2024年06月21日更新
企業買収とは?M&Aとの違い・手法の種類・メリット・仕組み・失敗事例を徹底解説
企業買収とは他の企業を買い取ることで、M&Aを意味します。企業買収の手法には株式譲渡・事業譲渡・会社分割などがあります。今回は、企業買収の方法に関して、メリット・デメリットを解説しました。企業買収の各方法を用いた企業買収事例も紹介します。
目次
1. 企業買収とは
企業買収とは、他の企業を買い取ることで、その方法にはいくつかの種類があります。近年、M&Aの成約件数は増加しており、企業買収を行う会社の数も増加傾向です。
買収とは、他の企業から経営権や一部の事業を買い取ることです。企業の経営権を買い取るときは「企業買収」、一部の事業を買い取るときは「事業買収」という呼び方をします。
この記事で取り上げる企業買収には、大きく分けて「友好的買収」と「敵対的買収」があります。企業買収では、短時間で判断をすべき事項があるため、経営者自身がその方法やメリットなどをあらかじめ把握することが重要です。
2. 企業買収の種類
企業買収には、友好的買収と敵対的買収の2種類があります。
友好的買収
友好的買収とは、買収される側の同意を得て行われる企業買収のことです。日本における企業買収のほとんどはこれに当てはまります。
友好的買収は両社の利害が一致しているため、買収後の従業員の雇用が維持され事業が継続されるなど、買収される側の意見が尊重される形で行われるのが特徴です。友好的買収を行う代表的なスキームには、第三者割当増資があります。
敵対的買収
敵対的買収とは、買収される側の同意を得ずに行われる企業買収のことです。敵対的買収は、買収される企業のステークホルダー(従業員や株主など)に対して悪い印象を与えることになるため、一般的に敵対的買収の成功率は極めて低いといえるでしょう。
敵対的買収の代表的なスキームには、株式市場で取引されている株を買い集めるTOB(株式公開買い付け)があります。TOBを行う際、買収する側が買収される側へ経営統合の提案を行うのが通常です。
これに対し、買収される側がTOBに反対する場合には、各種の買収防衛策を用いて対抗します。
買収提案の代表例
敵対的買収のためのTOBを行う際の買収提案の内容には、「経営統合の意義」「経営統合の効果」などが含まれます。過去の敵対的買収における買収提案の代表例は、以下のとおりです。
- 王子製紙による、北越製紙に対する経営統合提案(2006年)
- AOKIホールディングスによる、フタタに対する経営統合提案(2006年)
- 日本電産による、東洋電機製造への資本・業務提携の提案(2008年)
- 沢井製薬による、キョーリン製薬ホールディングスに対する経営統合提案(2010年)
3. 敵対的買収をされそうになったときの買収防衛策
企業が成長するにつれ、その価値や市場でのポジションが注目を浴びるようになります。その結果、予期せぬ敵対的買収のリスクも増大します。敵対的買収とは、企業がその経営陣や取締役会の同意を得ずに他の企業に買収されることを指します。このような状況を防ぐために、企業は事前にさまざまな買収防衛策を講じることが重要です。
事前の買収防衛策一覧
以下に、事前の買収防衛策の代表例を一覧で紹介します。
ポイズンピル(毒薬条項) | 敵対的買収を試みる企業にとって買収を非常に高コストにすることで、買収を抑制する方法。 |
ゴールデン・パラシュート | 敵対的買収が行われた際に、経営陣が退任を余儀なくされる場合、多額の退職金などが発生する契約を結んでおく対策。 |
プット・オプション | 既存の株主が保有する株式や金融機関が保有する債権を、市場価格以上で買い取る契約を結んでおく対策。 |
黄金株 | 一株だけで株主総会の決議を拒否できる特別な株式(黄金株)を発行し、信頼できる株主に保有させる対策。 |
チェンジオブコントロール | 会社の支配権が移動した場合、取引先との契約を解除できる条件をあらかじめ契約に含めておく対策。 |
事後の買収防衛策一覧
以下に、事後の買収防衛策の代表例を一覧で紹介します。
ホワイトナイト | 敵対的買収者に対抗するために、友好的な企業に買収や合併を依頼する対策。 |
焦土作戦 | 自社の資産や事業を関連会社などに売却して企業価値を下げ、買収の魅力を減らす対策。 |
パックマン・ディフェンス | 敵対的買収を仕掛けられた側が、逆に相手企業を買収しようとする対策。 |
マネジメント・バイアウト | 経営陣が自社の株式を買い集めて、最終的には上場廃止にすることで敵対的買収者に対抗する対策。 |
第三者割当増資 | 特定の第三者に新株を発行し、敵対的買収者の持株比率を低下させる対策。 |
増配 | 株主への配当金を増やして企業価値を低下させ、敵対的買収者の意欲を削ぐ対策。 |
4. 企業買収と合併の違い
企業買収と企業合併はどちらも会社を統合する点では同様です。買収される会社が消滅するか存続するかの点が異なります。
買収される会社が消滅する会社の統合を企業合併と呼び、一方で買収される会社が子会社などの形で存続する会社の統合を企業買収と呼びます。
5. 企業買収とM&Aの違い
M&Aは英語で「Mergers(合併)」「Acquisitions(買収)」となり、日本語にすると「合併と買収」となります。つまり、買収は、M&Aの手法の一つです。
M&Aとは、狭義の意味では吸収合併・新設合併などの「合併」と、事業譲渡、株式譲渡、第三者割当増資、株式交換、株式移転などの「買収」をさします。広義の意味では、企業戦略である業務提携や資本業務提携も含む概念です。
6. 企業買収のメリット
本章では、企業買収の代表的なメリットを順番に解説します。
