M&Aによる買収の目的は?目的別に買い手側のメリット・課題も解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、M&Aは企業規模の大小を問わず、盛んに行われています。この記事では、M&Aにおける買収側の視点に立ち、買収を行う目的を7つに区分し、それぞれのメリット・課題・事例をまとめました。売却側の目的一覧なども、あわせて掲載しています。

目次

  1. M&Aによる買収は目的の明確化から
  2. M&Aの分類
  3. M&Aの類型
  4. 買収の目的①:技術獲得
  5. 買収の目的②:人材確保
  6. 買収の目的③:事業成長の期間短縮
  7. 買収の目的④:多角化対応
  8. 買収の目的⑤:リスク回避
  9. 買収の目的⑥:海外進出
  10. 買収の目的⑦:ライバルの買収
  11. M&Aにおける売却側の目的一覧
  12. M&Aの買収目的による戦略決定
  13. M&Aによる買収の目的まとめ
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1. M&Aによる買収は目的の明確化から

近年は、大企業に限らず、中堅・中小企業や個人でもM&Aが頻繁に行われるようになりました。大企業の経営者はもちろんのこと、後継者を探している中小企業経営者や個人事業主、サラリーマンまで、M&Aが身近なものになってきました。

そもそもM&Aとは?

M&Aとは「Mergesr and Acquisitions」の略で、企業の合併(merger)や買収(acquisition)などの総称です。簡単にいうと、2つ以上の会社が一つになったり、他の会社を買ったりすることです。読み方は「エムアンドエー」です。

M&Aを行い既存の会社や事業を買収することで、買収側は「自社にさまざまなメリットが及ぶ」ことを期待します。

従来、M&Aは大企業同士の間で行われるイメージでした。現在では、後継者不足となっている中小企業のM&Aや、個人が作ったアフィリエイトサイト・ECサイトなどを売買する「サイトM&A」も活発に行われています。

M&Aを行う目的を明確化しよう!

M&Aによる会社や事業の買収を検討する場合、まず、「どのような目的でその会社・事業を買収するのか」を、しっかり明確化させることが肝要になります。

目的が明確化していないと、「不要な資産や負債を抱えてしまう」「M&A費用が余分にかかってしまう」「考えていたメリットを獲得できない」といったリスクが伴い、M&Aが失敗に終わってしまうかもしれません。

【関連】エムアンドエー(M&A)とは?意味、基本的な知識を解説!

2. M&Aの分類

M&Aの分類

一般にいわれるM&Aとは、上図における狭義のM&Aにある通り、以下の3つに分類されます。

  1. 買収
  2. 合併
  3. 分割

それらに含まれない企業間の資本提携は、何らかの資本移動を伴うことから、広義のM&Aとされています。

①買収

M&Aにおける分類の1つである買収は、買収側が売却側の経営権、または事業を買い取ることです。買収の具体的なM&Aスキーム(手法)には、以下の5種があります。

  • 株式譲渡:売却企業の株式を買い取ることで経営権を取得する
  • 第三者割当増資:新株を発行し、それを特定の第三者に引き受けてもらう
  • 株式交換:売却企業の全株式を買収する対価として、買収企業の株式を交換することで完全親子会社関係を作る
  • 株式移転:新設企業が買収側となり、売却企業の全株式を買収する対価として買収企業の株式を交付し完全親子会社関係を作る
  • 事業譲渡:企業の一部、または全部の事業を売買する

②合併

M&Aにおける分類の1つである合併とは、複数の企業が1つに統合されることです。統合後に社名が残る会社を存続会社、統合され解散扱いとなる会社を消滅会社といいます。存続会社におけるタイプの違いで合併は、以下の2種類に分けられます。

  • 吸収合併:既存企業の1社が存続会社となり、残りの既存企業が消滅会社となる
  • 新設合併:新設会社が存続会社となり、既存企業が消滅会社となる

③分割

M&Aにおける分類の1つである分割は、企業が事業に関して有する権利・義務を、別の企業に丸ごと承継することです。分割には、以下の2種類があります。

  • 吸収分割:一方の企業における事業をもう一方の企業が引き継ぐ
  • 新設分割:複数企業の事業を新設する企業が引き継ぐ

【関連】買収・M&Aスキーム(手法)とは?種類・特徴・手続き・税務・法務も解説【事例10選】

3. M&Aの類型

ここでは、M&Aの「類型」を掲載します。自社が求める「M&Aによって得られるメリット」や「M&Aの目的」、「自社の経営戦略」などによって、適切なM&Aの類型が変わるので、その分類を知っておきましょう。類型には以下の5つがあります。

