求められます。
粉飾決算
非上場の中小企業の場合、出資や融資を得るため、あるいは受注を取りやすくするためなどの目的で、実際の決算状況よりも債務情報を良い数値にする虚偽の決算書を作成してしまうケースも見受けられます。そのような決算が、粉飾決算です。
粉飾決算では、売上高の過大計上や原価の過少計上による利益の過大計上をするわけですが、それで出資・融資・受注などが得られていたとしても、M&Aでの企業価値評価やデューデリジェンスにおいてそれが発覚した場合、本来の財務状況による評価しか受けません。
仮に上場企業が粉飾決算をしていれば大問題となるように、粉飾決算をしていた事実自体は譲受側の心証を悪くします。場合によっては、M&Aが破談となる可能性も否定できません。
逆粉飾決算
逆粉飾決算は、粉飾決算とは逆に実際の財務状況よりも決算を悪く見せる処理を行うことです。売上高の過少計上や原価の過大計上による利益の過少計上を行い、納税額を減らすことを目的とします。過度な逆粉飾決算は、脱税行為と見なされても致し方ありません。
逆粉飾決算も、M&Aのプロセスの中で発覚すれば、譲受側の心証を悪くします。M&Aが破談となる可能性も否定できません。
譲受側のポイント
M&Aで譲受側が着目すべき会計のポイントは以下の5点です。
- 財務分析
- 連結会計
- のれんの概要
- のれんと会計処理
- スタンドアローン問題
財務分析
財務分析は、譲渡企業への財務デューデリジェンスで欠かせない観点です。ここでは、具体的な4つの財務分析の概要を掲示します。
- 収益性分析:譲渡企業の収益力を専門的な計算式で算出する
- 安全性分析:譲渡企業の支払い能力の余力を分析する
- 生産性分析:譲渡企業が生産した価値を分析し、その効率性を算定する
- 成長性分析:譲渡企業の過去5年程度の決算を分析し今後の成長性を判断する
連結会計
上場企業などの場合、株式譲渡や株式交換などによって新たに子会社が増えた場合、その後の会計処理は連結財務諸表を作成し開示する義務があります。
連結会計は単に義務であることだけでなく、グループ会社が多い場合などは、グループ全体の経営実態を把握する意味でも、有用で重要なものです。
のれんの概要
のれんとは、M&Aの際に認識される「譲渡企業の時価評価の純資産額」と「買収価額」の差額のことをさします。この差額こそが、譲渡企業への将来への期待値=上乗せ金額=のれんです。
譲渡企業をM&Aで自社の陣営に取り込むことで、それぞれの業績が単純合算よりも大きな収益獲得が可能となる場合、M&Aによって収益力が強化される結果を生みます。いわゆるシナジー効果です。
のれんとは、M&A後のシナジー効果など、将来におけるプラスの効果を考慮した結果として認識されるプレミアム価値の意味を持ちます(買収プレミアム)。
のれんと会計処理
のれんは、会計基準でその会計処理が定められていますが、各会計基準によって、その内容が異なります。日本基準でののれんの定めは以下のとおりです。
- 20年以内に均等額を償却処理する(年数は企業の任意)
- M&A投資金額を回収できない見込みとなった場合には「減損処理」が可能
次に、国際財務報告基準(IFRS)および米国基準におけるのれんの取り扱いは以下のとおりです。
- のれんの償却処理は不可
- 毎年、のれんの価値評価を実施しなければならない
- 上記評価により、価値が著しく低下した場合には、まとめて減損処理をする
のれんの注意点は、「会計上と税務上では、のれんは異なる扱い」であることです。一例として、株式譲渡などの際、買い手企業の貸借対照表上にのれんが発生していれば、会計上では償却処理をしますが(日本基準の場合)、税務上はのれんの計上は認められません。
スタンドアローン問題
事業譲渡では、譲受したい事業とそれに関連する資産。権利義務を選別して売買取引をします。譲受した事業は、譲渡企業の別部門との連携のうえで成立していたケースも多いでしょう。
