2024年08月07日更新
M&Aの種類とは?区別方法や各手法のメリット・デメリットの比較・税金・事例をわかりやすく解説【2024年最新】
M&Aにはさまざまな種類があり、メリット・デメリットもそれぞれです。当事者同士の交渉によって、メリットが大きい方法で実行されます。主に「大企業」か「中小企業」かによって、選択方法はある程度決まっているものです。さまざまなM&Aの種類をまとめました。
目次
1. M&Aの手法とは
M&Aとは、会社や事業を買ったり、合併したりすることです。M&Aの際のやり方や流れを「手法(スキーム)」と呼びます。
例えば、株を譲る方法や事業そのものを移す方法が考えられます。選ぶ方法によって、得られる利益や税金の面でのメリット、デメリットが変わります。必要な手続きも違うため、何の目的でどんな会社や事業を選ぶかに合わせて、最良の方法を選ぶ必要があります。
間違った方法を選んでしまうと、思っていたより良い結果が出なかったり、余計なものを引き継いでしまったりするリスクがありますので注意しなければなりません。
2. M&Aの種類は狭義と広義の2つに大別
M&Aは英語の「Mergers and Acquisitions」の略で、訳すと「買収と合併」です。大まかにいえば、複数の企業を一つの企業に統合したり(合併)、ある企業が他の企業の株式や事業を買い取ったりする方法(買収)をさします。
譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)それぞれが目的をもって交渉し、さまざまな種類の手法(スキーム)の中から合意した方法で実行されます。
正確には、M&Aには狭義と広義の両方があります。しかしながら、ただ「M&A」といわれる場合は、狭義のM&Aの種類をさしていることがほとんどです。
狭義のM&A(権利の移転あり)
狭義のM&Aとは、権利の移転を伴うM&Aです。企業や事業の経営権を移転させるのを目的とする、買収や合併、会社分割の3種類をさします(「M&Aの種類(小分類)」の一覧)。
それぞれ手法によって使用する場面やメリットは異なります。したがって、実際に使用する際は、状況に応じて最適なM&Aの手法を選ぶのが重要です。具体的にそれぞれ説明しましょう。
買収
買収とは、企業の経営権や事業の運営権を買い取るM&Aです。買収によって、売り手側から買い手側に経営権が移転します。したがって買い手側は、以下のメリットが得られるでしょう。
- 初めから軌道に乗った状態で事業がスタートできる
- 時間がかからず自社の補強ができる
- 既存事業の強化や競業他社に優位性を確立できる
しかし買収後、買収企業や事業の収益性が低いと、多額の買収資金が無駄になってしまう、簿外債務が発生するなどして、多額の損失をこうむる恐れもあるので注意が必要です。
一方、売り手側は、売却によって下記のメリットが得られるでしょう。
- 売却利益の獲得
- 後継者不足の解決
- 大手の傘下に入った場合、事業継続・発展を目指せる
しかし経営者は、経営権を失ってしまうといったデメリットが生じてしまいます。
合併
合併は、複数の会社を一つの法人に統合するM&Aです。吸収される側のすべての権利や義務を、一つの企業に承継させる手法です。買収とは違い、売り手側の法人格は完全に消滅してしまいます。
したがって合併のM&Aは、子会社同士などグループ内の再編を目的に行われるケースが多くあります。グループ内で合併を行った場合、下記のようなメリットが得られるでしょう。
- 生産性の向上やコストカットが可能
- シナジー効果が期待できる
合併は他にも競合他社で行うケースもあります。業界の発展やシェアの獲得が期待できます。しかし、合併は買収と比べて手続きが面倒です。組織が肥大化すると、意思決定や指揮命令が複雑化してしまうリスクも潜んでいます。
会社分割
会社分割は、会社から一部の事業を切り分けて、他社に承継させるM&Aです。合併と同様に、経営統合やグループ内再編を目的に行われるケースが多くあります。
事業の一部のみを切り分ける方法なので、売り手側の経営権はそのまま継続できます。会社分割を用いる場合、以下のようなメリットが得られるでしょう。
- 権利・義務を包括的に承継できる
- 従業員や取引先と再度契約を結ぶ必要がない
- 合併よりも柔軟に組織再編が実施できる
しかし、許認可が必要となる事業の場合は、そのまま承継できないケースもあります。包括的に承継するため、簿外債務や偶発債務が発生するリスクも考えられます。このようなデメリットもあるので注意が必要です。
広義のM&A(権利の移転なし)
広義のM&Aは、経営権を移転しないやり方で、何らかの協力関係を構築する株式の持ち合いや業務提携、合弁会社の設立が含まれます(「M&Aの種類〜その他」の一覧)。
M&A手法(スキーム)の選び方
M&Aは譲渡側(売り手側)と譲受側(買い手側)それぞれが、主に以下の目的をもって行われます。
- 譲渡側:事業承継対策や創業者利潤の獲得、事業の選択と集中、企業再生など
- 譲受側:既存事業の規模の拡大、新規事業の獲得、人材や技術の確保など
これらの目的を果たすため、譲渡側および譲受側の置かれている状況を勘案した交渉によって、双方にとって最もメリットの大きいM&Aの手法(スキーム)が選択されます。
何をもってM&Aが成立するかは、それぞれの手法(スキーム)によって異なるでしょう。
M&Aの種類でメジャーな方法
M&A(狭義)のメジャーな方法は上記のとおりです。中小企業のM&Aが増えてきている中で、件数では9割以上が「株式譲渡」か「事業譲渡」のいずれかの種類が選ばれています。