  1. 水平統合型M&A
  2. 垂直統合型M&A
  3. 新市場・新製品追求型M&A
  4. 周辺事業拡大型M&A
  5. 多角化型M&A

①水平統合型M&A

M&Aにおける類型の1つである「水平統合型M&A」は、同業他社・同じ市場で企業活動を行う会社を買収する形態のM&Aです。

②垂直統合型M&A

M&Aの類型である「垂直統合型M&A」は、バリューチェーンの上流または下流の企業を買収する形態のM&Aです。

たとえば、自動車メーカーが、自動車を作るための部品を提供する部品メーカーを買収したり、自動車を販売する自動車販売店を買収したりすることが、「垂直統合型M&A」に当たります。

③新市場・新製品追求型M&A

M&Aにおける類型の1つに、「新市場・新製品追求型M&A」があります。「新市場・新製品追求型M&A」とは、「自社が提供する製品」または「参入している市場」のどちらかが異なる企業を買収する形態のM&Aです。

たとえば、自社の製品を海外市場に展開するために行われるM&Aは、この類型に当たります。

④周辺事業拡大型M&A

自社の本業を「補完する」機能・事業を持っている会社を買収するのが、「周辺事業拡大型M&A」の類型です。EC事業を展開している企業が、配達などを行う運送会社を買収するM&Aは、この類型に当たります。

⑤多角化型M&A

「多角化型M&A」の類型は、市場・製品のどちらとも異なる「異業種企業」を買収するM&Aのことです。新しい収益事業の獲得や、リスク回避を目的に行われるケースでよく実施されます。

【関連】垂直型M&A、水平型M&Aとは?違いやメリット・デメリットを解説

4. 買収の目的①:技術獲得

ここからは、M&Aにおける買収目的ごとの解説に移ります。本記事では、M&Aにおける買収の目的として、以下の7ケースを挙げました。目的ごとに解説します。

  1. 技術獲得
  2. 人材確保
  3. 事業成長の期間短縮
  4. 多角化対応
  5. リスク回避
  6. 海外進出
  7. ライバルの買収

まず、本章ではM&Aでの買収目的として「技術獲得」に着目し、そのメリット・課題・事例を見ていきましょう。

メリット

「技術獲得」によって得られるメリットには、以下があります。

  • 既存事業の強化
  • 技術獲得にかかるコストの削減

既存事業の強化

M&Aによる買収で「技術獲得」ができると、自社の既存事業を強化できます。これまでの自社が持っている技術だけでは達成不可能だった「製品の開発」「事業の拡大」「新規マーケットへの展開」が可能となるでしょう。

自社の事業を展開していくうえで見つかる課題を、「技術獲得」によって改善できるケースもあります。

技術獲得にかかるコストの削減

市場の競合他社に差をつけるため、自社単独で行う「技術獲得」には相当な時間と資金が必要です。M&Aによって、自社が必要とする技術をすでに持っている会社の買収で、技術獲得にかかるコストを削減できます。

課題

M&Aによる「技術獲得」の課題として考えられるのは、以下の2点です。

  • 想定していた効果が生まれない
  • 優秀な人材が流出してしまう

想定していた効果が生まれない

自社に必要と思われる技術を獲得できれば、既存事業が成長するかというと、決してそうではありません。M&Aにお金と時間をかけても、期待どおりの効果が得られない課題が考えられます。

優秀な人材が流出してしまう

これはM&A全体の課題と考えられますが、M&Aによって買収された側における企業の従業員が辞めてしまうリスクがあります。企業文化の違いや労働条件の変更などが原因で、技術を使いこなせる人材が流出してしまい、想定していたメリットが発揮されない可能性もあるでしょう。

事例

ここでは、「技術獲得」を目的に行われたM&Aの事例を紹介します。「技術獲得」を目的としたM&Aの事例は、「メタップス」による「ビカム」の完全子会社化です。

「メタップス」による「ビカム」の完全子会社化

スマートフォンアプリの広告効果測定やユーザー分析などを行うプラットフォームを提供する「メタップス」は2016(平成28)年6月、通販検索や価格比較サイトを運営している「ビカム」をM&Aによって完全子会社化しました。

メタップスは、EC事業者向けのオンライン決済プラットフォームである「SPIKE」を展開しています。しかし、急成長するEC事業における「デバイスの多様化」や、「消費者の行動様式の変化」に対応できていない課題がありました。

そこで、ビカムが持つ「データフィードマネジメント技術」を取り入れて課題を解決する目的で、ビカムをM&Aによって完全子会社化する戦略を取りました。メタップスはビカムの技術を獲得することで、既存事業のさらなる拡大とグローバル展開を視野に入れています。