既存事業の拡大を目指せる
例えば、自社と同じ業界の会社や事業を買収することで、新たな資産や優れた人材、専門知識、販売ネットワークを手に入れることが可能です。事業に必要なリソースが増えることで、買収前よりも事業を拡大できるだけでなく、利益率や生産性の向上なども期待できます。
特に、同じ業界の企業を買収した場合、生産規模が拡大しやすくなります。同業種の企業を買収することで、規模の経済性が働き、製品やサービスの単位当たりのコストを大幅に削減することが可能です。これを「生産シナジー効果」と呼びます。
最近では、後継者がいる場合や業績が良好な場合でも、さらなる発展を目指して大手企業のグループに加わり、事業拡大を図るケースも増えています。
新規事業への参入を目指せる
自社がまだ参入していない分野の企業を買収すれば、新規事業への参入ができるでしょう。自社でゼロから開拓する場合、ノウハウや技術、販路などを保有していない状態でのスタートとなります。その場合、新規事業が失敗する可能性も高くなりやすいです。
事業用資産の取得や商品開発などもゼロから行う必要があり、膨大な時間やコストがかかります。そのうえ、失敗したときの損失は、大きくなるでしょう。一方、企業を買収すれば、そのまま新しい事業分野に参入できるため、リスクも大幅に軽減できます。
シナジー効果を期待できる
M&Aにおけるシナジー効果とは、複数の企業が一緒になることで、それぞれが単独で活動するよりも大きな成果を得られることを指します。例えば、買い手と売り手の企業が統合することで、合計の売上が増える「売上シナジー」が典型的な例です。
さらに、買収によってコスト削減や技術の強化、財務基盤の強化など、さまざまなシナジー効果が期待できます。
リスクの分散を行える
リスクを分散するために、M&Aを活用するケースも少なくありません。その背景には、本業と関係のない事業を立ち上げるなど、事業の多角化によってリスク分散ができる方法であることが挙げられます。
多角化は経営戦略の一つです。社会情勢や業界動向の影響によって一つの事業で収益性が下がっても、他の事業で利益を獲得できるため、業績悪化を防ぐ効果が期待できます。
リスク分散を目的とする場合は、自社の事業と関連性の低い事業を買収する方法でリスクヘッジを行う必要があります。ただし、事業範囲を広げすぎると失敗するおそれもあるので留意しましょう。
業界のシェアを握れる
業界内でリーダー企業が数社あり、差別化しにくい商品を販売している場合、価格競争が起こりやすくなり、期待したほどの収益が得られていないかもしれません。
しかし、企業買収を行い、リーダー企業になると価格競争を回避できるような戦略が取りやすくなるため、収益性を改善できます。なお、企業買収によりシェア占有率が高すぎると、独占禁止法に抵触するおそれがあるので注意が必要です。
経営の効率化と改善を行える
これは売却企業が売却を行うメリットの一つです。採算の合わない事業や、シナジー効果のない事業などを売却して経営を効率化し、経営状態を改善します。
事業承継を行える
事業承継は売却企業のメリットの一つに挙げられていて、近年、中小企業を中心に後継者問題を抱えている経営者が増加しています。そのような背景により、事業承継を目的に企業買収を行う企業も増加傾向にあります。
経営資源を獲得できる
他社から経営権や事業を買収すれば、事務所や設備といった有形資産だけでなく、人材・ノウハウ・技術・許認可などの知的財産も含めて経営資源を獲得できるでしょう。
経営資源の獲得は、既存事業の拡大や新規事業の立ち上げ、新商品の開発などを進めるうえで必要不可欠です。通常であれば一から自力で作り上げるものですが、買収によって一挙に得られるため、時間や労力を購入していることになります。
組織再編を行う
組織再編とは、会社組織の形態の変更を行うものです。グループ企業間で事業を統合したり、一部の事業を他社へ承継したりする方法で、コスト削減や事業規模拡大を目指します。
組織再編の方法として、「合併」「株式交換」「株式移転」「会社分割」といった手法が挙げられます。
目標達成に向けたスピードを改善できる
上記でも挙げた既存事業の拡大や新規事業の立ち上げ、コストの削減といった目標は、通常であれば多大な時間を要します。
昨今の激しいグローバル競争の中、日本企業がスピード感を持って目標達成を目指すには、企業を買収するのが有効な手段として認識されています。
コストの削減を狙える
企業を買収すると、さまざまな面でコストの削減が期待できます。例えば、事業規模の拡大により大量仕入が可能となり、原材料・部品・商品など、購買の一元化・共同化による仕入コスト削減のメリットが生まれる可能性が高いです。
そのほかにも、技術・ノウハウ・資源の共有による業務効率化、販売拠点の統合や組織の合理化によるコスト削減が見込めます。
また、節税を目的とする場合に、赤字の企業を買収の対象にするケースが多いです。赤字企業は、過去から蓄積された繰越欠損金が積み上がっている可能性が高いでしょう。
繰越欠損金は利益と通算できるため、相殺する方法を活用すると、法人税などの節税につながります。しかし、法人税法により一定の要件に該当する場合には、繰越欠損金の一部が使用できないよう制限されているので注意が必要です。
人材の獲得を狙える
日本では、働く年齢の人口が減少していて、これは子どもの数が減っていることの影響よりも深刻です。なので、大きな会社だけでなく、小さな会社も、良いスタッフを見つけることが大きな問題です。
特に、技術が高い人を雇うのは難しいです。小さな会社がそういう人を雇えないと、大きな会社との間での利益の差が広がってしまいます。