理由としては、事業承継をしたい中小企業の売り手側にとって、さまざまな種類の手法の中でも、簡便で早いからです。「株式譲渡」「事業譲渡」ともに資金的に余裕のない中小企業がM&Aの売り手となる場合、株主や会社に資金が入ってくることがメリットを大きくしているといえます。
一方で、中小企業の買い手側にとってメリットが大きいのが「合併」によるM&Aです。買収のための資金を必要としませんし、雇用や取引先との契約がそのまま引き継がれますので、手続きとしては簡便なため買収しやすくなります。
したがって、中小企業では「合併」も次によく使われるM&Aの手法(スキーム)です。
3. M&Aの種類(買収)
①株式譲渡
株式譲渡は、 会社のオーナーが保有する株式を買い手に譲渡し、会社の経営を承継させる手法(スキーム)です。売り手と買い手が合意した内容の株式譲渡契約書(SPA)を締結し、株式の対価の支払いと、株主名簿の書き換えのみで完了します。
他のM&Aの手法(スキーム)と比べると簡便な取引です。中小企業が丸ごと事業を譲渡する場合の9割はこのM&Aの手法が用いられます。
株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットは以下のとおりです。
- 原則、株主が代わる以外に大きな影響はなく、会社の事業はそのまま存続する
- 許認可や取引先との契約などもそのまま引き継げる
- 役所などへの手続きや法務局へ変更登記の申請は不要で、基本的には会社内部で完結できる
- 買い手側は、コストも時間もかけずに短期間で事業を拡大できる
株式譲渡のデメリット
株式譲渡のデメリットとしては、会社の内部的な事情に与える影響があります。まとめると以下のとおりです。
- 従業員の雇用や労働条件が変更されることもある
- 買い手側は、望んでいない会社の負債も引き継がなければならない
- すべての事業所を含めた会社を売却する方法で、一部の事業のみの売却はできない
株式譲渡の流れ
株式譲渡の流れは、売り手側に株式譲渡制限があるかどうかでも変わります。株式譲渡をM&Aスキームとして行う際は、以下の手順に沿って手続きが必要です。
- 株式譲渡の承認請求を行う
- 取締役会あるいは株主総会による株式譲渡の承認
- 株式譲渡契約の締結
- 代金の決済などのクロージング
- 株主名簿の書き換え
株式譲渡で課される税金
株式譲渡によるM&Aでは、買い手に税金が発生しないのがほとんどです。しかし、売り手には譲渡益に対して税金が発生します。売り手が個人の場合は所得税と住民税、復興特別所得税が発生するのに対し、法人の場合は法人税が発生するでしょう。
株式譲渡によるM&Aでは、売り手企業には譲渡価格に対して以下の税金が課税されます。
- 所得税(20%)
- 復興特別所得税(0.315%)
- 住民税(5%)
非上場株式を売買する際は、譲渡価格が著しく低い、無償譲渡である場合、時価よりも高い場合は、時価で譲渡する場合と税金の種類や税率が変わるので注意が必要です。
非上場株式の株式譲渡を行う際は、税金に関してトラブルが発生する可能性もあります。専門家に相談するのがベストでしょう。
事業承継のための株式譲渡には、「売買」「贈与」「相続」がある
中小企業のM&Aによる事業承継で株式譲渡が選択される場合には、買い手側への「売買」「贈与」「相続」による方法があります。それぞれのメリット・デメリットは以下のとおりです。
【売買】
- メリット:他の法定相続人ともめる心配が少なくなるので、後継者の地位が安定する
- デメリット:後継者が多額の資金を準備しなければならない
【贈与】
- メリット:後継者が株式取得のための資金を準備する必要がない
- デメリット:基礎控除額を超えると贈与税を支払う必要がある
【相続】
- メリット:資金を準備する必要がなく、贈与税よりも基礎控除額が大きい
- デメリット:相続争いが起きやすく、後継者の地位が不安定となる可能性がある
②株式交換
株式交換とは、買い手側が買収の対価として新株を発行し、売り手側の持つ株式と交換するもので、売り手企業の経営権を獲得するM&Aの手法(スキーム)です。
買い手側の会社が親会社となり、売り手側の会社が子会社となります。なお、この種類のM&Aで株式交換が実施されるケースは、買い手側(親会社となる企業)が上場企業であることが一般的です。
株式交換のメリット
株式交換は親会社・子会社関係を構築する際によく用いられる買収手法であり、以下のようなメリットがあります。
- 資金を用意しなくても買収によるグループ化が可能
- 買い手側の株式価値が高い場合、現金での買収よりも低い金額で買収できる可能性がある
- 売り手側の会社が子会社となるため、グループ化を着実に進められる
- 売り手側も交換された株の株価上昇のメリットが受けられる可能性がある(特に買い手側が上場企業の場合)
株式交換のデメリット
株式交換のデメリットは、価値や変動に影響を受けやすいことです。まとめると以下のようになります。
- 買い手側企業が上場企業の場合、1株当たりの利益が減少して株価下落のリスクがある
- 売り手側の株主が新たに買い手側企業の株主として加わることで、買い手側の既存株主の持分が希薄化する
- 買い手側の株式価値が低い場合、割高の買収になる可能性がある
- 株主総会での決議や株式交換に反対する株主からの株式の買取請求への対応など手続きが煩雑
株式交換の流れ
株式交換の主な手続きは、下記のとおりに進めます。
- 取締役会決議(取締役会を設置している場合)
- 株式交換の契約締結
- 事前開示書類の備置
- 債権者に対する公告および個別の催告
- 株主総会の招集通知
- 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)
- 反対株主からの株式買取請求
- 株式の取得および対価の交付
- 事後開示書類の備置・開示