メタップス、ビカム株式会社の子会社化のお知らせ 〜ECにおける決済からマーケティングまでをトータルで支援できる体制を強化〜
【関連】M&Aにおける課題とは?現状から対策までを解説

5. 買収の目的②:人材確保

M&Aの買収における目的の1つに「人材確保」があります。「人材確保」は、人口減少が続く日本において非常に重要な目的の1つです。

メリット

M&Aによる「人材確保」では、以下のメリットがあります。

  • 既存商品・サービスの向上
  • ノウハウの移植
  • 事業承継が可能

既存商品・サービスの向上

新たな人材・専門性の高い人材を獲得することで、既存の組織・人員では発揮できなかった効果を期待できます。新たな考え方の循環によって、現在直面している課題を解決できるかもしれません。

すでに完成されている「オペレーション体制」を獲得できれば、専門性の高いオペレーションサービスの提供も実現します。

ノウハウの移植

専門性の高い人材を確保することで、新たなノウハウを自社に移植できます。たとえば、営業面に課題がある企業であれば、営業ノウハウを蓄積している人材を確保すると、売上増加が期待できるでしょう。

事業承継が可能

後継者不足で事業を続けていくことが困難な中小企業は、M&Aによって人材を確保することで、会社を廃業せずに継続できます。最近は、事業承継を目的としたM&Aが増加傾向です。

課題

M&Aによる「人材確保」では、以下の点が課題です。

  • 獲得した人材がうまくフィットしない
  • 人材の流出

獲得した人材がうまくフィットしない

売却側の従業員としては、働く環境・企業文化が変わってしまうことで、「これまで発揮できていた能力が発揮できなくなる」「想定していた人材確保の効果が生まれない」といった課題の発生が考えられます。

人材の流出

新たな人材が流入してくることで、これまで働いていた人材のケアが必要になるかもしれません。必ずしも全員が、M&Aによる「人材確保」をプラスに捉えているとは限らないためです。M&Aで人材確保をしたら、既存の従業員が流出してしまうケースもあります。

事例

「人材確保」が目的の1つとして行われたM&Aの事例を紹介します。まず紹介する「人材確保」の事例は、「小僧寿し」による「阪神茶月」と「スパイシークリエイト」の連結子会社化です。

「小僧寿し」による「阪神茶月」と「スパイシークリエイト」の連結子会社化

持ち帰り寿司チェーンを展開している「小僧寿し」は2016年5月、同じく持ち帰り寿司チェーンを運営している「阪神茶月」と、カレーハウススパイシーなどを運営する「スパイシークリエイト」の株式を取得して、両社を連結子会社化しました。

この背景は、小僧寿しが商品開発能力の強化と各社の人材共有化を実現し、フランチャイズ事業体制を全国に網羅させる目的とされています。

株式会社阪神茶月および株式会社スパイシークリエイトの 株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

「卸売業W社」による「化学工業薬品製造業F社」の買収

譲渡企業は化学工業薬品製造業のF社です。本社を愛知県に置き、化学工業薬品の製品開発・販売や不動産管理などを行っています。

譲受企業は卸売業のW社です。本社を東京都に置き、繊維素材・内装資材・インテリア商品の企画設計、輸出入・販売を行っています。

譲渡側では、元々技術者不足という課題があり、技術者を支援してもらえる会社を譲受先として探していました。そして、希望条件に合致した譲り受け企業に出会い、事業譲渡を行ったという経緯があります。

本件M&A事例の詳細は、以下のリンクからご覧ください。

【関連】技術人材不足の解決と 事業の更なる発展を企図した事業譲渡

6. 買収の目的③:事業成長の期間短縮

M&Aによって会社や事業を買収する目的の1つが、「事業成長の期間短縮」です。企業が事業を成長させたり、新規事業に一から参入したりするには、相当な時間を要します。M&Aで会社・事業を買収することで、この時間を短縮できるでしょう。

メリット

「事業成長の期間短縮」における目的でM&Aを実施する場合、以下のメリットがあります。

  • より早く事業が成長できる
  • 新規事業参入のコストを減らせる

より早く事業が成長できる

これは、「期間短縮」を目的にM&Aを行っているので当然のメリットではあります。すでに利益・実績を上げている会社を買収することによって、自分たちの事業をよりスピーディーに成長させることが可能です。

新規事業参入のコストを減らせる

新規事業に参入を検討している企業が、「期間短縮」を目的としてM&Aを実施するケースもよく見られます。これまでに経験のない新規事業・未開拓市場に参入する際は、多くの人員の導入・資金の投入が必要です。