しかし、他の会社を買収することで、その会社のスタッフを自分たちのチームに加えることが可能です。この方法で、技術や経験が豊富なスタッフを迎え入れると、自分たちの会社ももっと良くなる可能性が高まります。
7. 企業買収のデメリット
企業買収はメリットだけではなく、デメリットも存在します。ここでは企業買収を実施した場合の主なデメリットをいくつか紹介します。
簿外債務・偶発債務の承継リスクがある
企業買収の場合、経営リスクとなる簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性があります。簿外債務は、貸借対照表に記載されていない債務であり、未払い賃金・賞与引当金・退職金・債務保証・買掛金などが該当します。
偶発債務とは、まだ債務ではないものの、今後債務となるおそれがある要素となるもののことです。訴訟により損害賠償が発生するリスクなどが該当します。
簿外債務や偶発債務があると、買収後に負債や損失を抱えるおそれがあるため、クリティカルな経営リスクがないかデューデリジェンスを入念に行うことが大切です。
経営統合(PMI)にかかる負担が大きい
経営統合(PMI)にかかる負担が大きいことも、会社買収のデメリットになります。経営統合とは、買収後に売り手と買い手の経営を統合する作業をいいます。
買収後はM&Aスキームに応じた各種の経営統合作業が欠かせないため、PMIを順調に行わないと目標とした業績向上が達成できません。PMIは、組織統合・システム統合・財務・人事制度・労働条件などPMIの計画策定を行い、慎重に実施する必要があります。
担当部門と担当者にかかる負担が非常に大きいため、PMIはクロージング前からできる範囲で進めておくことが大切です。
優秀な人材が流出する可能性がある
企業買収には、売り手に在籍している優秀な人材の存在は欠かせないでしょう。しかし、買収後に優秀な人材が流出してしまうケースもあります。
PMIによって、ある程度は人材流出のリスクを防ぐことが可能です。したがって、企業買収を実施する際は、優秀な人材が流出する事態も想定したうえでPMIを策定し、買収金額を決定していく必要があります。
のれんの減損リスクがある
のれんとは、買収価格のうち目に見えない無形資産に着目したもので、有形資産の時価に上乗せされた金額です。M&Aでは、将来発生する収益力やシナジーなどを見込み、「のれん」として買収価格に上乗せします。
連結財務諸表を作成している場合はのれんとして資産計上され、作成していない場合は取得価額に含まれた状態で計上されます。しかし、買収時に想定した収益が上げられず業績が悪化した場合は、のれんの減損処理をしなければなりません。
のれんの減損額は、決算上で損失額として計上するため、経営に大きなダメージを与えてしまいます。
8. 企業買収にかかる費用
ここでは、企業買収にかかる費用について、企業買収の相場価格と具体的な金額の算出方法を解説します。それぞれの内容を把握し、自社の企業買収にお役立てください。
企業買収の相場価格
企業買収にかかる費用は、事例ごとに異なりますが、主要な費用要素は以下のとおりです。これらの要素を総合して、企業買収にかかる費用が決まります。
- 買収価格:買収対象企業の株式を取得するための価格。買収価格は、企業の業績、市場価値、成長性などを考慮して決定される。
- 仲介手数料:企業買収をサポートする投資銀行やM&Aアドバイザーに支払う手数料。一般的に、取引額に応じたパーセンテージで計算される。
- 法務費用:企業買収に関する契約書作成や法的アドバイスを行う弁護士に支払う費用。取引規模や複雑性に応じて異なる。
- 会計・税務費用:買収対象企業の財務状況を調査するデューデリジェンスや税務調査を行う会計士や税理士に支払う費用。
- 融資費用:企業買収に関連する融資や投資を受ける際に、銀行や金融機関に支払う費用。利息や手数料などが含まれる。
企業買収にかかる費用は、買収規模や業種、買収の複雑さなどによって大幅に変動するため、具体的な金額を一概に示すことは難しいです。企業買収を検討する際は、上記の費用要素を総合的に評価し、適切な買収戦略を立案することが重要です。
買収費用の算出方法
企業買収に関わる一つの重要な工程は、対象となる企業の価値を算出することです。企業価値を見積もることで、適正な買収価格を設定し、双方が納得のいく取引を進めることが可能となります。以下に主な企業価値の算出手法を紹介します。
時価純資産法 | 企業価値を算出する基本的な方法で、企業が保有する資産の市場価値から負債を引いたものがその企業価値となる。 企業の資産には、現金、売掛金、在庫、土地や建物などの有形資産、特許や商標などの無形資産が含まれる。 企業の健全性や事業の継続可能性を直接的に反映する評価法。 |
類似会社比較法 | 同じ業界で同規模の他社と比較し、株価や業績などの指標を元に企業価値を推定する。 例えば、売上高や純利益などの財務指標に対する株価(PERやPBRなど)を比較し、それに基づいて評価する。 市場の評価を直接反映するため、適用が可能な場合には有効な評価法。 |
DCF法 | 企業が将来生み出すであろうキャッシュフローを現在価値に換算する方法。 キャッシュフローの予測と、それを現在価値に戻す際の割引率設定が重要。 割引率はリスクを反映したもので、高リスクな企業ほど高い割引率を設定する。 企業の成長性や事業の将来性を評価するための手法として用いられる。 |
9. 企業買収の方法・流れ
企業買収の方法と流れは、一般的には以下のプロセスに沿って行われます。
- M&Aの目的・戦略策定
- M&A仲介会社への依頼
- マッチング・相手企業探し
- トップ面談・交渉