株式交換で課される税金
株式交換で課される税金は、税制適格か非適格かによって取り扱いが異なります。適格株式交換の場合、完全親会社・完全子会社および株主に、基本的に課税は生じません。親会社も、資本金などの増額により事業税などの税額が増えるケースを除けば、課税は発生しません。
一方、非適格株式交換では、完全子会社とその株主に課税が発生する場合があるでしょう。子会社側の資産を時価評価する必要があり、含み損益が生じて法人税などが課税されるケースもあります。
対価に金銭が用いられた際は、譲渡益に対する課税義務が生じるケースもあるので注意が必要です。
③株式移転
株式移転は、1つ以上の株式会社がその発行済み株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることにより、完全な100%親子関係になるためのM&Aの手法(スキーム)です。
主にグループ再編や経営統合をする際に用いられます。株式移転による代表的なものは、ホールディングカンパニーの設立です。
設立した親会社が「株式移転完全親会社」、発行済み株式を取得される子会社が「株式移転完全子会社」となります。どちらも会社の種類としては株式会社に制限されます。
株式移転のメリット
ホールディングカンパニーの設立に代表される株式移転の場合は、新たに設立された親会社を通じて統合されます。つまり、子会社となる会社の資産や事業の状況をそのまま残したまま、支配関係だけが変わることになるのがメリットです。
そのほかのメリットは、以下のとおりです。
- 完全な合併の場合に起きがちな、異文化融合や人事制度統合などの障壁を取り除ける
- 本社機能を親会社に統合できれば、子会社の間接費や管理コストを大幅に削減可能
株式移転のデメリット
株式移転は支配関係が変わるだけで、各子会社は資産や事業の状況をそのまま残してそれぞれ独立して存在します。この点は確かにメリットですが、これと表裏一体のデメリットが大きいでしょう。まとめると以下のようになります。
- 子会社間の連携が進まずに、グループ再編や経営統合による効果が出ず、かえって管理コストの増大を招く恐れがある
- 子会社の数が多いと株主や株主の変動も多数になり、手続きが煩雑になる
株式移転の流れ
ここでは、株式移転の流れを説明します。細かな違いはあるものの、基本的には株式交換と同じような流れで手続きを進めることになるでしょう。
- 株式移転の契約締結
- 株式移転計画の作成
- 事前開示書類の備置
- 債権者に対する公告および個別の催告
- 株主総会の招集通知
- 株主総会の特別決議
- 反対株主からの株式買取請求通知発送
- 事後開示書類の備置
- 株式移転の登記
株式移転で課される税金
株式移転で課される税金は、株式交換と同様に税制適格か非適格かによって異なります。株式移転完全親会社の税務処理は、株式移転完全子会社の株式の取得原価や資本金などの額によって計上金額が変わります。
非適格株式移転の場合、対価となる株式の時価で、完全子会社株式の取得原価を計上しなければなりません。一方、適格株式移転の場合は、完全子会社株式の取得原価の計上額は、株式移転完全子会社の株主数によって異なります。
④第三者割当増資
第三者割当増資とは、株式会社による資金の調達方法です。特定の第三者に対して新株の発行や自己株式を割り当てて対価を得るスキームです。
第三者割当増資を行うケースとしては、売り手側は資金調達を目的に、買い手側は相手企業に対する支配力の強化を目的に実施するのが一般的でしょう。その他には、敵対的買収の防衛策として用いられます。
株式は、既存株主に平等に割り当てるのではなく、会社が指定した相手に割り当てます。既存株主はそのまま株式を保有するので、新株を引き受ける者は100%の株式を獲得できないのが特徴です。
第三者割当増資のメリット
第三者割当増資を行う際は、下記のメリットが期待できます。
- TOB規制の適用を受けずに利用可能
- 対象企業の経営に対する影響力を高められる
- 売り手側は返済義務のない資金を調達できる
- 業務提携や資本提携がスムーズに行える
第三者割当増資は、新規事業をスタートしたり既存の事業を拡大したりできるため、企業価値の向上が期待できるでしょう。
第三者割当増資のデメリット
第三者割当増資のデメリットは、以下のとおりです。返済義務のない増資ではありますが、だからといって安易に選んでしまうと、思わぬリスクを被る可能性もありますので注意しましょう。
- 売り手側は経営陣の持ち株比率が低下し、経営に対する影響力が低下する
- 売り手側は資本金増加による増税のリスクがある
- 買い手側は既存株主が残るため、完全な経営権を掌握できない
- 買い手側は一定の株式保有割合を獲得するのに、多額の資金が必要となる
第三者割当増資の流れ
第三者割当増資によるM&Aでは、主に以下の手続きが必要です。
- 取締役会による募集株式の発行決定
- 株主総会の招集通知
- 特別決議により、「募集株式の数」「払込金額、金額算定方法」「金銭の払込期間」「増加する資本金および資本準備金の事項」などを決定
- 募集の通知
- 募集株式の引受け申し込み
⑤事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業を第三者に譲渡(売却)する方法です。対象となる事業は、有形・無形の財産・債務、人材、事業組織、ノウハウ、ブランド、取引先との関係など、あらゆる財産が対象となります。
事業譲渡は契約によって個別の財産・負債・権利関係などを移転させる手続きなので、会社が営んでいるすべての事業を譲渡できます。一部の種類の事業のみを譲渡するのも可能です。
ただし、事業譲渡をした会社は、同じ種類の事業を行うことが制限されるので注意しなければなりません(競業避止義務)。