しかし、その別部門は事業譲渡の対象ではない場合、切り出された譲受事業は一種のスタンドアローン状態にあります。M&A後、譲受側は譲渡企業の別部門が行っていた連携と同等の体制を取らないと、譲受した事業が本来のパフォーマンスを発揮できません。
この点を意識しておかないと、M&A後のシナジー効果もおぼつかなくなります。
5. M&Aの会計処理(仕訳)は7つのスキームごとに異なる
7つのM&Aスキームそれぞれの概要と、注意すべき会計処理(仕訳)のポイントを掲示します。なお、スキームによっては、売り手側で特段の会計処理が発生しないケースもあります。
- 株式取得
- 事業譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 合併
- 会社分割
- 第三者割当増資
①株式取得
株式取得とは、買い手企業が売り手企業の株式を取得するM&Aスキームです。株式、つまり資本を取得する取引であるため、買い手企業にとっては株式取得、売り手企業にとっては資本構成者(株主構成)の変化という取引結果となり、個別会計上で会計処理されます。
売り手側の会計処理
株式取得の場合、売り手側では発行している株式の保有者が変更になるだけなので、特に会計処理は発生しません。購入側の企業が株式を取得するため、支配権は購入側の企業に移ることになります。
買い手側の会計処理
買い手企業にとっては株式取得の取引が、個別会計上で会計処理されます。買収ではあるものの、単純に有価証券である子会社株式を取得した状況です。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業の株式を対価400で取得したケース
借方 | 貸方 | ||
子会社株式 | 400 | 現金 | 400 |
買い手企業の連結会計上、子会社が増加することになるので、子会社となった売り手企業の財務諸表を合算したうえで、連結決算を行うことになります。資本関係を見ると、子会社株式と子会社の資本金を相殺する仕訳が計上されます。
さらに、売り手企業の純資産と、買収における対価である子会社株式との差額は「のれん」として計上され、将来の一定の期間で均等に償却(費用化)する決まりです。
(仕訳例)※数値は仮
買い手企業で連結決算を行う場合の資本消去仕訳
売り手企業の資本金100、利益剰余金100のケース
借方 | 貸方 | ||
資本金 | 100 | 子会社株式 | 400 |
利益剰余金 | 100 | ||
のれん | 200 |
②事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業が事業の一部または全部を買い手企業に譲渡(売却)する取引のことです。買い手・売り手それぞれに、事業やそれに関連した資産を対象とした売買取引を行う形態として、個別会計上で会計処理されます。
売り手側の会計処理
事業譲渡の場合、譲渡する事業の会計処理が生じます。売り手企業にとっては、自社の事業の一部(資産・負債)を切り出して、買い手企業に売却する取引内容を表す会計処理となります。
具体的に行う内容は、譲渡する事業の資産・負債の会計上の簿価を取り消す会計処理です。受領した金額との差額が生じる場合には、移転損益を認識します。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業の1つの事業(資産100、負債50)を対価80で譲渡したケース
借方 | 貸方 | ||
負債 | 50 | 資産 | 100 |
現金 | 80 | 移転損益 | 30 |
買い手側の会計処理
買い手企業は、売り手企業の事業に関連する資産・負債を購入した取引を、個別会計上で会計処理します。ここで資産・負債の差額と、買収対価に差額が生じることがありますが、当該差額は「のれん」として計上し、一定の期間で償却を行うのが決まりです。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業の1つの事業(資産100、負債80)を対価150で取得したケース