- 基本合意契約の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- バリュエーション(企業価値評価)の実施
- 詳細な交渉・最終契約の締結
- クロージング
①M&Aの目的・戦略策定
M&Aは、他社との経営統合でシナジー効果を生み出し、1+1を2以上にしなければ意味がありません。M&Aのよくある失敗として、10億円で買収された会社が10億円の価値のまま成長しない事例が挙げられます。
そうではなく、買収した会社と買収された会社の企業価値がともに上昇してはじめてシナジー効果が得られ、M&Aが成功したといえるのです。シナジー効果を生むためには、M&Aを中期経営計画や企業目標を実現する手段の一つとして捉えることが重要といえます。
手段として捉えることにより、M&Aによって得られる経営資源をどのように使うかが明確になり、M&Aの成功の確率を高められるはずです。M&Aの目的を明確に持ち、M&Aを成功へ導くための戦略策定は計画的に行いましょう。
②M&A仲介会社への依頼
M&Aを行うためには、世にある膨大な数の企業の中から「買収したい」「買収されたい」意向を持つ企業を探し出し、自社にとってよい選択かを検討しなければなりません。M&A仲介会社やM&Aアドバイザーと呼ばれる業者は、企業を探し出すことが仕事です。
M&A仲介会社は、M&Aアドバイザーよりも低コストで、中小企業に特化したM&Aサービスを展開しています。会社により、得意とする業種や業務分野を有したり、着手金の有無や成功報酬の割合などが異なったりすることが一般的です。
通常、買収会社が決定した後にもM&Aに関する事務作業を任せるため、この段階でM&A仲介会社への依頼を行うとよいでしょう。
③マッチング・相手企業探し
M&A仲介会社と契約すると、通常、候補企業が記載された数十社のリストが提示されます。このリストは、仲介会社がM&Aに適すると考えられる企業をリストアップしたロングリストです。
M&Aを検討する企業がロングリストを精査し、5社から8社程度まで候補を絞り込んだショートリストを作成します。ショートリストから買収可能性やシナジー効果を考慮して優先順位を付け、M&A仲介会社を通じて交渉を進めることが一般的な流れです。
この段階では、企業名を開示せず、ノンネームで企業情報を開示します。内容に興味を持った場合に行うのが、会社同士の秘密保持契約(NDA)の締結です。より具体的な企業概要書(インフォメーション・メモランダム)の確認を行います。
④トップ面談・交渉
M&A取引の相手が数社に絞られた場合、M&A仲介会社を通してではなく、会社同士の直接のやり取りが開始されます。この直接のやり取りは、トップ同士の面談・交渉からはじめることが多いでしょう。
その主な理由は、トップ同士の交渉を通じたM&A取引の相手の最終決定、相手の会社との信頼関係構築の2点が挙げられます。買収価格は、この時点までに売り手と買い手が双方で算定を行い、水面下で合意していることが多いです。
その他の条件は未定であるため、今後の交渉により決まります。
⑤基本合意契約の締結
買収価格をはじめ、M&A取引の基本的な事項が合意されると、基本合意書(MOU)が締結されます。MOUでは、買収価格・買収スキーム・独占交渉権・デューデリジェンスのスケジュールなどが規定されます。
基本合意書には、独占交渉権を除いて、法的拘束力を持たせないのが一般的です。独占交渉権は、売り手企業が他の企業との交渉を制限する規定です。意向表明書を締結し、買い手企業は安心して次のプロセスへ進められるでしょう。
⑥デューデリジェンス(買収監査)の実施
MOUの締結後は、買い手企業が売り手企業の経営情報を精査するデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスの対象となる分野は、法務・財務・税務・ビジネス・労務などです。買い手企業は、特にチェックしたいと考える分野に対してデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスは、その分野の専門的な知識が必要です。買い手企業やM&A仲介会社では対応できないことが多いため、弁護士や会計士などの外部専門家に委託されることが一般的です。
⑦バリュエーション(企業価値評価)の実施
取引条件の最終決定のためには、取引価格を決定する必要があります。しかし、売り手企業と買い手企業の交渉が難航した場合には、何らかの客観的な尺度による評価が有用な場合があります。
具体的には、ファイナンス理論に基づいたバリュエーション手法である「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」です。「コストアプローチ」は、会社の純資産に着目する方法で、時価純資産法が代表的な手法です。
「マーケットアプローチ」は、類似上場会社の株価と業績の倍数に着目し、代表的な方法に類似会社比較法があります。「インカムアプローチ」は、将来の期待収益の現在価値に着目する方法で、DCF法が代表的な手法です。
バリュエーションは、M&Aのプロセスの中で常に計算されるものです。デューデリジェンスで判明した情報を織り込むことにより、より実態に即したバリュエーションができるでしょう。
⑧詳細な交渉・最終契約の締結
M&Aの最終段階では、基本合意書をベースとしつつ、その後に変化した項目の交渉・合意を行います。特にデューデリジェンスで見つかったリスクを回避するための規定を盛り込む場合が多いです。