ノウハウのない状態から、新たなスキル・経験を獲得するには、相当な時間を要します。M&Aによって、すでにその市場で実績・経験を積んでいる会社を買収できれば、新規市場参入で良いスタートダッシュが可能です。人材の育成などにかかる費用や時間といったコストの削減も実現します。

課題

「事業成長の期間短縮」を目的としたM&Aにおいて、起こりうる課題は以下の2つです。

  • 優秀な人材の流出
  • 想定どおりのシナジー効果が生まれない

優秀な人材の流出

M&Aでは、全般的に優秀な人材の流出といった課題があります。自社の事業を大きく成長させるために企業を買収しても、M&Aが原因となって、優秀な人材が転職してしまう課題がつきものです。

優秀な人材が流出すると、事業を成長させるスピードが低下してしまうかもしれません。PMI(Post Merger lntegration=M&A後の経営統合プロセス)では、従業員に対するアフターケアが非常に重要です。

想定どおりのシナジー効果が生まれない

新規事業の参入や既存事業のさらなる成長を目的としていても、想定どおりにいくとは限りません。経験や実績を積んでいる企業を買収しても、いざ一緒に事業を進めていくと、想定どおりのシナジー効果(相乗効果)が生まれず、苦戦を強いられることも考えられます。

【参考】シナジーの種類

ここでは、シナジーの種類として、「売上シナジー」「コスト削減シナジー」「負のシナジー」を見ていきましょう。

売上シナジー

会社を買収するとグループ全体の売上が上がりますが、これは単に売上が1+1=2となるだけです。1+1が2を超えるシナジーが、ここでの売上シナジーになります。主な売上シナジーは、下記です。

  • 同じ市場・顧客への商品拡充やサービス拡充
  • 販売チャネルの獲得
  • 営業ノウハウの移植
  • ブランド力、知名度、信用力の活用
  • 商品やサービス開発力の向上
  • シェア向上による市場支配力、価格支配力アップによる売上や利益の向上

コスト削減シナジー

M&Aによる会社の規模拡大でスケールメリットを得て、コスト削減を行います。流通の川上を買収すれば得られるシナジーです。主なコスト削減シナジーは、下記になります。

  • 商品の共同仕入により仕入原価を下げる
  • 副資材や備品などの共同購買により販管費を下げる
  • 電気料金や広告宣伝費などを低価格の発注先に切替えて販管費を下げる
  • グループ単位で物流を見直して物流費用を下げる
  • 営業所の統合で物件費を下げる
  • 経理や総務、人事などの本社業務を統合して効率化し人件費などのコストを下げる

中小企業同士のM&Aでも、コスト削減シナジーを見込めるでしょう。

負のシナジー

シナジーを考慮する際、M&Aにおける負の側面も考える必要があります。M&Aにより顧客が離れる、経営陣・社員の離職、社員のモチベーション低下、ITシステムなどの統合にかかわるコスト、などが負の側面です。これらを負のシナジーといいます。

M&Aによる負の側面として、スタンドアローン問題も特に買収側は知らなければなりません。買収対象があるグループ会社の一社だったりある会社の一事業だったりする場合に、そのグループや会社から分離独立されることで起こるマイナスの影響が、スタンドアローン問題です。

例を挙げると、間接部門である財務会計や人事総務、仕入れ、販売などをグループ会社や他事業部で行っていたケースでは、買収対象の会社・事業のみ切りだして買収すると、新たなコストが生じることがあります。

これがスタンドアローンコストで、買収側は交渉の際、ビジネスモデルをしっかり理解してこれらのコストを考慮し、条件交渉に生かさなければなりません。

事例

「事業成長の期間短縮」を目的としたM&Aの事例として、グリーによる3ミニッツの買収を紹介します。

「グリー」による「3ミニッツ」の買収

ゲーム業界大手の「グリー」は2017(平成29)年2月、「ファッション動画マガジン」「動画マーケティング」「インフルエンサーマーケティング」などを手掛ける「3ミニッツ」を100%子会社化しました。