一部譲渡
一部譲渡とは、会社の中で範囲を定めた一部の事業を譲渡する方法です。事業譲渡の場合は当事者間で譲渡対象とする事業の範囲、資産や負債の範囲を自由に決められます。
売り手側には、自社に残したい事業は残して事業の選択と集中を図ることや、不採算部門を譲渡して財務状況を改善することが可能です。買い手側にとっても、望む種類の事業のみ譲渡を受け、不要な資産や負債は引き継ぐ必要がありません。
全部譲渡
全部譲渡は、会社の事業すべてを他の企業に渡す方法です。ただし、事業の全部を譲渡しても、そのままでは譲渡会社は解散せず、競業避止義務によって同じ業務を行えません。
引き続き譲受企業が事業を行う場合は、定款の事業の目的を変更するか、あるいはそれまでに決めていた目的の事業を行うことになります。その際、譲渡で得た資金が事業再生の一環として活用されることも可能です。
一方で、譲渡で得た資金で債務が弁済できれば、会社を解散する方法もあります。
事業譲渡のメリット
同族経営の規模が小さい中小企業の場合は、大企業に比べれば手続きも簡便でメリットが大きいでしょう。中小企業が事業の一部を切り離したい場合の9割で、この手法(スキーム)が用いられます。
メリットをまとめると、以下のとおりとなります。
- 一部の事業のみを譲渡対象とするのも可能
- 買い手側は、契約の範囲を定めることで、帳簿外にある債務(簿外債務、偶発債務など)を引き継がないことが可能
- 売り手側は売却による資金調達が可能
事業譲渡のデメリット
事業譲渡は事業のみの売買で、その事業の運営会社がそのまま変わることになります。雇用や契約などの手続きを改めてする必要があります。この手法(スキーム)は、株主総会の決議を経て行わなければなりません。
したがって、規模の大きな事業ほど手続きが煩雑で費用もかかるため、売り手側・買い手側双方にデメリットが大きくなります。デメリットをまとめると以下のとおりです。
- 事業譲渡は原則として株主総会の特別決議が必要となり、これが上場会社の場合は手間と費用がかかる
- 取引先あるいは従業員の契約先がすべて相手の会社に代わるので、手続きが煩雑で時間がかかる(特に事業規模が大きいほど煩雑)
- 事業にかかる許認可は原則として承継できず、事業譲渡によって事業主体が変わる場合は、譲受会社が改めて許認可申請を行う必要がある
- 買い手側と売り手側との売買契約なので、買い手側は資金を調達する必要がある
- 買い手側に債務を移転させる場合には、債権者の同意を得なければならない
事業譲渡の流れ
事業譲渡の場合は、大まかな流れは以下のとおりです。事業を譲り渡す際は、さまざまな要因が含まれるため、手続きは煩雑になります。専門家に依頼をして進めるのがベストでしょう。
- 事業譲渡契約の締結
- 株主総会の招集
- 株主総会の特別決議
- 反対株主の買取請求
- 財産および契約上における名義変更や許認可手続き
- 事業譲渡の効力発生
買い手側と売り手側、双方と協力して、事業を完全に引き継ぐための経営方法のすり合わせを行います。問題がなくなるまで協力し合い、完全に引継ぎができれば事業譲渡の完了です。
事業譲渡で課される税金
事業譲渡では、売り手と買い手で課税される税金が違います。まずは、売り手側の税金は以下のとおりです。
- 法人税など:譲渡益(売却金額−譲渡資産の簿価)に対して課税
- 消費税:買い手が負担した金額を納付
買い手側の税金は以下のとおりです。
- 消費税:課税資産(土地や有価証券、債権以外)の10%
- 登録免許税:土地と建物それぞれ、固定資産税評価額の2%
- 不動産取得税:固定資産税評価額の4%(令和3年3月31日まで、住宅および土地は3%)
4. M&Aの種類(合併)
会社の合併とは、1社あるいは複数の会社が他の会社に権利義務のすべてを承継させるM&Aの手法(スキーム)です。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。
互いにグループが異なる独立した会社間で行われる場合もあります。他には、グループ内再編として同一グループ内の会社間で行うケースもあるでしょう。
通常、「合併」の場合は、複数の会社が契約により1つの会社に合体し、1社を残して他の会社が消滅する形を指します。「買収」といわれる種類のM&Aでは、買収する会社が存続するのが一般的です。
吸収合併
吸収合併は、一方の法人格を消滅させてもう一方の法人格だけを残し、合併によって消滅した法人格(消滅会社)の権利や義務、債務などのすべてを合併後存続する会社(存続会社)に承継させるM&Aの手法(スキーム)です。
吸収合併により、消滅会社が保有している資産(権利)、抱えている負債(義務)のほか、消滅会社が当事者となる一切の契約(取引先との商取引契約、従業員との雇用契約など)上の地位は、すべてそのままの条件・内容で存続会社に承継されます。
この場合の消滅会社の株主には、存続会社の株式が対価として交付され、消滅会社の株主は新たに存続会社の株主となります。
吸収合併の流れ
吸収合併によるM&Aは、以下の流れとなります。合併は包括的な承継となるため、被合併会社の権利から債務までのすべてが対象となるため、さまざまな手続きが必要です。
- 合併契約の締結
- 事前開示書類の備置
- 債権者への通知・公告
- 反対株主に対する買取請求手続き
- 株主総会の招集
- 株主総会の特別決議
- 合併による登記申請
- 事後開示書類の備置
吸収合併で課される税金
吸収合併で課される税金は、適格吸収合併か非適格吸収合併かによって違います。まず、適格吸収合併の場合は、消滅する会社の繰越欠損金を引き継ぐことが認められるでしょう。しかし、非適格合併の場合は、資産を時価で引き継ぐため、譲渡益に対して課税が発生します。