借方 | 貸方 | ||
資産 | 100 | 負債 | 80 |
のれん | 130 | 現金 | 150 |
③株式交換
株式交換とは、買い手企業と売り手企業が完全親子会社になる前提で行われる株式を交換する取引です。具体的には、買い手企業が売り手企業の株主との間で、売り手企業の株式と買い手企業の株式を交換します。
買い手企業は、買収のための現金を準備せずに、売り手企業を100%子会社化できるのが特徴です。買い手企業は売り手企業の株式の取得、売り手企業は資本構成者(株主構成)の変化という事象が生じ、個別会計で会計処理されます。完全親子関係になることで連結会計上にも影響が出るでしょう。
売り手側の会計処理
株式交換の場合、買い手企業が売り手企業株主と取引を行います。買い手企業が売り手企業と直接取引するわけではないため、売り手企業では発行している株式の保有者が変更になるだけです。したがって、通常のケースでは、個別会計上、特段の仕訳は計上されません。
買い手側の会計処理
株式交換では、買い手企業は自社の発行する株式を対価として、売り手企業の株式を取得する会計処理が行われます。株式交換は売り手側の株式価値と、買い手側の株式価値が異なることから、交換に際しての交換比率を契約上で決定するのが常です。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業の株式200を取得するケース
買い手企業の株価:2
売り手企業の発行済株式数:200株
交換比率=買い手企業株式1株:売り手企業株式0.5株
借方 | 貸方 | ||
子会社株式 | 200 | 資本金 | 100 |
資本剰余金 | 100 |
買い手企業では100株(売り手企業の株数200株×交換比率0.5)を発行するため、株価2円×100株=200の資本増加となります。
買い手企業の連結会計上、子会社が増加することになるので、子会社である売り手企業の財務諸表を合算したうえで、連結決算を行わなければなりません。資本関係を見ると、子会社株式と子会社の資本金を相殺する仕訳が計上されます。
(仕訳例)※数値は仮
買い手企業で連結決算を行う場合の資本消去仕訳
借方 | 貸方 | ||
資本金 | 100 | 子会社株式 | 200 |
資本剰余金 | 100 |
④株式移転
株式移転とは、新しい企業を設立し、その会社に既存の複数企業の株式を移転するM&Aスキームです。代表的な例としては、持株会社体制(ホールディングス体制)の企業グループを作る際に用いられます。
持株会社体制を作るためには、まず持株会社を新設し、その発行する株式を子会社となる各社の株式と交換する方法です。
売り手側の会計処理
株式移転の場合、売り手企業が発行している株式の保有者が変わるだけです。したがって、個別会計上、特段の仕訳は計上されません。
買い手側の会計処理
株式移転では、買い手企業の個別会計上で、自社の株式を対価として、子会社株式が増加する仕訳が計上されます。
(仕訳例)※数値は仮
・買い手企業の株価:2
・売り手企業A
発行済株式数:100株
交換比率=買い手企業の株式1株:売り手企業の株式0.5株
・売り手企業B
発行済株式数:200株
交換比率=買い手企業の株式1株:売り手企業の株式0.25株
借方 | 貸方 | ||
子会社株式(A) | 100 | 資本金 | 100 |
子会社株式(B) | 100 | 資本剰余金 | 100 |
子会社株式(A):50株(売り手企業の株数100株×交換比率0.5)を発行するため、株価2円×50株=100の資本増加です。
子会社株式(B):50株(売り手企業の株数200株×交換比率0.25)を発行するため、株価2円×50株=100の資本増加となります。