取引条件に合意した後、最終契約書の締結を行います。最終契約書で使われるのは、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など、取引スキームに応じた形式です。契約書の効力発生日から互いに契約の権利義務が発生します。
⑨クロージング
最終契約書に従って、株式・資産・負債・金銭の受け渡しを行うのがクロージングです。株式譲渡、事業譲渡などの取引スキームに応じて、クロージングの内容は変わります。
クロージングの完了によりM&A取引は終了します。株主名簿や登記の記載を変更する作業が残っているため、注意してください。
【参考】企業買収手法による方法・流れの違い
ここまで、株式譲渡を想定した企業買収の流れを紹介しました。なお、事業譲渡を行う際も、大まかな流れは上記と大きく変わりません。
一方で、会社分割を行う際は事前の手続きが必要です。ここでは、参考までに事業承継のために新たに会社を作るパターンの流れを解説します。
新設分割を行う際は、書類の準備や株主総会での同意が求められます。新設分割の計画書を作成し、新しく作る会社の名前や分割の目的を設定しましょう。分割の公告や、異議申し立てがあった場合の対応も必要です。
会社の分割準備が完了した後は、元会社と新設会社の登記を行います。その後は、登記書類またはデータを分割元会社および新設会社の本店に一定期間保管する段取りです。
10. 企業買収の手法・種類
この章では、企業買収の主な方法・種類として、株式取得・事業譲渡・会社分割の解説をします。株式取得・事業譲渡・会社分割のスキーム概要・メリット・デメリットを以下にまとめました。
スキームの概要 | メリット | デメリット | |
株式取得 | 対象企業の株式を取得し、経営権を取得する。 | 経営権を取得するまでの手続きが非常に簡便であること。 | 買収先の同意を得ずに行うと買収防衛策をとられてしまうこと。 |
事業譲渡 | 対象とする事業に対して売買を行う。包括承継でない。 | 対象事業に関係のない負債などの不要なものを引き継ぐ必要がないこと。 | 対象事業に関係のある従業員など必要なものも原則的に引き継げないこと。 |
会社分割 | 対象事業を切り離し、新設する、もしくは別会社に吸収する。 | 対象事業に関する部分だけを引き継げること(資産や従業員など)。 | 新設か吸収かで手続きが異なるなど手続きが比較的煩雑であること。 |
①株式取得
株式取得の方法として、株式譲渡・株式移転・株式交換・第三者割当増資・その他の5つの解説をします。
株式譲渡
株式取得の中で最も一般的な方法が株式譲渡です。買収される会社の経営者が自社の全発行済み株式の半分以上を保有している場合、その株式の譲渡によって買収する側は経営権を取得できます。
株式譲渡の最大のメリットは、手続きが簡便であることです。買収される会社の株式の過半数を取得する方法で、会社の経営権を掌握します。
株式移転
株式移転とは、新設する会社に分割する会社の全発行済み株式を取得させ、既存の会社を完全子会社化させる方法です。主に、持ち株会社を設立する際に用いられる手法です。
例えば、買収される会社A社とB社があり、新たにC社を設立するとします。この場合、買収時にC社が自社の新株を発行し、その対価としてA社とB社の全株式をC社が取得する(移転させる)ことで、完全子会社化するのです。
株式交換
株式交換とは、既存の会社(買収する会社)に全発行済み株式を取得させ、買収される会社を完全子会社化する方法です。株式交換では、買収する側が発行する自社の新株と買収される会社の全ての株式交換により、完全子会社化できます。
株式移転との違いは、親会社になる会社が既存の会社か新設会社であるかです。株式移転と株式交換のメリットは、全発行済み株式の譲渡を行うため、売却会社を完全子会社化できることです。
一方、デメリットとしては、全発行済み株式をその会社の経営者が持っていない場合、株式移転や株式交換ができないことが挙げられます。企業買収の交渉後、すぐに株式移転や株式交換ができる企業は、株式を上場または公開していない中小企業に限られます。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、買収される会社が発行する新株を買収先に割り当てて、経営権を取得し買収する方法です。新株を発行する際、買収される会社は誰に新株を割り当てるか決めます。
第三者割当増資による買収の場合、買収される側の同意が必要になるため、友好的買収に当てはまります。株式譲渡や株式移転および株式交換は、売却会社の経営者が発行済み株式の50%以上、もしくは100%保有している場合にしか活用できないスキームです。
第三者割当増資は、新株を発行して対象企業の株式の保有率を高めるため、経営者の自社株式の保有率が低くても企業買収を行えます。デメリットとしては、新株を大量に発行した場合、株価が大きく下落するおそれがある点です。
特殊な株式取得
特殊な株式取得として、ここではTOBとMBOの2つを取り上げて解説します。TOB(公開買い付け)は、買収する企業が対象企業の株式を取得する情報を公表してその会社の株式の保有率を高め、経営権を取得する方法です。
この方法は敵対的買収や子会社化などを行う際に用いられる手法です。株の買取が予定数に満たなかった場合、TOBを取り消して株の返却が可能なためリスクが生じません。TOBのメリットは、相手企業の同意がなくても、株式を集めて経営権を取得できる点です。
しかし、同意を得ずに買収しようとするため、買収防衛策をとられ、莫大なコストがかかります。デメリットは、買収後に従業員のモチベーションが低下しやすく、M&Aの成功確率が低いことです。