新設合併
新設合併は、新設した会社にすべての合併対象会社(消滅会社)の権利義務を、すべてそのままの条件・内容で承継させるM&Aの手法(スキーム)です。消滅会社の株主には、新設会社の株式が対価として交付され、消滅会社の株主は新たに新設会社の株主となります。
ただし、新設合併の場合は、新設法人が改めて事業に必要な許認可を取得し直す必要があるなど、手続きが煩雑でコストがかかります。この手法(スキーム)が用いられることは多くはありません。
合併のメリット
吸収・新設に共通していえるメリットは、以下のとおりです。
- 合併の効果は包括承継なので、契約関係・権利義務・従業員などを承継させるための個別手続きが必要ない
- 対価としては株式を交付すればよいので、買収資金は不要
- 組織が完全に一体となるので、合併する双方のノウハウを生かした相互補完がうまくできれば、規模の拡大やコスト削減などで大きな効果が期待できる
合併のデメリット
デメリットは以下のとおりです。
- 株主総会特別決議、書類の備置・閲覧、反対株主の株式買取請求、債権者保護手続きなどの厳格な手続きを踏む必要がある(大規模会社による小規模会社の吸収合併の場合には、簡易合併の例外あり)
- 合併する会社それぞれの企業文化の違いによる摩擦が起きやすい
- 存続会社・新設会社は、消滅会社の引き継ぎたくない資産・負債や簿外債務があっても引き継ぐ必要がある
- 消滅会社の株主が交付される株式が非公開の場合、その株式の現金化は困難
5. M&Aの種類(会社分割)
会社分割とは、会社を複数の法人格に分割してそれぞれの法人格に組織・事業・資産を移転するM&Aの手法(スキーム)です。分割した事業を新たに設立した会社が引き継ぐ新設分割と、既存会社が引き継ぐ吸収分割の2種類の方法があります。
主に成長部門の子会社として独立化や不採算部門の切り離し、グループ内の重複事業の集約化など、経営効率を高めるための企業グループの再編成に利用されます。
新設分割
会社の事業の一部、例えば多額の債務と担保不動産だけを分割会社に残し、採算のとれている事業だけを切り出して新設会社に承継させることにより、企業再生を図る目的で用いられることがあります。
新設分割にはさらに、分割型新設分割と分社型新設分割の2種類の方法があり、それぞれを以下に示します。
【分割型新設分割】
- 事業の一部を分離して新設会社が承継し、新設会社の株を分割会社の株主が取得(現物出資と同様の経済効果を創出します)
【分社型新設分割】
- 事業の一部を分離して新設会社が承継し、新設会社の株を分割会社が取得
新設分割の流れ
新設分割の流れを見ていきましょう。新設分割は、分割計画書の作成が必要です。それを除けば、吸収分割とほとんど同じような流れとなります。
- 新設分割計画書の作成
- 分割会社へ事前開示書類の備置
- 一定範囲内の労働者および労働組合に対する通知
- 債権者への通知・公告
- 反対株主の買取請求手続き
- 株主総会の招集
- 株主総会の特別決議
- 新設分割の登記申請
- 事後開示書類の備置
新設分割には、さまざまな手続きが必要です。専門家に依頼する場合であっても、大まかなフローを理解しておくと、スムーズに進められるでしょう。
吸収分割
会社の事業の一部、例えば不採算事業を切り出し、その事業に特化している会社に吸収させることにより、分割会社のスリム化や分割承継会社の事業拡大を目的として用いられることがあります。
分割承継会社側にとっては、会社の一部を吸収する点は事業譲受や吸収合併に類似している形です。
吸収分割の流れ
吸収分割に必要な基礎的な流れは、以下となります。効力発生日までのスケジュールや手続きなど、基本的なポイントを押さえておくと良いでしょう。
- 吸収分割契約の締結
- 事前開示書類の備置
- 一定範囲内における労働者および労働組合に対する通知
- 債権者への通知・公告
- 反対株主の買取請求手続き
- 株主総会の招集
- 株主総会の特別決議
- 吸収分割の登記申請
- 事後開示書類の備置
吸収分割で必要な通知手続き
吸収分割を行う際、以下のケースに該当する労働者には吸収分割に関する通知が必要です。
- 承継事業にメインとして従事している労働者
- 上記に当てはまらない労働者であって、吸収分割の契約内で、労働契約を承継する内容が決定している労働者
- 転籍に合意を示した労働者、あるいは承継会社に出向する予定のある労働者
期日内に、通知事項を書面で送付する必要がありますので、注意しましょう。
会社分割のメリット
一部の事業のみを切り離すことが可能な点は事業譲渡と似ています。しかし、いくつかの点では事業譲渡とは異なり、メリット・デメリットが逆転します。
- 分割会社に債務を移転させる場合には、債権者の同意は不要
- 分割は株式の交付を通じて行われるため、資金負担は発生しない
- 取引先あるいは従業員の契約先などとの契約を結びなおす必要がない(ただし要件はあり)
会社分割のデメリット
会社分割のデメリットは以下のとおりです。
- 会社分割は原則として株主総会の特別決議が必要となり、上場会社の場合は手間と費用がかかる
- 分割した会社の帳簿外にある債務(簿外債務、偶発債務など)も承継しなければならない
- 事業にかかる許認可は引き継ぐ会社がそのまま承継できるものとできないものがある
以上がM&A手法(スキーム)のそれぞれ特徴やメリット・デメリットです。M&Aを成功させるためには、目的に合った手法を選択する必要があります。
6. M&Aの種類(広義)
広義のM&Aに該当しますが、経営権を移転しない経営協力の手法(スキーム)として、以下の種類があげられるでしょう。
- 株式持ち合い
- 合弁会社設立
- OEM提携