グリーは、成長著しい「動画広告市場」に新規参入し、いち早く市場規模を獲得・拡大するために3ミニッツの買収を行っています。

株式会社3ミニッツの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

「ジョイフル本田」による「和工房」の買収

譲渡企業の有限会社和工房は、本社を埼玉県に置く会社です。住宅向けリペア業の専門家として、床材や家具を始め石材や特殊素材などの補修を行っています。

譲受企業の株式会社ジョイフル本田は、本社を茨城県に置く会社です。大型ホームセンター「ジョイフル本田」を関東地区で運営。住宅リフォーム事業等も展開しています。

譲受側では、数年前からM&Aの検討をしており、リサーチをしていました。中期経営計画を作成していた中で、改めて会社の成長戦略にはM&Aが必要であると判断しています。今後、当社の柱となる事業はリフォーム事業部であると考え、リフォーム関係の会社を幅広く探しました。

譲受側はBtoCですが、和工房はBtoBです。そのため、経営戦略としてBtoCだけでなく、BtoBからBtoCへの波及ができると考えて買収に至っています。

本件M&Aの詳細は、以下のリンクからご覧ください。

【関連】M&Aで「後継者問題解決」+「成長戦略」を実現

7. 買収の目的④:多角化対応

「多角化」に対応することを目的として、M&Aで会社や事業を買収するケースもあります。「多角化」とは、新規事業参入で業績をさらに伸ばすと同時に、経営上のリスクヘッジも図る事業戦略のことです。

メリット

「多角化」を目的としたM&Aを行うことで得られるメリットは、以下の2点です。

  • イノベーションの促進
  • 経営資源の有効活用
  • 市場・技術の変化に即対応できる

イノベーションの促進

多角化戦略のためにM&Aを行うことで、企業のイノベーションが促進され、競合他社との競争に勝てる可能性が高まります。既存の企業の状態で製品を開発したり、サービスを提供したりしていると、いつか成長がストップしてしまうでしょう。

異業種企業の買収などによってシナジー効果が発揮されると、企業内に新たな経営戦略が生まれたり、新規市場に投入する新製品が開発されたりする可能性が期待できます。

経営資源の有効活用

多角化は、主に「新製品・新サービス」を「新市場」に投入する戦略であるため、これまで発見できなかった、あるいは見過ごされてきた自社の経営資源を有効活用できるチャンスです。

M&Aによって、これまでは自社の利益・売上につながらなかった経営資源を有効活用できることで、企業内に新しい風が吹き、相乗効果が発揮される可能性があります。

市場・技術の変化に即対応できる

市場の変化・技術の進歩に乗り遅れないよう、M&Aを行わずに自社での対応力が育つのを待つと、投資分を回収するまでにかなり乗り遅れてしまうでしょう。

M&Aを行って、すでに対応力を持つ会社と事業統合すれば、市場やビジネス環境の変化などにすばやく対応できます。

課題

多角化を目的としたM&Aの課題は、以下の通りです。

  • 想定どおりの多角化戦略にならないリスクがある

想定どおりの多角化戦略にならないリスクがある

多角化戦略は、これまでとは違う製品・サービスを、これまで戦ってこなかった市場に投入する戦略であるため、「思った通りにならず、撤退する」といった可能性も考えられます。

「多角化の対応」を目的にM&Aを実施したのに新規事業がうまくいかなければ、「M&A自体が失敗だったかも」と感じるでしょう。「多角化すればうまくいく」ものではないことを認識して、M&Aを実施する必要があります。

事例

M&Aによる多角化戦略の事例を紹介します。

「オーウイル」による「海鮮」の買収

2024年3月、オーウイルは海鮮のすべての株式を取得し子会社化しました。

オーウイルは食を中心とした商社として事業を展開しており、食品・飲料原料の輸出入・国内販売、アイスクリームの製造販売を行う企業です。対象会社の海鮮は、輸入鮮凍魚介類輸入販売、国内鮮凍魚介類買付販売などを行っています

今回のM&Aにより、事業の多角化の一つとして水産分野への進出を目指します。そして、グループの企業価値の向上を図る予定です。

「楽天」による「あおぞらカード」の完全子会社化

2004(平成16)年9月、「楽天」は、個人向けカードローン会社であった「あおぞらカード」を完全子会社化しました。これによって楽天は、「個人向けカードローン市場」に参入したのです。現在、あおぞらカードは、「楽天カード」と社名を変えて運営を続けています。

楽天 株式会社あおぞらカードの株式譲受について基本合意
【関連】M&Aの買い手側のメリット・デメリット!買収元企業側の目的を解説

8. 買収の目的⑤:リスク回避

「リスク回避」を目的にM&Aを進める企業も多いです。企業活動には、さまざまなリスクが伴います。そこで、M&Aで企業を買収することにより、リスクの回避を図ります。

メリット

「リスク回避」を目的に行われるM&Aでのメリットは、以下の通りです。

  • 新規事業に参入する際のリスクが軽減される

新規事業に参入する際のリスクが軽減される

新規事業参入には、失敗といった大きなリスクが伴います。多くの資金・時間・労力を費やす新規事業参入は、それらが無駄となるリスクがあるでしょう。そのリスクを回避する手段として、すでに収益化されている企業や事業を買収するのは、安全な新規事業参入方法といえます。