MBOは、自社の役員が自らの資金で対象会社の株式を得て、経営権を取得する方法です。資金は銀行やファンドから調達するケースが多く、ある子会社をグループから分離するときや事業承継のときに用いられる手法となります。
MBOは、自社の経営陣が買収するため、事業承継の一環として使えるM&A手法であるメリットがあるでしょう。デメリットは、買収の対価が経営陣にとって莫大な額である場合が多く、その資金調達が困難であることから簡単に行えないM&Aスキームです。
②事業譲渡
事業譲渡とは、対象とする事業に対して売買を行う手法のことです。会社単位での売買を行わないこと、包括承継でないのが特徴です。
事業譲渡は、株式譲渡や会社分割と異なり、包括承継ではありません。対象事業とは関係のない負債などの承継は不要です。
原則として、対象事業の従業員を引き継げません。事業譲渡の際は、従業員が引き継げるように交渉を行うか、その事業に関係する新たな従業員を雇う必要があります。
③会社分割
会社分割の種類は、大別して新設分割と吸収分割の2つです。以下では、それぞれを詳しく解説します。
新設分割
会社分割とは、対象事業を会社から切り離し、分割会社が持っている権利や義務を承継会社に引き継がせることをいいます。新設分割は、切り離した事業を取得する会社を新たに設立するスキームです。新設分割には、分社型分割と分割型分割の2種類があります。
新設分割のメリットは、対象事業のみの包括承継ができる点です。株式譲渡では会社ごとを包括承継し、事業譲渡は対象事業のみ売買を行えます。会社分割はその中間に位置している企業買収で、対象事業の最低限必要な経営資源だけを引き継ぐ手法です。
一方、新設分割のデメリットは、煩雑な手続きが必要である点です。新設分割の際は、吸収分割よりも多くの書類を作成し提出しなければなりません。
分社型分割
そもそも分社型分割は、対象事業を切り離した後、子会社を設立する分割方法です。分社型の新設分割では、その子会社を新会社として設立する手続きを行います。対象事業を縦方向に分割するため、タテ分割とも呼ばれます。
分割型分割
一方、分割型分割は対象事業を兄弟会社として設立する方法です。分割型の新設分割では、その兄弟会社を新会社として設立する手続きをします。対象事業を横方向に分割するため、ヨコ分割ともいわれます。
吸収分割
吸収分割とは、対象事業を会社から切り離し、その事業が持っている権利や義務を既存の会社(承継会社)に引き継がせるM&A手法です。吸収分割には、分社型分割と分割型分割の2種類があります。
吸収分割のメリットは、新設分割のメリットと同様に、対象事業の最低限必要な経営資源だけを引き継げる点です。一方、株式譲渡や事業譲渡に比べて煩雑な手続きが必要であるといったデメリットがあります。
これらの手続きは、行政書士などの専門家に依頼しなければならないほど煩雑です。
分社型吸収分割
分社型吸収分割では、対象事業を子会社化した後、その会社の株式を全て売却先に譲渡します。既存の会社に子会社の経営権を譲渡することで、吸収分割が可能です。
分割型吸収分割
分割型吸収分割は、対象事業を売却先に売却し、対価となる売却先の株式を分割会社の株主に分配します。分割型吸収分割は、持ち株会社内の組織再編の際に使われ、このときの株主はホールディングスです。
④株式取得の特殊な方法
株式取得の特殊な方法には、TOBとMBOがあります。
TOBとは、ビジネスにおいて一定の目的を達成するために、株式を取得する企業が、株式市場で公開されている株式を一定の条件下で買い付けることを申し出る手法のことです。
また、MBOとは、企業の経営陣や役員が、自らが経営する企業の株式を取得し、経営権を引き続き保持することを目的とした企業買収手法のことです。
企業買収において広く使用される手法
企業買収やM&Aの際、多く使われるスキームは株式譲渡です。その理由は、手続きが簡便であり、短期間で経営権を取得できるからです。近年、経営環境の変化は速く、できるだけ企業買収のコストを削減しようとする企業が増加しています。
中小企業を対象としたM&Aを中心に、株式譲渡を使用する企業は増えています。しかし、株式を譲り受けるだけで経営権を取得できるため、対象企業の経営状態が健全であるかなどのデューデリジェンスを徹底することが重要です。
企業買収・M&Aを行う際は、デューデリジェンスに必要な期間を考慮したスケジュールで進めましょう。
11. 企業買収を成功させるコツ
当然ながら、全ての企業買収が成功するわけではありません。成功した買収は、全体の30%から50%程度といわれています。
M&Aは、成功させるためにさまざまな工夫をしているにもかかわらず失敗に終わることが多くあります。「やってみなければわからない」分野といえるでしょう。
しかし、その中でも、少しでも成功確率を上昇させるためにできることがあります。以下では、M&Aの成功のコツを紹介します。
①デューデリジェンスの徹底
M&A取引の中で、売り手企業には、自社のリスクを隠し良く見せようとするインセンティブが働きます。企業が持つリスクとは、簿外債務、決算書の瑕疵(かし)、取引トラブルなどが挙げられ、これらのリスクの顕在化はM&Aの失敗に直結します。
売り手企業は、自社内に存在するリスクを積極的に開示しようとしないため、デューデリジェンスを徹底し、可能な限りリスクを排除することが必要です。
②自社とのシナジー効果が期待できる相手先を見つける
M&Aの成否を判断するのは難しいですが、一つの観点は「シナジー効果が実現できたか」でしょう。シナジー効果とは、売り手企業と買い手企業の経営資源を双方が効率的に活用し、M&A取引後の双方の業績向上をさします。
業績の向上は、売上高の増加や原価の削減によってもたらされます。お互いの経営計画の中で、相手をどのように活用するかを事前に検討し、シナジー効果が期待できる相手先を見つけることが重要です。