- 業務提携
- 資本提携
どのような内容なのかを、順番に確認しましょう。
①株式持ち合い
株式の持ち合いとは、複数の会社が互いに相手の発行済み株式を取得する手法(スキーム)です。株式の持ち合いで所有している株式は、相互保有株式と呼ばれます。
この株式の持ち合いには、特別な契約は必要とせず、通常の株式と同様に自由に売買が可能です。つまり、会社同士が任意でお互いの株式を購入すれば成立します。
株式持ち合いのメリット
通常、株式持ち合いは、もともとつながりがある場合や友好関係にある企業同士で行われる手法(スキーム)です。以下のメリットが考えられます。
- 信頼できる会社に株式を所有してもらうことで、企業の安定につなげられる
- 複数の会社間での株式持ち合いによって、集団化して結束力と取引の強化が見込める
- 株式の持ち合いを実行していれば勝手に株式を取得される心配がなく、敵対的買収に対しての備えとなる
②合弁会社設立
合弁会社は、複数の企業が共同出資して経営する会社のことです。この手法(スキーム)は「ジョイントベンチャー」と表記される種類でもあります。
合弁会社設立には、以下の種類があげられるでしょう。
- 全く新しい会社を複数会社の出資によって立ち上げる
- 既存の会社に共同出資して、既存の株主や経営陣とともに企業を経営していく
合弁会社は基本的に外国資本と手を組んで運営されます。日本では、外国資本が全額出資して業界に進出するのを基本的には認めていません。外国資本が日本の市場に参入したい場合には、日本の会社との協力体制のもと、合弁会社を立ち上げることが多いです。
③OEM提携
OEM提携とは「Original Equipment Manufacturer」の略語で、ブランドの委託製造のことです。受託側はブランド力のある会社から委託を受けて製品を作り、それを委託側のブランド名で販売します。
委託側は、設備投資などをせずに自社のブランド製品を扱えます。受託側は、ブランド力を利用して、技術を世の中に広めるチャンスを得られるでしょう。双方にメリットがある手法(スキーム)といえます。
④業務提携
業務提携は、企業が共同で事業を行うことで、資金や技術、人材などの経営資源を提供し合いながら、互いに相乗効果を得ることによって、事業競争力の強化を目指す手法(スキーム)です。資本の移動は伴いません。
業務提携には主に、以下の種類があげられます。
【技術提携】
- ライセンス契約、共同開発契約などを結び技術を利用する
【生産提携】
- 製造委託契約などを結び製品を生産する
【販売提携】
- 販売店契約、代理店契約、OEM契約などを結び商品を販売する
【その他】
- 仕入提携、調達提携など
⑤資本提携
資本提携は、企業が経営権を取得しない範囲内で他の企業へ出資し、協力関係を築くM&Aスキームをいいます。資本提携は、一般的に一方だけが株式を持つ場合が多いです。なかには、双方で持ち合うケースも見られます。
したがって、長期的・戦略的な提携を行う場合に、資本提携を活用するケースが多いでしょう。資本提携の特徴としては、以下です。
- 経営権の取得ではなく、互いの協力により目標の達成、業務上の支援を目指す
- 株式の取得や出資を伴う方法
- 買収や合併とは違って、企業間の結びつきは弱い
資本提携の流れ
資本提携は、一般的に資本提携の契約書を締結する方法で行います。資本提携の契約書は、以下の内容です。
資本提携を契約書にしっかりと定義しておくと、目的や業務範囲が明確になります。提携後に条項の解釈に疑義が起こった場合、解釈の指針として活用が可能です。
- 資本提携契約の目的
- 双方企業の名称、代表者の氏名
- 出資に関する事項
- 資金の使い道
- 業務上における提携事項
- 収益の分配や費用負担
- 提携期間
- 秘密保持の義務
7. M&Aの種類を選ぶポイント
一般的に、M&Aを行う際は、対象となる会社の事業に与える影響や、関係する各当事者の税の負担などを考えながら、最適な方法を選びます。また、「この後何をしたいか」という目標によっても、選択する方法は変わってきます。
統計によると、「株式譲渡」が選ばれることが多いです。税金に関しては、個人の株主であれば、株価がいくら高くても約20%の税率で済むことが多いです。これは、給料や配当にかかる最大約50%の税率と比較すると、はるかに負担が少ないことが分かります。
場合によっては、会社を丸ごと売却するのが難しいことがあります。例えば、事業の一部分だけを売りたい場合や、対象となる会社が重大なリスクを抱えており、その会社全体を買い取ることにリスクが伴う場合です。
このような状況では、事業の部分譲渡や会社分割など、異なる方法を考えることになります。ただし、これから紹介するように、対価の支払い方法や税金の負担が株式譲渡とは異なるため、実施する前に詳細なシミュレーションを行うことが大切です。
8. M&Aの種類別の成功事例
ここでは、実際に活用された事例を紹介します。事例によって、それぞれのM&Aスキームに対する理解を深められるでしょう。ご自身の検討しているM&Aスキームがあれば、参考にするといいかもしれません。
①株式譲渡の成功事例
株式譲渡の成功事例は、マネックスグループによるコインチェックの買収です。2018年4月、大手証券会社のマネックスは、コインチェックを株式譲渡により完全子会社化しました。
対象会社であるコインチェックは、仮想通貨交換業を運営しています。マネックスは、仮想通貨交換業への新規参入を図るため買収を行いました。
このM&Aにより、マネックスグループは仮想通貨事業への新規参入を果たせました。コインチェックも2021年3月期第2四半期で、グループ入り後、四半期最高収益を記録するなどの結果を出しています。
②株式交換の成功事例