課題

「リスク回避」を目的とするM&Aでの課題は、以下の2点です。

  • 企業文化の違い
  • 従業員の流出

企業文化の違い

たとえ同業種でも、企業が異なればその企業文化も違うものです。それが異業種ともなれば企業文化は大きく異なります。PMI(M&A後の経営統合プロセス)が混乱すると、業績不振になりかねません。

従業員の流出

従業員が流出することで、リスク回避どころか新規事業失敗のリスクが生まれるかもしれません。優秀な人材の流出を避けるためにも、事前に待遇を話し合ったり、将来のビジョンを明確化させたりすることが非常に重要です。

事例

「リスク回避」を目的としたM&Aの事例として、「楽天(現在は楽天グループ)」による「イーバンク銀行」の子会社化を紹介します。

「楽天」による「イーバンク銀行」の子会社化

現在の「楽天銀行」は2010年5月に商号変更したもので、前身は「イーバンク銀行」でした。「楽天」は、2008(平成20)年9月に、まず「イーバンク銀行」との間で資本業務提携を結び第三者割当増資を引き受けます。

そして、翌2009(平成21)年2月に連結子会社化し、同時に追加の第三者割当増資を引き受けました。2010(平成22)年3月には「イーバンク銀行」にTOBを実施して88.57%の株式取得に至り、同年10月、株式交換により完全子会社化したのです。

このM&Aにより、当事、ネット銀行としてNo.1の口座保有数を誇っていたイーバンクの顧客基盤へアクセスできるようになりました。イーバンク銀行が提供していた「決済サービス」も利用可能です。

現在、「楽天銀行」は、ネット銀行の第一線でその存在を示しています。まさに、M&Aによって「銀行・決済サービス」への参入に伴うリスクを回避し、うまく市場に参入できた例といえるでしょう。

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9. 買収の目的⑥:海外進出

M&Aによる買収の目的として、「海外進出」があります。人口減少で市場がシュリンク傾向にある日本にあって、多くの企業が積極的に海外企業とのM&Aを実施している状態です。

メリット

「海外進出」を目的とするM&Aでは、以下3つのメリットが考えられます。

  • 自社事業のシェアをさらに拡大できる
  • 海外の優秀な人材を確保しやすくなる
  • コストを削減できる

自社事業のシェアをさらに拡大できる

M&Aによって海外に進出できれば、大きなシェア拡大につながります。日本市場のみでは到底及ばない規模のシェアを獲得でき、売上・利益はもちろんのこと、企業ブランドの定着、企業価値の向上なども期待できるでしょう。

海外の優秀な人材を確保しやすくなる

海外の企業をM&Aによって買収すれば、海外の優秀な人材を確保しやすくなります。日本にはまだない技術や専門知識を持った人材を獲得できるかもしれません。

コストを削減できる

発展途上国に進出すると、日本と比べて人件費を安く抑えられます。地域によっては、原材料費も日本より安く済ませられるでしょう。進出する国によっては、税率が日本よりも低く、支払う税金を少なくすることが可能です。

こうしたことから、企業を経営していくうえで必要となるコストを、日本よりも削減できるケースがあります。

課題

非常に魅力的なメリットを持つ海外進出を目的としたM&Aですが、その分、さまざまな課題も考えられます。海外進出を目的としたM&Aの課題・デメリットとなるのが、以下の3点です。

  • 人材管理の難しさ
  • 政治リスク
  • 為替レートの変動リスク

人材管理の難しさ

海外進出を目的としたM&Aを行った後、人材管理の難しさといった課題に直面する可能性があります。海外に進出すれば、言語の壁・文化や制度の違いなどが原因で、「新たな雇用が難しい」「すぐに人材が流出してしまう」という問題が発生しがちです。

M&A後は、国内でのM&A以上に留意して現地スタッフとコミュニケーションを取る必要があります。

政治リスク

海外進出を目的としたM&Aには、政治リスクの課題が考えられます。いくら人件費や原材料費が安いからといっても、政治情勢が不安定な国を選んでしまうと、突然のテロや紛争などに巻き込まれてしまう危険性があるでしょう。