買い手企業の連結会計上、子会社が増加することになるので、子会社である売り手企業の財務諸表を合算したうえで、連結決算を行うことが必須です。資本関係を見ると、子会社株式と子会社の資本金を相殺する仕訳が計上されます。
(仕訳例)
買い手企業で連結決算を行う場合の資本消去仕訳
借方 | 貸方 | ||
資本金 | 100 | 子会社株式(A) | 100 |
資本剰余金 | 100 | 子会社株式(B) | 100 |
⑤合併
合併とは、複数の企業が1つに統合されるM&Aスキームですが、取引としては買い手企業が売り手企業の全てを購入すると解釈します。買い手企業では、売り手企業を購入した処理を、個別会計で会計処理します。
売り手側の会計処理
合併では売り手企業は消滅することになるため、特別な会計処理は存在しません。合併直前に最後の財務諸表(個別会計)を作成するだけです。
買い手側の会計処理
合併では、買い手企業は売り手企業を時価評価して購入した会計処理が行われます。まず、行うのは売り手企業の資産・負債の時価評価です。そのうえで買収対価と差額が生じた場合、この差額は「のれん」として計上し、将来の一定の期間で償却を行います。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業(資産150、負債80)、買収対価が200のケース
借方 | 貸方 | ||
資産 | 150 | 負債 | 80 |
のれん | 130 | 現金 | 200 |
⑥会社分割
会社分割とは、会社の中の事業部門を丸ごと分割し他社に移転する取引です。新設企業に対して分割する新設分割と、既存企業に対して分割する吸収分割があります。売り手企業としては、自社の一部を分離し売却する対価として、買い手企業の株式を取得するものです。
売り手側の会計処理
会社分割の場合、売り手企業では自社の資産・負債の一部を分割して、他社に引き継ぎ、対価として買い手企業の株式を取得します。売り手企業では自社の資産・負債を譲渡した仕訳計上が必要です。
買い手企業が株式を交付する相手によって、以下の2つに分類されます。株式交付先が分割する会社自身の場合が「分社型」、分割する会社の株主の場合が「分割型」です。
(仕訳例)※数値は仮
売り手企業の一部(資産100、負債50)を新設するグループ会社に分割したケース
(新設分割・分社型のケース)
借方 | 貸方 | ||
負債 | 50 | 資産 | 100 |
子会社株式 | 50 |
買い手側の会計処理
会社分割では、買い手企業としては、売り手企業の一部(資産・負債)を引き受け、自社の株式を発行することになるため、個別会計上で会計処理が必要になります。
(仕訳例)※数値は仮
新設会社がグループ会社の一部(資産120、負債60)を譲り受けたケース
(新設分割・分社型のケース)
借方 | 貸方 | ||
資産 | 120 | 負債 | 60 |
資本金 | 60 |
⑦第三者割当増資
第三者割当増資とは、企業が新株を発行し特定の第三者にそれを交付することです。企業にとっては、発行した新株数に該当する金額が増資分となり、新たな資金調達が実現します。
このときの新株発行数を、新株を含めた全発行済み株式数の2分の1以上にすれば、株式を交付された第三者企業は新たな親会社です。
売り手側の会計処理
第三者割当増資でポイントとなるのは、新たに得た増資額の会計処理です。具体的には、新株発行の対価(払込額)を全て資本金増額処理せず、一部を資本準備金として計上する会計処理を有効活用しましょう。
会社法では、払込額の2分の1以下の金額は、増資処理せず資本準備金として計上可能です。法人税の課税率は、資本金が1億円以下であれば優遇措置が受けられます。
第三者割当増資により子会社になるのを避ければ、会社法の規定にある事務負担から逃れるのも可能です。いずれも資本準備金規定をうまく用いて増資額をコントロールする会計処理を行うことで、自社の有利な立場の維持につながります。