③大規模企業・事業の買収は慎重に検討する
M&Aを行った直後に売り手企業が倒産すれば、買収資金そのものが損失になります。つまり、M&A取引は投資の1種であり、リスクの取り方に留意する必要があるといえます。
自社の従業員数や売上高に比して、大規模すぎるM&A取引は、その分損失が大きいので避けた方がよいでしょう。一つの基準として、M&A対象会社の売上高が、自社の売上高の3割未満であると望ましいといわれています。
④経営統合(PMI)を入念に進める
M&A取引の成否はPMIにかかっているといっていいほど、重要なプロセスです。PMIは非常に難しい分野なので、M&A仲介会社では対応できないことが多く、専門のコンサルティング会社を雇う場合もあります。
一般的には、買収企業の100日計画を作成してM&A後の統合事務のロードマップを作成します。それと並行した2社の統合を踏まえた事業計画・中期経営計画の策定が必要です。
買収会社、被買収会社のメンバーを選抜してPMIのプロジェクトチームを組成する場合もあります。
⑤M&Aの専門家にサポートを求める
M&Aは、経験豊富な会社が少ないうえに、売り手と買い手の2社間だけで交渉を行うと条件がうまくまとまらない場合があります。M&Aを成功させるためには、シナジー効果が得られやすい企業を見つけて実際にM&Aを実現することが重要です。
M&A仲介会社をはじめとした専門家のサポートを受けることで、ふさわしい会社との経営統合が実現できる可能性が高まります。M&A総合研究所では、M&Aの豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーが専任で担当し、買収後まで一括サポートいたします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。M&A取引は交渉から成立まで半年から1年程度かかりますが、M&A総合研究所は早い成約を目指しています。最短3ヶ月で成約した実績もあります。
無料相談を行っていますので、企業買収をご検討の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
12. 企業買収における手法別の成功事例
ここでは、各スキームを用いた企業買収の事例を9つご紹介します。
①住友ベークライトと川澄化学工業の企業買収(TOB)
住友ベークライトは2020年7月に川澄化学工業にTOBを実施し、完全子会社化しました。川澄化学工業は人工透析製品などの医療機器を手がけており、1987年に東証2部へ上場した会社です。近年は、先端医療機器の研究開発に力を入れています。
住友ベークライトは2019年に川澄化学工業と資本業務提携をしており、約23%出資で関係強化を進めてきました。今回のM&Aにより、両社の持つ経営資源を活用して、研究開発力や営業体制の強化などを図ります。
②イオンディライトとDNPフォトイメージングジャパンの企業買収(新設分割)
イオンディライトは、2020年6月にKJSの証明写真機事業を分社型新設分割として、大日本印刷100%出資子会社であるDNPフォトイメージングジャパンへ譲渡しました。会社分割した新会社であるKフォトイメージに承継させたうえで、全株式を売却しました。
イオンディライトの子会社であるKJSは、情報関連機器や商業・通信用設備、事務用機器、車両重機のリース事業などを展開しています。
DNPフォトイメージングジャパンの事業内容は、フォト関連製品の販売や証明写真事業、セルフプリントシステム事業、フォトブックに関連する問題解決を提供するための開発・提供です。
分社型新設分割により、家事支援事業を集中させるとともに、店頭支援事業の分割・売却を含めた円滑な再編手続きの推進を目指します。
③スター・レジンとフレコードの企業買収(株式譲渡)
ここでは、弊社M&A総合研究所がサポートした株式譲渡による企業買収(事業承継)の事例をご紹介します。
【譲渡企業:製造業 フレコード株式会社】
- 所在地:埼玉県朝霞市
- 事業内容:アクリル樹脂やアクリルシートの加工。
【譲受企業:製造業 株式会社スター・レジン】
- 所在地:東京都目黒区
- 事業内容:合成樹脂関連の材料や加工品の調達および販売。
譲渡企業の経営者は、自分の「年齢と健康」を考えたときに、「顧客と従業員を守りたい」という理由から、事業譲渡を考えるようになりました。
譲受企業を選んだ理由の一つ目は、社長の人柄でした。譲渡側の経営者は27年間の上場企業勤務で多くの人と会ってきましたが、譲受側の社長の第一印象が非常に良かったことが大きなポイントでした。譲受側の社長の経営理念や人間性を知り、従業員や顧客をしっかり守ってくれると感じました。
2つ目は、M&A後の事業展開です。これまで築いてきた大切な顧客との関係を維持できると判断し、株式譲渡を決めました。
④マツモトキヨシとココカラファインの企業買収(株式移転)
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、2020年1月に経営統合に向けた資本業務提携に関する契約を締結しました。
マツモトキヨシホールディングスは大手ドラッグストアチェーンです。ココカラファインのコア事業であるドラッグストア・調剤事業を行っており、全国で約1,300店舗を展開しています。
今回のM&Aは、ドラッグストア業界を取り巻く環境や、経営統合によるシナジー効果などの観点から、ドラッグストア事業に関して、両社の目指す方向性が一致したとしています。