政治情勢が不安定なことから、政府によって国外退去を命じられてしまうケースもあります。

為替レートの変動リスク

コスト削減を求めて新興国や発展途上国に進出した場合、為替レートの変動リスクも難題です。新興国や発展途上国の為替は、急激に変動する危険性があり、場合によっては利益額に大きな影響を及ぼす可能性もあります。

事例

海外に進出する目的で行われるM&Aは非常に多く、成功事例も多く存在します。

「STPR」による「B.B.Q」の買収

2024年5月、STPRはB.B.Qの株式を取得しました。

STPRは、クリエイター・コンテンツ・クリエイティブ・プロダクトのプロデュース事業を展開しています。対象会社のB.B.Qは、アニメやゲーム音楽のプロデュース、アーティストの音楽プロデュースや海外進出のサポート、マネジメントなどさまざまな実績を保有するクリエイティブ・エージェンシーです。

今回のM&Aにより、音楽領域への進出や海外への新たな展開を目指します。

「JT」による「RJRI」の買収

「JT」は1999(平成11)年5月に「RJRI」を買収したことで、海外市場において従来の約10倍にもなるタバコの販売本数を達成しました。「RJRI」を買収後、積極的なブランディング戦略を行ったことで、海外での知名度が上がったことが売上増加につながっています。

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10. 買収の目的⑦:ライバルの買収

「ライバルの買収」を目的に、M&Aを行うケースもあります。同じ市場でシェアを分け合っているライバル企業を買収することで、市場内における自分たちのポジションがより強固になるからです。

メリット

「ライバル企業の買収」を目的としたM&Aでは、以下の2点がメリットです。

  • 市場シェアをさらに拡大できる
  • 競合他社のノウハウを獲得できる

市場シェアをさらに拡大できる

ライバル企業の買収を目的にM&Aを行えば、これまで奪われていたシェアを自社のものにできるため、事業を展開している市場内において、シェアを格段に伸ばせます

競合他社のノウハウを獲得できる

ライバルを買収できれば、これまで自社の脅威となっていた競合他社のノウハウを自分たちのものにできます。これまでライバル同士だった企業が、お互いに手を組むことで利益拡大が見込まれるでしょう。

課題

ライバル企業を買収する際の課題点は、以下の2つです。

  • 買収価格が高くなる
  • 従業員が流出する

買収価格が高くなる

ライバル企業を買収する際に取られるM&A戦略として、敵対的買収があります。一般的なM&Aは友好的買収といわれ、買い手と売り手の双方が合意したうえで行われます。一方、敵対的買収は、売り手側の合意がないまま実行されるM&A戦略です。

上場企業が対象の敵対的買収であれば、基本的にはTOB(株式の公開買い付け)が実施され、市場で取引されている株価よりも高い価格で、ライバル企業の株式を購入します。非常に高い買収金額を用意しなければなりません。

従業員が流出する

ライバル企業を買収すると、企業風土の違いや、事業に対する意識の違いから、従業員が辞めてしまう可能性があります。ライバル企業のM&A後は、十分な従業員のケアが必要不可欠です。

事例

「ライバル企業の買収」を目的として行われたM&Aの事例として、「楽天」による「マイトリップ・ネット」の買収を紹介します。

「楽天」による「マイトリップ・ネット」の買収

「楽天」は2003(平成15)年9月に、当時の競合他社であった「マイトリップ・ネット」を完全子会社化しました。マイトリップ・ネットは、「旅の窓口」という宿泊予約サイトを運営してきた会社です。

一方、楽天グループでは、子会社の「楽天トラベル」が同一事業を運営していましたが、シェアはマイトリップ・ネットが断然、上でした。楽天は、このM&Aによって、宿泊予約サイトにおける楽天グループのシェアを約7割とし、トップに立ちました。

マイトリップ・ネットと楽天トラベルは、翌2004(平成16)年8月に合併し(楽天トラベルが存続会社)、その後、2014(平成26)年4月に親会社楽天が楽天トラベルを吸収合併しています。

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11. M&Aにおける売却側の目的一覧

M&Aは売却側の存在があって成り立つものです。ここでは、M&Aにおける売却側が持っている目的のうち、代表的な以下の6項目について、その概要を掲示します。

  1. 投資回収・現金化までの時間短縮
  2. 事業承継問題の解決
  3. 創業者利益の獲得
  4. 事業の集中と選択
  5. 個人保証からの解放
  6. 企業再生

①投資回収・現金化までの時間短縮

一般に、事業に投資した資金を回収し、さらに十分な収益を上げるには、相応の時間が必要です。しかし、何らかの理由で、当初もくろんでいた計画よりも早く資金の回収を図りたい事業者もいるでしょう。