2020年6月、フォーバルを株式交換完全親会社とし、カエルネットワークスを完全子会社化する株式交換を行いました。このM&Aは、連結子会社を完全子会社にするための簡易株式交換です。
対象会社であるカエルネットワークスは、コンピューターネットワークシステムの販売、構築、監視、管理のほか、金融機関や官公庁系ネットワークなど豊富な実績があります。
このM&Aにより、フォーバルはクライアント先の中小・中堅企業のネットワークに関する企画・設計・構築などの能力強化を図り、ネットワーク技術者の派遣業務に関するグループシナジー効果が得られるとしました。
③株式移転の成功事例
bitFlyerは2018年10月、新設したbitFlyer Holdingsを完全親会社とし、株式移転を実施しました。この株式移転の目的は、持ち株会社の設立です。
持ち株会社体制への移行は、仮想通貨・ブロックチェーン関連事業の監督機能と業務執行機能を分離・集中させました。そして、コーポレート・ガバナンスの強化と経営効率の強化・向上を狙いとし、移行を図りました。
④第三者割当増資の成功事例
ナイスは2021年7月、ヤマダホールディングスとの間における資本業務提携契約を締結し、ナイスはヤマダホールディングスに対し、第三者割当による新株式の発行を行いました。
ナイスは第三者割当により、ヤマダホールディングスに対し、普通株式2,100,000株を割り当てました。ヤマダホールディングスは、グループ経営戦略の企画・立案およびグループ会社の経営管理・監督などを行っていました。
ナイスグループは、建築資材事業、住宅事業、木造建設事業、海外事業などを行います。このM&Aにより、ナイスとヤマダホールディングスは、住宅一棟分の資材の一括受注および総合物流機能のシナジー効果を発揮しました。
相互の競争力および取引の強化・拡充と、企業価値の向上を目指します。
⑤事業譲渡の成功事例
コロプラは2021年6月、位置情報分析コンサルティングサービス「おでかけ研究所」事業をブログウォッチャーに事業譲渡しました。コロプラは、ゲーム事業、VR事業、投資事業、ゲームキャラクターIP(知的財産権)などを活用した幅広い事業を展開している会社です。
ブログウォッチャーは、ユーザープロファイルを活用したライフログ活用事業、行動分析およびWebサイト構築によるソリューション提供事業を行っています。これまでも両社は、「おでかけ研究所」事業で協力関係にありました。
このM&Aは、同事業の持続的な成長と事業価値の向上を目指せると判断され、事業譲渡に至ったということです。
⑥吸収分割の成功事例
通信大手のソフトバンクは2020年10月、U-NEXTに対して、アニメ専門のコンテンツ配信サービス「アニメ放題」を会社分割により承継させることを吸収分割契約書により締結しました。
ソフトバンクが吸収分割会社とし、U-NEXTを吸収分割承継会社とする吸収分割です。ソフトバンクは、経営効率化の一環としてアニメ放題の承継を、U-NEXTに交付するかたちで行いました。
このM&Aにより、ソフトバンクは経営の効率化が実現できたとしています。U-NEXTはノウハウを生かせる事業を買収した結果、さらなる業績の拡大が期待できるでしょう。
⑦新設分割の成功事例
小田急電鉄は2020年4月、小田急SCディベロップメントを新設し、会社分割を行いました。事業運営のスピードをより速め、競争力を高めるために、小田急電鉄のSC事業を承継した新設分割が行われたのです。
このM&Aは、不動産賃貸業の事業推進体制の強化を目的とし、小田急電鉄から小田急SCディベロップメントに対して商業施設運営事業に関する権利義務を承継する簡易分割として実施されました。
⑧吸収合併の成功事例
日本創発グループは、2017年8月、日経印刷の完全親会社であるグラフィックグループの株式の一部を取得しました。このM&Aは、日本創発グループを存続会社、グラフィックグループを消滅会社とする吸収合併です。
この合併により、日経印刷は、日本創発グループの完全子会社となりました。日本創発グループは、殊素材・立体物への印刷だけでなく、ノベルティ・フィギュア・3Dプリンター造形やソリューションの提供を行う会社です。
そして日経印刷は、企画・デザインに優れたノウハウだけでなく、高度な情報管理を実現しています。教育関連事業や金融事業向け、各省庁から発行される白書など、圧倒的な受託実績を有しているでしょう。
このM&Aは、両社が保有する製造設備や技術などの経営資源を融合させ、印刷物製造の効率向上や、品質向上、ワンストップサービスなど、グループの企業価値の向上を図ります。
⑨新設合併の成功事例
富士フイルムビジネスイノベーション(旧:富士ゼロックス)は2010年4月、分散している開発・生産機能を再編・統合する目的で、新設合併を行いました。富士ゼロックスアドバンストテクノロジーと富士ゼロックスマニュファクチュアリングが新設され、組織再編が実施されたのです。
まず、開発系機能の統合を目的として富士ゼロックスアドバンストテクノロジーが設立され、そこに富士ゼロックスエンジニアリングが吸収されました。
そして生産系機能の統合を目的として、富士ゼロックスマニュファクチュアリングが設立され、そこへ富士ゼロックス竹松工場、富士ゼロックスイメージングマテリアルズ、鈴鹿富士ゼロックス、新潟富士ゼロックス製造の1工場、3会社が吸収されました。
その後2019年4月、富士ゼロックスアドバンストテクノロジーは、富士フイルムビジネスイノベーション(旧:富士ゼロックス)に吸収合併されています。
⑩業務提携・資本提携の成功事例
ECサイト大手の楽天と飲食店の情報サイト運営を行うぐるなびは、2018年7月より、以下の目的として資本業務提携を行いました。主な目的は、両社の業務提携の強化です。