マツモトキヨシホールディングスとココカラファインは、共同株式移転による持ち株会社を設立し、経営統合する見通しで、両社の企業価値向上を目指すでしょう。
⑤CDGとゴールドボンドの企業買収(MBO)
CDGは販路開拓・営業支援サービスを行う会社で、ゴールドボンドはCDGの完全子会社です。ゴールドボンドの全株式は2019年2月にGIHに譲渡されました。GIHには、CDGの取締役を務めている寺澤氏が全額出資しています。
つまり、売却側の経営陣が自社の会社を買収した形になるため、この事例のスキームはMBOです。
⑥USAVE Car&Truck Rentals Limitedとオプティマスグループの企業買収(事業譲渡)
USAVE Car&Truck Rentals Limited(以下、USAVE社)は、ニュージーランドでレンタカー事業を展開する企業です。同様に、オプティマスグループもニュージーランドでレンタカー事業を展開しています。
ニュージーランドにおけるレンタカー事業の効率的な事業運営と収益力強化を図るため、2019年2月に事業譲渡が行われました。
⑦マイネットゲームスとINDETAILの企業買収(吸収分割)
マイネットゲームスとINDETAILはともにゲームサービス事業を運営している会社です。2019年2月、INDETAIL社は、ゲームサービス事業を札幌にある長期運営拠点「Northスタジオ」として切り離し、それをマイネットゲームス社が承継する吸収分割を実施しました。
吸収分割により、両社が持っているノウハウや知見を生かして、ゲームサービスを提供していく予定です。
⑧ジーンテクノサイエンスとセルテクノロジーの企業買収(株式交換)
ジーンテクノサイエンスは創薬を行っているベンチャー企業です。セルテクノロジーは歯髄幹細胞を柱とした再生医療事業を行っています。
ジーンテクノサイエンスは2019年1月、株式交換によりセルテクノロジーの完全子会社化を発表しました。ジーンテクノサイエンスの狙いは、歯髄幹細胞を軸とした再生医療事業への参入です。
これにより、治療困難といわれている疾患に対して医療を提供し、新領域を開拓しようと試みています。
⑨アマナとXICOの企業買収(第三者割当増資引受)
アマナは広告ビジュアルを制作している業界最大手の企業です。XICOもビジュアル制作やメディア運営を行っています。2019年1月、XICOが実施する第三者割当増資を引き受け、XICOをアマナの関連会社にする決定を発表しました。
XICOはSNSを中心としたメディア事業を行っていますが、その強みを生かしてマーケットの拡大やコンテンツ制作力の強化を目的に、第三者割当増資引受を実施しています。
13. 企業買収の失敗事例
企業買収の失敗を判断する代表的な指標として、「のれんの減損」があります。のれんとは、買い手企業が支払った買収金額と、売り手企業の純資産額の差額です。のれんは、貸借対照表の資産の部に計上され、日本基準では定期的に償却するようになっています。
しかし、IFRS会計基準では、定期的に償却するのではなく、「収益力が低下した」場合に損失として処理しなければなりません。この処理がのれんの減損です。
つまり、M&Aを行ったもののシナジー効果が起きず、買収時よりも収益力が低下した場合には、のれんの減損を行う必要があるのです。減損は開示資料に記載されるので、M&Aの失敗として判別できます。
日本では、M&A取引後に巨額の減損が起きた事例は以下のものがあります。
- 東芝がウェスチングハウス社を買収した後、7,200億円の減損を計上(2017年)
- 日本郵政が豪トールホールディングス社を買収した後、4,000億円の減損を計上(2017年)
- パナソニックが三洋電機社を買収した後、2,500億円の減損を計上(2012年)
- 富士通が英ICL社を買収した後、2,900億円の減損を計上(2007年)
14. 企業買収の際におすすめのM&A仲介会社
企業買収を成功させるためには、それぞれのスキームを理解し、自社に適した手法を選択する必要があります。自社に最適な手法を選択し戦略を練るためには、M&A仲介会社などの専門家のサポートがおすすめです。
M&A総合研究所では、M&Aの豊富な経験と実績を持つM&Aアドバイザーが専任で担当し、買収後まで一括サポートします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
無料相談も行っていますので、企業買収をご検討の方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
15. 企業買収のまとめ
企業買収の方法やメリットなどを紹介してきました。企業買収の成約件数は増加していますが、必ずしも成功するとは限りません。企業買収のスキームを間違えてしまうと、大きな損失を抱えてしまうことになります。
企業買収を成功させるには、自社の戦略にあったスキームを選択するのが重要です。M&A仲介会社など専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
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M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
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- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
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