買い手側の会計処理
第三者割当増資における買い手側(出資側)は純粋な出資です。したがって、のれんの発生もなく、特別な会計処理もありません。
6. M&Aの会計に関するおすすめの本5選!
M&Aに関する会計は、考えられる取引形態の種類を含め、売り手企業および買い手企業のそれぞれの立場で、体系的に会計処理の概要を理解しておくことが重要です。
特にM&Aは、相手との交渉により条件面を決定する相対取引であるため、M&Aの結果、相手側でどういった会計処理が生じ、どういった影響があるのかを理解しておくことで、相手が重視するポイントが理解できます。
相手の立場を理解できれば条件面の交渉もスムーズに行え、また両者にとってメリットのある条件を検討できるでしょう。ここでは、M&Aに関する会計処理を理解するのに適した、おすすめの本として以下の5冊を紹介します。
- 図解+ケースでわかるM&A・組織再編の会計と税務・第3版(中央経済社)
- そこが知りたい! 「のれん」の会計実務(中央経済社)
- Q&A M&A会計の実務ガイド・第4版(中央経済社)
- M&A会計の実務(税務経理協会)
- 連結会計のしくみ・第2版(中央経済社)
①図解+ケースでわかるM&A・組織再編の会計と税務・第3版(中央経済社)
「図解+ケースでわかる」とありますが、その名のとおり、M&Aのケース(スキーム)ごとに図解を使って、M&Aに関する会計処理を丁寧に解説している本です。
M&Aに関する会計基準はケースごとに細かく設定されていますが、いずれも専門家でないと理解が難しい内容であるため、取引をイメージや図で捉えることで理解が進むといわれています。
その意味からも、図解を通じたイメージで、M&Aに関する会計基準を理解できるこの本は、M&A会計に関する理解を進めるのに非常に適した本であるといえるでしょう。最新の法改正情報も反映されているので、トピックも押さえられます。
②そこが知りたい! 「のれん」の会計実務(中央経済社)
M&Aを検討する際に外せない重要な項目、それが「のれん」です。この本では会計基準で定められている「のれん」に焦点を当て、M&Aにおいて「のれん」が認識されるケースや具体的な会計処理について、図表も交えてわかりやすく解説しています。
会計基準上の違い、具体的には日本基準と国際財務報告基準(IFRS)との差異も解説されており、一からM&A、特に「のれん」に関する会計基準・会計処理の理解を深めたい方におすすめの本です。
③Q&A M&A会計の実務ガイド・第4版(中央経済社)
M&Aの会計をQ&A形式で解説しており、M&Aの会計処理を疑問点からひも解く形で理解できる本です。M&Aの会計処理や仕訳を理解することはもちろん、Q&A形式なのでM&Aの実務で会計処理に悩んだ際、関連するQ&Aを見ることで疑問点を解決できます。
会計基準上の取り扱いも詳細に解説されているため、初学者から実務家まで幅広く利用できるでしょう。手元において、必要なときにQ&Aを検索する辞書的な使い方もできるおすすめの本です。
④M&A会計の実務(税務経理協会)
M&Aに関する会計実務に24年間、携わっている公認会計士が、自身の経験に照らし合わせて、M&A会計に不慣れな人向けに、その基礎実務を解説した本です。
図表や注記などを通して、該当論点の実務における活用頻度にも言及していて、自社内のM&A会計実務にフォーカスしやすいよう、工夫された構成になっています。
⑤連結会計のしくみ・第2版(中央経済社)
この本は、「図解でざっくり会計シリーズ」のうちの1冊です。連結財務諸表の基礎的な事柄について、初心者向けに図を用いた解説が掲載されています。のれん・非支配株主持分・持分法なども理解しやすいでしょう。
第2版として、2015(平成27)年施行の改正連結会計基準も対応しています。
7. M&Aの会計に関する相談先
M&Aでは、採用するスキーム・取引形態によって、会計処理はもちろん、その後の業績にも大きな影響を与えることになります。したがって、法務・会計・税務それぞれへの影響を十分に考慮して、売買価額を含むM&Aのスキームを検討することが重要です。
その検討にあたっては、特に会計・税務面において強みを有するM&A仲介会社を選定し相談することがポイントになります。その点においておすすめのM&A仲介会社が、M&A総合研究所です。
全国の中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、M&A実務に精通し、税務に対する強みを持った経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍し、それぞれが案件ごとに専任となって、相談時からクロージングまでM&Aを徹底サポートします。
通常は10カ月~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月でスピード成約する機動力もM&A総合研究所の強みです。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」となっています(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
随時、無料相談を受け付けていますので、M&Aをご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
8. M&Aの会計まとめ
M&Aには数多くのスキーム・取引形態があり、それぞれに会計処理・税務上の取り扱いも異なります。採用するスキームによって、法律面での対応も異なり、さらに売買価額の算定方法も異なるでしょう。
目的を達成するためのM&Aを実現するためには、取引形態、それに関連する会計処理も理解をしておくことが必要となります。したがってM&Aの検討では、M&Aの会計に関する基本的な知識は把握しておきたいものです。
会計面での細部の知識は、サポートを依頼するM&A仲介会社任せで構いません。ただし、それだけにM&A仲介会社選びは慎重に行いましょう。
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M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
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