ネット予約市場の拡大に向けてさらなる協業強化が約束されたうえに、楽天の知見を生かした「ぐるなび」サイトの利便性向上やデータの相互活用などが決定しました。
次に、資本提携の強化です。役員の派遣および経営体制の変更が行われています。楽天からぐるなびに対して役員の派遣が行われると同時に、執行役員への権限移譲が実施されました。
一連の流れは、2018年7月に資本業務提携契約を締結し、2019年5月に資本業務提携の強化に関する契約を締結し、楽天がぐるなびの株式を追加取得しました。2021年8月には、資本業務提携契約を改定する覚書を締結しました。
この一連の提携によって、楽天は会員へのサービス提供価値を高め、「楽天エコシステム」の拡大を目指します。ぐるなびは飲食店への支援の拡大・強化を図ります。そのうえで両社が得られるシナジー効果はさらに高まるでしょう。
9. M&Aにおける契約の種類
M&Aは企業が設備や物資などを購入、自社製品を販売するときと同様に、企業や事業を売買するものです。したがって、取引にあたっては契約を締結します。
M&Aにおける契約は、主に以下の2種類です。
- 基本合意契約
- 最終契約
なお、M&A仲介会社などにM&Aの仲介を依頼する場合、これとは別に「仲介契約」や「秘密保持契約」も締結する必要があります。
①基本合意契約
M&Aでは当事者同士が交渉を行い、双方が合意した基本的な内容を決めていきます。基本的な内容が固まったら、その内容を基本合意契約書に記載して締結する流れです。
基本合意契約には、以下のことを記載します。
- M&Aの当事者となる会社名
- M&A手法(スキーム)
- 取引の価格
- スケジュール
- 独占交渉権
- デューデリジェンスに関する内容
- 法的な拘束範囲
- 有効期限
これら以外にも、必要に応じた内容が記載される場合もあります。
②最終契約
文字どおり、M&Aの最終段階で契約するのが最終契約です。用いるM&A手法(スキーム)によって、内容は多少異なります。主に記載されるのは以下のとおりです。
- 売買条件
- 手続き条項
- 前提となる条件
- 遵守条項
- 表明保証
- 解除条項
- 補償条項
- 一般条項
最終契約には法的拘束力があるため、慎重に内容を精査する必要があります。M&A仲介会社などに仲介を依頼していれば、内容の確認なども行ってくれます。仲介を依頼していない場合は、個別に司法書士などの専門家に書類を確認してもらいましょう。
10. M&Aの支援タイプの種類
M&Aの支援タイプには、大きく分けて「M&A仲介」と「M&Aアドバイザリー」の2種類があります。それぞれの特徴を順番に解説します。
M&A仲介
「M&A仲介」とは、売り手と買い手の企業の間で、M&A(合併や買収)がスムーズに進むよう、中立的な立場からアドバイスを提供する役割を指します。アドバイザーは、法的な手続き、税金の処理、最適なパートナー企業の選定など、M&Aを成功させるために必要な幅広い知識と経験を持っています。
一度、売り手と買い手が見つかった後も、両者の利害をうまく調整しながら、契約成立に至るまでの複雑な過程を支援します。そのため、M&Aを考えている企業にとって、アドバイザーのサポートはとても重要です。
M&Aアドバイザリー
M&Aアドバイザリーとは、自社を売りたい経営者や他社を買収したい企業からの相談を受け、それぞれの経営戦略や事業継承の計画、そしてM&Aを進めるためのチーム編成に沿って、M&Aの計画立案から実行までを支援する役割のことです。
11. M&Aマッチングサイトの種類を比較
M&Aのマッチングサイトには、大きく以下5つのタイプがあります。
タイプ | 概要 |
一般的なM&Aマッチングプラットフォーム | 売り手と買い手を繋げるだけのサイトです。具体的な交渉や手続きのサポートは行いません。そのため、利用料が安いのが特徴的です。 |
アドバイザー紹介型のM&Aマッチングプラットフォーム | 売り手や買い手と専門家をマッチングし、その専門家を通じて企業間の交渉が行われます。簡単に言えば、専門家と交渉相手を同時に探すサービスです。 |
特定の仲介会社が提供するマッチングサイト | ある仲介会社が提供するサービスの一部として存在するサイトです。このサイトを利用してマッチングした相手と具体的に交渉をするには、その仲介会社と契約する必要があります。 |
クロスボーダーM&A向けマッチングプラットフォーム | 国際的な合併や買収を目指す企業向けのサイトです。異なる国の企業同士のマッチングをサポートするため、世界中のネットワークにアクセスできるサイトもあります。 |
対象・業種特化型M&Aマッチングサイト | 特定の業種、例えば飲食業に特化しているマッチングサイトです。その業種に特有のニーズや知識を持った専門家や仲介会社とのマッチングが可能です。 |
自社の状況に合ったマッチングサイトを使うことで、企業の合併や買収の際のパートナー探しや手続きがスムーズに行えます。
12. M&Aの種類まとめ
M&A(狭義)の種類を説明してきました。それぞれにメリット・デメリットがありますので、一面だけを見ずにM&Aの目的を果たすための手法を選びましょう。それが、M&Aの成功につながります。
自社内で協議をして手法を選ぶのではなく、専門家のアドバイスを聞くこともおすすめです。さまざまなケースを見てきた専門家の意見を聞くことで、思わぬメリットを享受できるかもしれません。
専門家に相談しながらM&Aの手法を選び、M&Aを成功させましょう。
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
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