こうした場合、M&Aであれば、単に現有資産の現金化のみならず、将来に得られるであろう収益の分も加味して売買価格が決められるため、投資資金の回収と将来に予定していた収益の一部を現金化できます。

本来であれば、もっと先の時期であった資金回収+収益獲得が時間短縮されるので、これを目的にM&Aでの売却を目指す事業者もいます。

②事業承継問題の解決

現在の日本では、少子化や価値観の多様化などを原因として後継者不足に陥っている中小企業が多数あります。昨今、事業承継問題の解決策として、M&Aが広く用いられるようになりました。

M&Aで会社を売却することによって、その買収側が新たな経営者(後継者)となり会社の経営は継続されます。

③創業者利益の獲得

高齢の経営者であれば引退後の生活資金、まだ若い経営者であれば次の新たな事業資金として、創業者利益を獲得するために会社や事業を売却することは、M&Aを実施する大きな目的の1つです。

④事業の集中と選択

多角化経営は、経営戦略の常とう手段ですが、多角化した全ての事業がうまくいくとは限りません。なかには赤字部門となって経営の足を引っ張ったり、赤字ではなくとも大した収益は得られていなかったりする事業があるものです。

こうしたケースでは、経営資源を主力事業・黒字事業に集中させた方が、経営の効率化や業績拡大化が図りやすくなります。「事業の集中と選択」を目的としたM&Aでの赤字部門・不要部門売却は、よく行われています。

⑤個人保証からの解放

中小企業が資金繰りをする場合、そのほとんどが金融機関からの融資です。融資の審査を通りやすくするために、経営者個人の連帯保証や、経営者における個人資産の担保差し入れなどが求められてきました。

中小企業経営者は会社と一心同体とはいえ、個人保証や担保の存在は精神的負担が大きいです。会社を売却すれば、債務は買収側に引き継がれるため、個人保証から解放されます。

⑥企業再生

経営不振に陥ってしまった企業を廃業せず、何とか立て直すため、つまり、企業再生を目的に行われるM&Aもあります。一般的に考えると、「経営不振の企業に買い手がつくのか」と思うかもしれません。

しかし、該当企業が独自の技術や企画力、開発力、特許などを有しているケースもあり、その場合は企業再生目的のM&Aが、成立しています。

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12. M&Aの買収目的による戦略決定

最後に、「M&Aの買収目的」ごとに適したM&A戦略の決定について説明します。M&Aを実施する目的に適したM&Aの類型を選ぶことが、M&A成功に必要な戦略です。本記事で取り上げたM&Aにおける7つの買収目的ごとに、適するM&A類型を下表にまとめました。

目的 M&Aの類型
技術獲得 水平統合型M&A / 垂直統合型M&A / 周辺事業拡大型M&A
人材確保   水平統合型M&A / 周辺事業拡大型M&A
事業成長の期間短縮 水平統合型M&A / 新市場・新製品追求型M&A
多角化対応   多角化型M&A / 新市場・新製品追求型M&A
リスク回避 新市場・新製品追求型M&A / 多角化型M&A
海外進出  垂直統合型M&A / 水平統合型M&A
ライバルの買収 水平統合型M&A

買収目的ごとに、取るべきM&Aの戦略が異なります。たとえば、「人材確保」を目的にM&Aを行う場合は、「水平統合型M&A」または「周辺事業拡大型M&A」を適用することが、最も理にかなった戦略です。

同業他社・同じ市場で活動する企業をM&Aによって買収したり、周辺事業を買収したりすることで、「人材確保」の目的を達成できる可能性は高まります。

一方で、「人材確保」の目的なのに、「多角化型M&A」を選んでしまうと、うまくシナジー効果が発揮されないことなどが原因で、想定している「人材確保」のメリット獲得が困難になるでしょう。

買収目的に適したM&A手法かどうかが、M&Aの成否を分けることになります。M&Aの戦略を決める際は自社だけで行わず、M&A仲介会社などの専門家を交えて策定しましょう。

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13. M&Aによる買収の目的まとめ

本記事では、M&Aを実施する際に考えられる「目的」や、目的別の「メリット」と「課題」を分類して解説し、あわせて「事例」も紹介しました。

主な買収目的は以下の7つです。

  1. 技術獲得
  2. 人材確保
  3. 事業成長の期間短縮
  4. 多角化対応
  5. リスク回避
  6. 海外進出
  7. ライバルの買収

​​​​​​​M&Aを検討する際は、自社の目的を明確にし、それに合った戦略を選ぶことが重要です。目的を明確化し、適切なアプローチをとることで、より良い成果が期待できるでしょう。

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